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やる気のない非モテの備忘録

漫画力~大学でマンガ始めました~ 佐川俊彦  う

2010年06月22日 | 読書感想
漫画力~大学でマンガ始めました (SUN MAGAZINE MOOK)
佐川 俊彦
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元JUNE編集長で、いまは京都精華大学漫画学部准教授をしている、『中島梓の小説道場』では門番頭をゃっていた佐川くんの処女出版作。
紙面をパッとひらいた瞬間の印象が、意味もなくつめこみまくって雑然としていて、完全に昔のJUNEのそれで、ああ、あれって佐川くんのセンスだったのか、と妙に感心してしまった。

が、つめこみまくっているのはいいとして、内容は雑然としていていまいち。
漫画評論なのか、漫画史なのか、個人的な思い出を語る漫画エッセイなのか、元編集者としてのアドバイスなのか、それらが渾然としていて、しかもどれもこれも入り口で止まっていて、いったいどういう読者を対象に、どういう読まれ方をすることを念頭において書かれたものなのか、まったくハッキリしていない。それでいて作者の「わしはこれを書きたいんだ!」というような部分も特になく、結局、なんの本なのかさっぱりわからない仕上がりになっている。

変に笑いを取ろうとしてすべっているのは愛嬌としても、古典名作から新作まで、まったく系統立てずに雑然と説明しながら、それぞれを悪く云わないように気を使っているのが「結局、おまえどんな作品が好きでどういう漫画を求めているんだよ」と云いたくなるような、どっちつかずのむにゃむにゃとした話になってしまっていて、社会人・編集者としては角を立たせない立派な態度なのかもしれないが、こと作品を語るにあたってその態度は男らしくないし、参考にならないな、と思った。
長年漫画文化に触れてきた漫画業界人の本としては、オタキングや大塚英治に比べてあまりにしっこしがなさすぎる。

そもそも佐川くんに求められている立場は「漫画業界人」ではなく「JUNE人」なので、もっとJUNEのことを中心に語ればいいのに、なんでそれをしなかったのかがよくわからない。漫画学部の准教授としての本だから?
しかしそれにしては、随所にJUNEからの再録ページなどがあったりして、しかもかなり唐突に脈絡もなく入ってきたりしていて「佐川くんは元JUNE編集長であることを推していきたいの?隠していきたいの?どっちなの?」と小一時間問い詰めたい仕上がりになっていた。

そんな感じで、漫画人としては、エッセイとしても評論としても漫画史テキストとしてもどうかと思うような内容だったが、後半の長年編集者をしていた人間として語った「編集とのつきあい」「新人時代に必要な姿勢や態度」などは、経験に裏打ちされた非常に納得のいく、ためになる話ばかりだった。
「社交性がないのはわかるけど営業がんばれ」とか「ベテランよりも新人編集と二人三脚がオススメ」と「新人を育てるのは出版社にとってもリスクなのを理解して」とか、そういうことを具体例を出しながら書いているので、このあたりは面白い。

そんなわけで、結局『漫画力』なんてタイトルで変に漫画全体に話をひろげず、長年編集者をやっていた人間からの、現場主義の漫画・小説ノウハウ本としてまとめていた方が、面白くなっていただろうし、一つの商品としての売りも明確だったと思うなあ。

結局、良い編集者は良い作家になれない……というか、良い作家になる資質を秘めた編集者は、何十年もつとめているならとっくに作家デビューもしている、ということか。
ちょっと門番頭の評価が下がってしまって、読まなきゃ良かったかなあ、という感じだった。

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17 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (usa)
2010-06-23 05:19:28
「しっこしがない」という表現に、薫への忘れきれない愛を感じた明け方五時です。
ちなみに元門番頭の勤務先は学部は違えど私の母校。どんな講義をしているのか気になるので、聴講生とか申し込んでみようかな…。
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Unknown (うな)
2010-06-23 23:18:29
え、「しっこしがない」って普通に云わない?薫が云っていた記憶もない……云ってたかもしれんが。
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Unknown (ひな)
2010-06-25 23:01:00
ふー! だいたい読み終わりました~
大学のサブカル論の教材としてはこんなものかなぁと思いました
漫画家志望者に漫画家としての基本的な心得を教えるために書かれた本としては無難な気がします
ただだいたいの部分が佐川さんのあたりさわりのない作品紹介で終わってしまっているので、読みものとして面白くはなかったです
私はもちろんJUNE話を期待していたので、そこも残念でした><

あとJUNEのアンコールギャラリーは本当にいちいち脈略がなさすぎてビックリしました・・・
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Unknown (うなぎ)
2010-06-26 11:04:34
え~、ぶ、無難かなあ……
藤子Fもデビルマンも寄生獣もドラゴンポールもキン肉マンもハガレンも大友克洋も宮崎駿もガラスの仮面もちびまるこちゃんもNANAもハチクロも言及していない本で漫画のなにがわかるというのだろう……
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Unknown (Unknown)
2010-07-03 14:17:03
内容がいかにも佐川くんの属する世代の書きそうな感じですな
うなぎさんのブログは面白いけど佐川くんの本は読まなくていいや
そもそもマンガ家目指してないし
マンガ家志望でない人にも娯楽として読めるような内容じゃなさそう
緩い自分語りとぬるい説教+我々の世代は+〇〇って人がいて+錆び付いた知識+昔はどーのこーの
そんな印象。読んでないけど偏見だけで

しっこし→漢字だと尻腰ですよね
自分も栗本薫の本でしか見たことが無い言葉です



うなぎさん……根深いですな
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Unknown (うなぎ)
2010-07-04 15:48:02
すぐ説教と自慢をするのは団塊世代で、佐川くんはその団塊世代の上司たちの下でへらへらごまかし笑いしながら嫌われないようにふるまっていた世代なので、文章にもそういう「嫌われないようにしとけばいいや」という煮え切らない処世術がにじみ出ていて良くない、という意味のエントリーを書いたつもりなんですが、まぁ他人の年代に対して把握がいいかげんなのは自分にもよくあることなのでいいです。
ただ、作品に対して触れることもせず、他人の尻馬に乗って侮辱する人がおれは死ぬほど嫌いなので、少なくともあなたの思っているような団塊世代の自慢本じゃないので、読んでください。
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Unknown (Unknown)
2010-07-04 23:44:49
コメントどうもです!
なるほど、よく分かりました。
でもまあ、読まないと思います。
うなぎさんに死ぬほど嫌いなタイプの人間と言われても
特に困りゃしないんで。むしろ嫌ってください(笑)ガンガンに嫌って!

んで、うなぎさんのおっしゃる事は分かりますよ。
どっちにしたって私はぬるい馴れ合い臭がしそうな本が嫌いで嫌いで。
わざわざ時間使って読みたかないですね。

そういう私の姿勢を嫌いになるのは、うなぎさんの自由だからどうぞご勝手に。

私は読まずに批判します。嫌います。否定します。受け入れません。

だってこんなにゴミほど本が溢れてんのに、なんで一々誠実に読んでからじゃなきゃ否定しちゃいけないんですかねえ?

何か反論したくなったらどうぞ。
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Unknown (追加!)
2010-07-04 23:51:02
あと、私が他人の尻馬に乗って批判してるというのは少々心外ですね。
この場で誰が佐川くん批判してますか?
私一人が空気読まずに、内容も読まずにケチつけてるんですよ。
全員が佐川くんマンセーの場でも、私は一人でケチつけたければつけられますよ。
そこは訂正して頂けませんか?

あとこれからもブログを楽しみにしています。
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Unknown (うなぎ)
2010-07-05 04:46:44
私が佐川くんの本を批判しています。
あなたはその尻馬に乗っています。読みもせずに。自分の言動を理解してください。
以上
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Unknown (Unknown)
2010-07-05 05:56:12
そっすか?まあいいや。
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