こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『エンデの遺言』(河邑厚徳+グループ現代)

2014-08-28 | ルポ・エッセイ
「私が考えるのは、再度、貨幣を実際になされた労働や物的価値の等価代償として取り戻す
ためには、いまの貨幣システムの何を変えるべきなのか、ということです。これは人類がこ
の惑星上で今後も生存できるかどうかを決める決定的な問いであると、私は思っています」


 富の集中、経済格差の是正は、古くから経済学者たちが取り組んできた問題であろう。それでもそれは
改善されるばかりか、どんどん激しくなっているよね~というのが、実感。ミヒャエル・エンデはその根
源を利子が利子を生む現代の貨幣制度に見いだし、『モモ』の「時間銀行」の発想に託したという。
 『モモ』を読んだ人々の理解は、たいてい、ゆとりのない現代社会への注意喚起や警鐘にとどまってい
る、しかし自分自身はもうすこし先のことまで言っているつもりである…とインタビューに答えたエンデ
自身が語っている。
 以下、順を追い、具体例を挙げてわかりやすく解説されるよりプリミティブな貨幣のあり方への提言と
可能性。内容は割愛して、簡単に感想だけ。私も破綻と隣り合わせのマネーゲームや一部に根強く残る拝
金主義は大嫌いだし、どうしようもない空しさを感じる。奇跡でも起きない限りいつまでも格差が埋まら
ない現代社会のあり方も大いに疑問。だから、ここに紹介されていた貨幣制度には大きな魅力を感じた。
「お金を老化させる」ことで流れを活発化させるのは、いいかも!ふくらんでいく風船をどんどんまわし
て自分のところで爆発を回避するイメージね。(激しい誤解あり?)でも、実現するには凄いパワーと団
結力とコミュ力がいるよね、とも。それって踏み切るにはちょっと怖い。社会を変えたい、でも何かを盲
信して突っ走る境地にはなかなかなれない中途半端な立ち位置の自分である。

『モモ』(ミヒャエル・エンデ)

2014-08-28 | ミステリー、ファンタジー
けれど時間とは、生きるということ、そのものなのです。
そして人のいのちは心を住みかとしているのです。
人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。


 都会のはずれの円形劇場の廃墟にモモという浮浪児が住み着いたところからはじまる物語。この子がま
た、聞き上手で癒し系で、誰からも愛される少女だったのである。ほのぼのと読み進んでいくと、「灰色
の男」の登場で物語はいきなり不穏な空気に包まれる。心やさしき人々は「時間を貯蓄する」という男た
ちの提案と取り引きを契機に、効率主義にめざめ、ゆとりをなくし、心貧しくなっていく…極端にデフォ
ルメされているとはいえ、短気な自分とって痛い描写も多かった。「時間をケチケチすることで、ほんと
うはぜんぜんべつのなにかをケチケチしているということは、だれひとり気がついていないようでした」
…とかさ。童話を読んで反省する大人って、ピュアなのかその逆か。(どうでもいい)
 日本で紹介されたのは1976年、映像化もされ大きな話題を呼んだこの童話を、私は読んだことがな
かった。本書は時間についての考察を深めつつ、心豊かな暮らしの大切さを説いている…が、実はエンデ
はその裏に、もっと現実的な本質を見据え、社会のありかたに警鐘を鳴らしていたのである…というのは
また別のお話で、実はそれが書いてある本を読むために読んだ。しかし見事に構築された世界観に、どっ
ぷりはまることができた。たまには童話もいいね。

『本所深川ふしぎ草紙』『初ものがたり』(宮部みゆき)

2014-08-25 | 歴史・時代小説
「いつかまた、大川を渡って本所へやっておいで。
今度は、もっときれいなものを見せてやれるよ」


 評判を耳にしつつも、何からどこから手をつけていいかわからず、未読だった宮部みゆきの時代物。
このたび、とある篤志家の友人が段ボールいっぱい貸してくださり、この1年は読むものに困らないかも
よ、というボリュームにほくほく。俄然、読書熱も高まろうかということで、できる限りシリーズまとめ
て読んでアップしていくつもり。まず手にとったのは岡っ引き茂七シリーズ。一作目の『本所深川~』で
は当事者の視点からの事件で、脇にまわっていた茂七が2作目からは主になって話を展開していく。どち
らもいい。2作目はいい具合に登場人物に愛着もわいてくるし、なんといっても謎の稲荷寿司屋台の親父
の存在がいい。その料理がまたいい。いや~いいわ、宮部時代もの。(さっきから「いい」としか言って
いない)。江戸の人情と、人間の業がいいバランスで描かれていて、後味の悪い話もあるのだが、嫌な感
じというより哀感となって残るのはやっぱり宮部さんの人柄なんだろうと思う。
 今回書き出した茂七のセリフもそう。人間の嫌な部分を目の当たりにして人生の辛さを思い切り堪能し
た主人公にかけられた言葉、きれいなものを見せてやれるよ、なんて、なんとも粋じゃござんせんか。
茂七シリーズ、まだ4作ほどあるようなのでいろいろ楽しみだ。

追記・よく調べたらまだ続きは出てないらしい…謎が…伏線が…気になったままかよ~宮部さああ~ん

『日本の伝統美を訪ねて』(白洲正子)

2014-08-20 | 対談
それにしても、わたくしたち日本人は「勉強」という言葉が好きですね。
もしかすると、遊ぶことの中に本当のものがあるかもしれないのに。


 時代を縦断した対談集なのだけど、その相手が草柳大蔵、山折哲雄、河合隼雄…と、今は亡き人も含み
その道の大家ばかり、実にバラエティに飛んでいて興味深い面々。なかには阿川佐和子の名もあり、へー
と思ったら、まさに白洲さんがお亡くなりになった年のものだったが、キレ味のある会話が成立している。
 一時期、凄くブームを呼んだ人で、私も白洲正子展に行ったり自伝を読んだりした。しかし実はその頃
はそれほど心に響いたわけでもなかった。しかし、この対談集を読んでいると、その深い造詣と行動力、
いつまでもみずみずしい好奇心にあらためて感嘆する。私自身の和文化への畏敬の念が以前より高まって
いるということもあるだろう。自分の来し方行く末を客観的に判断しても、到底足元にたどりつけさえし
ない境地であるが、結局はわかろうがわからなかろうが、まず自分が好きなものを楽しめばいいのだとい
う言葉に、少し安堵。…次元がまったく違うのは置いておいて。
 和文化に新たな興味のわいた本であったが、特に私にとっては誘眠剤でしかなかったお能も、きちんと
見てみたくなった。盲目の能楽師・友枝喜久夫氏との対談は心にしみて、友枝氏の舞う姿を見たいと熱烈
に思った(DVDがあるのを発見したが、生で見るものとはまったく違うんだろうな)。湖北に十一面観音
を訪ねていくのもいいな。それと敬愛してやまない河合隼雄先生がここでもとても愛されていたことにほっ
こり。できることなら手元に置いて繰り返し読みたい対談集だった。(でも図書館に返却しなければ~)

『おしゃべり怪談』(藤野千夜)

2014-08-16 | 現代小説
神様のかわりなんて任されるのは御免だった。なにがあっても、とりあえず
誰かを殺したくなんかはない。


 藤野千夜さんといえば、芥川賞のインタビューの印象が強烈で、一度読んでみたいと思いつつ手にと
る機会なく…いま調べたら芥川賞は1999年だから15年前…?ひえ~。で、特に気になっていたのがこ
の作品タイトル、言わずもがな、くらもちふさこさんの名作漫画唐の引用ですな。結局、
これは4つの短編を集めた本だったが、表題作の内容はくらもちどころか、麻雀店立てこもり犯と監禁
された女性たちとの濃密な時間という物騒なストーリー…といっても、立てこもり犯がほぼ一方的にお
しゃべりしてるだけで、コミカルっちゃ―コミカル。展開が読めずハラハラしつつも、緊迫感より閉塞
感が勝る不思議な味わいの話だった。
 文体は吉本ばなな世代以降の現代女流作家によくある平易で淡々とした文体。これはやはり男性には
書けまいという細やかさもあり、あらためてこの人のメンタルは女性なのだなと確信する。でも主人公
はそれぞれにどこか他人と同化できない繊細な心を抱えていて、このへんにマイノリティの表現者らし
い根っこがあるのかな…と思ったのは、少しうがちすぎなんだろうか。考えれば、小説家は他人と一緒
じゃおもしろいもの書けないしね。
 ともあれ、おもろうて、やがて静かに心に残る話が多かった。表題作はさすがに衝撃だったけど。