世の中には、偶然の出会いがあるものだ。
木村勇作は、4番目の職場で山崎瑞奈と隣りの席に座ることとなる。
その企業は、日本橋の本町の漢方薬卸商店の2階にあった。
本社が大阪であり、支社長の久保田勝男は元社長で顧問の久保田勇作の息子であり、父親に頭が上がらない様子であった。
元の職場の先輩で勇作を、新しい職場に誘った水島翔太が右端の席に座ってた。
その席の前には、課長の大野一郎がいて、その隣に中川洋子が座っていた。
さらに隣には、本田晃が居た。
わずか約30坪のオフィスであり、離れた一角には二人のタイピストが居た。
また、集金係で中年女性の大野まつが居て、その隣り係長の園田五郎が座っていた。
経理担当兼秘書の西京子が窓の一角で久保田支社長と席を並べて居た。
昼の時間となり、勇作は思わぬことに隣の席に座っていた山崎瑞奈から食事に誘われたのだ。
「間違いでなけば、あなたとは、都市センタ―の大ホールの席で会っているわ」瑞奈は神田駅方面へ向かう路上で言うのだ。
前の職場では、社長より先に退社してはならないとの理不尽な社内規定があるために、二期会の新春オペラコンサートの開演に勇作は、15分ほど遅れたのだ。
偶然にも、勇作の席は山崎瑞奈と隣り合わせだった。
だが、女性とは個人的に交際したことがない勇作は、美形でしかも赤いミニスカートの女性に臆したのだ。
ハイヒールも赤であった。
そして、セーターは徳利の黒であった。
職場の瑞奈はベージュのミニスカートと黒のハイヒールで、赤のセーター姿だった。
「あなたの入社祝いに、私、ご馳走するわ。何にする?」勇作は、その甘い鼻に響くようなソフトな声に惹かれたのである。
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