それは秋のことであった。
「この愚図!」
美しい女性の声が、厳しい叱責をともなって響いた。
女性の名は、ハミ子。
女だてらに京都の名家、仁天家の麒麟児として恐れられる、若き女王である。
叱責は、彼女の足元……いや、腰の下へと飛ばされていた。ハミ子はひざまずいた少年の背に腰を下ろしていたのだ。
「申しわけございませんお嬢様、しかし今の私にはこれが精一杯……」
「おだまり! たかだかレリクス暗黒要塞にこんなに時間をかけるなんて……恥をお知りなさい! それでもあなたは仁天家のものですか! あなたの取り得はその安っぽさだけなのですか?」
少年には、返す言葉も無い。
少年の名は、ディス。仁天の分家に生まれたハーフであり、ディス君の愛称で親しまれている。
名家であるがゆえにお高くとまっていると噂されがちな仁天家において、稀有なほどの親しみ安さを生まれもって備えたディス君は、ハミ子の補佐役として仁天家を支えるものと期待されていた。
しかし、ディス君には致命的な欠点があった。なにをやるにも愚図でのろまなカメだったのだ。
「なぜあなたは新宿中央公園から出るたびに何秒も立ち止まるのです?」
「それは……そのロード時間が……それにA面とB面を……」
「言い訳はけっこうです。私なら、横浜港を自在に出入りできますわ。仁天家のものとして、あなたもそれくらいは出来て当然ではなくて?」
「……すみません……」
「もういいわ。貴方は、本当に私がいないとなにも出来ないのね」
ディス君は、なにも言い返せない。ハミ子なしではなにもできないのは事実だったからだ。
「さあ、早く進みなさい。この調子だと、リンクの冒険をドクターカオスに書き換えてしまいますわよ?」
「そ、そんな……! 数少ないぼくの取り柄をそんな得体の知れないものに変えてしまったら……!」
「いやなら早くお進みなさい。あらまた立ち止まるのね」
「せめて……せめてレリクスではなくメトロイドに……」
「あら、メトロイドも書き換えて欲しいのかしら? いいわよ、トップルジップとアスピックのどちらがよくって?」
「くっ……ボーステックばかり……なぜお嬢様はこんな仕打ちを……」
ディス君は耐えつづけた。だがその間にも、ゴムベルトの耐久限度2000回は刻一刻と近づいてきていた。もし2000回を越えたなら、ディス君はいつ壊れてしまうかわからないのだ……
その時だった。
「その辺にしときな。嫌がってるじゃねえか」
ディス君は耳を疑った。今をときめくハミ子に逆らうものがいるなどとは、想像すらもしなかったのだ。
ハミ子は静かに振り向いた。しかし、そのおもてにひそやかな、しかし激しい怒りが秘められていることが、ディス君にはわかった。
「今のは誰ですか」
だが、その男は恐れる気配もなく、堂々とハミ子の前に姿をあらわした。
「おれだよ」
男……そう、男だった。
日本人離れをした豊かな体躯のすべてを黒い衣装に包んでいる。
一目でただものではないと、誰もが理解した。
「何者ですか」
「俺かい? 俺はドライ武……眼我ドライ武(めが どらいぶ)さ」
「眼我……なるほど……瀬賀の分家のこせがれですわね」
瀬賀……仁天の天下に挑みつづける、無謀な旧家だ。当主であるマークさんが倒れ、勢いを失ったと聞いたのがつい先のこと。しかし、ハミ子の耳には瀬賀が分家よりマークさんの後継ぎを迎えいれたとの噂も届いていた。
それが……
「あなたが、例の後継ぎですわね」
「さあな。俺は俺さ。知ったことじゃないね」
ドライ武はハミ子の目の前に立っていた。
「そこをおどきなさい。邪魔よ」
「いやだね。俺は俺の道を行くのさ。全世界にショックを与えるためにね。そう、ビジュアルSHOCK! スピードSHOCK! サウンドSHOCK! をな」
云い終わる頃には、ハミ子の誇るビッグパイパーからレーザーが飛んでいた。
だが、それは、なにも捉えることなく画面端へと消えていた。
「な……んですって……」
「遅い。遅いなあ、あんた。それじゃあオプション2個が限界だぜ」
獣の王を思わせる、ドライ武のすさまじい移動速度であった。
それはまさに、ハミ子とドライ武のもつポテンシャルの違いをまざまざと見せ付けていた。
「もうわかっただろう? あんたを8とするならおれは16はある。格が違いすぎるのさ」
ハミ子は思わずリセットボタンを押した。
このような屈辱、昨年あらわれた白エン・ジン子と出会って以来……いや、それ以上のものだった。
「くっ……ディス君、帰りますわよ」
ハミ子はディス君のレリクスをアイスホッケーに入れ替えた。これならば、一度ロードすればずっと動きつづけることができる。痩せ型の選手なら移動速度も速い。
「今日のところは引いてさしあげますわ。でも覚えておくとよろしいてよ。あなたのポテンシャルは認めてあげてもよいけれど、私の方がはるかに優れたソフトに囲まれていることをね」
「今は、な」
二人はしばらくの間にらみ合い、そしてお互いに背を向けて別々の道へ向けて歩き出した。やがて来る対決の時を、確かに感じながら……
「……あいつが俺の敵ってわけだ。なるほど、手ごわそうなやつだぜ」
呟くドライ武の背後に、一つの影が忍び寄っていた。
「いいや、敵はハミ子だけじゃないな」
「だれだ! ……なんだ、アダプ太か」
眼我アダプ太……ドライ武の従兄にあたるものだ。
ずんぐりむっくりの体型とはうらはらに、その実力は先代のマークさんに匹敵するとも云われている。
アダプ太は告げる。
「N意思が動き出した。ジン子に近々強力なバックアップが入るらしい。確か名を、ロム²
……」
「ロム²……厄介そうな名前だな。特に²が」
「お前に勝てるかな」
「勝つしかないさ」
強靭な意志を秘めたドライ武の言葉をさえぎったのは、しかしアダプ太であった。
「無理だな」
「なんだと」
「お前のポテンシャルは認めよう。だが今のお前では無理だ。今のお前には……ソフトが足りない」
「ぐ……」
それは、確かに事実であった。
先ほどハミ子に見せた獣王の力とて、実はまだ完成されたものではない。今のままあの強大なハミ子と戦い、さらに未知の力を手に入れようとしている白エン・ジン子を倒すことが、果たして自分にできるのか……
「だが、やらねばならない。それしか手はないんだ」
「いいや、手はある。とっておきの手がな」
「なに?」
「合体だ! おれと合体するんだドライ武!」
時は晩秋、季節はずれの嵐が訪れようとしていた。
次回「合体!? 左がアダで右がドラで」に続く
「この愚図!」
美しい女性の声が、厳しい叱責をともなって響いた。
女性の名は、ハミ子。
女だてらに京都の名家、仁天家の麒麟児として恐れられる、若き女王である。
叱責は、彼女の足元……いや、腰の下へと飛ばされていた。ハミ子はひざまずいた少年の背に腰を下ろしていたのだ。
「申しわけございませんお嬢様、しかし今の私にはこれが精一杯……」
「おだまり! たかだかレリクス暗黒要塞にこんなに時間をかけるなんて……恥をお知りなさい! それでもあなたは仁天家のものですか! あなたの取り得はその安っぽさだけなのですか?」
少年には、返す言葉も無い。
少年の名は、ディス。仁天の分家に生まれたハーフであり、ディス君の愛称で親しまれている。
名家であるがゆえにお高くとまっていると噂されがちな仁天家において、稀有なほどの親しみ安さを生まれもって備えたディス君は、ハミ子の補佐役として仁天家を支えるものと期待されていた。
しかし、ディス君には致命的な欠点があった。なにをやるにも愚図でのろまなカメだったのだ。
「なぜあなたは新宿中央公園から出るたびに何秒も立ち止まるのです?」
「それは……そのロード時間が……それにA面とB面を……」
「言い訳はけっこうです。私なら、横浜港を自在に出入りできますわ。仁天家のものとして、あなたもそれくらいは出来て当然ではなくて?」
「……すみません……」
「もういいわ。貴方は、本当に私がいないとなにも出来ないのね」
ディス君は、なにも言い返せない。ハミ子なしではなにもできないのは事実だったからだ。
「さあ、早く進みなさい。この調子だと、リンクの冒険をドクターカオスに書き換えてしまいますわよ?」
「そ、そんな……! 数少ないぼくの取り柄をそんな得体の知れないものに変えてしまったら……!」
「いやなら早くお進みなさい。あらまた立ち止まるのね」
「せめて……せめてレリクスではなくメトロイドに……」
「あら、メトロイドも書き換えて欲しいのかしら? いいわよ、トップルジップとアスピックのどちらがよくって?」
「くっ……ボーステックばかり……なぜお嬢様はこんな仕打ちを……」
ディス君は耐えつづけた。だがその間にも、ゴムベルトの耐久限度2000回は刻一刻と近づいてきていた。もし2000回を越えたなら、ディス君はいつ壊れてしまうかわからないのだ……
その時だった。
「その辺にしときな。嫌がってるじゃねえか」
ディス君は耳を疑った。今をときめくハミ子に逆らうものがいるなどとは、想像すらもしなかったのだ。
ハミ子は静かに振り向いた。しかし、そのおもてにひそやかな、しかし激しい怒りが秘められていることが、ディス君にはわかった。
「今のは誰ですか」
だが、その男は恐れる気配もなく、堂々とハミ子の前に姿をあらわした。
「おれだよ」
男……そう、男だった。
日本人離れをした豊かな体躯のすべてを黒い衣装に包んでいる。
一目でただものではないと、誰もが理解した。
「何者ですか」
「俺かい? 俺はドライ武……眼我ドライ武(めが どらいぶ)さ」
「眼我……なるほど……瀬賀の分家のこせがれですわね」
瀬賀……仁天の天下に挑みつづける、無謀な旧家だ。当主であるマークさんが倒れ、勢いを失ったと聞いたのがつい先のこと。しかし、ハミ子の耳には瀬賀が分家よりマークさんの後継ぎを迎えいれたとの噂も届いていた。
それが……
「あなたが、例の後継ぎですわね」
「さあな。俺は俺さ。知ったことじゃないね」
ドライ武はハミ子の目の前に立っていた。
「そこをおどきなさい。邪魔よ」
「いやだね。俺は俺の道を行くのさ。全世界にショックを与えるためにね。そう、ビジュアルSHOCK! スピードSHOCK! サウンドSHOCK! をな」
云い終わる頃には、ハミ子の誇るビッグパイパーからレーザーが飛んでいた。
だが、それは、なにも捉えることなく画面端へと消えていた。
「な……んですって……」
「遅い。遅いなあ、あんた。それじゃあオプション2個が限界だぜ」
獣の王を思わせる、ドライ武のすさまじい移動速度であった。
それはまさに、ハミ子とドライ武のもつポテンシャルの違いをまざまざと見せ付けていた。
「もうわかっただろう? あんたを8とするならおれは16はある。格が違いすぎるのさ」
ハミ子は思わずリセットボタンを押した。
このような屈辱、昨年あらわれた白エン・ジン子と出会って以来……いや、それ以上のものだった。
「くっ……ディス君、帰りますわよ」
ハミ子はディス君のレリクスをアイスホッケーに入れ替えた。これならば、一度ロードすればずっと動きつづけることができる。痩せ型の選手なら移動速度も速い。
「今日のところは引いてさしあげますわ。でも覚えておくとよろしいてよ。あなたのポテンシャルは認めてあげてもよいけれど、私の方がはるかに優れたソフトに囲まれていることをね」
「今は、な」
二人はしばらくの間にらみ合い、そしてお互いに背を向けて別々の道へ向けて歩き出した。やがて来る対決の時を、確かに感じながら……
「……あいつが俺の敵ってわけだ。なるほど、手ごわそうなやつだぜ」
呟くドライ武の背後に、一つの影が忍び寄っていた。
「いいや、敵はハミ子だけじゃないな」
「だれだ! ……なんだ、アダプ太か」
眼我アダプ太……ドライ武の従兄にあたるものだ。
ずんぐりむっくりの体型とはうらはらに、その実力は先代のマークさんに匹敵するとも云われている。
アダプ太は告げる。
「N意思が動き出した。ジン子に近々強力なバックアップが入るらしい。確か名を、ロム²
……」
「ロム²……厄介そうな名前だな。特に²が」
「お前に勝てるかな」
「勝つしかないさ」
強靭な意志を秘めたドライ武の言葉をさえぎったのは、しかしアダプ太であった。
「無理だな」
「なんだと」
「お前のポテンシャルは認めよう。だが今のお前では無理だ。今のお前には……ソフトが足りない」
「ぐ……」
それは、確かに事実であった。
先ほどハミ子に見せた獣王の力とて、実はまだ完成されたものではない。今のままあの強大なハミ子と戦い、さらに未知の力を手に入れようとしている白エン・ジン子を倒すことが、果たして自分にできるのか……
「だが、やらねばならない。それしか手はないんだ」
「いいや、手はある。とっておきの手がな」
「なに?」
「合体だ! おれと合体するんだドライ武!」
時は晩秋、季節はずれの嵐が訪れようとしていた。
次回「合体!? 左がアダで右がドラで」に続く
てゆうか最後の左、右を見てラーメン吹き出しました
(*´Д`)ブホッ!
そうそう
約束守ってくれて…あ、あの……ありがとうなんだからね…
え~と、だから…お礼に………モジモジ
ア、アタシの一番大事なもの…アタシの初めて…あげちゃってもいいんだからね!
(*´Д`)初代・大技林 for you
そっか、ハミ子は女で・・・ドライ武は男だったんだー。
「や、やめてくれ……乱暴は好きじゃないんだ」
「ああん? なんだこのソフトは?」
「ああ、そ、それは……」
「『ランボー3』だぁ? ははははは、口で云っていることと大違いじゃねえか! 好きなんだろう、こういうのが? ずいぶんとリアルなスタローンだなあ、おい。リアルなのはスタローンだけか?んん?」
「……ウ……佐……」
「そら、もっと大きな声で云ってみろ!」
「トラウトマン大佐もリアルなんです!」
「よーし、よく云ったな。そーらご褒美だ。おれの自慢の『ロッキー』を挿入れてやる。じっくりと楽しみな!」
「ああ……ドラコが……ドラコが強い……!」
という展開にするつもりだったのに……