こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『文人悪妻』(嵐山光三郎)

2014-03-26 | ルポ・エッセイ
女は人妻となってからが本番勝負で、家庭を安泰に保ちつつ、
フェロモンを発揮して自在に生きていくのが理想でしょう。


 嵐山氏の文人シリーズも3作め。…だが、これはどうもこれまでのとは一線を画すもので、文体もノリ
も平たく軽い。内容も悪妻っぷりを楽しむにはあまりにも短く食い足りない。あくまでもイントロ的で、
さあこれから!というときにプツッと終わる印象。たぶんそんな感じで、ライトなエッセイノリで女性に
も受けるものを…とかなんとかいうコンセプトで書かれたのではないか、と穿った見方をしてしまう。他
の文人シリーズの雰囲気を期待して読んだら、肩すかしをくらう内容だ。まあ、「その妻」に関しては深
く掘り下げるほど資料も残っていないということか。ゆえに感想も淡白。昔の人たちはまあ、男性も女性
もお盛んでしたのね。…今も変わらんのか?

『ヘヴン』(川上未映子)

2014-03-16 | 現代小説
弱いかもしれないけど、わたしたちはちゃんと知っているもの。
なにが大切でなにがだめなことなのか。


 今度は芥川賞作家。本作は芸術選奨とか紫式部文学賞だって。へえ~…たまたま目について、なんとなく
借りたのだけど、読み始めて「しまった!」と思った。これ、私的にあかんやつや~執拗ないじめシーンが。
いじめの標的にされている主人公が、同じクラスでやはりいじめに遭っている女子と心の交流を始めるとこ
ろから物語は動き出す。…が、読んでる私としてはそわそわハラハラ、落ち着かない。どうも舞台は20世紀
のようだし、陳腐でも何でもいいから早く現代にワープして実は成功した主人公と美しく成長した彼女の物
語にしてちょうだい!いじめっこを見返して頂戴!ギブミー・カタルシス!と祈るような気持ちで読み飛ば
していく。しかしそんな御都合主義、いまどき誰も書かねーよ!いじめる側はあくまでも残酷で悪いことを
しているという意識さえない悪魔で。いじめられる側はとても我慢強く人としてまっとうで…ある意味、ど
うしようもないリアルがここにある。信じられない事件をワイドショーで耳にしたり新聞で読んだりしたと
きの絶望と同じ気持ちが。
 痛いのとか、怖いのとか、重いのとか、平気なのは平気なのだけど、「無抵抗」と「報われない我慢」は
耐えられない。だからこそ私は、甘いといわれようとラストには救いを持ってきてほしいと思うのだ。でも
そんな気持ちで読むべきものではないのだろうな。結末は…少しほっとして、かなりせつなかった。

『文人悪食』(嵐山光三郎)

2014-03-15 | ルポ・エッセイ
子規の狂気にも似た食欲が、私を震えさせるのである。
私は、「食べる力」もまた精神力であることを知るに至った。


 嵐山センセ文人シリーズ2冊め。今度は食から文人を斬った一冊で、さらに生々しさが増す。後世に名を
残す文学者たちの異常性が次々と白日のもとにさらされる。媚びもためらいもなく、ある時はこれでもか
というほどねちっこく、あるときはズバリと骨まで断つような文体が清々しい。
 食は、生きざまである。素晴らしい作品を生んだあの人もこの人も、その実体は凄まじい。昔の文学者
を見る目が変わる。業の深さが尋常じゃない。やはりまともな神経ではやっておれんのだね、常軌を超え
るタフさか異常性が必要なんだね。それほど骨身を削って書かれたものだから世紀を隔てて人の心を動か
すんだね。…いろいろと納得。一人ひとり、作品を読みながらもう一度通読したい気がする。
 個人的に昔から興味深かった子規も、まずそのエネルギッシュな食欲に驚いたことを久しぶりに思い出
した。なんと嵐山氏、『仰臥漫録』を読んで8キロやせたそうだ。あやかりたい。…ではなく。それほど
真摯に対峙するべきものなのだろう。
 ただ、深い親交のあった先生方に対しては毒も陰を潜め敬意が先に立つ。檀一雄然り、深沢七郎然り。
しかしまあ、それも体験に基づく説得力があり、本当に魅力ある人だったんだなと納得してしまうのは嵐
山氏の筆力ゆえか。

『残穢』(小野不由美)

2014-03-15 | ミステリー、ファンタジー
死はある種の穢れを生むのかもしれない。

 ホラーの類いは定期的に読みたくなり、読み始めたら一気にいかないと気が済まない。これも機会があ
れば読みたいと思っていたら、図書館で発見!なぜかずっと直木賞受賞したと思い込んでいて、再度調べ
たら山本周五郎賞だった。どちらにしてもやや疑問。文章は上手い。淡々と静かで知的で、怪異の語り口
としては一級。じわじわと怖いし、先が気になる。エンターテイメントとしてはとても楽しかった。(楽
しいとはちょっと違うけど)でも、そこまでなんだよなあ…内容的には『リング』の類いと変わらないと
いうか、あちらのほうがよほどセンセーショナルだった。強い無念や怨みを残した死は時に浄化しきれな
い穢れとなり伝染する…この芯の部分がどうも説得力に欠けるというか、投げっぱなしというか、共感で
きないというか、あまりにフォローがなさすぎて心が殺伐とする。それが「現実」であり、怪異とはそう
いうものなのだと言われたらそれまでで、だからこそのドキュメンタリー的スタイルの小説なのだろうけ
ど。もやもやして受賞時の評言を読んだら、石田衣良氏の「死の穢れへの忌避が生む差別が、この国の歴
史には頑として存在して、今もそれで苦しむ人々がいる。そのあたりへの配慮があったら、さらによかっ
たかもしれない」という言葉がしっくりきた。

『日本のこころ、日本人のこころ』(山折哲雄)

2014-03-11 | ルポ・エッセイ
私は、科学的な思考と宗教・道徳の関係は、しばしばいわれているような水と油の関係ではない、
むしろ神話的な関係にあるのだということを考えてみたかったのであります。


 日本人ならではの思想、感性、生き方、信仰、倫理観…はどうして培われたのか、どういうものかを、
さまざまな切り口から考察。ラジオ番組の原稿を下敷きに構成しているだけあって、とても平易で読みや
すかった。内容はとても納得できるものから、先生、走り過ぎ!と思うものまで…。いちばん心に入った
のは、日本には独特の風土、四季に恵まれた美しい自然があったからこそ、天国をほかに求める必要がな
かった、この人間の住む世界に神が住み、仏が住むという万葉時代に培われていた日本人の感覚。これは
忘れてはいけないものだったんだと思う。しかし現代の状況を思うと…以下略。
 抜粋文は、最近「科学と宗教の融合」を耳にする機会が多くて、ここでもか!と思った次第。科学を極
めるとき、そこに見えざる意志の存在を感じずにはいられないとは、多くの科学者が語っていること。
(まさに水と油を体現する大槻教授のような人もいるけど)その関係性も研究されているれど、それはた
ぶん完全には解明できない問題だろうと思う。でもどうしても解明したいのが科学の人情?なんだな。
本書でも、「そこ、無理矢理こじつけなくてもいいんじゃ」と思うこと多しなのだけど…それが哲学者の
仕事なのかな。ま、そういうツッコミも含めて面白く読めた本ではあった。