野田順康 

つぶやき

知恵が光る国めざそう

2008-03-05 10:45:50 | Weblog
2008年3月4日 西日本新聞朝刊
潮流

日本が選択すべき道
知恵が光る国めざそう

国連ハビタット アジア太平洋事務所(福岡)所長
野田順康

「もはや日本は〝経済は一流〟と呼ばれるような状況ではなくなった」。大田弘子経済財政相は一月の通常国会の経済演説でこう述べ、日本の経済力の地位低下を指摘した。報道等の扱いは小さかったが、その後も賛否両論が相次いでいる。
国際社会で仕事する私の目から見れば、大臣がこのような発言を出来るところまで、日本社会も国際的な状況を受け入れ始めたのかなと思った。私自身は一九九五年ごろ、海外メディアのアジア本部が相次いで東京を離れ香港等に移動したとき、情報に敏感なマスコミがいち早くアジアの情報中枢の変化と日本の地位低下を察知したと考えていたからだ。また正直なところ、八三年に国連勤務を始めて以降、国際社会で日本が一流国として扱われないケースを数多く見てきたという思いもある。
九六年ごろ、私どもの事務所の開設過程で、急成長する中国やインドとの連携を説いたが、日本側の反応は鈍かった。五、六年前にもアジア連携の重要性や中国の急成長を説明したが、まだ中国のソフトは未熟として理解されなかった。ここに来て一挙に足元の不安定感を悟ったかのように、中国、インド脅威論が出始め、昨今はもうとても中国には勝てないといった厭戦気分まで漂う。そのような状況の中、大田大臣は「もう一度、世界に向けて挑戦していく気概を取り戻す」と気合を入れたのだろう。
私は、まず正確に日本のポジションを把握することが大切ではないかと思う。そもそも日本は昔から一流国であったわけではない。基本的には大陸からの影響を大きく受け、その横に静かに存在してきた時間が長い。日本が一流国と取りざたされたのは日露戦争に勝利してからといわれているので、まだ一世紀。先の大戦後の低迷を考えれば、経済大国といわれた期間は短いと言わざるを得ない。
とはいえ経済推計によれば、二〇二五年ごろに国内総生産(GDP)で中国に抜かれる見込みではあるものの、現時点ではまだGDP世界第二位。経済協力開発機構(OECD)等の国民の豊かさ指標を見ても上位に入る国家である。国民の生活の質とか平等性、それを支える社会システムの妥当性等を考えれば、先進国の中でも立派な国である。そう一挙に悲観する必要もないし、次のステップへの十分な準備期間もある。
特に、急成長するアジア各国では所得格差と地域格差が同時に拡大するという難題を抱えており、社会的安定性に欠ける面がある。もちろん、日本国内にも格差はあり、昨今ではワーキングプアーや限界集落など取り残されそうな集団に注目が集まってはいるが、アジア諸国と比較した場合、生活の豊かさや地方部の文化的・空間的魅力は高く評価できると思う。
さらには、欧米、アジアにおけるジャパン・クール(日本かっこいい)熱も続いており、日本のアニメ、ファッション、アートなどに注目が注がれている。日本ブランドの技術やソフト・パワーに対する関心も引き続き高い。
二月十三日、国土審議会から新しい国土計画(国土形成計画)に対する答申があり、強い日本への処方せんが示された。東アジア連携を重視するというパラダイム・シフト、官から民(市民)による国土管理(国土の国民的経営)など未来に向けた新しい考え方や社会規範が描かれている。人口減少を好機ととらえ高度成長期に生じた国土のひずみを解消することもうたわれた。
大国主義の時代が終わり、新しい尺度で立国していく時代になったことを十分認識すれば、山紫水明の知の拠点として、安全・安心な生活を確保した「知恵が光る国家」であり続けることができるのではないか。