こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『眺望絶佳』(中島京子)

2014-01-31 | 現代小説
あなたとわたしは、立っていなければなりません。

 現在と過去。人の心と心。ぐっと寄って、ぐぐーんと引いて俯瞰して…その対比が切なかったり
ハッピーだったりするオムニバス。テーマを如実に表す小説の前後の【往信】【復信】は、ちょっ
と狙い過ぎかな~と思わないでもないけれど、ぐるりとまわって戻ってきた感があって、落ち着い
た。今回抜き出したのは、そんな「復信」のクライマックスから。これを読んで今と昔の東京の姿
をありありと思い浮かべられる人が、少しうらやましい。
 この人の作品は『小さいおうち』(映画化しましたね~)を読んだだけだったけど、あれはとて
も好みの小説だった。こちらも、わりと好き。淡々としていて、大仰な表現にもどこかすっとぼけ
た印象のある文体、余韻のあるストーリー。そう、語りすぎないところがいい。時に素っ気なくも
感じるけれど、そのほうがぐっと心に残るのだ。特にずしんときたのは『よろず化けます』と
『金粉』…どちらも老婆がらみ。…身につまされただけか!?

『小暮写眞館』(宮部みゆき)

2014-01-27 | ミステリー、ファンタジー
不安というと、文章の上では、たいてい「ふくらむ」という。(中略)
身体のなかに面妖な風船のようなものが生じて、それがだんだんと体
積を増してゆく。内側から内臓が圧迫される感じだ。


 宮部さんの作品は、個人的に当たりはずれがある。続きが気になって一気に読み進んでしまうものと、
なかなか乗り切れないものと。これは後者だった。主人公が高校生で、「心霊写真」を契機とする謎解き
がやや幼稚に感じられたことが一因。ちょっと無理矢理感あり。さらに主人公の弟が小2にもかかわらず
頭脳明晰で物わかりがよく才能があって可愛くて…で「いねーよ!」としらけたのが…て、僻みか。
 ま、単に仲良し家族なのではなく、過去のある出来事で全員が心に傷を抱えていて…という設定で、主
人公をめぐるさまざまな人物、オムニバスで解決しつつもつながっていく小さな事件との関わりのなかで
やがて大団円…という、最後まで読むと伏線の利いたよくできた話であった。ラストは少しじーん。
 宮部さんの書くものは私の中では「優等生小説」のカテゴリーに入っている。主人公とその友人など、
主要人物のほとんどが年齢に関係なく大人で、心優しくまっとうな人間。相手の立場や心に配慮できるデ
リカシーを持ち合わせ、自身もとても繊細な心の持ち主。だから読んでいて不快感はない。「そうか、そ
うあるべきだよな」と常識のない私などは素直に学べる点も多し。宮部さん自身がそういう人なんだろう
なと思う。丁寧に、心の機微に敏感に生きてきた人なんだろうなと。だから気持ちの描写も正確で、そう
いう点ではとても共感できる。たとえば上の「不安」の表現は、「あるある」だった。
 しかしいかんせん、あまりにもみんなが優しすぎるので、私のような人間はじれったくなるというか時
にイラっとくるというか…てなことも、なきにしもあらず。なんだ、結局私が性格悪いだけじゃん!

『小林秀雄対話集 直感を磨くもの』

2014-01-24 | 対談
自己を紛失するから、空虚なお喋りしか出来ない
エゴイストが増えるのだ。自分が充実していれば、
なにも特に自分の事を考えることはない。


 小林秀雄という人のことはよく知らない。ただ、大勢の人から一目置かれた人物であること、
並外れた批判眼を持つ人、というイメージがあった。いつかは読まねばと思いつつかなわず、
今回ようやく対談相手の錚々たる顔ぶれに惹かれて、手にした一冊。昭和16年~54年の間の、
まさに時代を、分野を代表する人物との対談がおさめられている…のだと思う。なかでも最初
に読んでみたい!と期待したのはノーベル賞受賞直前の湯川秀樹博士との対談。が…すみませ
ん、結局ほとんど理解できませんでした…
 というか、この時代の人々教養の深さはなんだろう。自分が知らなすぎるのもあるのだが、
洋の東西を問わずあらゆる哲学者、文学者、芸術家、すべてが基本的な素養として各人の引き
出しにしっかりと収まっていて、もちろんそれぞれに語るべき言葉を持っている。だからこそ
成立する対話、深まる思索…論理的に語られることがどうにも苦手な私は、たどたどしく輪郭
を理解するだけでも大汗。はい、あほです。そんななかでも、小林秀雄さんの辛辣な言葉に撃
ち抜かれること多し。なんちゅう頑固で面倒臭いお人や、と辟易することも多かったのだけど
…この人の目で現代のメディアを一刀両断してほしかった。もはや世も末で理解不能かな。
 何につけても、自分の勉強不足を痛感した一冊でもある。とはいえ、いまさら哲学書をひも
とく気にもなれないのでとりあえず気になった人や読みたい本をランダムにメモメモ。
『ドストエフスキイの生活』『モオツァルト・無常という事』『本居宣長』(以上小林秀雄)
『茶の本』(岡倉天心)、正宗白鳥、大岡昇平、今日出海、今東光

『日本建築集中講義』(藤森照信×山口晃)

2014-01-24 | 対談
「精神修養には板の床で正座が一番。
講堂はおそらく、日本で一番凛とした空間ですよ」
(旧閑谷学校より・藤森先生)

 たてもの好きの私にとっては、名建築巡りのナビにもいいかなと思って手にした完全なる趣味本。
エッセイ漫画と対談という軽いノリで、気軽~に読み進めて楽しかった。もちろん建築史のお話あり、
素材や技術の専門知識のレクチャーありでためにもなる。…あんま頭に入ってないけど。何より、お
ふたりが独自の切り口で名建築を楽しまれている様子がとても小気味よい。自分の感性と合うかどう
かはゆっくり精査するとして。法隆寺、聴竹居、待庵、角屋など、行ったことがある場所にも、これ
を読んだら再訪したくなった。
 絶対行きたい!と思ったところをメモメモ!
①旧閑谷学校 ②三渓園 ③修学院離宮 ④西本願寺
次点で投入堂も行きたいけど、登る自信なし。あと、藤森先生設計の茶室も面白そう。…と、建築へ
の興味が尽きない一冊だった。



『またね、富士丸。』穴澤 賢

2014-01-20 | ルポ・エッセイ
向こうを向いた格好で横になる富士丸を、後ろから抱きしめた。
そう、大丈夫。これは夢だ。起きたらお前は元気なんだ。


 みんなから愛された “ワンルームで暮らす”雑種犬・富士丸。その若すぎる死は衝撃だった。
これは飼い主の穴澤さんが、富士丸との出会いから死を乗り越え立ち直るまでの日々を赤裸々に
綴ったもの。へーこんなの出てたんだ、と立ち読みしてあっという間にグズグズになり、ヤバい!
と買ってしまった。…が、結局電車の中で読んで同じ状況になって大失敗。非常に辛い本だけど、
いつか迎えるペットロスに備えることも大切と思っている。
 …にしても、穴澤さんのペットロスは壮絶そのものだった。しかし、わかる。これは夢だと逃
避的に考えようとするシーンなど、あまりにもわかりすぎて辛すぎる。で、ようやく生活をたて
なおした後でも、元気な富士丸が夢に出てくる、「なんだ、死んでなかったんだ」と以前のよう
にふれあって、目が覚める…その悲しさたるや。私も同じような経験をしただけに(相手は人間
だけど)思い出して号泣ですわ。
 でも穴澤さんは人に恵まれてよかったとしみじみ。お父様との親子関係もあたたかい気持ちに
させてくれるものだった。時間はかかったけど、絶望を越えて、少しずつ再生し、新たな人生を
歩みだされたことが、素直にうれしい。さんざん悩んでお迎えした“次の子”大吉くんがまた、可
愛いし。
 そんな清々しい読後感を持っても、手にとるとやっぱり泣ける。富士丸~