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山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審・死刑判決 死刑選択、評価別れ--識者談話

2008-04-24 01:42:50 | 刑事裁判
 変わるか、死刑の臨界点 光市母子殺害

 22日に言い渡された山口県光市の母子殺害事件の控訴審判決で、元少年に対する量刑は死刑に変わった。判決は、従来の死刑適用基準のあり方が変わってきたことを印象づける内容。約1年後に始まる裁判員制度のもとでは、死刑が増えるのではないかという見方も広がっている。

■「ウソの弁解」

 「彼は犯罪事実を認めて謝罪し、反省していた。それを翻したのが一番悔しい」。妻と幼い娘を奪われた本村洋さん(32)は判決後の記者会見で語った。「最後まで事実を認めて誠心誠意、反省の弁を述べてほしかった。そうしたら、もしかしたら死刑は回避されたかもしれない」

 「犯した罪の深刻さと向き合うことを放棄し、死刑を免れようと懸命になっているだけ」。22日の広島高裁判決は、上告審で弁論期日が指定されて「死刑」の可能性が高まった後で、起訴から6年半もたって全面的に争う姿勢に転じた元少年の態度をそう評価した。「反社会性の増進を物語っている」とまで言い切り、「反省心を欠いている」と断じた。

 また、判決は末尾部分で最高裁が2年前、審理を差し戻すにあたって「犯罪事実は揺るぎなく認められる」と述べたことに言及し、「今にして思えば、弁解をせず、真の謝罪のためには何をすべきかを考えるようにということを示唆したものと解される」と述べた。にもかかわらず「虚偽の弁解」を繰り広げたことで「死刑回避のために酌むべき事情を見いだす術(すべ)もなくなった」というのが判決が示した論理だった。読み方によっては、上告審の途中でついた弁護団の「戦術」が不利な結果を導いたとも受け取れる。

 しかし、弁護団は判決後もあくまで「真相」にこだわった。主任弁護人の安田好弘弁護士は記者会見で「犯罪事実が違っていては真の反省はできない。死刑事件では反省の度合いより、犯行形態や結果の重大性が重視されてきた。反省すれば判断が変わったというのか。高裁の指摘は荒唐無稽(こうとうむけい)だ」と批判。別の弁護士も「こんな判決が出るようでは、事実を争うことがリスクになってしまう」と語り、天を仰いだ。

 大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件(01年)で死刑が執行された宅間守・元死刑囚の主任弁護人として「情状弁護」に徹した戸谷茂樹弁護士も「事実を争ったことが死刑とする絶好の理由とされた」という。「ただ、被告人の主張をなかったことにはできないのだから、弁護団を責めることはできない」と話した。

■厳罰求める世論

 今回の死刑判決は、来年5月に始まる裁判員制度にどんな影響を与えるのか。

 最高裁が差し戻す判決を出したときに、「これまでの判例より厳しい」と感じた裁判官は多い。「少年事件であるため死刑をちゅうちょしてきた裁判官には、重大な影響を及ぼすだろう。あとは、裁判員がどう考えるかだ」とあるベテラン刑事裁判官は話す。

 被告が少年であることは量刑にどう影響するか。最高裁の司法研修所が05年、国民にアンケートしたところ、約25%が「刑を重くする要因」、約25%が「刑を軽くする要因」と答え、「どちらでもない」が約50%だった。裁判官は9割以上が「軽くする要因」と答え、その違いが浮き彫りになった。ただ、裁判員制度が始まると死刑判決が増えるかどうかは別の問題で、裁判官の間でも意見は分かれる。

 厳罰を求める世論に加えて、「被害者参加制度」も今年中に始まる。犯罪被害者や遺族が法廷で検察官の隣に座り、被告や証人に直接問いただしたり、検察官とは別に「死刑を求めます」と独自に厳しい求刑ができたりするようになる。このため、「死刑が増えるのでは」との見方がある一方で、「やはり究極の刑を科すことには慎重になる市民が多いのでは」との意見も少なくない。

 別のベテラン裁判官はこう話す。「『どんな場合なら死刑になる』と立法で定めるならともかく、現行法では裁判員にとって分かりやすい基準をつくるのは難しい。結局は事件ごとに市民に真剣に悩んでもらい、それが将来、新たな基準をつくっていくことになるのだろう」

 死刑を執行する立場の法務省も世論を強く意識する。ある幹部は「裁判員制度の導入が決まったころはかえって死刑判決が減るとの見方もあった。だが、最近の報道や世論を見ていると、どうも逆ではないかとも思う」と話した。

■分かれる判断

 今回の判決を専門家はどう受け止めたのか。

 菊田幸一・明大名誉教授(犯罪学)は「永山基準が拡大されたかたちになり、影響は大きい」と話す。

 永山基準は83年に示された死刑適用の指標だ。(1)犯行の性質(2)犯行の態様(残虐性など)(3)結果の重大性、特に被害者の数(4)遺族の被害感情(5)犯行時の年齢――などの9項目を総合的に考慮してきた。

 83年以降、被告が犯行時に未成年だった事件で死刑が確定したのは3件(1件は一部の犯行が成人後)で、いずれも殺害人数は4人だった。

 元神戸家裁判事で弁護士の井垣康弘さんは「本来は永山基準に至らないケース。無期懲役になると思っていた」。永山基準では、殺害人数が4人で殺害の機会もばらばらだったのに、今回は「2人」で「同一機会」だった点に注目する。「この判決が確定したら、永山基準はとっぱらわれ、死刑が増えるだろう」

 死刑もやむを得ないという識者もいる。丸山雅夫・南山大法科大学院教授(少年法)は「『死刑を回避するのに十分な、とくに酌むべき事情』について、弁護側は立証できなかった」と指摘する。

 後藤弘子・千葉大大学院教授(同)は「基準自体が変わったのでなく、基準にあるどの項目を重視するかが変わってきた」。(3)や(5)でなく、(2)や(4)を重くみた判決で、今後は無期懲役が減り、死刑が増える可能性があるとみる。

 最高裁の裁判官でも、死刑についての判断は分かれる。

 2人を射殺した被告をめぐり、今年2月、最高裁第一小法廷の裁判官5人のうち、3人が無期、2人が死刑を選んだ。才口千晴裁判官は「裁判員制度の実施を目前に、死刑と無期懲役との量刑基準を可能な限り明確にする必要がある」との意見を述べた。

(出所:朝日新聞HP 2008年04月22日23時32分)

山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審・死刑判決 死刑選択、評価別れ--識者談話

 ◇「永山基準沿う」「従来なら無期」
 ◆規定厳格に適用--沢登俊雄・国学院大名誉教授(少年法)

 死刑制度がある以上、やむを得ない判決だ。更生可能性を指摘した1審、2審判決と違い、今回は、残虐性や社会的影響などを考慮した点で永山基準に沿った判断といえる。最高裁は、死刑選択を回避すべき「特に酌むべき事情」の有無を審理するよう差し戻したが、弁護側は殺意の否認に転じ、反省の念がないことを表す格好となった。元少年の年齢についても、18歳以上であれば死刑を科すことを可能としている少年法の規定を厳格に適用したといえる。

 ◆影響は限定的--永田憲史・関西大学法学部准教授(刑事学)

 この事件は殺害の計画性のなさなどから、判例で形成されてきた従来の基準なら無期懲役でもおかしくない。判例変更には最高裁大法廷での審理が必要だが、この事件は小法廷で「量刑が不当」と差し戻された。今回の判決が、今後の死刑求刑事件に与える影響は限られるだろう。ただ、同じ事件で裁判所の量刑判断が分かれたことは望ましくない。裁判員制度の実施を控え死刑の選択基準については法律で具体的に示すことを検討すべきだ。

 ◆少年の死刑増える--菊田幸一・明治大名誉教授(犯罪学)

 今回の高裁判決は、少年への死刑の適用が今後増えるきっかけとなるだろう。そもそも、この事件は被害者の数など従来の死刑適用基準からは外れている。しかし、最高裁は被害者感情を中心とした世論に迎合し、死刑基準を変えないまま高裁に差し戻した。高裁は今回、最高裁の求めに従ったに過ぎず、司法権の独立を放棄したに等しい。死刑廃止は国際的な流れであり、裁判員制度の実施を前に、一人一人が厳罰化の是非を冷静に考えていくしかない。

 ◆事件の記録残して--漫画「家栽の人」原作者でメールマガジン「少年問題」編集長、毛利甚八さん

 判決は裁判官が独立して決めることなのでどうこう言えないが、判決文で、被告の成育歴など事件の背景をきちんと認定し、記録として残すことが重要だ。死刑判決が出たことで、世の中にはホッとしたり、スッとした人もいるだろう。本当にそれでいいのか。被告は子供のころに虐待を受けており、その時、児童相談所は機能したのか、国民一人一人が真剣に考えるべきだろう。それが、奪われた被害者の命に対する社会の責任だ。

(出所:毎日新聞 2008年4月22日 東京夕刊)

光市母子殺害関係・識者談話

◇判決は全くの間違い

 神戸連続児童殺傷事件で少年審判を担当した元裁判官の井垣康弘弁護士の話 法が犯行時18歳以上の少年に死刑を認めているのは、成人と同程度に成熟していることをイメージしている。しかし、元少年は父から虐待を受け続け、中学1年時には実母が自殺し、人格の正常な発育が止まった。体は大人でも「こころ」は中学生程度であるとすると、死刑判決は全くの間違いだ。法律家は心理の専門家(少年鑑別所技官・家裁調査官・大学の心理学ないし精神医学の教授)の説明を理解する基礎的能力がない。全くの素人という前提でよほどかみ砕いて説明し直さないと、最高裁も危ない。心理学者はこの際、家裁の記録も含め社会に開示して理解されるかを試し、「素人にも分かってもらえる説明の仕方」を勉強してほしい。

◇弁護士への信頼、大きく崩れる

 諸澤英道常磐大理事長(被害者学)の話 弁護団の主張を軽く受け流すことはできたが、広島高裁は1つ1つ丁寧に答えたのは意外だ。これにより、最高裁は「高裁認定」と判断でき、今後の裁判は長期化しないだろう。一方、弁護団の主張は遺族には耐え難く、一般の人にも混乱を与えた。法律論として言いにくいが、弁護士に対する信頼が大きく崩れることになった。幼い子どもを1人の人間と見てこなかった中、泣き叫ぶ乳児の殺害という許されない行為の厳罰化は、国民感情を背景にした(司法の流れの)目に見えない変更と思う。

(出所:時事通信社HP 2008/04/22-14:11)

 山口県光市の母子殺害事件差し戻し控訴審で広島高裁が22日、当時18歳の元少年(27)に言い渡した死刑判決は、刑の厳罰化の流れに沿ったともとれる内容となった。死刑の「境界事例」とされる被害者2人の事件でも、「特に酌量すべき事情がない」限り、少年でも死刑になる可能性を示した点には、死刑のハードルを下げたとの見方もある。来年5月からは裁判員制度が始まり、一般市民でも死刑の適用の判断を迫られるようになる。【川辺康広、田倉直彦】

 ◇「裁判員」にも影響
 「死刑制度がある以上、当たり前の判断。無期を選んでいたこれまでの判決の方が量刑基準を変にとらえていたのではないか」。ある法務省幹部は話す。判決は、犯行の悪質さが大きければ、年齢や犠牲者数にかかわらず死刑を適用する意思を明確に示した。

 1、2審判決は永山基準に照らしつつ、被害者が2人だったことや、殺害に計画性がないこと、少年の更生可能性を重視して無期懲役とした。一方、最高裁判決は「強姦(ごうかん)を計画し、反抗抑圧や発覚防止のために殺害を決意して実行し、所期の目的を達成している」と指摘、計画性はなくとも死刑回避の理由にならないとした。

 差し戻し審判決もこの判断を踏襲した。「罪刑の均衡の見地からも、一般予防の見地からも極刑はやむを得ない」と結論付けた。

 検察側は97~98年、死刑求刑に無期判決が出た被害者1~2人の計5事件で、「連続上告」をした。死刑判決が出たのは1件で、残り4件は上告棄却だった。今回の事件も、検察が「死刑」にこだわった数少ない事件だった。

 渥美東洋・京都産業大法科大学院教授(刑事法)は「死刑と判断した一番の理由は、殺害態様の残虐性だ。永山基準に照らして検討した結果、何の落ち度もない赤ちゃんを床にたたきつけて殺害したことや、殺害後に姦淫(かんいん)行為に及んだことなど、通常では考えられない犯行の残虐さを重くみた。反省もみられず、軽減理由もゼロだった」と分析。「殺害の残虐性が高い場合は、18歳以上であれば死刑は回避できないという基準を示した」と、他の裁判にも影響が及ぶことを指摘する。

 一般市民が重大裁判に参加する裁判員制度が来年5月に始まる。ある検察幹部は「裁判員制度は、ごく普通の市民感情をいかに判決に反映させるかが課題になる」と指摘する。その上で、元少年が差し戻し審で展開した新供述が世論の反発を受けた点が「高裁の判断の一助になったはず」とみる。

 ◇上告棄却の公算
 弁護団が上告したことで、審理は再び最高裁に戻る。だが、高裁に審理を差し戻した経緯から、弁護団が最高裁で死刑を覆すのは極めて困難な情勢だ。

 日本大法学部の船山泰範教授(刑法・少年法)は「弁護団の主張がこれだけ退けられれば、上告審は相当厳しい」と指摘。弁護団の戦術として、「最高裁が83年に示した死刑の判断基準(永山基準)から外れた判決と主張することも可能」とみる。

 一方、あるベテラン裁判官は「今回の事件は死刑と無期懲役の境界事例だったが、判決はあくまでも永山基準に照らして判断しており、基準を変更したものではない」と分析、判例違反を主張しても棄却される可能性が高いとの見方を示す。

 元裁判官の秋山賢三弁護士は高裁の判断について「最高裁の判決に拘束される差し戻し審ということで、死刑を宣告するしかなかったのだろう」と見る。

 ◇弁護団戦術裏目に 一転し殺意否認、世論の反発招く
 1、2審で認めていた殺意を一転して否認し、元少年の新供述を基に起訴事実を全面的に争った弁護側の戦術は完全に裏目に出た。元少年の「ドラえもんが何とかしてくれる」「精子を入れるのは生き返りの儀式」などの言葉は、世論の激しい反発すら招いた。

 判決は新供述について、「虚偽の弁解を弄(ろう)したことは改善更生の可能性を大きく減殺した」と批判。「21人の弁護団がついたことで、(被告は)刑事責任が軽減されるのではないかと期待した。芽生えていた反省の気持ちが薄らいだとも考えられる」と弁護団の存在が元少年に不利な状況を招いた可能性を示唆した。

 法務省幹部も「弁護方針が正しかったのだろうか。結局、普通の人間が聞いてどう思うかだ。明らかにおかしかった」と指摘する。

 なぜ、弁護団はこのような戦術をとったのか。昨年10月までメンバーだった元弁護人は「本来なら法廷で出す必要のない言葉。世間では弁護団がストーリーを言わせていると思われているが、被告をコントロールしようと思っても無理」と明かし、ありのままの被告を見てもらう弁護方針だったと話す。

 主任弁護人の安田好弘弁護士は「もっと証拠を出すべきだったなどの反省点はあるが、歴史に堪えうる弁護だった。(事実を隠し、情状だけ主張するのは)弁護士の職責として、成り立たない。真実を出すことで(被告に)本当の反省が生まれる」と、正当性を主張した。

 専門家の間には、少年事件の弁護の難しさを指摘する声もある。

 加害少年のケアに取り組む精神科医は「事件を起こしたり被害を受け傷ついた場合、状況の変化や与えられた情報によって発言が変わる可能性がある」と指摘し、「少年事件では事件直後の証言の記録が重要だ」と提言する。別の臨床心理士も「発生から8年が過ぎた公判で、過去の精神状態についての証言が本当に真実を語っているかを確かめるのは難しいだろう」と話す。


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 ■ことば

 ◇永山基準
 最高裁第2小法廷が83年7月、連続射殺事件で4人を殺害した永山則夫元死刑囚に対する判決で示した。
(1)事件の罪質
(2)動機
(3)事件の態様(特に殺害手段の執拗=しつよう=性、残虐性)
(4)結果の重大性(特に殺害された被害者の数)
(5)遺族の被害感情
(6)社会的影響
(7)被告の年齢
(8)前科
(9)事件後の情状
--を総合的に考慮し、刑事責任が極めて重大で、やむを得ない場合に死刑も許されるとした。以降の死刑適用指針となった。

(出所:毎日新聞 2008年4月23日 東京朝刊)
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山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審 元少年に死刑判決 広島高裁「新供述は不自然」

2008-04-24 01:27:26 | 刑事裁判
 山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審 元少年に死刑判決 広島高裁「新供述は不自然」

 ◇「情状斟酌できぬ」
 山口県光市で99年4月、母子を殺害したとして殺人と強姦(ごうかん)致死罪などに問われた当時18歳の元少年(27)に対する差し戻し控訴審の判決公判が22日、広島高裁であった。楢崎康英裁判長は「身勝手かつ自己中心的で、(被害者の)人格を無視した卑劣な犯行」として、無期懲役とした1審判決を破棄し、求刑通り死刑を言い渡した。元少年が差し戻し審で展開した新供述を「不自然不合理」と退け、「1、2審は改善更生を願い無期懲役としたのに、死刑を免れるために供述を一変させ、起訴事実を全面的に争った」と批判した。弁護側は即日、上告した。

 最高裁は06年6月、高裁が認めた情状酌量理由を「死刑を回避するには不十分」として1、2審の無期懲役判決を破棄し、高裁に差し戻した。

 判決によると、元少年は99年4月14日、光市のアパートに住む会社員、本村洋さん(32)方に排水管検査を装って上がり込み、妻の弥生さん(当時23歳)を強姦目的で襲い、抵抗されたため手で首を絞めて殺害。長女夕夏ちゃんを床にたたきつけた上、首にひもを巻き付けて絞殺した。

 元少年は差し戻し審で弥生さん殺害について、「甘えたい気持ちで抱きつき、反撃され押さえつけたら動かなくなった」とし、夕夏ちゃん(同11カ月)について「泣きやまないので抱いてあやしていたら落とした。首を絞めた認識はない」と述べた。

 供述を変えた理由については、「自白調書は警察や検察に押し付けられ、1、2審は弁護人が無期懲役が妥当と判断して争ってくれなかった」とした。

 判決は「弁護人から捜査段階の調書を差し入れられ、『初めて真実と異なることが記載されているのに気づいた』とするが、ありえない」と、元少年の主張を退けた。

 また、弥生さんの殺害方法について元少年が「押し倒して逆手で首を押さえているうちに亡くなった」としたのに対しても「困難と考えられ、右手で首を押さえていたことを『(元少年が)感触さえ覚えていない』というのは不自然。到底信用できない」とした。夕夏ちゃん殺害についても、「供述は信用できない」と否定した。

 また、元少年が強姦行為について「弥生さんを生き返らせるため」としたことについて、「荒唐無稽(こうとうむけい)な発想であり、死体を前にしてこのようなことを思いつくとは疑わしい」と退けた。事件時、18歳30日だった年齢についても「死刑を回避すべきだという弁護人の主張には賛同し難い」とした。

 また、元少年の差し戻し審での新供述を「虚偽の弁解をろうしたことは改善更生の可能性を大きく減殺した」と批判。「熱心な弁護をきっかけにせっかく芽生えた反省の気持ちが薄らいだとも考えられる」とした。

 2審の無期懲役判決を差し戻した死刑求刑事件は戦後3例目だが、他の2件は死刑が確定している。【大沢瑞季、安部拓輝、川辺康広】

    ◇

 ◇9年は長かった--本村洋さんの話
 9年は遺族にとって長かった。判決は裁判を通じて思った疑問をすべて解決してくれ、厳粛な気持ちで受け止めている。私の妻子と(死刑判決を受けた)被告の3人の命が奪われることになった。社会にとっては不利益で、凶悪犯罪を生まない社会をどうつくっていくか考える契機にしたい。

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 ■解説

 ◇被害者2人「境界事例」で判断
 量刑が最大の焦点になった差し戻し審で、広島高裁は結果の重大性を重視して極刑を選択した。たとえ少年でも故意に複数の命を奪った事件は、積極的に死刑を適用すべきだとの司法判断を明確に示したと言える。

 06年6月の最高裁判決は、元少年が事件当時18歳30日だった点を「考慮すべき一事情にとどまる」とし、差し戻した。これに対し弁護側は、元少年の成育環境による未熟さを背景とする偶発的事件と主張。1、2審で認めた殺意や強姦の意図を争い、高裁が弁護側の主張をどこまで認めるかが焦点となった。

 最高裁は83年の永山則夫元死刑囚(97年執行)に対する判決で、死刑選択の判断基準として9項目を挙げた。判例をみると被害者の数が重要な要素とされるが、明確な基準はなく、被害者2人の場合は、判断が分かれる「境界事例」だった。更に、永山判決以降、被告が少年の事件で死刑判決が確定したのは2件だけで、いずれも被害者は4人だ。

 高裁が従来の量刑判断から大きく踏み出した背景として、来年始まる裁判員制度を前に「死刑基準を明確化したもの」と指摘する専門家もいる。厳罰化世論が高まる中、死刑に慎重であるべき少年事件で示された判決は、量刑を巡る議論に一石を投じるものだ。【安部拓輝、大沢瑞季】

(出所:毎日新聞 2008年4月22日 東京夕刊)


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光母子殺害:【本村洋さん会見詳細】

2008-04-24 01:22:08 | 刑事裁判
 光母子殺害:【本村洋さん会見詳細】<1>「裁判所の見解は極めて真っ当」

 山口県光市で99年4月、母子を殺害したとして殺人と強姦(ごうかん)致死罪などに問われた当時18歳の元少年(27)に対する差し戻し控訴審で、広島高裁は22日、元少年に死刑判決を言い渡した。遺族の本村洋さん(32)は判決を受けて会見した。会見の詳細は次の通り。

 --今の心境を。

本村 これまで9年の歳月がかかってきましたけど、遺族が求めてきた死刑判決が下ったことに関しまして、判決を下して下さった広島高裁には感謝しております。今回の裁判の判決の内容を全部聞いておりましたけど、裁判所の見解は極めて真っ当だと思いますし、正しい判決が下されたと思います。被害者遺族は司法に感謝して、被告人はおのれの犯した罪を後悔して、社会が正義を再認識し、司法が威厳を保つことで、民主主義、法治国家は維持されると思いますので、そういった判決が出たことを心から感謝しております。

 --5月11日の夕夏ちゃんの誕生日にお墓参りをされるとお話しされていたが、予定通りお墓参りをされるのか? また墓前にはどんな言葉を。

本村 できれば早く墓前に報告してあげたいと思いますので、5月11日の娘の誕生日を待つ前にお墓の前に行く時間があれば行きたいと思っています。墓前にかける言葉っていうのは、まだ自分の気持ちも整理できていないので、まだありませんが、ただ一つのけじめがついたことは間違いないと思っているので、この判決の内容については報告してあげたいと思います。

 --常に葛藤し続けてきたという思いを述べられていましたが、今の気持ちを。

本村 決して喜ばしいことではないと思っています。厳粛な気持ちでこの裁判所の判決を受け止めています。遺族としては当然、応報感情を満たされたわけですから、報われる思いはありますが、社会にとってみれば、私の妻と娘、そして被告人の3人の命が奪われる結果となったわけです。これは社会にとって不利益なことです。

 私はこの事件にあってからいろいろ考えておりますけれど、やはり刑法っていうものは社会秩序を維持するための目的を達するための手段だと思っています。死刑という大変重い判断が下されましたが、これで終わるのではなくて、私たち遺族もこの重い判決を受けて真っ当に生きていかなければいけないと思いますし、社会のみなさまにも、どうすれば犯罪の被害者も加害者も生まない社会を作るのか、どうすればこういう死刑という残虐な、残酷な判決を下さない社会ができるのかを考える契機にならなければ、私の妻と娘も、そして被告人も犬死だと思っています。死刑の存廃等の問題が騒がれるようになるかもしれませんけど、刑罰はどうすれば私たちが安全な環境を作れるかということを考える契機にならなくてはいけないと思いますので、そういった方に社会が向いていくことを望みます。

 --今日の判決までに9年、長かった?

本村 時が長いか短いかは簡単に言えない。遺族にとっては長い月日。熟慮に熟慮を重ねた結果、出たのならば、判決は一層重みが増したものだと思いますので、来るべき時が来たものとしてこの判決を受け止めております。

 --退廷時に被告が振り返って一礼したことについて受け止めを。

本村 私はこれまで、被告が退廷する姿を見ないようにしていましたが、今日は退廷の姿をずっと見ていました。彼の表情からはあまり感情を読み取ることできなかった。どこかで覚悟していたのではないかと思える落ち着いた顔という印象を受けました。

 --死刑というものがあるからこそ迷い、悩んだと聞いた。判決を聞いてどうか。

本村 死刑という問題は、法治国家にとって古くて新しい問題で、答えはないものと思います。ただ、人の命をもっとも大事だと思って尊ぶからこそ死刑という制度があった。この判決を受けて、死刑は重過ぎるという人も適罰という人もいると思います。ただ、それを論じても意味のないことで、どうすればこういった犯行や少年の非行を防げるかということを考える契機になると思う。死刑というものがなくて、懲役刑や、短いものだったりした時、だれがこの結末を注目し、裁判経過を見守ってくれるのか。死刑というものがあって、人の命をどうこの国が、法律が判断するかを国民のみなさんが一生懸命考えてくれたからこそ、これだけの世論の反響を呼んだ。当然いろんな議論があります。いずれにしても目的は安全な社会を作ること。どうすれば犯罪を減らせるか、死刑を下すほどの犯罪をなくすことができるかということに人々の労力を傾注すべきだと思う。両手放しに死刑は必要だとか、間違っていないとは言えない。常に悩みながらこの制度を維持することに本当の意味があることだと思いを新たにしています。

 --判決を聞いている間、被告の背中をずっと見ていた。どのような思いで?

本村 今回の判決文を聞いて、まさに私が思っていた疑問をすべて解消しており、被告に聞いてほしかったことでもありました。すばらしい判決文だと思います。それを被告は聞いて、彼の残された日々を彼がどう受け止めてどう歩むか考えてほしい。真剣に聞いているのか、彼がどんなことを考えているか見極めたくて見つめていました。今日、彼が何を考えていたか知ることはできませんでした。

 ただ、彼は発言する機会を奪われたわけでない。本当に事実と異なれば主張すべきだし、うその供述をしたのなら悔い改めるべきです。彼の人生だったり、裁判で言ってきたことが差し戻し審ですべて反故にされた。少なくともいったんは犯行事実を認めて謝罪して反省したのに翻したのが悔しい。最後まで事実を認め、誠心誠意、反省の弁を述べて欲しかった。そうすれば、もしかしたら死刑は回避されたかもしれない。なぜ遺族の感情を逆なでして、ああいった供述をしたのか。心の弱さゆえにうその供述をしたのであれば正直に述べてほしいし、そういった心境や悔悟の念をくみ取る報道機関もあっていい。そして被告が反省した姿を社会に見せることが防犯の力になると思う。(続く)

光母子殺害:【本村洋さん会見詳細】<3止>被告の反省文は「生涯開封しない」
 --被告は傍聴席に一礼しましたが、どう感じましたか。

本村 最後に彼が一礼してくれたことは見届けました。彼がどういった心境で頭を下げたのか、まだ分かりません。ただ、判決文をしっかりと読んで、心から謝罪ができる日が来るよう願っています。

 --被告の反省文は本村さんは開封はされるのでしょうか。

本村 いいえ。開封は生涯しないと思います。今回の裁判所の見解であったように、明らかに自らの罪を逃れたいがために書いた反省文であると思いますし、あれは彼の本当の気持ちが書かれていない可能性が高いと思っています。ですから判決以降に書かれた手紙であるなら読む準備があると思いますけれど、それ以前に書かれた手紙は生涯開封しないと思います。

 --彼にかける言葉は。

本村 胸を張って彼には死刑を受け入れてもらいたい。胸を張れるまでには相当苦悩を重ね、自らの死を乗り越えて反省しなければいけないと思う。そうした境地に達して自らの命をもって堂々と罪を償ってほしいと思う。できればそういった姿を私たち社会が知れるような死刑制度であってもらいたいと思います。

 --今回の少年は(犯行時)18歳。ハードルが外れ、今後、少年の死刑判決が続くと思いますか。

本村 そもそも、死刑に対するハードルと考えることがおかしい。日本の法律は1人でも人を殺めたら死刑を科すことができる。それは法律じゃない、勝手に作った司法の慣例です。

 今回、最も尊うべきは、過去の判例にとらわれず、個別の事案をきちんと審査して、それが死刑に値するかどうかということを的確に判断したことです。今までの裁判であれば、18歳と30日、死者は2名、無期で決まり、それに合わせて判決文を書いていくのが当たり前だったと思います。そこを今回、乗り越えたことが非常に重要でありますし、裁判員制度の前にこういった画期的な判例が出たことが重要だと思いますし、もっと言えば過去の判例にとらわれず、それぞれ個別の事案を審査し、その世情に合った判決を出す風土が生まれることを切望します。

 --日本の司法に与えた影響については。

本村 私は事件に遭うまでは六法全書も開いたことがない人間でした。それがこういった事件に巻き込まれて、裁判というものに深く関わることになりました。私が裁判に関わった当初は刑事司法において、被害者の地位や権利はまったくありませんでした。それが、この9年間で意見陳述権が認められましたし、優先傍聴権も認められる。例えば今回のように4000人も傍聴に訪れたら、遺族は絶対傍聴できなかった。それが優先傍聴権があるために私たち遺族は全員傍聴できた。これからは被害者参加制度ができて被害者は当事者として刑事裁判の中に入ることができる。

 そういったことで司法は大きく変わっていると思いますし、これから裁判員制度をにらんで司法が国家試験、司法試験を通った方だけではなく、被害者も加害者も、そして一般の方も参加して、社会の問題を自ら解決するという民主主義の機運が高まる方向に向かっていると思います。実際に裁判に関わって、まったく被害者の権利を認めていない時代から、意見陳述が認められて、傍聴席も確保できて、そういった過渡期に裁判を迎えられたことは意義深いと思ってます。

 --今の裁判の問題点は。

本村 すべての問題が解決したわけではありませんし、例えば今回、9年という歳月がかかっている。これは非常に長いと思います。ですから今後、裁判の迅速化とか今後検証していく余地はたくさんあると思う。法は常に未完だと思います。未完だと思って常により良い方向を目指して解決していくべきだと思います。


(出所:毎日新聞HP 2008年4月22日)
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山口・光の母子殺害:死刑判決 「命」の重み、問いかけ--広島高裁 

2008-04-24 01:12:44 | 刑事裁判
山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審・死刑判決 広島高裁「当時18歳、酌量できぬ」

 ◇「残虐」指弾、厳罰に
 山口県光市で99年4月、母子を殺害したとして殺人と強姦(ごうかん)致死などの罪に問われた当時18歳の元少年(27)に対する差し戻し控訴審の判決公判が22日、広島高裁であり、楢崎康英裁判長は無期懲役とした1審・山口地裁判決を破棄し、求刑通り死刑を言い渡した。元少年側の主張をすべて否定し「犯行は冷酷、残虐にして非人間的な所業。被告の成育環境や犯行時18歳30日という年齢は、死刑を回避するに足りる特に酌量すべき事情とまではいえず、極刑はやむを得ない」と述べた。弁護側は「判決には事実誤認がある」として上告した。

 少年法は18歳未満の被告に死刑を科すことを禁じており、元少年は、最高裁に記録が残る66年以降で最年少となる。

 判決によると、元少年は99年4月14日、光市のアパートに住む会社員、本村洋さん(32)方に排水検査を装って上がり込み、妻の弥生さん(当時23歳)を強姦目的で襲い、抵抗されたため手で首を絞めて殺害。泣き続ける長女夕夏ちゃん(同11カ月)を床にたたきつけた上、首にひもを巻き付けて絞殺した。

 元少年は1、2審で殺意や強姦の意図を認めたが、差し戻し審で否認に転じ、弥生さん殺害について「甘えたい気持ちで抱きつき、反撃され押さえつけた」と主張。夕夏ちゃん殺害も「抱いてあやしていたら落とした」と新たに供述した。弁護団は傷害致死罪適用が相当として、死刑回避を求めていた。

 判決は新供述の信用性について「起訴から6年以上して新たな供述を始めたのは不自然」と否定。強姦行為に関して「弥生さんを生き返らせるため」と主張した点についても「荒唐無稽(こうとうむけい)な発想」と退けた。夕夏ちゃんへの殺意を否認した供述の信用性も否定した。【大沢瑞季、安部拓輝、川辺康広】

 ◇「9年、長かった」--本村さん
 閉廷後、会見した本村洋さんは「判決は疑問をすべて解消してくれ、厳粛な気持ちで受け止めている。9年の月日は長かった」と述べた。一方で「事件で私の妻子と(死刑判決を受けた)被告の3人の命が奪われることになり、これは社会にとっては不利益だ。判決をどうすれば安全な社会をつくれるか考える契機にしたい」と語った。

 ◇量刑不当と上告--上告した弁護団の安田好弘・主任弁護人の話
 判決は殺害方法などで著しく正義に反する事実誤認があり、量刑も不当だ。元少年は最高裁弁論が始まる約2年前から強姦や殺害目的はなかったと話しており、差し戻し審で初めて出たのではない。元少年がなぜ事件を起こしたかの疑問に、正面から向き合っていない判決だ。

(出所:毎日新聞 2008年4月23日 西部朝刊)

山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審・死刑判決 本村さん、涙浮かべ

 ◇「人生どう歩む」 元少年に問いかけ
 22日に広島高裁で開かれた山口県光市・母子殺害事件(99年)の差し戻し控訴審で、遺族の本村洋さん(32)は判決後、死刑判決を評価しながらも笑顔はなく、「どうすれば死刑のような残虐な判決を下さなくてもいい社会ができるのか」と語気を強めた。一方、争点の大半が認められなかった弁護団は、「極めて不当な判決だ」と反発した。【安部拓輝、上村里花、佐藤慶】

 「裁判官は命の尊さを示してくれた」。会見に臨んだ本村さんは時折、涙を浮かべた。これまでの会見では平静を努めてきたが、この日は違った。家族、そして被告の元少年(27)への思いがこみ上げてきたからだ。

 「事実を認めて反省の弁を述べていたら、死刑は回避できたかもしれないのに……」。事件で、妻子だけでなく元少年の命も奪われる可能性があることに「3人の命を社会は見つめてほしい」と語気を強めた。元少年への感情は憎しみを超えていた。

 判決を聞く元少年の背中に心の中で「君は残りの人生をどう歩むのか」と問いかけたという。「死刑判決で遺族の感情がすべて癒やされるわけではない。遺族にとっても、これからどう生きるのかが大きな課題だ」

 ◇弁護団、声荒らげて批判
 元少年の弁護団は判決後、広島弁護士会館(広島市中区)で記者会見し、「殺害方法など客観的事実を無視した判決だ」などと声を荒らげて批判した。安田好弘主任弁護人は「(判決で)厳罰化が加速し、裁判員制度にも大きな影を落とす」と懸念し、「もう一度、証拠や判決を見直して正しい判決を求めたい」と話した。また、足立修一弁護士らが、判決直後に元少年と面会した際の様子を説明。元少年は「ずっと真実を述べてきた」と話したという。【吉川雄策】

 ◇日テレ系記者の会見出席拒否
 元少年の弁護団が開いた記者会見で、日本テレビ系列の記者が出席拒否されていたことが分かった。日本テレビによると、系列の広島テレビの記者が判決前日の21日午前、広島拘置所内で元少年と面会。弁護団から「取材内容を教えなければ会見への出席を認めない」と記者へ通告があった。同社は要求を断り、面会内容をニュース番組で全国放送した。元少年には取材目的と伝えていたという。【真野森作】

(出所:毎日新聞 2008年4月23日 東京朝刊)

 ◇「一つのけじめついた」--本村さん、犯罪のない社会の実現訴え

 山口県光市の母子殺害事件発生から9年を経て、広島高裁が22日示した判断は、事件当時18歳30日だった元少年への死刑判決だった。4度目の司法の判断とそこに至る過程は、法曹関係者だけでなく、社会全体に「命」の重みを改めて問いかけた。

 ◇弁護団、痛烈批判「良心は?」

 判決後、遺族の本村洋さんと元少年の弁護団は、それぞれ記者会見を開いた。

 本村さんは「一つのけじめがついた。墓前に報告してあげたい」と前を見据えて語った。9年間の公判は死刑存廃論議にも影響を与えた。「(存続派、廃止派のどちらも)目的は犯罪のない社会を作ることで同じ。どうすれば死刑判決を下す犯罪を減らせるかに、人々の労力を傾注すべきと思う」と述べた。若くして、犯罪で妻子との別れを強いられた悔しさ。それを繰り返さない社会の実現を強く訴えた。

 一方、弁護団の会見では、安田好弘主任弁護人が「判決にかかわらず元少年を支える思いは変わらない」と強調。「やむを得ない時だけ死刑適用が許される従来の考えから、凶悪事件は原則死刑に変わった。良心や人間性を信じてきた考えと反する」と判決を痛烈に批判した。弁護人の1人は「(検察側の主張に)少しでも争って真実を言っても、反省がないとして死刑になる」と涙を浮かべた。【吉川雄策】

 ◇遺影抱き「一生懸命生きるからね」--本村さんの9年
 8年前の1審判決の時、遺影は風呂敷に包まれていた。開廷前に職員から制止されたからだ。1人で判決を聞いた本村さんは「裁判は遺族の被害回復の場でもあるはず」と訴えた。

 事件後、全国犯罪被害者の会(あすの会)の幹事に就任。「遺族の思いをかなえるには、法律を変える必要がある」と独学で刑法を学び、被害者の権利を求める活動の先頭に立った。

 元少年の死刑を求めたのは「死と向き合い、償いの形を示すことが彼の役割だ」と思うからだ。それが正しいことなのか、葛藤(かっとう)は常にある。ただ、裁判や報道を通じて被害者や加害者の気持ちを伝え続けることが、犯罪抑止につながると信じてきた。

 05年4月に犯罪被害者基本法が施行されるなど、裁判に被害者の視点が多く取り入れられるようになった。年内には被害者や遺族が法廷で、直接被告に質問できるようになる。新たな制度の多くは被害者が声を上げて具体化させたものだ。

 「あの日」から9年を迎えた14日、3人が暮らしたアパートのドアの前には明るいオレンジ色のカーネーションが飾られていた。生きていれば、夕夏ちゃんはもうすぐ10歳になる。

 「いつになっても妻と娘を守れなかった罪は消えない」。いつも自分を責めてしまう。だが、自分が元気に生きることが、天国の2人の望みだとも思う。

 「パパは、自分の人生を一生懸命生きるからね」。判決文を聞きながら本村さんは、二人の遺影を抱きしめた。【安部拓輝】

 ◇死刑と無期の区別基準示した--土本武司・白鴎大法科大学院長
 犯行が悪質で結果が重大な場合、原則的に死刑を適用するという最高裁判決に沿った誠に正当な判決。差し戻し審での弁護側の立証は荒唐無稽(むけい)で、これを裁判官が採用しなかったのは当然だ。来年、裁判員制度が始まるが、裁判員はどういう事件を死刑にし、無期懲役にすべきか判断に迷う。大まかではあるが、死刑と無期の区別基準を示した本判決は大きな意義がある。

山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審・死刑判決 遺族が訴える場、得た /島根
 ◇県内の犯罪被害者「本村さんの功績大きい」
 山口県光市の母子殺害事件で、広島高裁が事件当時18歳だった被告に下した死刑判決。遺族の本村洋さん(32)は事件後、全国犯罪被害者の会「あすの会」幹事として、犯罪被害者が置き去りにされた刑事司法の改革を訴えてきた。その功績は県内の犯罪被害者の立場にも大きく影響し、殺人事件で夫を亡くした遺族は「本村さんたちの働きかけで、裁判における被害者の立場は大きく変わった」と振り返った。【小坂剛志】

 「被害者が立ち直ろうとした時に手助けをする社会であってほしい」。今年2月24日。松江市内で講演を行った本村さんは、刑事裁判を傍聴する際、法廷への遺影の持ち込みを裁判所に制止された経験を語り、裁判で被害者が「証拠」としてのみ扱われていた状況を指摘した。

 本村さんは事件後、全国犯罪被害者の会「あすの会」幹事に就任。昨年6月には同会などの働きかけで、被害者参加制度が制定。年内にも、殺人事件などの刑事裁判で犯罪被害者・遺族が当事者に近い立場で被告人に直接質問できるようになり、被害者が司法制度の蚊帳の外に置かれる状況は変わりつつある。

 その変化は県内の刑事裁判の中でも感じられる。05年7月、殺人事件で夫(当時36歳)を亡くした石川俊子さん(38)は加害者の裁判の中で、遺族の心境を訴える場を得ることができた。石川さんは、「裁判は、加害者を裁く裁判官に遺族の心境を訴えられる唯一の場。私がそういう場を得たのは、本村さんたちのこれまでの努力があったからだと思う」と振り返った。

 自分が事件に遭うまで、メディアで発言する本村さんのことを「何でそこまでつらい思いをして、闘っているんだろう」という第三者的な見方をしてきたという石川さん。だが犯罪被害者となり、本村さんたち犯罪被害の当事者が変えてきたものの大きさを実感した。最後に「誰もが納得できるような裁判に変わっていくことを望みます」と静かに語った。

(出所:毎日新聞 2008年4月23日 地方版)

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山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審判決(要旨)

2008-04-24 01:08:15 | 刑事裁判
==============

 ◆光母子殺害事件判決骨子◆

◇被告の新供述はいずれも信用できない

◇被告は罪の深刻さと向き合うことを放棄し、死刑を免れようと懸命になっているだけと評するほかない

◇事実関係は上告審判決と異なるものはなかった。被告が当公判で虚偽の弁解をろうするなどしたことで、死刑の選択を回避するに足りる酌量すべき事情を見いだすすべもなくなったと言わざるを得ない

◇被告の罪責は重大。酌量すべき諸事情を最大限考慮しても、極刑はやむを得ない

(出所:毎日新聞 2008年4月23日 西部朝刊)


山口・光の母子殺害:差し戻し控訴審判決(要旨)

 山口県光市で起きた母子殺害事件の差し戻し控訴審で、殺人と強姦(ごうかん)致死などの罪に問われた当時18歳の元少年(27)に対し、広島高裁が言い渡した死刑の判決理由の要旨は次の通り。

 【本件の審理、供述経過等】(略)

 【新供述の信用性及び1審判決の事実認定に対する弁護人の主張について】

 ◆新供述をした理由に関する被告の供述◆

 新供述と旧供述とは、事実経過や、本件各殺害行為の態様、殺意の有無等が全く異なっている。自分の供述調書を差し入れてもらって初めて、内容が自分の経験と違っていることに気付くというようなことはあり得ない。本件公訴が提起されてから、(新たな弁護人が)選任されるまでの6年半以上もの間、それまでの弁護人に、新供述のような話を1回もしたことがないというのは、あまりにも不自然である。

 ◆被害者(本村弥生さん)に対する殺害行為について◆

 供述によると、被告は、逆手にした右手だけで被害者の頸部(けいぶ)を圧迫して死亡させたことになる。しかし被告の当審公判供述は、被害者の死体所見と整合せず、不自然な点がある上、旧供述を翻して以降の被告の供述に変遷がみられるなど、到底信用できない。被害者は窒息死したのであるから、ある程度の時間継続して相当強い力で頸部を圧迫されたことは明らかである。

 被告が新供述のような態様で被害者を押さえつけて頸部を圧迫していたとすれば、被害者は左手を動かすことができたと考えられるから、当然、懸命に抵抗したはずである。被害者が激しく抵抗すれば、窒息死させるまで頸部を押さえ続けることは困難である。新供述は合理的な理由なく変遷しており、不自然である。

 ◆被害者に対する強姦行為について◆

 被告は、「魔界転生」という小説にあるように、復活の儀式ができると思っていたから、生き返ってほしいという思いで被害者を姦淫(かんいん)したなどと供述している。しかし、一連の行為をみる限り、性欲を満たすため姦淫行為に及んだと推認するのが合理的である。被告は姦淫した後すぐに被害者の死体を押し入れの中に入れており、脈や呼吸を確認するなど、被害者が生き返ったかどうか確認する行為を一切していない。

 さらに、死亡した女性が姦淫により生き返るということ自体、荒唐無稽(こうとうむけい)な発想であって、被告が実際にこのようなことを思いついたのか、甚だ疑わしい。小説では、ひん死の状態にある男性が、女性と性交することにより、その女性の胎内に生まれ変わり、この世に出るというのであって、死亡した女性が姦淫により生き返るというものとは相当異なっている。従って、その小説を読んだ記憶から、死んだ女性を生き返らせるために姦淫するという発想が浮かぶこともあり得ない。被告の供述は到底信用できない。

 ◆被害児(本村夕夏ちゃん)に対する殺害行為について◆

 被告が被害児を床にたたきつけたこと自体は、動かし難い事実というべきであり、これを否定する被告の当審公判供述は、到底信用することができない。被告が身をかがめたり、床にひざをついて中腰の格好になった状態で、被害児をあおむけに床にたたきつけたと推認するのが合理的である。被害児の頸部にひもを二重に巻いた上、ちょう結びにしたことは、証拠上明らかであり、そのような動作をした記憶が完全に欠落しているという被告の供述は不自然不合理である。

 ◆1審判決の認定について◆

 被告の新供述は信用できず、旧供述は信用できるから、これに依拠して1審判決が認定した事実に誤認はない。

【量刑について】

 本件は、当時18歳の少年であった被告が白昼、排水管の検査を装ってアパートの一室に上がり込み、当時23歳の被害者を強姦しようとして、激しく抵抗されたため、被害者を殺害した上で姦淫し、当時生後11カ月の被害児をも殺害し、財布を窃取した事案である。

 いずれも極めて短絡的かつ自己中心的な犯行である。動機や経緯に酌量すべき点はみじんもない。強姦および殺人の強固な犯意の下に、何ら落ち度のない2名の生命と尊厳を踏みにじったものであり、冷酷、残虐にして非人間的な所業である。

 被害者2名は死亡しており、結果は極めて重大である。被害者は一家3人でつつましいながらも平穏で幸せな生活を送っていたにもかかわらず、最も安全であるはずの自宅において、23歳の若さで突如として絶命させられたものであり、その苦痛や恐怖、無念さは察するに余りある。理不尽な暴力を受け、かたわらで被害児が泣いているにもかかわらず、被害児を守ることもできないまま、被害児を残して事切れようとする時の被害者の心情を思うと言葉もない。被害児は、両親の豊かな愛情にはぐくまれて健やかに成長していたのに、何が起こったのかさえも理解できず、わずか生後11カ月で、あまりにも短い生涯を終えたものであり、誠にふびんである。一度に妻と子を失った被害者の夫ら遺族の悲嘆の情や喪失感、絶望感は甚だしく、憤りも激しい。処罰感情はしゅん烈を極めている。

 被告は、犯行の発覚を遅らせるため、被害児の死体を押し入れの天袋に投げ入れ、被害者の死体を押し入れの下段に隠すなどしており、犯行後の情状も芳しくない。

 ごく普通の家庭の母子が何の責められるべき点もないのに、自宅で惨殺された事件として、地域住民や社会に大きな衝撃と不安を与えた点も軽視できない。刑事責任は極めて重大である。

 被告は幼少期に、実父から暴力を振るわれる実母をかばおうとしたり、祖母が寝たきりになり介護が必要な状態になると、排せつの始末を手伝うなど心優しい面もある。父から暴力を受けたり、母に対する暴力を目の当たりにしてきたほか、中学時代に母が自殺するなど、成育環境には同情すべきものがある。幼少期からの環境が、人格形成や健全な精神の発達に影響を与えた面があることも否定できない。もっとも、経済的に問題のない家庭に育ち、高校教育も受けたのであるから、成育環境が特に劣悪であったとはいえない。

 少年法51条は、犯行時18歳未満の少年の行為については死刑を科さないものとしており、被告が犯行時18歳になって間もない少年であったことは、量刑上十分に考慮すべきである。人格や精神の未熟が犯行の背景にあることは否定し難い。しかし、犯行の罪質、動機、態様にかんがみると、これらの点は量刑上考慮すべき事情ではあるものの、死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情であるとまではいえない。

 差し戻し前の控訴審までの被告の言動、態度等をみる限り、被告が遺族らの心情に思いを致し、罪の深刻さと向き合って内省を深め得ていたと認めることは困難であり、反省の情が芽生え始めてはいたものの、その程度は不十分なものであったといわざるを得ない。

 被告は、上告審で公判期日が指定された後、旧供述を一変させて本件公訴事実を全面的に争うに至り、被告の新供述が到底信用できないことに徴すると、被告は死刑を免れることを企図して旧供述を翻した上、虚偽の弁解をろうしているというほかない。新供述は、殺人および強姦致死ではなく傷害致死のみである旨主張し、被害児の殺人および窃盗については、いずれも無罪を主張するものであって、もはや、被告は、自分の犯した罪の深刻さと向き合うことを放棄し、死刑を免れようと懸命になっているだけであると評するほかない。自己の刑事責任を軽減すべく虚偽の供述をろうしながら、他方では、遺族に対する謝罪や反省を口にすること自体、遺族を愚ろうするものであり、その神経を逆なでするものであって、反省謝罪の態度とは程遠いというべきである。

 1審判決および差し戻し前の控訴審判決は、いずれも、犯行時少年であった被告の可塑性に期待し、その改善更生を願ったものであるとみることができる。ところが、被告は、その期待を裏切り、差し戻し前の控訴審判決の言い渡しから上告審での公判期日指定までの約3年9カ月間、反省を深めることなく年月を送り、本件公訴事実について取り調べ済みの証拠と整合するように虚偽の供述を構築し、それを法廷で述べることに精力を費やした。そのこと自体、被告の反社会性が増進したことを物語っているといわざるを得ない。

 犯した罪の深刻さに向き合って内省を深めることが、改善更生するための出発点となるのであるから、被告が当審公判で虚偽の弁解をろうしたことは、改善更生の可能性を大きく減殺する事情といわなければならない。

 ◆死刑選択の可否の検討◆

 被告の罪責は誠に重大であって、被告のために酌量すべき諸事情を最大限考慮しても、罪刑均衡の見地からも一般予防の見地からも、極刑はやむを得ないというほかない。

 当裁判所は、上告審判決を受け、死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の有無について慎重に審理したものの、基本的な事実関係については、上告審判決の時点と異なるものはなかった。むしろ、被告が当審公判で虚偽の弁解をろうし、偽りとみざるを得ない反省の弁を口にしたことにより、死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情を見いだすすべもなくなったというべきである。上告審判決が説示したのは、被告に対し、その罪の深刻さに真摯(しんし)に向き合い反省を深めるとともに、真の意味での謝罪としょく罪のためには何をすべきかを考えるようにということをも示唆したものと解される。結局「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」は認められなかった。被告を無期懲役に処した1審判決の量刑は、死刑を選択しなかった点において、軽過ぎるといわざるを得ない。

(出所:毎日新聞 2008年4月23日 東京朝刊)
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東京・立川の防衛庁官舎ビラ配布:最高裁判決で有罪確定へ

2008-04-13 02:56:00 | 刑事裁判
東京・立川の防衛庁官舎ビラ配布:最高裁判決(要旨)

 防衛庁官舎でのビラ配布を住居侵入罪と認定した11日の最高裁判決の要旨は次の通り。

 表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されねばならない。しかし、憲法21条1項も表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認している。たとえ思想を外部に発表するための手段でも、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない。

 本件では、表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく、表現の手段すなわちビラの配布のために「人の看守する邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われている。

 被告が立ち入った場所は、防衛庁職員と家族が私的生活を営む集合住宅の共用部分とその敷地で、自衛隊・防衛庁当局が管理しており、一般に人が自由に出入りできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいえ、このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害する。

 従って、被告の行為を住居侵入罪に問うことは、憲法21条1項に違反しない。

 東京・立川の防衛庁官舎ビラ配布:有罪確定へ 「住民の平穏に害」--最高裁上告棄却
 
 自衛隊イラク派遣反対のビラを配るため東京都立川市の防衛庁(当時)官舎に立ち入ったとして、住居侵入罪に問われた市民団体メンバー3人に対し、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は11日、上告を棄却する判決を言い渡した。全員を罰金刑の逆転有罪とした2審・東京高裁判決(05年12月)が確定する。小法廷は「3人の行為を罪に問うことは、表現の自由を保障した憲法に違反しない」と述べた。(8面に判決要旨、社会面に関連記事)

 3人は「立川自衛隊監視テント村」のメンバー。2審は練馬区職員、大洞(おおぼら)俊之(50)と介護助手、高田幸美(さちみ)(34)の両被告に罰金20万円を、会社役員の大西章寛(のぶひろ)被告(34)に罰金10万円を言い渡し、弁護側が「ビラ配り目的の立ち入りを有罪としたのは憲法違反」と上告していた。

 判決は、官舎共用部分を管理する自衛隊当局がビラ配りを禁止する表示をしていたことや被害届を出したことから、「住居侵入罪が成立し住民の被害も軽くない」と述べた。

 そのうえで、表現の自由について「民主主義社会で特に重要な権利だが、他人の権利を害するのは許されない」と指摘。「ビラ配布という表現の自由の行使であっても、管理者の意思に反して官舎に立ち入るのは、住民の私生活の平穏を害する」と結論付けた。

 2審判決によると、3人は04年1月、官舎内に立ち入り、各戸の玄関ドア新聞受けにビラを入れた。大洞、高田両被告は同2月にも立ち入った。1審・東京地裁八王子支部は04年12月、「正当な政治的意見の表明で、罰するほどの違法性はない」と全員を無罪としたが、2審は「表現の自由は尊重されるべきだが、他人の権利を侵害してよいとはならない」と1審判決を破棄していた。【北村和巳】

 ◇妥当な判断だ--笠間治雄・最高検次長検事の話
 他人の住居の平穏の侵害が、表現の自由の名の下に許されないのは当然で、妥当な判断と考える。

 ◇残念で悔しい--被告・弁護側の話
 残念で悔しい。権力者が気にいらない意見を言う者に刑事罰を科すことに、最高裁がお墨付きを与えた。さまざまな市民運動に強い影響を与える。

==============

 ■解説

 ◇表現の自由、制限範囲明示を
 最高裁判決は、憲法が保障する表現の自由も一定の制限を受けるとする判例を踏まえ、ビラを受け取る側の意思を重視した。官舎の管理者が拒絶意思を示している以上、立ち入りは私生活の平穏を害する行為で刑事罰の対象になるとの判断だ。

 判決は、今回のケースについては、配布禁止の表示などにより住居侵入罪での処罰は認められるとの指摘で、ビラ配布が常に罪に問われるということではない。マンションへのビラ配布で住居侵入罪に問われた別の事件では、違う判断が示される可能性もある。

 ただ判決が政党や市民団体などのビラ配りに対し萎縮(いしゅく)効果を生じさせることは否めない。建物の管理者や住民の意思表示がどこまでされていれば、それに反する立ち入りが有罪となるのかは示されていない。

 判決はまた「表現そのものでなく、表現の手段が問われた事件」としてビラの内容を判断の対象としていないことを示している。だとすれば、広告など「商業ビラ」の配布が問題にされないのに、3人を摘発したことへの疑問は残る。捜査当局にはこれまで以上に公平かつ説得力のある権力行使が求められる。【北村和巳】

東京・立川の防衛庁官舎ビラ配布:有罪確定へ 市民運動に危機感 被告「司法に失望」
 
 11日の最高裁判決で、防衛庁官舎への自衛隊イラク派遣反対ビラ配布が住居侵入罪に当たると認定された。憲法が保障する「表現の自由」を主張してきた被告の市民団体メンバー3人は「司法に失望した」と語った。ビラ配布に対する警察の摘発が相次ぐきっかけになった事件だけに、被告や支援者らは今後の市民運動への影響を危ぶんだ。【北村和巳、堀智行】

 3人は東京・霞が関の司法記者クラブで会見。高田幸美(さちみ)被告(34)は「当たり前のようにやっていた表現活動が、警察の判断一つで犯罪になってしまうことに、最高裁はゴーサインを出した」と厳しい表情で語った。

 大西章寛(のぶひろ)被告(34)は「民主主義が危機に瀕(ひん)している」と怒りを吐き出した。「政治弾圧は明白なのに、判決は形式論で切って捨てた。表現の自由を守るため声を上げ続ける」と決意を述べた。

 大洞(おおぼら)俊之被告(50)は「悔しい」と苦渋の表情。事件を受け、神奈川県横須賀市などの基地反対グループが官舎へのビラ配布を控えたことを挙げ、「市民運動が萎縮(いしゅく)してしまっている」と訴えた。

 ◇表現・政治活動が萎縮--白取祐司・北海道大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話
 ビラ配り目的の立ち入りが「犯罪」に問われることになれば、市民の表現活動や政治活動が萎縮(いしゅく)してしまい、問題のある判決だ。官舎管理者の意思だけを問題にして住居侵入罪を認めている点も気になる。権力側の意に反する者が、国などが管理する住宅に今回と同様に立ち入れば、すべて住居侵入に問われることになりかねない。

 ◇自由主義社会の基本
 渥美東洋・京都産業大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話

 憲法は住居の不可侵を規定し、個人の心の自由やプライバシーも保障されており、自由主義社会の基本だ。表現の自由が大切なのは当然だが、一定のルールの下で保障されており、相手の意思の自由に影響を及ぼす権利はない。判決は、刑罰法規に違反するのが明白な「表現の手段」を問題にしており、「表現の自由」と「平穏な生活」という権利の衝突の次元の話ではない。

(出所:毎日新聞 2008年4月12日 東京朝刊)

東京・立川の防衛庁官舎ビラ配布:住居侵入、有罪確定へ 弁論なく来月判決--最高裁
 自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配るため、東京都立川市の防衛庁(当時)の官舎に立ち入ったとして住居侵入罪に問われた市民団体メンバー3人の上告審で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は判決期日を4月11日に指定した。2審を見直す際に必要な弁論が開かれていないため、3被告の上告が棄却され、罰金10万~20万円とした2審・東京高裁の逆転有罪判決(05年12月)が確定する見通し。

 被告は市民団体「立川自衛隊監視テント村」メンバーら。1審・東京地裁八王子支部は04年12月、立ち入り行為が住居侵入罪に当たるとしつつも「住民のプライバシーを侵害する程度も相当低い」として無罪(求刑・懲役6月)を言い渡した。

 2審は、「ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されるとしても、管理者の意思に反して建造物等に立ち入ってよいということにはならない」と罰金刑を言い渡していた。【高倉友彰】

(出所:毎日新聞 2008年3月22日 東京朝刊)

ビラ配り有罪確定へ 被告ら「民主主義の危機」

 ビラを配っただけで「有罪」となった市民団体のメンバー3人は、最高裁の結論に憤った。75日間も勾留(こうりゅう)されたうえ、4年にわたった裁判の結末に「民主主義の危機だ」と訴えた。

 判決要旨の法廷での読み上げはわずか2分だった。閉廷後に会見した「立川自衛隊監視テント村」の大洞俊之被告(50)は「こんなことのために聞きに来たのか」と憤った。高田幸美被告(34)は「今まで当たり前だったビラ配りがある日突然、犯罪になる。そのことにゴーサインを出した。司法には失望した」。大西章寛被告(34)は「警察や政府が政治的意見を封じるために判決を利用することを恐れる」と語った。

 3人は今も、ビラの配布を続ける。集合住宅や一軒家で年に4、5回。多いときは1回で約2万枚を配る。「再逮捕されては元も子もない」ので、自衛隊官舎には近づかない。管理人のいるマンションの場合は、許可を受けるようにしているが、これまで断られたことはない。

 「テント村」は昨年、事件の舞台となった官舎に70通のアンケートを郵送した。返信は2通。いずれもビラ配りについて「犯罪だと思わない」。自衛官から、活動を支援したいとカンパもあった。「主義主張には全く賛同できないが、これは言論弾圧だ。放置すれば我々も対象になる」と右翼団体からも激励のメールが届いた。

 「憲法で表現の自由が保障されていても、行使する手段が制限されれば何の意味もない」と大洞被告は言う。右翼団体の抗議などを警戒してホテルが日教組の大会会場の予約をキャンセルしたり、映画「靖国」の上映を自主的に取りやめる動きが広がったり。「ビラ配りと根っこは同じだ」と感じているという。(須藤龍也)

(出所:朝日新聞HP 2008年04月11日19時50分)

立川ビラ配りの3人、有罪確定へ 最高裁が上告棄却

 東京都立川市の自衛隊官舎で自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配った3人が住居侵入罪に問われた事件で、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は11日、無罪を主張していた3被告の上告を棄却する判決を言い渡した。有罪とした二審・東京高裁判決が確定する。

 第二小法廷は「官舎の管理者の意思に反して立ち入れば、住民の私生活の平穏を侵害する」と指摘。集合住宅でのビラ配りを住居侵入罪に問うことは、憲法が保障する「表現の自由」に反しないとする初判断を示した。

 有罪が確定するのは、市民団体「立川自衛隊監視テント村」のメンバー大洞俊之被告(50)=罰金20万円▽高田幸美被告(34)=同▽大西章寛被告(34)=罰金10万円。自衛隊のイラク派遣の是非が問題となっていた時期の04年1月と2月の2回にわたり、「自衛隊のイラク派兵反対!」などとしたビラを官舎各室の新聞受けに入れようと敷地に入った。

 第二小法廷は、塀などで囲われた官舎の敷地や各戸の玄関前までは、自衛隊側が管理していると指摘。関係者以外の立ち入りを禁じる表示があったことや、3人が立ち入ってビラを配るたびに被害届が出ていたことなどから、無断で立ち入ることは管理権者の意思に反し、被害の程度も軽くないと述べた。

 「表現の自由」については、「無制限に保障されるものではなく、公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受ける」とした過去の最高裁判例を踏襲。「表現そのもの」でなく表現の手段を処罰する今回のケースは、憲法に反しないと結論づけた。

 3人は04年2月に逮捕され、5月まで勾留(こうりゅう)が続いた。一審・東京地裁八王子支部は04年12月、政治ビラの配布について「民主主義の根幹を成し、商業ビラより優越的な地位が認められる」と指摘、刑事罰を科すほどの違法性はないとして無罪とした。二審・東京高裁は05年12月に「管理者の意思に反して立ち入ってはならない」として逆転有罪にした。

     ◇

 「表現の自由」に詳しい右崎(うざき)正博・独協大法科大学院教授(憲法)の話 最高裁判決からは、多くの人がプライバシーを大事にしている時代への配慮はうかがえる。しかし、「管理権の侵害」とか「私生活の平穏の侵害」といった理由だけで、「表現の自由」の正当な行使を制限するのは、ややしゃくし定規だ。「正当な理由なく」住居に立ち入った場合に適用されるのが住居侵入罪だ。イラクの自衛隊派遣という政治問題を提起する内容のビラを配ることは当時、「正当な理由があった」とみることもできる。

 ■市民活動、萎縮する恐れ

 《解説》官舎内のビラ配りを最高裁が有罪としたのは、立ち入りを禁じる表示や管理者からの被害届など「拒む意思」を重視した結果だ。この判決により他人の敷地内でのビラ配りがすべて刑罰の対象になるわけではないが、結果的に市民に過剰な萎縮(いしゅく)効果をもたらす懸念は決して小さくない。

 一審判決は、政治ビラについて、商業ビラよりも表現の自由が保障されていると明言した。だが、最高裁はこうした区別をしなかった。ビラの表現の中身を取り締まるのではなく、管理者の意思に明確に反した行為に対して刑罰を科す、という論理だ。

 しかし、ビラ配りという一つの表現方法が規制されてしまうと、民主主義にとって大事な主張が伝達できなくなる事態になりかねない。

 今回の判決は、どこから刑事罰の対象になるのかもはっきりしない。被害届が出ているかどうかは、ビラを配っている側には分からない。被害届の中から、捜査当局がビラの中身を選んで逮捕、起訴することも可能だ。

 現実に立川事件の後、東京都葛飾区でマンションの共用部分に立ち入って共産党のビラを配った男性も同じ罪で起訴された。一審無罪、二審有罪と同じ経緯をたどり、いま、最高裁の判断を待つ。

 裁判官によっても意見が分かれるように、ビラ配りが刑罰を科すほどのことだという判断を、社会が受け入れるのかどうか、強い疑問が残る。(岩田清隆)

(出所:朝日新聞HP 2008年04月11日15時21分)
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志布志事件 福岡地裁-「踏み字」元警部補に有罪判決/教訓は「取り調べ可視化早く」-

2008-03-20 00:11:53 | 刑事裁判
「踏み字」元警部補 有罪
志布志事件 福岡地裁判決
密室の犯行を批判
川畑さん 「取り調べ可視化早く」

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 二〇〇三年の鹿児島県議選をめぐる冤罪(えんざい)事件(志布志事件)に関し、取り調べを受けた川畑幸夫さん(62)に親族のメッセージに見立てた三枚の紙を無理やり踏ませ自白を強要したとして、特別公務員暴行陵虐罪で起訴された元鹿児島県警警部補の浜田隆広被告の判決公判が十八日、福岡地裁で開かれ、林秀文裁判長は懲役十月、執行猶予三年を言い渡しました。

 判決は「踏み字」について「常軌を逸した行為」と指摘し、「家族等への尊敬、敬慕、情愛等を踏みにじらせ、(川畑さんの)人格そのものを否定させるような感情を抱かせ」、「被疑者の人権に配慮して取り調べを行うべき取調官としてあるまじきもの」と断罪。取調室という密室での犯行であることも併せて考えると、「犯行態様は悪質である」と強く非難しました。

 一方、川畑さんが「十回以上」と主張し争点となっていた「踏み字」の回数については、川畑さんの証言に「疑問が残る」などとし、同様に「一回」と主張する被告人の供述も「不自然」と判断。結局「それ以上の認定は困難」とのべ、「一回踏ませた行為を認定する」にとどまりました。

 閉廷後、記者会見を開いた川畑さんは「思っていた以上に厳しい判決だった。(被告は)判決を真摯(しんし)に受け止め反省してほしい」と注文。一方で「踏み字」の回数が「一回」とされたことについて「残念だ」とのべ、真実を明らかにするためにも「一日も早い取り調べの『可視化』が必要だ」と強調しました。

 川畑さんの代理人の弁護士は取調室という「密室のヤミが、いかに暗く深いか(裁判を通じ)明らかになった」とのべ、取り調べが「可視化」されない状況のもとで「裁判員制度をすすめることに警鐘を鳴らす判決だ」と指摘しました。

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解説
警察の思い上がり断罪
 事件は江戸時代のキリシタン弾圧に用いられた「踏み絵」を連想させ、現代にいたってなお続く権力の蛮行に国民は強い衝撃を受けました。

 取り調べは「狂気のさた」そのもの。机をたたき怒鳴る、「わいがバカが」などと罵声(ばせい)を浴びせる、あげくに「自白」を得るために親族への情愛さえ踏みつけにさせる――「拷問」としか言いようのない、文字通り戦前の「特高警察」を想起させる、前近代的な事件でした。

 にもかかわらず、被告人は公判の席上、驚くほどの無反省ぶりをさらしました。涙ながらに陳述する川畑さんを見すえ首をかしげる、紙は「踏ませた」のではなく「足を乗せた」もの、「踏み字」を「侮辱と思わないか」と裁判長に問われ、即座に「思いません」と放言しました。

 意見陳述にいたっては「志布志事件は鹿児島県警がでっち上げた事件では決してありません」などと言及し、退職してなお、警察への忠誠と弁護も忘れませんでした。

 県警は、志布志事件の捜査員数名に対し表彰まで行っていた一方、事件の被害者に対する直接の謝罪は今もありません。

 この事件で断罪されたのは「踏み字」行為の違法性もさることながら、「自分たちにはどんな横暴も無法も許される」という警察権力にひそむ、度し難い“思い上がり”にほかなりません。

 密室をよいことに拷問まがいの取り調べでウソの「自白」を強要する――こうして引き起こされる冤罪事件を二度と繰り返さないためにも取り調べの全過程の「可視化」(録画・録音)は急務の課題です。取り調べ状況を常に第三者にチェックさせる「可視化」は欧米でもアジアでも広く行われ、世界の流れです。冤罪事件が続発する日本の刑事司法において、この面での立ち遅れの是正は一刻の猶予も許されません。(竹原東吾)

(出所:日本共産党HP 2008年3月19日(水)「しんぶん赤旗」)
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戦時下の言論弾圧「横浜事件」再審-最高裁が判断避け裁判打ち切りー

2008-03-16 00:06:09 | 刑事裁判
戦時下の言論弾圧「横浜事件」再審
判断避け裁判打ち切り
最高裁 元被告側の上告棄却

 横浜事件 神奈川県特高警察が一九四二年七月、評論家の細川嘉六氏(戦後、日本共産党参院議員)が雑誌『改造』に執筆した論文を、共産主義の宣伝などとし、同氏が富山県で開いた宴会を「共産党の再建準備」などとでっち上げた事件。出席者ら六十人以上が逮捕され、特高警察の拷問などで四人が獄死。約半数が治安維持法違反で起訴され、有罪判決を受けました。

 元被告らは八六年から三次にわたって再審を請求。二〇〇三年四月、横浜地裁は再審開始を決定し、東京高裁の抗告審で〇五年三月、再審開始が確定しました。

 免訴 新旧の刑事訴訟法はともに(1)同じ犯罪について確定判決がある(2)犯罪後に刑が廃止された(3)大赦があった(4)時効が完成した―場合、有罪、無罪の判断をせず、裁判を打ち切る免訴判決を言い渡さなければならないと規定しています

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 太平洋戦争中の言論弾圧事件「横浜事件」で、治安維持法違反で有罪が確定した元被告五人(いずれも故人)の再審上告審判決が十四日、最高裁でありました。最高裁第二小法廷の今井功裁判長は、元被告側の上告を棄却。治安維持法の廃止と大赦を理由に、有罪無罪の判断をしないまま裁判を打ち切る「免訴」とした判決が確定します。

 免訴が確定するのは、元中央公論編集者の木村亨さん、元改造社社員小林英三郎さん、元古川電工社員由田浩さん、元日本製鉄社員高木健次郎さん、元南満州鉄道社員平舘利雄さん。

 再審で、元被告の遺族や弁護団は「無辜(むこ)の救済」という再審制度の理念にてらし、実体審理をつくしたうえで無罪とすべきと求めました。しかし、〇六年二月の一審横浜地裁は「免訴理由がある場合は、実体審理も有罪無罪の判断も許されない」とする四八年の最高裁大法廷の判例を踏襲し、免訴判決を言い渡しました。二審・東京高裁は「免訴判決に被告側は控訴できない」として控訴を棄却しました。

 同事件をめぐっては、拷問を加えた元特高警察官らが、戦後告発され、特別公務員暴行陵虐罪で有罪が確定しています。再審をきめた〇五年三月の東京高裁決定は、「元被告の自白は拷問によるもの」と認定し、「無罪を言い渡す新証拠がある」としていました。

 判決後、弁護団は「東京高裁決定と対比する時、刑事訴訟法の法技術的な論理に終始した本日の最高裁判決の不当性はあまりにも明らかだ」とする声明を発表しました。

「事件終わらず」
遺族ら会見
 最高裁判決を受けて十四日、横浜事件の元被告の遺族らは都内で記者会見し、心境を語り、最高裁の対応を批判しました。

 故平舘利雄さんの長女、道子さんは「日本の司法の頂点にある最高裁が、事件の事実と少しは向き合い、理にかなったことをいうかと思ったが技術論だった。木で鼻をくくったような結論を出したのは大変残念。治安維持法で苦しんだ人はたくさんいて、救済がなく放り出されている状態。それに一石を投じてほしかった」と語りました。

 「横浜事件とは何だったのか明らかにすることが願いでした。なに一つ事件は終わっていないといいたい」と語ったのは故木村亨さんの妻、まきさんです。「拷問が行われなかったら事実でない自白もなかったし、獄死者も出なかった。それに踏み込もうとしてくれなかった」と、目を赤くしながら話しました。

 故小林英三郎さんの長男、佳一郎さん(67)は「今年はおやじの十三回忌でいい報告ができると思ったが残念。司法はみずからの間違いを認めて、価値ある判断をすべきだった」と語りました。

 弁護団代表の環直彌弁護士は「再審決定の時に見せた裁判官の良心が、その後の公判では見ることができなかった。きょうの判決は弁護人の主張に一つも答えていない。(国民の)裁判を受ける権利を満たしていない判決だ」と批判しました。

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 横浜事件 神奈川県特高警察が一九四二年七月、評論家の細川嘉六氏(戦後、日本共産党参院議員)が雑誌『改造』に執筆した論文を、共産主義の宣伝などとし、同氏が富山県で開いた宴会を「共産党の再建準備」などとでっち上げた事件。出席者ら六十人以上が逮捕され、特高警察の拷問などで四人が獄死。約半数が治安維持法違反で起訴され、有罪判決を受けました。

 元被告らは八六年から三次にわたって再審を請求。二〇〇三年四月、横浜地裁は再審開始を決定し、東京高裁の抗告審で〇五年三月、再審開始が確定しました。

 免訴 新旧の刑事訴訟法はともに(1)同じ犯罪について確定判決がある(2)犯罪後に刑が廃止された(3)大赦があった(4)時効が完成した―場合、有罪、無罪の判断をせず、裁判を打ち切る免訴判決を言い渡さなければならないと規定しています。

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解説
形式的に法適用 司法の責任ふれず
 「横浜事件」は、希代の悪法といわれる治安維持法のもと、特高警察が拷問で自白をでっちあげ、司法も追認してつくりあげた大規模な言論弾圧・冤罪(えんざい)事件です。再審では、野蛮な天皇制警察の実態を明らかにするとともに、裁判所が自らの責任にどう向き合うのかが問われていました。

 弁護団の主張も無罪判決にとどまらず、「言論・表現・思想結社の自由に対する弾圧の凶器となった治安維持法の歴史、問題点は厳しく追及されなければならない」と、国による権力犯罪を正面から告発するものでした。

 それだけに、弁論も開かず、刑事訴訟法の規定を形式的にあてはめたかのような結論では、とうてい国民を納得させるものとはいえません。

 この事件では、権力犯罪の一端を裁判所自らも担いました。横浜地裁は敗戦後も、治安維持法が廃止されるまでの一九四五年八―九月、起訴された約三十人に対し、有罪判決を出し続けたばかりか、責任追及を恐れ裁判資料を焼却したのです。そして裁判資料がないことを理由に、二〇〇三年四月の再審開始決定までは再審請求を拒否し続けました。

 同事件をとおして、司法は元被告らの訴えに謙虚に耳を傾け、自らの過去を反省し、元被告らの求めた人権侵害の実態を明らかにすべきでした。

 権力による人権侵害、思想弾圧を検証し、明らかにすることは、決して過去の問題ではなく、今日的な意義があります。

 言論・表現の自由が保障された憲法下の今日でも、休日にビラを配っただけで逮捕、起訴され一審で有罪となった国公法弾圧堀越事件をはじめ、国公法弾圧世田谷事件、葛飾ビラ配布弾圧事件など、権力による言論の自由と民主主義に対する弾圧事件が相次いでいるからです。

 治安維持法によって日本共産党員をはじめ多くの人が弾圧された、そんな世の中を二度と許してはなりません。(阿曽隆)

(出所:日本共産党HP  2008年3月15日(土)「しんぶん赤旗」)

冤罪事件 なぜ続発
法律家ら集会 司法のあり方考える

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 重大な冤罪(えんざい)事件が続発するなか、その原因を探り、司法のあり方を考えようと八日、法律家と市民の集会が都内で開かれ、百人を超える参加者が熱心に議論しました。

 日本民主法律家協会の主催。中田直人理事長は「冤罪事件が繰り返されながら、その根が絶たれない問題点を深く掘り下げ、民主的な立場から刑事裁判のあり方をただす一歩としたい」と訴えました。

 被告全員の無罪が確定した鹿児島・志布志事件について、取材にあたった朝日新聞鹿児島総局長の梶山天氏が報告し、事件をでっちあげた警察の捜査の実態を告発して、「第三者による検証を行い、真実を明らかにしなければ、再発防止などあり得ない」と強調しました。

 痴漢冤罪事件にたずさわっている鳥海準弁護士は、冤罪の立証が困難な現状を明らかにしました。

 元裁判官で弁護士の秋山賢三氏、東北大学名誉教授の小田中聰樹氏らによるシンポジウムでは、違法な捜査を抑止する効果が期待されている取り調べの全過程の「可視化」の問題、国民が裁判に参加する裁判員制度の実施が冤罪や誤判を増やす結果とならないために何が必要かについて語り合いました。「捜査権力に人権を守らせる民主的な監視が必要」(秋山氏)と、違法な捜査をただす国民的な取り組みが呼びかけられました。

(出所:日本共産党HP 2008年3月9日(日)「しんぶん赤旗」)
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<肛門虐待>受刑者22人が男性医師ら告訴 徳島刑務所

2008-02-20 06:32:18 | 刑事裁判
<肛門虐待>受刑者22人が男性医師ら告訴 徳島刑務所

2月19日22時29分配信 毎日新聞

徳島市の徳島刑務所(荒島喜宣所長)の男性医師(医務課長)から肛門(こうもん)虐待を受けたなどとして、受刑者ら22人が19日、男性医師と前所長(59)、刑務官の3人を特別公務員暴行陵虐・同致傷容疑で徳島地検に告訴・告発した。市民団体「監獄人権センター」(東京都千代田区)などでつくる徳島刑務所虐待事件弁護団が公表した。

 告訴・告発状によると、男性医師は04年4月から医務課長を務め、同5月~07年11月、診察中に「直腸指診」と称して肛門に指などを入れたり、顔面を殴って負傷させたほか、必要な診療・投薬を拒否した。前所長は05年10月17日、高熱を訴える受刑者について「こんな反抗的なやつに点滴なんかしなくていい」と指示し、刑務官はその手足を診察台に押さえ付けた。

 同刑務所の高橋広志総務部長は「捜査には全面協力し、適切に対処したい」としている。【加藤明子】

「肛門に指を入れられ、かき回された」 受刑者が刑務所医務課長を告発

2月19日19時4分配信 産経新聞

徳島刑務所(徳島市)の医務課長に診療の際に暴行を受けたとして、同刑務所の受刑者ら22人が19日、特別公務員暴行陵虐・同致傷の罪で、この課長や元所長ら計3人を徳島地検に告訴・告発した。
 暴行の内容は、肛門に指を入れて中をかき回す虐待▽診察時の暴行▽診療拒否や投薬拒否-など。
 告訴・告発状によると、受刑者の1人は平成17年10月17日、高熱と激しい嘔吐のため、医務課長らの診療を受けた際、手足を押さえつけられた上、肛門内を指でかき回され、全治約1カ月のけがを負った。その後も必要な治療は行われず、受刑者は自殺した。
 風邪のため医務課長の診療を受けた際、性器をもてあそばれたという元受刑者の男性(41)は19日、東京都内で会見。「(医務課長は)悪魔のような存在。(徳島刑務所の)中の人を助けてもらいたい」と訴えた。
 告訴・告発に合わせ、受刑者らの代理人を務める弁護士は同日、医務課長に警告をすることなどを求め、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。

「診療で受刑者虐待」=刑務所医務課長らを告訴-徳島

2月19日20時1分配信 時事通信

 「異常な診療行為で虐待を受けた」として、徳島刑務所(徳島市)の受刑者ら22人が19日、特別公務員暴行陵虐致傷などの疑いで、同刑務所の医務課長と前所長、看護師の3人を徳島地検に告訴、告発状を提出した。
 告訴、告発状によると、医務課長は2004年5月から昨年11月までの間、診察と称して、受刑者らに対し、肛門(こうもん)に指や器具を挿入して直腸を傷つけるなど28件の虐待行為を行ったとしている。 

2007/12/04-12:43 時事通信

「医師の受刑者虐待が原因」=徳島刑務所の暴行問題-NPO調査

 徳島刑務所(徳島市)で11月、作業中の受刑者が刑務官に暴行し、けがを負わせた問題について、NPO法人「監獄人権センター」が4日、「刑務所の医師による異常診療が原因」とする調査結果を発表した。
 記者会見した同センター事務局長の海渡雄一弁護士は「医療行為に名を借りた虐待だ」とした。年内にも特別公務員暴行陵虐などの疑いで、医師を徳島地検に告訴、告発する方針。
 調査によると、同刑務所では2004年4月以降、男性医務課長による過度の直腸指診や診療拒否など、受刑者に対する異常な診療行為が続発。
 被害者100人のうち、肛門(こうもん)虐待が未遂を含めて31件、絶食・減食が26件、診療・検査拒否が14件、投薬拒否・中止が20件あった。
徳島刑務所・受刑者暴動:刑務官暴行容疑、25人を書類送検
 徳島市入田町の徳島刑務所(荒島喜宣所長)で昨年11月、受刑者が暴れて刑務官にけがをさせた問題で、同刑務所は23日、公務執行妨害と傷害の疑いで受刑者25人を徳島地検に書類送検した。

 毎日新聞 2008年1月24日 大阪朝刊

調べでは、25人は軽作業に従事中の11月16日午前9時25分ごろ、刑務官4人に殴るけるの暴行を加えて足や頭にそれぞれ1週間の軽傷を負わせ、別の刑務官に消火器を噴射して制圧を妨害した疑い。

 記者会見した荒島所長は「集団暴行にかかわった受刑者は増える可能性もある」としたが、医務課長(医師)による肛門(こうもん)虐待などが指摘されている動機については「捜査に影響するので言えない」と明らかにしなかった。

 医務課長は刑務所での診療を外れ、今月16日から高松矯正管区で医療事務を担当。代わって非常勤医師2人が勤務しているという。【加藤明子】




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横浜地裁判決/三菱自元社長ら有罪-欠陥車で死亡事故 予見できたのに放置-

2008-01-20 07:49:25 | 刑事裁判
三菱自元社長ら有罪
欠陥車で死亡事故 予見できたのに放置
横浜地裁判決

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 山口県で二○○二年、三菱自動車製大型トラックが、クラッチ系統部品の欠陥から暴走し、運転手=当時(39)=が死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた元社長河添克彦被告(71)ら四人に対する判決が十六日、横浜地裁でありました。鈴木秀行裁判長は、同被告について「自覚に欠けた無責任な態度」と指摘、禁固三年、執行猶予五年(求刑禁固三年)とするなど、全員に有罪判決を言い渡しました。

 三菱車の欠陥をめぐる三件の刑事裁判で、最後の一審判決。安全をおろそかにしたトップの責任を断罪する判決と判断となりました。無罪を主張していた四人は控訴しました。

 このほか、元副社長村田有造被告(70)が禁固三年、執行猶予五年(求刑禁固三年)。元三菱ふそうトラック・バス会長宇佐美隆被告(67)は禁固二年、執行猶予三年(同二年六月)。元三菱自品質・技術本部副本部長中神達郎被告(65)は禁固二年六月、執行猶予四年(同二年六月)。

 鈴木裁判長は河添被告について、同部品の欠陥自体は「知らなかった」としつつ、長年にわたる不具合情報の二重管理(クレーム隠し)や指示改修(ヤミ改修)を熟知し「将来、死傷事故が起きることを容易に予見できたのに放置した」と指摘しました。

 また、同罪の成立には「過失により致死の結果が生じるかもしれないという程度の予見可能性で足りる」との判断を示し、事故を具体的に予想できなかったとする弁護側主張を退けました。

 判決によると、二○○○年七月に大規模な不具合情報の二重管理が発覚した後も、三菱自は「一九九八年三月以前の情報は残っていない」などと運輸省(当時)に虚偽報告するなどし、欠陥を放置。その結果、山口県で運転手が死亡する事故が起きました。

(出所:日本共産党HP 2008年1月17日(木)「しんぶん赤旗」)
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