こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『アンダーリポート』(佐藤正午)

2014-08-07 | ミステリー、ファンタジー
本当に些細なことだが、私はその夏の日を思い出すたびに
いまも後悔の念にかられる。私は私のしなかったことを悔やみたくなる。


 ある女性の来訪をきっかけに、15年前に引き戻された男の回想と悔恨…見逃した犯罪、取り囲む女性
たちに欺かれ翻弄され続ける男の内省の物語?それならしっくりくる。ミステリーとして読んだらあまり
に物足りなすぎる。「こうしてこうしてこうなって、ここで終わるのかな?まさかな~」のそのまさか、
という捻りのなさは、衝撃でさえあった。あらすじには「秘められた過去をめぐる衝撃の物語」とあるが
こっちの意味の衝撃かい!て感じ。私が荒唐無稽を求めすぎるのか?男の繰り言をえんえんと聞かされた
ような読後感。
 ただ、共感できるのは、この男が鈍くて不器用で、相手の言葉をまったく違う意味にとっていたり、相
手が期待する言葉をかけられなかったりということを15年たった今、思い出して後悔しているところだ。
あるある~あれってこういうことだったんじゃ?なぜあの時、この言葉が出なかったか…私にも、思い出
すたび後悔することが多々あるもの。短期的にも、長期的にも。
 そういうあるあるをひろいつつ、きっと予想を遥かに超えるどんんでん返しが!と期待しながら読み進
めたのは、やっぱり物語をひっぱるのがお上手なんですな。たとえ最後に肩すかしをくらったにせよ。

『人を呑むホテル』(夏樹静子)

2014-08-07 | ミステリー、ファンタジー
機械の故障は、その前に必ずシンプトン(兆候)が現れる。それをどこで捉えるか。
兆候が見える者と、見えない者と、そこから大きな開きが出てくるんだ


 夏だから?むしょうにホラーが読みたくなって、時間がないなか図書館で探したのですがぱっと目に
ついたのがこれ。「長編恐怖サスペンス」ってショルダーも入っていたし、ホテルものといえばホラー
の定番だしね。…と思ったらホラー風味はわずかな推理小説だった。
 夏樹静子といえば『Wの悲劇』でおなじみ…って、何昔前だ。映画観たけど読んでないし。ひょっと
したらこれがお初だったのかも。しっとりと女性らしい文体で、読みやすかった。
 …がしかし。初版1994年…20年前かあ~その前時代感がまた、ある意味面白かった。ヒロイン
の職業なんかコンパニオンだしね(今もあるか)。婚約者はコンピュータのエンジニアという設定だけ
ど、これまた今とは全然違うに違いない。そんな彼の言葉が、ひとつの引っ掛かりとなって進んでいく
のだが…どいつもこいつも怪しくて、推理小説の王道という感じ。さすが御大、安定している気がした。
しかしポケベル全盛のバブル末期だけに、いろいろ辛気くさい。電話がつながらなければそれで終わり。
だからこそ成立したハラハラとかがあったのだな、推理小説も難しい時代になったな、そのぶんネット
犯罪とか新たなトリックが考え出されているのだろうけど、さすがに夏樹さん世代は難しいだろうな…
と、本筋に関係ないことをいろいろ考えてしまった。