お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

絵本も世につれ・・・

2011-06-27 | my Anthology


商品のモデルも、流行のトレンドも、何もかもが驚異的なスピードで変わっている現代にあって、絵本は驚くばかりにロングテールな商品です。世界中で愛されているキャラクターたちをちょっと見渡してみるだけでも、たとえば『うさこちゃん(Miffy)』は1955年生まれで、人間ならもうすぐ還暦。おなじみ『ピーター・ラビット(The Tale of Peter Rabbit)』はうさこちゃんよりはるかに年長で、1902年生まれの110歳。また『おさるのジョージ(Curious George)』は1941年生まれの70歳です。いずれもシリーズで刊行されていますが、どれもベストセラーで、今日でもまだなお読者を増やしているロングセラーでもあります。

絵本がロングテールなのは、赤ちゃんの暮らしや発育過程が、時代や地域を超えて共通だから。生まれてしばらくは「おっぱい飲んで、ねんねして」の毎日ですが、ほどなくにっこり笑うようになり、お座りしてハイハイしてつかまり立ちして、やがて歩き出す……。赤ちゃんの成長は、人種も住んでいる国も文化も風習も超えて同じなのだ、と改めて教えてくれたのが、最近公開されたドキュメンタリー映画『Babies』です。

7-8ヶ月の赤ちゃんはビジュアルな記憶を保持できるようになるので、「いないいないばあ」で遊ぶことができるようになります。だから呼び名は違っても、この遊びの絵本は世界中にありますね。日本では、タイトルもずばり『いないいないばあ』が既に古典的な定番として人気を保っていますし、一方アメリカでは、最近「Peek-A-Boo(いないいないばあ)」をちょっともじった『Peek-A-Who?(だぁれだ?)』が大人気です。

でも、「歌は世に連れ……」と同じく、社会の変化につれて絵本も変化しています。技術革新に伴い、私たちの暮らしから消え行くモノたちは、やがては絵本からも消えていくのかもしれません。この10年間に、劇的に変わったものといえば……? まずは電話。お母さん世代にとっても既にアンティークかもしれない”ダイヤル式の黒い家庭用電話”が登場する絵本『もしもしおでんわ』は、日本では、まだしっかり現役を保っていますが、アメリカでは、携帯電話の登場で無用の長物になりつつある”公衆電話”を主人公にした『The Lonely Phone Booth』が、おしゃれなニューヨークの街を描いた新しい絵本として登場しています。これは絵本ではありませんが、ノスタルジックな”消え行くモノ”ばかりを解説付モノクロ写真で紹介したカタログ本『Going Going Gone』の表紙も電話です。

消え行くのはモノだけではありません。仕事も同様。かつては、牛乳も新聞も、毎朝玄関まで配達されて来ました。アメリカでは、少年たちのアルバイトだったことが多いので、"milk boy"、"paper boy"と呼ばれていましたが、今ではもう見かけません。郵便も電報も昔は自転車で配達されていましたが、今は自動車になりました。でも絵本の世界では、今でも自転車に乗った『郵便屋さん(Teddy Bear Postman)』が健在で大活躍していますし、郵便屋さんどころか、『石炭屋さん』までが現役です。

時代が遷るに連れて、アメリカの家族も大きく変わっていることは前週のブログ『・・・されど家族』にも書きましが、かつての理想の"アメリカンファミリー”(郊外の大きな住宅に住み、会社員のお父さんと専業主婦のお母さんに、2-3人の子ども)なんて今は昔のこと。現代では、お父さんも家事や子育てをになうのがふつうですから、ニューヨ-クでは週末にはお父さんが娘の手を引いてコインランドリーにお洗濯に行きますし(『Knuffle Bunny』)、スーツにハイヒール履きのお母さんが、赤ちゃんを抱っこしつつお姉ちゃんの手を引いてお家に帰る姿も見慣れたものになりました(『Mommy's High-heel Shoes』)。

映画やドラマに描かれる家族も、最近では、いわゆる伝統的なアメリカンファミリーではありません。ひとにはいろいろな生き方があり、幸福にはいろいろな形があることを、そしてどんな家庭でも良い子が育つのだということを教えてくれます。人気の三部作『Toy Story(ブログ記事:『おひな様とトイ・ストーリー)』のアンディも、『UP!』でおじいさんを訪ねてきて一緒に冒険について行く男の子も母子家庭の子どもです。また映画『The Kids Are All Right』はレズビアンのカップルが築いている家庭の物語で、絵本『Mommy, Mama and Me』が描く家庭の未来像はかくも……と思わされます。

また最近のトレンドは、地球全体のことを考えて暮らすグリーンなライフスタイル。なかでもゴミ処理は重大なテーマです。自分たちが捨てたゴミに追われて地球に戻れなくなったまま宇宙をさまよっている未来の人類を描いた映画『Wall-E』では、地球はもう”青く輝く水の星”ではなく、”赤錆色のゴミ砂漠に覆われた惑星”として描かれています(ブログ記事:『地球はもう青くない』)。そんな私たちのライフスタイルに警告を発するドキュメンタリー絵本が『Here Comes The Gabage Berge!』です。ゴミを満載して他州に捨てに行った船が、どこの港にも入れてもらえずに困り果てる……という実話に基づいたお話のクリエイターは、ゴミからのリサイクル材料で作品を制作しているアーティスト集団です。

さて、最後に、ゴミ以上に、誰もがこの世からなくなってほしいと思っているもの……それは戦争です。が、21世紀を迎えても、私たちはまだこの問題を解決できないでいます。戦火に脅かされる町に暮らしている男の子からのメッセージをこめた絵本が『No!』です。このメッセージが正しく他の国の子どもたちに届けば、未来は変わるかもしれません。子どもたちの想像力には時間も空間をも超える力がありますから。『Flotsam』は時間をテーマに、『Mirror』は空間をテーマに、そんな子どもたちの想像力に大いに期待して語りかける絵本です。




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