前回以降、もう少しネットを検索してみたらまだまだ「ノリ・メ・タンゲレ」を主題にした作品がありました。ちょっとうんざりしないでもないんですが、乗りかかった舟なんで、できる限り取り上げていきたいと思います。このため時代が前後してしまいます。
教会の天井画などを得意にし、スペインやナポリで活躍したジョルダーノLuca Giordano(1634-1705)はとても筆が速く、"Luca Fa-presto"(仕事の速いルカ)と呼ばれていたそうです。この1687年頃の作品でも動きのある流麗な筆致が印象的です。そうした点と内容が希薄な感じがすることを合わせ、ちょっとルーベンスに似ています。これまで紹介した作品ではイエスにもマグダラのマリアにも光の輪はなく、ふつうの人間として描かれていたんですが、ジョルダーノは光の輪と天使まで登場させています。教会のフレスコ画をたくさん描いていた人らしい演出ですね。
イタリアの彫刻家ラッギAntonio Raggi(1624-86)です。彼はベルニーニの元で修行し、サンタンジェロ城の前の橋の彫刻を作ったりしました。このSanti Domenico e Sisto(聖ドメニコと聖シクストゥス)教会にある作品(制作年はわかりませんでした)もベルニーニがデザインしたもののようです。イエスの胸や腕の描写力は優れたものですが、全体として見ると力強さというか量感に乏しい感じがします。彫刻こそ実物を可能な限り四方八方から見ないと真価はわからないんですが。
次はボローニャ派のアルバーニFrancesco Albani(1578-1660)です。彼は受胎告知のような宗教的な奇跡やギリシア・ローマ神話の場面を描くのを好んだそうです。この1620年代前半の作品でも人物を目いっぱい大きく描いてドラマティックな場面を強調するとともに、洞窟の前の柩に座る天使がこの場面を見守ることにより、宗教性を持たせています。……ただどの先行作品に似ている(かえって後に制作されたジョルダーノがいちばん似ていますが)というわけでなくても、どこか類型的な感じがしてしまうのは私だけでしょうか。
フォンタナLavinia Fontana(1552-1614)は最初の成功した女流画家と言われています。やはりボローニャ生まれで、中世以来有名なボローニャ大学では女性への教育を早くから行っていたそうです。彼女の描く「ミネルヴァの着替え」というヌード(これも女性にとってはハードルが高い題材だったのですが)は磁器のような肌合いとセクシーなポーズの美しいものですが、この1581年の作品にはそういう点は見られず、色彩も乏しいですね。 マリアには光輪があり、聖具のようなものを持ち、彼女の聖性が示されていますが、イエスは帽子を被り、庭師そのものの格好をしています。向こう側の墓では天使と弟子たちがイエスを失って悲しむ様子が描かれています。
フィレンツェのブロンジーノ(Bronzinoはあだ名で本名はAgnolo di Cosimo)(1503-72)の作品は1560年頃のもので今はルーヴルにあり、マリアの服の青が印象的です。また、彼の特徴と言われる冷たい表情が人物全体に見られ、人物の大きな身振りと対照的と言うか、ほとんど不釣合いなほどです。後にいる二人の女性はマルコ福音書に記述されたヤコブの母マリアとサロメ(もちろんヘロデ王の娘とは別人ですw)でしょう(この点はこのシリーズの最後に触れます)。さらにその向こうには天使と弟子たちが見え、町につながっていきます。イエスの足元の花はマリアを始めとする人物と対応しているように思えます。
ポントルモJacopo da Pontormo(これは彼が生まれた町の名前で、本名はJacopo Carucciです)(1494-1557)はブロンジーノの先生だった人で、そのため共同制作のものやどちらが描いたかわからない作品も多いようです。この1531年の作品もブロンジーノの作品の可能性もありますが、上のとはかなり印象が違います。ミケランジェロのデッサンが元になっているそうで、マリアの悲愴な表情とイエスの背後まで伸びた緑色の腕がほぼ水平に伸びているのが印象的です。彼女の体のラインと背景の階段からつながっていくような城壁がコントラストをなしています。
バルドゥング・グリーンHans Baldung-Grien(c.1480-1545)はドイツのシュヴァーベン地方の生まれで、デューラーの弟子の中でも最も才能があった人だと言われています。ウィーンの美術史美術館にある「人間の3つの年齢」は、人生や美のはかなさを描いた多くの寓意画の中でもかなり強烈な印象を与えるものだと思います。1539年のこの作品は奇妙に小さいマリアや天使、こちらを凝視するイエス、光る雲みたいな地面といった個々の特徴だけでなく、全体としてヘタウマとでも言えばいいのか不思議な印象を与える絵です。
サストリスLambert Sustris (1510-1560)はアムステルダムで生まれ、主にイタリアで活躍し、ヴェネツィアで没しました。ティッチアーノの工房にいたと考えられていますが、風景画を得意にしていたそうで、この作品(これも制作年は不明です)でもその点はよく見て取れます。いかにもヨーロッパの宮殿のお庭といった感じの幾何学的な庭園がこの絵の中心とさえ思えるくらいです。イエスとマリアはこういう場にふさわしく豊満な体つき(つまりリッチだということですねw)をしています。まあお城のたくさんある部屋に飾るたくさんある絵の一つとしてはいいんじゃないかなって感じですね。
ヴェロネーゼPaolo Veronese(1528-1588)はティッツィアーノ、ティントレットらと並んでヴェネチィア派を代表する画家です。彼らと一緒にviola da braccioという楽器を演奏している自画像があります(これは弓で弾くf字ホールというチェロっぽい形ですが、6弦でフレットがあってギターのように抱える楽器です)。本名はPaolo Caliariなんですが、ヴェロナ生まれなんでこういう名前で知られています。さて、この作品の制作時期は16世紀を1/3に分けたときの2番目という大ざっぱな特定しかされていないようです。要は中年以降ではないといったことなんでしょう。……マリアは松井か新庄のキャッチwのような非常に低い姿勢で、ひたすらうやうやしい態度を示しています。イエスはエル・グレコを思わせる細い体とごわごわした布をまとっています。階段はこれまでも出てきましたが、このイエスの神格化が著しい作品ではイエスがまもなく天国に昇ることを象徴的に表していると言ってかまわないでしょう。後ろの天使とヤコブの母マリアとサロメらしき人物の間では何やらやり取りが交わされていて、想像をかき立てます。
この陶器のレリーフは1520年頃におそらくフィレンツェで制作された作者不詳のものです。ほうろう質になるまで高温で焼かれたもので、ステンドグラスとともに窓にはめられていたんだろうと思います。中世ふうのポーズをルネサンスふうに描写したといった感じですが、背景の東洋ふうの樹木も目を惹きます。何より白磁のような肌合いが美しいですね。
ペルジーノPietro Perugino(これもペルージャ生まれに由来するもので、Pietro di Cristoforo Vannucciが本名です)(1446-1524)はウンブリア派を代表する画家だそうです。この作品は「三博士の礼拝」、「ヨハネによる洗礼」、「サマリアの女」と合わせて4枚でイエスの一生を表したものの一つで、1500年から05年にかけて制作されました。
「サマリアの女」とはユダヤ人と仲の悪かった異教徒のサマリア人の女からイエスが井戸の水をもらい、代わりに永遠に乾くことのない救いを与えたというエピソードです。これもフィレンツェの近くの教会の祭壇のたぶん下の方にはめられていたものでしょう。イエスの誕生と死後の復活の間に水に関係のあるエピソードを入れたのを始め、全体の調和がよく考えられています。
まだ、かなり残っているので次回に続きます。
まずジョルダーノは天使の顔がこわすぎる…マリアが触らないようにニラミを利かせていますね。
ラッギのは確かに実物を見てみたいです。
プロンジーノの後ろの二人組のセリフ「ちょっと、あのふたりどう思うう?」
ポントルモ、色と光が鮮やかで惹かれます。マリアの顔が険しくなければこれ部屋に飾りたい。
パルドゥング、このポーズ、この頭と胴体のバランス、これはどう見ても今静かなブームの「きいちのぬりえ」でしょう!
サストリス、題材のことを気にしないならばこれが一番部屋に欲しいです、オペラの1シーンみたい。確かになんかリッチな気分になるから。
ペルジーノ、高松塚古墳の調査?
などなど、またごはん3杯て言われないようになるべく割愛しました、ふう…
ブロンジーノの冷たい表情からそういうドラマを導き出すのはやっぱその手の話が好きだから……もといオペラで鍛えてるせいですねw。
きいちのぬりえは知りませんが、たぶんそんなところでしょう
サストリスはリッチなおうちにぴったりです
ペルジーノは古墳っぽいですか。。後世に大事に伝えてほしいものです