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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

迎え火

2018-08-13 20:20:42 | 民俗学

 今日もテーマは「盆」である。それこそ今日は「迎え盆」。生家では隣組を呼んで新盆を迎えてもらったようだが、あらためて1周忌と併せ新盆の供養をすると知らされていたわたしは、とくに用事もなく、線香をあげに訪れただけだ。隣組の方を呼んで新盆の供養をしてもらう。こうしたつきあいは、今もって多いのだろう。義姉の実家も新盆の今年、町の中であるがやはり隣組を呼んでご馳走をするのだという。地域のつきあいが強い妻の実家の隣組では、数年前にこうした隣組を呼んでお酒を振舞うという新盆呼びは辞めた。それぞれが都合の良い時間に見舞に行って、お茶をいただく程度に変更した。また、わたしが今暮らしている地域は、住み始めた平成1桁時代は、隣組が夕方呼ばれて、お迎えをしてお酒をいただいていたが、平成2桁時代に入ると、お酒を振舞うのは辞めようということになって、皆で一斉にお見舞いに行っていたが、今は妻の実家の隣組とほぼ同様となった。

 そういえばと思い出すのは、隣組が13日夕方に呼ばれ、皆で仏様を迎えていた時代には、玄関先でロウソクに火を灯すのは隣組の人たちだった。同じことは、昨日丘の上の美容院でも聞いた。ロウソク立てに火を灯すのは隣組の人たちだという。このロウソクのことについては、先日、妻の実家で行われた新盆の法要で触れた通り、54個のロウソクを立てられるように設えられたローソク立てを葬儀屋さんが用意してくれる(「シンボンを迎える」の写真にある通り)。これはかつて行われたタイトボシに代わるものなのだろう。妻が昔の新盆の光景を、よく口にする。昔はお墓から自宅まで百八の松明を道々に立て、火を灯したという。たとえば『長野県史民俗編 第二巻(二)南信地方 仕事と行事』(昭和63年 長野県)にタイトボシの事例を拾ってみよう。

○伍和地区の他のムラは十四日に親類や組合の人を呼んでヒャクハッタイをたく。家から墓まで一○八本のたいまつをとぼす。今はたいまつの替りにろうそくに紙を巻いて棒の先につけたものを使う。呼ばれた人たちは金包みを持って行く。(備中原)

○シンボンの家へヒャクハッタイをとぼしに行く。「シンボンでおさみしゅうございます」とあいさつをする。(恩田)

○盆の十三日に昔はうどん五束くらい、今は金包みを子供などに届けさせる。十五日には何も持たずにタイトボシに行く。仏様にお参りしたあと、タイトボシをする。門口にしらかばなどで作ったヒャクハッタイを積み上げて火をつけ、タイを中心に左まわりに三回まわる。シンボンの家へはみなタイトボシにまわって歩く。(柳平)

○十三日と十六日の夕方、家と墓との間に一○八本の棒(割った竹またはすず竹)にろうそくを立て、親類、近所の者が火を点じて新霊を迎える。以前はたいまつを使用したが、これをタイトボシという。(小川)

○八月七日はシンボトケの家では親類が寄ってヒャクハッタイのたいまつを松の根で作る。作ったたいまつは八月十四のタイトボシに使う。(新野)

○十三日は門口でヒャクハッタイのろうそくをともすヒトモシをする。(下青木)

以上のようである。伍和の例は、まさに妻のかつて見た新盆の松明を灯した光景そのものだ。おそらく「今は」以降のろうそくに紙を巻いて棒の先につけた、という松明だったのではないだろうか。さらに注目すべき事例は、平谷村柳平のもの。「今は金包みを子供などに届けさせる」とある。妻が言うには、子どものころ新盆見舞に子供が行ったという。このことはかつて「アイスクリーム券」に詳しく記した。

 昨日の丘の上の美容院でもこういう話をした。かつては葬儀に訪れた会葬者の6割が新盆見舞に訪れたと。しかし、今は4割くらいになったという。わたしの生家のあたりでは4割でも多い。実際のところ新盆に対する考えも、地域で大きく異なるようだ。したがって、下伊那地域の人たちには当たり前と思う新盆見舞も、わたしの家のあたりではそこまで見舞はしない。したがって義理をすべきかしない方が良いのか、悩むところなのだ。

 さて、盆について、前掲書には事例が項目ごとたくさん掲載されているが、実は詳細かといえばそうでもない。ようはこれを参考書とはなかなかできないということ。たとえば迎え火ひとつとっても具体的ではない。迎え盆の今日、迎え火で何を利用しているかとみた場合、燃やす物に対しての記述は少ない。「焚く」「灯す」という記載はあっても、何に灯したのか、焚いたのか、といったあたりは記載されていない。今や焚かれる物はさまざま、とはいえ、ホームセンターなどに売られている物を利用する人も、今は多い。かつてはムギカラ、あるいはワラだったものが、シラカンバとか、あるいは素焼き皿にほうろくを利用する人も、今日、迎え火の様子をうかがうと見られた。


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