6月7日の読売新聞朝刊に私の
インタビュー記事が掲載されましたのでお知らせします。随分と積極的投資論者のように書かれていますが、私はあくまで選択的投資論者で、あきらめざるを得ないインフラ整備は沢山あると思っています。公共投資は後約15年で底をつき、新規投資は不可能になります。その後は更新・維持費が公共投資の総額を超えることになるので、現存するインフラも切り捨てる事態が発生するのです。国土計画は縮退がテーマになることでしょう。
第5部・未来への提言<中>西南学院大教授・野田順康さん
2018年06月07日
特集 興す
◆大胆なインフラ戦略必要
――九州、山口の潜在力をどうみるか。
「日本は人口が減り衰退局面を迎えている。生き残るにはアジア、大陸の活力を取り込む以外にない。アジア各地に近い九州は大陸のエネルギーを受け入れやすく、日本の中で最も経済的な潜在力がある」
――インフラ(社会基盤)戦略はどうあるべきか。
「大陸は中国の一帯一路構想で活気づいており、その力を取り込む戦略が必要。港湾では、クルーズ船対応も含めた博多港や長崎港の機能強化が重要だ。材木積み出し港の志布志港(鹿児島県志布志市)、物流拠点の細島港(宮崎県日向市)の整備も進める必要がある」
「福岡空港は、2024年度に2本目の滑走路が完成しても容量が足りなくなる可能性が高く、LCC(格安航空会社)の路線を北九州空港に移管することを考えるべきだ。九州地方知事会と経済界は、アジア、大陸の息吹を取り込むために、大胆なインフラ戦略を打ち出す必要がある。朝鮮半島の平和を前提に、韓国・釜山と九州北部をトンネルで結ぶ議論も必要になるだろう」
――九州はまだ高速道路網の整備も終わっていない。
「一部しか完成していない九州中央自動車道(熊本県嘉島町―宮崎県延岡市、総延長95キロ)や、東九州道の宮崎、鹿児島両県内の未開通区間は、南海トラフ巨大地震に備える防災対策という面もあるため、投資余力がある今後15年程度で可能な限り整備した方が良い」
――一方、国や自治体の財政難に加え、今後はインフラの維持管理費が増える。
「ドローンやAI(人工知能)など、維持管理費を削減できるテクノロジーをあらゆる形で使うべきだ。維持管理費を減らせれば、新規投資の余地も生まれる」
――民間資金の活用は。
「山口県下関市と北九州市を結ぶ新しい『下関北九州道路』(約8キロ)は、収益性に着目して民間が融資するプロジェクトファイナンスで実現できる可能性がある。欧州では英仏トンネル建設などで民間資金をうまく活用しており、税金だけで整備するという意識を変えるべきだ」
――九州の中枢拠点・福岡市はどう動くべきか。
「市が掲げる『アジアのリーダー都市』という言葉と、現実はかけ離れており、現状程度で満足しては駄目だ。香港やシンガポールと競争できる都市を目指すべきだし、潜在力は十分ある。福岡市の競争力が上がれば、九州や日本全体に波及する」
――福岡市がアジアの中核都市となるための提言は。
「地方税減税などの誘因で、国際企業のアジア本部などを誘致し、働く場を大幅に増やす必要がある。一年中、外国人が訪れたくなる行事がある『イベント都市』になることも重要」
「インフラは、福岡空港国際線ターミナルへの市営地下鉄延伸を考えるべきだ。都心部では、天神のすぐ北の競艇場を移転させ、市民や観光客が憩えるウォーターフロント地区にすることを検討してはどうか。さらに北側の須崎ふ頭(現在は穀物倉庫などが集積)も再開発し、オフィスや住居などの都市空間に転換させる必要があるだろう」
のだ・としやす 北海道大大学院修了後、1979年に国土庁(現国土交通省)に入庁。国交省では国土形成計画の策定を統括する総合計画課長などを歴任。国連人間居住計画(ハビタット)のアジア太平洋地域本部長も務めた。2013年から現職。博士(人間環境学)。京都府福知山市出身。64歳。
2018年06月07日 Copyright © The Yomiuri Shimbun