こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『ブレイブ・ストーリー』(宮部みゆき)

2015-05-26 | ミステリー、ファンタジー
別れ、失い、傷つくことは、これからも繰り返されてゆくだろう。何度運命を変えてそこから
逃げ出そうと、変えた運命のその先には、またその運命のなかの喪失や離別が待っている。


 小説は長いのだけど、感想は簡単に。ロールプレイングゲームとか、ファンタジー映画とかにあまり
ふれていない私は、正直、主人公の冒険が始まったとたん、うへえ・・・と思った。でもさすが宮部さん、
どんどん引き込んでいくその手腕はさすが。彼女の書く子ども主人公ものにはある種、統一されたテーマが
ある気がする。人生はときに理不尽で、容赦ない。でも他者の立場にたつ思いやりを捨てることなく、傷つ
いても乗り越えて進んでいくところに醍醐味があるんだということ。だからこそ味わえる充実や幸福がある
こと。いや~、生きる力をまっこうから培う正論。それをときに歯がゆくも感じるのは、私が汚れきった大
人だからであろう。でも、こういうことを説き続ける人がいないと、日本はダメになると真剣に思う。これ
にチャチャを入れたり否定したりする人間にはなりたくないものだ。
 そんなわけで、おどろいたり共感したり、悲しかったり楽しかったり。一緒に長い冒険をしてきたようで、
清々しい感動をもって読み終えられた。やっぱり宮部節はこうでなくっちゃ。

『我らが隣人の犯罪』(宮部みゆき)

2015-05-26 | ミステリー、ファンタジー
つまり、世の中には不公平なことなどいくらもあるってことを。先生も親も「努力しなさい、
努力すればむくわれる」なんて言うけれど、言っているその声に今いち力が入ってないのは、
大人たちの暮らしの周りにも、似たようなことがたくさんあるからなんだろう。
(『我らが隣人の犯罪』より)

 かれこれ20年くらい前に読んだ記憶がうっすらあるが、もちろんまっさらな頭で再読。さすがに感覚
的にちょっと古いかなというところもあるのだが、テーマは古びない。善良に生きる市井の人々が、それ
ぞれにほんの少しむくわれる話にほっとする。…が、表題作はいろいろきついぞ~こっちも犯罪、やりす
ぎって気がしないでもない。まあ、勧善懲悪ものと考えれば、よかったねと素直に思えるのだけど…他に
手がなかったかなあ。これまたちょっと持って行き方が強引だったけど、『気分は自殺志願』がほんわか
して好きだ。

『取り残されて』(宮部みゆき)

2015-05-26 | ミステリー、ファンタジー
どこかに、とり残してきたわたしが待っている。
(『とり残されて』より)

 ほんのりとホラー風味のミステリーは、大好物。そして宮部さんはまた、こういうのがうまいなあ、
好きなんだろうなあと思うのだ。いわゆる超常現象をミステリーにしてしまうと「そんなんなんでもあ
りやん」という読後感で中途半端に終わることもあり得ると思うのだけど、ほとんどの話が静かな余韻
も楽しめて、とてもよかった。
 なかでも表題作、ざっくりまとめれば「残留思念もの」というのか。同じような想像をしたことがあ
るのでとても興味深かった。人生のふしぶしに、残してきた強いマイナスの感情が、どこかでだれかに、
あるいは自分自身に作用することはないのだろうかと。プラスの感情ってその場で明るく弾けて消える
けれど、マイナスはよどんでとどまる気がするんだな。そういう意味からも、よく練られたストーリー
だと思った。

『読んで、「半七」!』『もっと、「半七」!』(岡本綺堂著・北村薫/宮部みゆき編)

2015-05-10 | 歴史・時代小説
老人は湯から今帰ったところだと云って、縁側の蒲ござのうえに大あぐらで団扇をばさばさ
遣っていた。狭い庭には夕方の風が涼しく吹き込んで、隣りの家の窓にはきりぎりすの声が
きこえた。


 宮部、北村両氏の選による半七捕物帳傑作選。「わたし」がたびたび訪ねてねだる半七翁の“冒険話”。
この設定からして、もう、大好き。「わたし」曰く、半七は江戸時代における隠れたシャアロック・ホー
ムズなのである。「今の若い人にこんなことはわからないでしょうが」的な枯れた語りから、章が変わる
と半七の若かりし日の歯切れ良い文体へ。その粋でいなせな江戸っ子ぷり、切れ者っぷりは半端なくかっ
こよく、やがて終盤にまた半七老人の語りに戻っていく・・というエピローグもじわじわと素晴らしい。
 岡本綺堂は怪談の作家と認識していて、興味を持ちつつ(たぶん)読んだことがなかったのだけど…い
や~、ええわあ。話の展開は時に強引だったりしりすぼみだったりだが、それをカバーしてあまりあるザ・
小説。とにかくどれもツカミがいいし、多くが静かに秘めやかな怪談ムードではじまり、だんだんと解き
明かされていく過程もおもしろい。
 ところどころに出てくる江戸の風俗や冒頭にあげたような季節の風情がまた秀逸で、これまたぐっと物
語世界に引き込まれる。やっぱり本物は違うわあ~岡本綺堂、コンプリートしたいっ!
 一番好きなのは『奥女中』のおとぎ話っぽさ。『帯取の池』の頭に浮かぶ鮮やかなビジュアルも捨てが
たいし、『津の国屋』『むらさき鯉』のホラーチックな雰囲気、『冬の金魚』のエロティシズムも好き。
こうして書き出すと、タイトルもまたいいんだなあ。やはりこの時代の文学が好き。

『淋しい狩人』(宮部みゆき)

2015-05-03 | ミステリー、ファンタジー
残酷なようだが、こういうことは、ある程度年齢を重ね、それなりにものを見る目ができている
人間には、すぐわかるものだ。


 イワさん65歳が亡き親友から引き継いだ古本屋・田辺書店をめぐる事件のオムニバス。孫の高校生・稔
くんが意外なからみ方をしてきたりするけど、正直そっちの話はどうでもいいなと思ったり(苦笑)。
 でも、ストーリーとしてはそれぞれ面白く読めた。個人的には、どうも小中学生が活躍するよりもこう
いった落ち着いた大人が中心に座ってるほうが落ち着くのは偏見か。枯れ専か。いや、ほんと、すとんと
腑におちる気がするんだなあ。現実的には、いつまでも子どもの大人や老成した子どもがいることもわかっ
ているのだけど。
 ともあれストーリーのどこかに本がからむということと、イワさんのナチュラルな慈愛に満ちた言動が
心地よく、素直に楽しめた。なかでも今回の引用を抜粋した表題作と『黙って逝った』がよかったかな~