「シャイニング」はキューブリックの作品が有名ですが、それに不満を持っていた原作者のスティーブン・キングがプロデュースしてテレビドラマで作ったものです。どっちがいいとか悪いとかいう以前に2つの作品は原作と映画化の関係を鮮やかに表わしていると思いました。
私は原作自体は読んでないんですが、キングの小説はいくつか読んだことがあって、このドラマを見ていると彼のもって回ったような文章が思い浮ぶような感じがしました。そういう意味では原作の雰囲気を伝えているのはこちらということになるんでしょう。しかし、それだけに90分×DVD3面と思いっきり長くて、「もうさっさと暴れちゃってよ」と言いたくなります。小説の運びと映画の運びは違うし、テレビドラマはこれまた違うんでしょう。
キングがキューブリックの作品が気に食わなかった最大の理由は「家族間の愛憎」というテーマを切り捨てたことじゃないかなって思います。キューブリックの映画には観念や妄想に憑りつかれた人間はいっぱい出て来ますが、情愛深い人間はちょっと思いつきません。彼はイメージを映像化することに執着した人で、人間の感情を描くことには熱心ではなかったと思います。それが彼が作る画面の異常な緊張感を生んでいる原因の一つでしょう。それとは対照的にこのドラマでは夫婦、親子の愛情がたっぷりと描かれています。と同時にアルコール依存症の父親をめぐる家族内のいざこざも執拗に見せられ、断酒会の教材にぴったりじゃないかって感じです。……つまり「ただのホラー」では原作者は満足しなかったんですね。
こう言うとキューブリックの映画が「ただのホラー」みたいですけど、まあそうかなって思います。「2001年宇宙の旅」や「時計じかけのオレンジ」を始めとして、彼の映画は深遠な意味が含まれているようにも言われますが、それを言葉にしようとするとうまくつかめないで、曖昧になったり、取りこぼしたりする部分があるでしょう。私はそんなものにかまけるよりは映画として「ひたすらおもしろいもの」を作った人だと考えた方がいいんじゃないかと思っています。その材料として使えると思ったからキングの小説を好きなように使ったんでしょう。彼はオリジナルのストーリーを作るのは苦手だったみたいですが、原作を自分の表現したいものに自由に改変する能力は抜群だったんだろうと思います。原作と無関係に映画を評価すべきであるというのが私の考えですが、その好例が2つの「シャイニング」だと言うと……どっちがいいのか言ったことになっちゃってますかw。
それを原作者が気に入らないのもまたわかるように思いますね。