こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『私の家では何も起こらない』(恩田陸)

2015-12-31 | ミステリー、ファンタジー
今にして思えば。
幽霊は、思い出に似ている。


 デビュー作『6番目の小夜子』の例をひくまでもなく、雰囲気のあるホラーは彼女の真骨頂だと思う。
オムニバス形式で語られていく一軒の“幽霊屋敷”。おぼろげに浮かんだ輪郭が、やがて形をなしはじめる
ような構成が見事。どんどんと自分が物語にとりこまれていくような感覚。ま、起こった出来事自体は
(霊的に)怖くはなく、ときにユーモラスだったりもするのだけど、納得の読後感だった。


 今年最後のレビューがこれか~。読書時間もあまりとれず、全体に手抜き加減だったのが悔やまれる。
来年はどんな本を読もうかな。
 年越し用に文庫本でも買おうと待ち合わせ前に本屋に寄り、迷ったあげくタイムアウト。
鬼平犯科帳にでも挑戦しようと思ったがあまりに巻数が多くて引いた。

『ベンジャミン・バトン』(フィツジェラルド)

2015-12-31 | ミステリー、ファンタジー
なにか日課があればいいのにって思うのは、今日が最初じゃない。(『モコモコの朝』)

 これまでフィツジャラツドは、村上春樹の訳で読んでいたので村上春樹が好きなのかフィツジェラルド
が好きなのかはっきりわからなかったかも。
 で、この短編集は未訳の多い彼のファンタジックな傑作選らしい。たしかに、映画にもなった『ベンジャ
ミン・バトン』はじめ、独特のストーリーに、人生の機微が織り交ぜられているのが面白かった。これを
読んでから映画を見たら「蛇足!」と思うかも。それくらい、映画よりすっきり思い切りのよいストーリー。
それぞれに印象の違う作品揃いで、楽しめた。で、抜粋したのがよりによってかわいいやつ。わんこの1日。
楽しくて、ちょっと切なかったのである。

『深川にゃんにゃん横丁』『卵のふわふわ』(宇江佐真理)

2015-12-27 | 歴史・時代小説


 不覚!またまた文章抜粋前に図書館に返却してしまった~読んだという覚書だけ。
 くるねこさんが好きな作家ということで、ぜひ読んでみたかったおひとり・・・惜しくも今年旅立たれて
しまって、本当に残念でたまらない。
 『にゃんにゃん横丁』は猫あるあるも多く、きっと作者は猫好きと思ったら全然好きじゃないとのことで
がっくり。ま、いいんだ。それくらい距離があるほうが、小説としては成立するのかも。ということで、話
へのからみ方もほどよくて、ハートウォーミングな読後感。まちねこ推奨派としてはああ~避妊せねば~ま
た増える~と余計なところが気になりもしたけれど。ここは江戸!江戸!
 『卵のふわふわ』は、食べ物描写に定評ある人とのことで、興味深々だった一冊。確かに!とってもやさ
しくておいしそう~でも主人公のおのぶが偏食であれこれ思い悩むタイプという設定が、食いしん坊の私的
には不満。舅の忠右衛門さんが可愛くてたまらなかったので、一緒に食い道楽に走るような話が読みたかっ
た(それってただのグルメ本になるか)。
 来年は髪結い伊三次シリーズに手を出すか~?

『聖の青春』(大崎善生)

2015-12-13 | ルポ・エッセイ
生きるか死ぬか。
それが、村山にとっての将棋の正体であり意味であった。


 幼い頃から宿痾とともにあり、その生きる意欲とエネルギーのすべてを将棋に注ぎ込んできたひとりの
少年。夢に抱き続けた「名人」の座に手がかかったとき、その生は終焉を迎えた。ああ無常。
 将棋のことはわからず、さほど興味もない私でも、谷川さんだとか羽生さんとともに一大ブームをつく
り脚光を浴びた人という印象がある。昔から夭折した人に興味を持ちがちで、いつかその生涯をたどって
みたいと思いはや何年・・・このたび映画になると聞いて、その前にこれは読んでおかねば!と入手。い
やあ、思った以上に壮絶な人生、そして思った以上に強い人だった。もっとも、簡単には語れない屈折も
葛藤もものすごかったに違いない。
 大崎さんの手によるドキュメントは団鬼六に次ぐ2作目で、盛り上げ過ぎの感はあるもののぐいぐい読
ませる。無頼で不器用な男を描くのがうまい人なのだと思う。なにせ、事実は小説より重い。読んでいる
間、私も村山さんと一緒に歯を食いしばったり唸ったり落ち込んだり、感情が乱高下。凄まじいの一言。
これほどまでに「生ききった」人は、そう多くないと思う。病気なのにこの生活はあかんやろ!という歯
がゆさもあるが、きっとこの生き方だったからこそ、彼は輝き、駆け抜けられたんだろう。
 でも、たくさんの愛に包まれ、自らも愛情深い人だっただけに、本人の望むような恋愛や家庭生活も楽
しませてあげたかったな。羽生の半分でも!なんて思ってしまうのだ。よく生きた、これが天命だった、
でもそう納得するのは、あまりに悲しい。だから人は悼み続けるのだろう。
 しかし、3月のライオン、これと続いて映画化ね~将棋、きてるね。何度覚えようとしてもよくわから
ないのだけどボケ防止にトライしようかしら。

『文士温泉放蕩録 ざぶん』(嵐山光三郎)

2015-12-09 | 現代小説
連日の執筆で、躰の骨のすきまにまで、蟻のように文字がつまっている。
それが、湯によってほろほろとときほぐされ、血肉に溶けていく。



 久々、嵐山光三郎センセの文豪シリーズ。今回は温泉放蕩録だけあってけっこうエロ。男性文豪は溜ま
りに溜まってる感じだし、女性はほぼ全員淫乱。ええんか?と思うのだが、ええんやろう嵐山センセだか
らW
 この時代の文士たちの豊かすぎる個性は、それだけで小説になるよね。かなり脚色されているとはいえ、
滑稽味と哀しみのバランスが見事。でもって、お約束だけどゆっくり温泉に行きたくなった。