野田順康 

つぶやき

世界ハビタット・デー2008福岡国際シンポジウム

2009-03-13 17:04:12 | Weblog
基調報告(要旨)
1985年の国連総会決議により、毎年10月第1月曜日を「世界ハビタット・デー」と定め、世界の居住の状況について様々な国で議論を展開し、今後の適切な住まいや居住の在り方について考えて頂く日とされております。近年のテーマは、「持続可能な都市」が一つの基本的な方向になっています。具体的には、2003年以降、安全な水や都市と農村のバランス、国連の開発目標、都市の磁力、安全・安心といった観点から「持続可能な都市」について議論し、今年は「調和ある都市」、バランスの取れた都市を考えてみようということになりました。その裏側にあるのは、実は「バランスが取れていない」世界の現状です。

始めに少し日本の話をいたします。日本は、第1回の全国総合開発計画の時代から、「調和ある都市」、「均衡ある発展」について議論してきた国で、第2次全国計画でも豊かな環境、第3次では総合的な居住環境について言及しています。第4次では、分散的国土構造、バランスの取れた都市構造について述べていますし、5回目の全国計画でも「多軸型」ということで、日本という国を「バランスよく作っていく」ことを議論してきたと理解しています。
直近の「国土形成計画」においても、「持続可能な地域の形成」に重要なポイントがありますし、「美しい国土」という観点もこの調和ある都市と関係しており、「調和ある都市・地域づくり」が十分に議論されていると理解しています。

一方、世界及びアジアの状況ですが、例えば人口推移をみると、1985年に48億人であった人口が2000年に61億人、現在2008年67億人となっています。世界の総人口はこの間約20億人増え、2030年までにさらに16億人増えると推計されています。この16億人がどこに張り付くかというと、主に発展途上国の大都市もしくは都市です。それもいわゆるスラム地域に張り付いて、人口が非常に偏在化します。今でさえ偏在状態なのに、2030年に向け発展途上国のスラムで急速な人口爆発が発生し、結果的に、各種の社会的サービス、水供給や下水道といったサービスも、非常に偏在する状況にあります。
経済的格差もまた注目すべき点で、今、発展途上国では都市と農村の間の地域的な水平格差、つまり所得格差と消費格差が広がっている状況です。また、都市内を見ましても、いわゆる富裕層と貧困層の「垂直格差」も拡大しているのが現在の途上国の姿で、一つの国の中に富裕層が作る光の経済・明るい経済という部分と貧困層が作る影の経済が並存し、それをどう調和させるかが大きな課題になっています。
過去15年間の所得格差・消費格差の拡大あるいは縮小について、いわゆる「ジニ係数」という経済統計上の数値で見ると、タイやマレーシアなど一部格差が縮まった所もありますが、大半は格差拡大の傾向にあり、お隣の韓国も格差は拡大しています。日本も、統計上明確なものはまだ出ていませんが、新聞等々での議論にあるように、さまざまな形で「格差社会」の議論が進んでいます。
このような状況を踏まえ、今年のハビタット・デーのテーマ、「調和ある都市」が設定されています。来月(11月)3~6日には、中国の南京市で「世界都市フォーラム」が開催され、ここでも「調和ある都市化~均衡ある発展への挑戦」というテーマで、ハビタット・デーの議論も踏まえて、調和ある地域づくりについて更に議論がなされます。

「調和ある都市」実現のポイントをいくつか挙げますと、第一は「空間的な調和」です。人口や経済成長が非常に空間的に偏って進行している状況で、均衡させていくには、中央政府や地方政府の政策が非常に大きく影響してくるでしょう。特に交通、通信インフラの整備ではその影響が大きいと言えます。ソフト面では、ハビタットの世界的な経験から、分権型行政システムがバランスある地域形成に重要と分かってきています。
 第二は、社会的公平性と寛容性のある都市。いわゆる「社会的調和」ですが、水・衛生・医療サービスも、地域的に偏在しています。人口爆発の結果、今後スラムがさらに拡大する予測ですが、スラム地域では医療・水といった社会的サービスが不足し、その格差も大きくなるわけです。そういう問題にどう取り組むかについては、当然政府の役割も大きいのですが、例えば2030年までに約16億人増える中、彼らの生活改善のためにいわゆる「政府開発援助」のみで対応することは難しいというのが現実です。国連ハビタットは、様々な住宅の整備、コミュニティーの整備、インフラの整備を、基本的に住民主体で行います。住民が、自分で住宅を建て、インフラを整備することによって、低価格でスラムの改善事業、地域の改善事業を進めています。政府開発援助ももちろんですが、住民主体型プロジェクト(People's Process)を精力的に進めることによって、財政の逼迫を補っているのです。
 第三は、生産性が高く平等な都市の実現、いわゆる「経済的調和」です。日本だけではなく、アジア太平洋地域全体を見回して、富裕層と貧困層の格差は確実に開いています。特に自由経済主義・自由競争の中で、貧しい者はいつまでも貧しく、富める者は益々富むのが、今のアジア太平洋地域等で起こっている格差の拡大であり、これが進めば社会的により不安定となります。この格差をどう是正していくかは、「調和ある都市づくり」で重要ポイントになってきます。日本の場合は、先ほどお話ししたように、財政の再分配、国税で吸い上げたものを地方に再分配する機能が整備されていたため、格差はかなり小さい国となっているわけです。しかし、途上国の税・財政システムの多くは、再分配機能が十分に組み込まれていないので、その辺を今後どう考えていくかが重要な課題になると思います。
 第四は、人間が造った人工的な構造物と環境とのバランスをどのように実現していくかという、「環境的調和」です。最近は、地球温暖化の話などもあって、消費パターン等について、CO2排出量の削減に世界的関心が高まっています。「環境負荷の最小化」が都市づくりの中でも非常に重要で、その結果「調和ある都市」が実現すると考えているわけです。特に欧州・カナダといった国々では、CO2排出量を可能な限り削減すべく、公共交通システムの整備が盛んです。「コンパクトシティー」という概念に由来するもので、「効率良くまとまった都市をつくろう」という方向です。途上国の場合は、そういうコンパクトな都市ではなく、わっと広がっていく、いわゆるスプロール的に都市が形成されていく状況にありますが、それも含めて、人工構造物と人間活動と環境との調和をいかに図っていくかが重要になってきます。最近では、自然を壊して新しく人工構造物を建てない、一般に「スマートプランニング」と言われていますが、「新たな森林伐採による都市開発はしない」ということも、スカンジナビア諸国やカナダなどの国土計画で導入されはじめています。
 第五は、都市の歴史性や培われた精神の保全、「文化的調和」です。近代的な建築がどんどん導入されて、都市がこれまで持っていた歴史的・文化的遺産が失われるというケースがたくさんある。その結果、歴史的に育まれてきた「都市の精神」、アイデンティティが失われています。日本でもよく「歴史的町並み保全」の取組みを聞きますが、途上国においても、多くの文化遺産を持った地域もたくさんあり、これも十分に考えねばならない。
 第六は、「あらゆる世代のための」都市の実現。これは「世代間の調和」ということになりますが、都市づくりの中で高齢者・若者・身障者・女性といった方々の意見を十分に取れ入れているかどうか、一つの課題として注目されているわけです。それぞれの世代、またそれぞれのグループによって、都市計画の中での役割が確実にあるということを、十分に考慮しなければならない。特に今、教育や介護、スポーツ、音楽などいろいろな機会を通じて、社会や世代間の絆をどう強めていくかということが重視されています。この点も「調和ある都市」実現のための、重要な要素と考えています。
 
最後に、「福岡は調和ある都市か?」という点に触れておきます。1997年、「Asian Journal」という香港の雑誌が、アジアの中で最も住みやすい調和の取れた都市として福岡をナンバーワンに取り上げましたが、最近も、2005年の「ウォールストリートジャーナル」が「世界の七つの住み良い都市」を選んだ際、福岡がこの中の一つに入りました。2006年には、「ニューズウィーク」が、バンクーバーで開催された私どもの第三回世界都市フォーラムをフォローする形で世界の「最もダイナミックな」10都市を選び、その中にも福岡が入りました。「Asian Journal」、「ウォールストリートジャーナル」、「ニューズウィーク」と、福岡は続けて注目され、2005年頃からは様々な場面で福岡の名前を見かけるようになりました。つい最近も、2007年から「世界で最も住みやすい都市」というランキングを作っている英国の「MONOCLE」という情報誌で、(2007年は番外でしたが)2008年には第17位でランクされました。同じランキングの第3位が東京なので「どうか?」と思う方もおられるでしょうが、編集者が、人口・教育・犯罪など各種統計を基に議論の末、25都市を選んだものです。「MONOCLE」の支社は東京にもあるため、東京では調査も進めやすかったのでしょう。しかし、東京から見ても福岡が「世界で住みやすい都市」の中に入るということは、皆さまが感じられる以上に、福岡という都市に注目が集まっていることを示しているのではないでしょうか。福岡が「調和ある都市か」といえば、世界標準と比べるとかなり「調和ある都市」だと私は思います。ただ、福岡も人口が増加します。今約142万人ですが、推計では180万人を超え、福岡都市圏では約250万人になる。人口増圧力の中で、「調和の取れた都市」をどう維持するかが福岡の課題だと申し上げて、私の基調報告にさせていただきます。