オーディオの悪魔②

　さて、大型家電量販店の２階と４階の３つの売り場をうろうろすること１時間、だんだん頭が朦朧としてきます。そうなってようやく決心がつくというのが症状なんですね。風邪をひく時に喉が痛くなって、熱が出て、鼻がつまって治るとかそういう展開があると思いますが、それと同じです。寝込むことはないので風邪ほどではないんですが。

　で、結論を簡単に言うと２本で７千円の木の色そのままで木目が美しい小さなスピーカーにしました。店員に「これください」とまるで日本語が不自由な人間のように言うと、店員が在庫を確認に行きます。なかなか戻って来ないので、ここでまたまた目移りがしそうなのを抑えるのが大変です。
「申し訳ございません」
「ん？」
　なんか嫌な予感がします。在庫がなかったら私の貴重な１時間はどうなるんでしょう。
「あの、ブラックならあるんですが、よろしいでしょうか」
　ガーン。何？そのびみょーなはずし方は。私が見た目で選んだことを見透かされてみたいじゃないですか。そんな女性を選んでるんじゃないんだから、いやその、女性だって見た目じゃないですよ。ましてやスピーカー、肝心なのは音ですよ音、聴いてないけど。……
「うん。……いいよ」
「お買い上げありがとうございます。梱包してまいりますので」
　まあ、PCも黒だからいいか。いや、最初から黒がいいかなって思ってたんだよ。ははは。……なんで自分で自分に言い訳してるのかよくわかりません。

　それからまたかなり時間が経って、梱包したのを見るとデカイ。
「けっこう大きいんだね」
「はい。梱包材がありますので」
　店員はどうも品物を間違えてるんじゃないかって言われたように思ったようです。そんな複雑なことを考えるような知性はとっくに失われていて、こんなの持って地下鉄乗るのってなんか恥ずかしいなって思っただけなんですが。あー、重いな、ここの包装紙って店の宣伝をさせられてるみたいだし、てなことをまたぐっちゃらぐっちゃら考えながら、猫背の背中を一層丸くして店を後にしました。モノを買った喜びがなかったのはその後の運命を本能的に予感していたのだろうと思います。

　家に帰って、早速梱包を開けて、イメージ写真なんかみたいにして置いてみます。うんうん、いいじゃないって既に満足しています。新しい服を買ってきて着てみない女性ってかわいげがないでしょ？それとほぼ同じです。足元には発泡スチロールだの段ボールだのが散らかったままです。
　ところがアンプにつないで見ますが、音が出ません。おっかしいなぁ。PCをいろいろいじったり、ポータブルCDプレイヤーもつないでみますが、ダメです。うー、うーとむずがっちゃって、あげくもうやだって破壊衝動が起きそうになったところで、ハタと気がつきました。このアンプはサラウンド用のジャックをショートさせておかないとダメなんだと。なーんだ。そうだったのか。あはは。しばらく使ってないんですっかり忘れてました。何より最初に買ったときにショートピンをあっさり捨てたのが間違いだったんですが。

　音が出てくるとコロッとご機嫌になって、次々といろんな曲を掛けてみます。うーん、やっぱり音が違うなあ。満足満足。……しかし、悪魔はまだまだ満足していなかったのでした。続く。もういいよって言われそうですが、人の話は最後まで聞きましょう。聞いたからってなんにもいいことはないですが、でも続く。