こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『あかんべえ』(宮部みゆき)

2014-12-27 | 歴史・時代小説
親しくそばにいても、玄之介がお化けさんであることはわかっている。
彼に触れることはできないし、彼の姿はいつだって半ば透けている。


 念願の料理屋として独立した一家を待ち受けていた“お化け”騒動。でもその場所、「ふね屋」に巣食う
心やさしきお化けたちを見られるのは、臨死体験をした子ども、おりんだけ。お化けと彼女の飄々とした
やりとりが可愛く、心あたたまる。なにせお化けさんたちは、気ままで美しくかったり、へんこだったり
とにかくキャラ立ちして生き生きとしているのだもの。でも徐々にその過去が明らかになり「成仏」とい
う別れがちらつくにつれて、読んでるこちらまで寂しくなる。このあたり、繊細な宮部節が光る。
 そんなわけで、今回もエンターテイメントとして楽しく読めたのだけど、食いしん坊の私としてはお化
けが出るたびにお父ちゃんが工夫を重ねてつくった美味しそうな料理が無茶苦茶にされ、なんのフォロー
もないのがちょっと気になった。料理の描写が本当に素晴らしいだけに、なんだかもったいなくてもった
いなくて。もちろん、お化け問題は解決してこれから希望に向かっていくのだろうが…ちょっとそのあた
りのフォローも雑だったように思える。みんな成仏したね、めでたしめでたし…ちゃうやろ!これから信
用を取り戻していくのが大変なんちゃうん?と、カタルシスを感じるどころでなかったのが残念だ。あそ
こ、お化けは出るけど料理はいいんだよ、的な評判があるとかね。メインはお化け騒動なんだからそれは
読者が補完すればいいの、と言ってしまえばそうですよね、と引き下がらずを得ないんだけど。
 いやほんと、食べてみたいと思わせる料理ばかりだったので、お父ちゃんが腕をふるうふね屋のその後
も読みたいのだ。

『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』(夢枕獏)

2014-12-14 | ミステリー、ファンタジー
空海は、すでに、この世界を、宇宙という概念で捉えている。


(久しぶりの写真、失敗。すみません)
 1冊ずつ図書館で借りてのろのろ読んでいたので、手元にあるのはこれだけが、全4巻。といっても、
改行が多いのでざっくり読める。あとがきで、17年もかけて連載された物語であったことを知ってびっ
くり。しかも手探りと勘にまかせて書き進め、主要人物もその都度足していったという手法に2度びっく
り。もっとも、超人・空海を唐に配せば、それだけで荒唐無稽なストーリーができる気がするが、長恨歌
をからめることで話に哀感が生まれ、ふくらみが出たんだと思う。長恨歌、懐かしすぎる。学生時代、暗
記するように言われて最初の何行かでリタイヤしたというバカだが、さすがに1行1行見覚えがあり、あ
らためてその美しさに感じ入った。がんばって頭の柔らかいあの頃に全部覚えればよかったのに…と悔や
んでも後の祭り。以上、ストーリーには無関係。
 呪術のあたりのおどろおどろしさはちょっと苦手だったが、もともと妖怪ものは好きなので楽しく読め
た。(ま、妖怪じゃないけどね)天才・空海に、秀才なんだろうけど空海の前では情けないただの人・橘
逸勢を説明役に配したのがほっとさせるアクセント。しかしちょっと腐女子向け…?とうがった見方がで
きるところもあり、わたし的にはそーゆーのいいから!と思ってしまう。はい、ここ萌えどころですよ~
と言われてる気がして、けっという気になるのだ。(うがちすぎ)
 あと、早く恵果に弟子入りせんかとジリジリしてしまったりするのは、マッサンがウイスキーをなかな
かつくらないのにじれるのと同じ構図か© NHK。引っ張りに引っ張って、最後ちょっとご都合主義に終
わってない?と少々物足りない気も。全体に大味だなと思うのも、どうも宮部さんの繊細な描写にどっぷ
り漬かってしまっている所以かも。たぶんもう、空海がフィクションを超えて凄すぎるんだろうな。