「アラビアのロレンス」(改訂版) 中野好夫著
青年考古学者
ロレンスの家系は、エリザベス朝までさかのぼれる由緒ある家系である。しかし、彼は正妻の子ではなく。彼の父がその子どもの家庭教師と駆け落ちした後に生まれた子である。
一家は貧しい生活のなかでも、教育には熱心であった。ロレンスはハイスクール時代に考古学的なものに異常な興味を持つ。そして、自転車の遠乗りを繰り返し、英仏両国に関しての中世時代の城跡はほとんど見つくす。
ロレンスはオックスフォードを卒業するまで奨学金をもらっていた秀才であったが、一筋縄でいかない秀才であった。彼は正規の学科に出ずに本を読み漁った。オックスフォードでは、彼のように正規の学科に出ない学生に対する便法として、特別な課題を選んで、その研究成果を持って正規コースに代えるという便宜があった。
そこで彼が選んだのは、「ヨーロッパ中世築城術に与えた十字軍の影響」である。
そのためには、自らの目で中東城跡を見る必要があり、最初のアラビア行きを決行する。それは、一人で歩く旅であった。ロレンスは生命の保証さえないこの旅を終え、論文を書き上げた。そして優等賞をもって合格する。
ロレンスはその後、大学に残り大英博物館の考古学発掘隊に加わり、再び中東の地に入る。それから彼は第一次世界大戦勃発の直前まで三年半にかけただ一度帰国しただけで中東の地に残っていた。発掘は年に三分の一の期間しかできなかったが、彼は帰国せず残りの時間を旅行や現地で楽しむためにあてた。彼は暑熱や悪疫を苦にするどころか、そこを楽天地のようにして過ごしている。彼の厳格でストイックな生活がそれを可能にしている。彼はその地でできるだけ土民と同じ生活をするように努めた。
一九一三年の冬、ロンドンよりシナイ地方の科学調査団に、指揮者として南下してほしいという電報が届いた。彼は南下して調査団に加わわる。実はこの科学調査団は、アカバ事件以降、トルコの反英感情を心配した陸軍が密かにシナイ地方の綿密な測量をするために組織されていた。
ロレンスがその真の目的を知っていたかどうかの証拠はないが、彼は、トルコ官憲の目を欺きアカバ港一帯の測量をしている。
一九一四年、大戦の勃発直前にロレンスは久しぶりに英国に帰る。
青年考古学者
ロレンスの家系は、エリザベス朝までさかのぼれる由緒ある家系である。しかし、彼は正妻の子ではなく。彼の父がその子どもの家庭教師と駆け落ちした後に生まれた子である。
男が正妻のほかに女をこさえ、結局妻子をすて、女と同棲、次々と子どもを生ませるなどということは、さしずめ日本ならば、尋常茶飯事とまではいわないとしても、決して珍しいことではない。だが、まだヴィクトリア朝時代のイギリスということもあり、とりわけ清教徒流の厳しい宗教教育をうけていた母にとっては、一生消すことのできない罪の意識として彼女を悩ませたらしい。そしてそのことはロレンスの一生にも深い影響を及ぼしたと見られる。
一家は貧しい生活のなかでも、教育には熱心であった。ロレンスはハイスクール時代に考古学的なものに異常な興味を持つ。そして、自転車の遠乗りを繰り返し、英仏両国に関しての中世時代の城跡はほとんど見つくす。
ロレンスはオックスフォードを卒業するまで奨学金をもらっていた秀才であったが、一筋縄でいかない秀才であった。彼は正規の学科に出ずに本を読み漁った。オックスフォードでは、彼のように正規の学科に出ない学生に対する便法として、特別な課題を選んで、その研究成果を持って正規コースに代えるという便宜があった。
そこで彼が選んだのは、「ヨーロッパ中世築城術に与えた十字軍の影響」である。
そのためには、自らの目で中東城跡を見る必要があり、最初のアラビア行きを決行する。それは、一人で歩く旅であった。ロレンスは生命の保証さえないこの旅を終え、論文を書き上げた。そして優等賞をもって合格する。
ロレンスはその後、大学に残り大英博物館の考古学発掘隊に加わり、再び中東の地に入る。それから彼は第一次世界大戦勃発の直前まで三年半にかけただ一度帰国しただけで中東の地に残っていた。発掘は年に三分の一の期間しかできなかったが、彼は帰国せず残りの時間を旅行や現地で楽しむためにあてた。彼は暑熱や悪疫を苦にするどころか、そこを楽天地のようにして過ごしている。彼の厳格でストイックな生活がそれを可能にしている。彼はその地でできるだけ土民と同じ生活をするように努めた。
一九一三年の冬、ロンドンよりシナイ地方の科学調査団に、指揮者として南下してほしいという電報が届いた。彼は南下して調査団に加わわる。実はこの科学調査団は、アカバ事件以降、トルコの反英感情を心配した陸軍が密かにシナイ地方の綿密な測量をするために組織されていた。
ロレンスがその真の目的を知っていたかどうかの証拠はないが、彼は、トルコ官憲の目を欺きアカバ港一帯の測量をしている。
一九一四年、大戦の勃発直前にロレンスは久しぶりに英国に帰る。