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書物と活字の懇話会

近松秋江の小説を組む—はなぐみノーマルで読む『黒髪』

2017年08月27日 | typeKIDS_Library
底本にしたのは、小説『黒髪』(近松秋江著、新潮社、1924年)〈「名著復刻全集 近代文学館」〉である。



この小説の「一」から「六」までの部分を「SDはなぐみノーマルW3」(和字書体のみ)で組んだ。「S塾」(正宗白鳥)、「赤とんぼのこと」(三木露風)を併載し、手製本してみた。



今まで本文を行書体で組むということもなかっただろうし、そもそも行書体(漢字書体)は本文書体として設計されてはいない。タイプフェイスとしての行書体はほとんど筆耕士の手によるもので、案内状や宛名書きなどに使用されることが多いと思われる。しかしながら、江戸時代まで小説や詩歌の類は「御家流」とよばれる日本独自の書写体による木版印刷だった。この漢字書体もちょっと違和感があるのだが、和字書体さえ工夫すれば行書体(漢字書体)で本文を組むことは可能なのではないかと考えた。「SDはなぐみノーマルW3」は、明治時代の木版教科書の本文(手紙文)を参考にして制作した和字書体である。



近松秋江(1876-1944)は岡山県和気町の出身である。和気神社の境内に文学碑が建つ。この文学碑には「京の春」の中の一文が刻まれている。秋江の色紙を拡大したそうだが流麗な筆跡である。
岡山県尋常中学校(現在の岡山県立岡山朝日高等学校)に入学するが翌年退学、上京して慶應義塾に入るが父の急逝により二ヶ月で退学。波乱万丈である。いろいろあって再度上京し、東京専門学校(後の早稲田大学)に入学する。東京専門学校の同級生に、同郷の正宗白鳥(1879-1962)がいた。一時同じ下宿で暮らしていたこともあり、お互いの作品に相手とおぼしき人物が登場するほどの強い因縁で結ばれていたそうだ。作家としての地位を確立したのは、『別れたる妻に送る手紙』や『黒髪』を代表とする情痴文学である。筆名の近松秋江は、近松門左衛門への傾倒からだそうだ。
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