THE READING JOURNAL

読書日誌と雑文

地の涯にてーーブルターニュの町々

2006-12-04 | Weblog
「ヨーロッパの不思議な町」 巖谷 國士 著 

V  地の涯にてーーブルターニュの町々

ブルターニュというのは不思議なところである。ヨーロッパ大陸から大西洋につきでているこの大きな半島は、もちろんフランスという国の一部であるけれども、古くからいわゆるフランス人とはちがう人びとが住み、いわゆるフランス語とはちがう言語が用いられてきた地方なのだ。

土地のやせたこの地方では、ケルト語系のケルトン語を話す人がかなりいるという。そして

そのブルターニュ半島の最先端にあるのがフィニステールと呼ばれる県で、この地名はずばり「地の涯」を語源とする。

ブルターニュは独特の石の文化を持ち、古い町々を通るたびに特異な石の建造物に出会う。

半島西南端の海岸に近い丘の上に立つ、ノートルダム・ド・トロノエンの壮絶なカルヴェール。文字どおり「地の涯」を思わせる荒涼たる光景のなかで、この石の芸術は異様なシルエットをかたちづくる。十五世紀末にできた最古のカルヴァールとされるもので、台石の四周のキリスト受難までを描く二層の浮彫りと、その上にならぶマリアたちの立像と、さらに高くそびえる三本の十字架の磔形像とは、すでに風化しはじめていながら、いやそれだけにいっそう悲痛な舞台劇の、周知の各場面が石化したありさまを思わせる。囲い地のまわりにはなにもない。海と風。崖の下に寄せる大西洋の波音がときおり耳にとどいてくる。