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おばあちゃんの思い出

2011年05月16日 | ショートショート



休みの日。最近やっと時間にゆとりができたんで、のんびりと部屋片づけをすることにした。
久しぶりに奥の部屋の押し入れを開けてみてびっくり。下の段の奥、古着の詰まった衣装ケースの隣におばあちゃんが座ってるじゃないか。「おばあちゃん、ゴメンゴメン」
正座したまま、丸く固まったおばあちゃんを引きずり出した。ホコリを被ったおばあちゃんはピクリとも動かない。
えっと、何カ月くらい前にしまっただろう。やべぇ、今年の正月も去年の正月も入れたまんまだった。
もう二年、いや二年半も押し入れに入れっぱなしだ。
縁側まで出して、はたきでパタパタホコリを払って、そのまま日に当てて、ボクは部屋の片づけをした。
小一時間掃除をして縁側に行くと、おばあちゃんはもう目を覚まして庭を眺めていた。
ボクが熱いお茶を差し出すと、黙ってゆっくりすすった。
「最近ずっと忙しくって忙しくって」
ボクがつまんない言い訳しても、おばあちゃんは目を細めて微笑むだけだった。
その晩、おばあちゃんはボクの大好物の筍の木の芽和えと、ビチャビチャの黄色いカレーを作ってくれた。
夜、奥の部屋で先に床に入ったおばあちゃんの隣にフトンを敷いて、ボクはぐっすり眠った。
翌日も翌日も。
なんでこんなにあったかい生活を忘れかけていたんだろう。おばあちゃん、ずっと大切にするから。
ずっと。ずっと。
本当だ。本当にそう思っていたのだ。おばあちゃんとまた生活を始めてしばらくは。
でも三カ月後、会社の飲み会で同僚の女の子とすっかり意気投合しちゃって。ついつい飲み過ぎて。気がついたら朝、彼女の部屋で目を覚まして。
気まずかったけど、夕食のとき、おばあちゃんに切り出した。
「ねぇ、おばあちゃん。今度の週末さ、彼女、うちに料理を作りに来るってはりきってんだ。ちょっと押し入れに入っててくれない?」
おばあちゃんの箸がピタリと止まった。ヤバイ。
「いや、ちょっとだけだから。絶対忘れないから。ね、お願いだよ」
おばあちゃんはニッコリうなずくと、また箸を動かした。
翌朝、おばあちゃんは押し入れの下の段の奥に自分で入っていくと、チョコンと元どおりに正座した。
「ありがとう。ホントありがとう」
何度も礼を言って、フスマをガラガラガラガラ、ピシャリ。
大慌てでボクは独身男性ひとり暮らしって感じに部屋を演出し始めた。



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走馬灯

2011年05月15日 | ショートショート



なんだこの暗い場所は?
空間と言ったほうがいいだろうか、そこに自分は浮かんでいる。
背を丸めた姿勢で、手足をすぼめてフワフワ浮いているのだ。
「みんなのことは忘れないからね。さよなら」
前方から聞いたことのあるビロードみたいな声がした。
ミナコ先生!花束を抱えたミナコ先生が目の前で涙目で微笑んでいる。ミナコ先生、結婚しちゃイヤだ!幼稚園やめないで!
大好きだった幼稚園の先生に抱きついた。抱きついてみるとあんまり華奢で驚いた。それにミナコ先生の甘い香りじゃない。まるで砂ぼこりみたい。
「何すんの!やめてよね!」
この声は。顔を見ると、それはミナコ先生じゃなくなっていた。トシ子!小学生のときにスカートめくりをしたら、ぶん殴ってきた女の子だ。いっつもオレを目の敵にしやがって。そのくせ転校していった日に、廊下で頬にチューしてきた。もう!どっちなんだよ!
トシ子にドンと肩を押されて、ボクの身体は空中を一回転、元に戻るとセーラー服の桜木さんになっていた。
優等生の桜木さんのこと、好きだったけど結局、声もかけずじまいだった。そしてやっぱり無言のまま消えて行った。
「がんばんなきゃ。ソレ言ったのアンタだかんね!」
一生懸命に励ます声。なんだ、一緒に就職した同僚の原田さんだ。体調を崩したと聞いていたが元気そうじゃないか。
「こっち見てよ。ね、本気なの?本気ならなんとかしてよ」
ワッ、その声はマリエさん!本気です、本気だけど、事情ってもんが。
びっくりするくらい楽しそうな笑い声がした。聞き慣れた声。妻の声だ。
「ホント、しょうがないなぁ。女のことばっかじゃないの。アナタの走馬灯って」
「え?走馬灯?人生の終焉に記憶が次々とよみがえるっていう?じゃあ死んじゃうのか自分」
妻が悲しそうにうなずいた。
「寿命に逆らうことなんてできないの。これまでありがとう」
みんながボクの周りで手に手をとって輪舞した。岡田奈々もアグネス・ラムも裸のお姉ちゃんもいるじゃないか。
さよなら。さよなら、みんな。

「あなた、起きてください。なんですか、ニヤニヤして。楽しい夢をご覧になりましたの?」
妻の声に目を覚ました。
生きている!走馬灯はただの夢だったのだ。ホッと胸を撫で下ろした。
それにしても、いい年こいて、まったく恥ずかしい夢を見てしまったものである。白髪頭を掻いて、苦笑した。
その時はまだ気がついていなかったが、その夢以来二度と勃ったことはない。



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ジンジョリーナ・ジョリーの陰毛

2011年05月14日 | ショートショート



都内某高級ホテルのスイートに3時間滞在後、ジンジョリーナ・ジョリーは次の宿泊先に移動した。
今年度マカデミー賞まちがいなしという評判の3D映画『アジャパー』の主演女優にしてセックスシンボル、それがジンジョリーナ・ジョリーだ。
ホテル搬出口から侵入、従業員の制服を拝借して着替え、宿泊エリア最上階のスイートに向かった。
ここだ。部屋番号を確かめると得意のピッキングで開錠した。
つい数十分前までジンジョリーナがここにいたのだ。深呼吸すると、甘い香水の香りがした。
しかしいつまでも酔ってはいられない。部屋から部屋へと物色し、浴室へ。
浴室中央に乳白色のバスタブが鎮座していた。浴槽内にまだ水滴が飛び散ったまま、そしてその底にお宝を発見。
これが、あのジンジョリーナの!
白手袋をはめた指先で、褐色の縮れたソレをつまんでかざした。これが、世界中の男たちを虜にしているジンジョリーナの。
思わず頬に、鼻先に。チロチロ当たってこそばゆ~い。ああ、くすぐったいよ、ジンジョリーナ!!
ジッパーつきのビニル袋に慎重に入れ懐に収めた。

その十五分後、ボクはタクシーに乗り込んだ。
ああ、わが人生最高クラスのお宝をゲット。
中学の頃、『ロードショー』を参考にファンレターを書いた。返事のサインカードが届いて狂喜乱舞、以来収集が始まった。
同好の士も垂涎のお宝の数々だが、全部が全部、通常ルートで手に入れたものばかりじゃない。今回のも含めて。
ああ、この喜びを誰かに話さずにはいられない!
「実はさっきのホテル、ジンジョリーナ・ジョリーが泊まってたんですよ」
・・・
そう言ったのは、ボクではなくて運転手のほうだった。
「この車に乗ったんですよ、お忍びでホテルに戻るのに。マネージャーとSPと一緒に。本物のSPってスゴイね。ゴッツイのなんの」
ジンジョリーナの乗ったタクシーに乗り合わすなんて。ボクはどこまでラッキーなんだろう。
「ジンジョリーナってホント気さくでいい人ですヨ。マネージャーにもSPにも気をつかってねぇ」
そうだろう、そうだろう。
「せっかくのスイートだけど打ち合わせや何かで忙しいから、かわりにシャワー使っていいってSPに言ってたんです。優しいでしょう?」
はい?
「ゴリラみたいにデッカイSPの兄ちゃんが顔をクシャクシャにして喜んでたなぁ。褐色の髪の毛ボリボリしながら」
ボクの頬と鼻先が、猛烈にむずがゆくなってきた。



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13日の金曜日

2011年05月13日 | ショートショート



「今日ってぇ、13日の金曜日だよネ。ミユユ、怖い~い」
「美結ちゃん、大丈夫さ。ボクがキミを守るから」
「嬉しいキョホ!アキラ君、いるから怖くないもん」
助手席の美結ちゃんがウルウル目でボクを見守ります。美少女フィギュアそっくり、カワユ~い!!
今日は、美結ちゃんと初デート。買ったばかりの新車で、ここ、クリスタルレイクにやって来ました。
ところが、湖畔をドライブ中、車がプスプス停まってしまったのです。湖岸沿いの寂しい道路、他に人も車も見えません。
「ね、いないよね・・・・・・?」
美結ちゃん、また不安になってきたようです。
「・・・・・・いないよ、ホラー映画じゃないんだから。それにキミは絶対大丈夫!」
「どして?」
「だって犠牲になるのは、ヤリまくってる端役の男女だよ。美結ちゃんみたいな主演級清純キャラが最初に襲われることはないんだ」
「ミユユ、男の子とお出かけしたのも初めてだもん。早くおうちに帰りたいよ、クスン」
そのときです。フロントガラスの前に、ヌッと奴が現れたのです。ホッケーマスクを被って、大きな肉切り包丁を持った・・・・・・!
「キャアアアアア!ウソばっかし!出たじゃないの・・・・・・!」
「た、助けてくれ!ボクたち、最初に犠牲になるタイプの擦れっ枯らしアベックじゃありません。ボク童貞なんです」
「アタシだって」
バン!怒り狂った奴はボンネットを殴りました。新車がボッコンへこんで、ボクまでへこみました。やりすぎだよ・・・・・・。
「正直に言います。アタシ、えっと、13人とつきあいました!でもこの男とはまだヤッてません!ゆるして~」
奴が肉切り包丁を振り上げます。
「・・・・・・殺るなら、こっちの男だけにして!助けてくれたら何でもサービスしますから!」
奴はうなずくと運転席のボクのほうへやって来ます。その隙に助手席の美結ちゃん、車を降りて猛然とダッシュ!アッという間に逃げていきました。
ボクは車を降りると奴と一緒に、どんどん小さくなっていく美結ちゃんの後ろ姿を見て大笑いです。
「タカシ、協力ありがとう。カマトトしてても中身はあんなもんだ。目が覚めたよ」
一緒に腹を抱えて笑っていたタカシ、なんで喋らないんでしょう。
「おい、もうマスク取ってもいいぞ」
そう促すと、ゆっくりとマスクを取りました。・・・・・・!
キャアアアアア!

「ふ~ん。え?それで話はオシマイ?じゃ、結局そのホッケーマスクの男、何者だったの?本物のタカシ?それとも?」
「話、最初からちゃんと聞いてた?7回も出てたヨ、犯人の名」
「そんなに?気がつかなかったな。で、犯人の名は・・・・・・?」
「あ、それ正解!・・・・・・だって何度も言ってたじゃん」
「そっかぁ、・・・・・・かぁ!中点6個。てんでわからなかったなぁ」
「あ、おまえ、後ろ、後ろ!!・・・・・・」
「え!?キャー・・・・・・!!」



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歯車

2011年05月12日 | ショートショート



「マサルさん、大丈夫?」
社長室を退出してフラフラと歩き始めたボクを、レイコがこっそり追いかけてきた。
ボクたちがつきあっていることは社内では秘密だが、いてもたってもいられなくなったらしい。
「あ、ああ。大丈夫さ」
と言ったものの、とても大丈夫な状況じゃなかった。
こんなにも簡単に人生が狂い始めるなんて。
国内で圧倒的シェアを誇る歯車製造販売会社で異例の速さの昇進、若手のホープともてはやされた。
高嶺の花とあきらめていた、社長秘書のレイコのほうからボクを誘ってきて恋仲になった。
順風満帆、輝く未来を疑うことはなかった。昨日まで。
そのニュースを知ったのは、レイコの部屋でシャワーを浴びてくつろいでいたときだった。
某県の工場でプレス機が誤作動し死傷者が出たというのだ。遠い町で起きた、知らない工場での事故。
そして今朝、社長室に呼ばれた。
「野崎君、困ったことになったよ。あのプレス機にわが社の歯車が使われていた」
「しかし責任はプレス機を製造した会社にあるでしょう?」
「歯車が割れたのが原因と言うんだ。うちの歯車の強度に問題があったらしい」
「責任転嫁ですよ」
「あの会社の販売担当は君だから耳に入れたのだよ。わが社としては毅然として非のないことを主張するつもりだ」
社長室を出たあと、レイコに励まされて少し気が楽になった。

午後、再び社長室に呼ばれた。
「野崎君、テレビは見たかね?」
ボクが首を振ると、社長がテレビをオンにした。某暴露番組の一部。プレス機製造会社社長を接待しているボクの映像。
「どうしてこんな映像が?」
「出所はわからんが、癒着によって規格外製品を売りつけたという筋書きらしい」
「そんなバカな。うちの会社だけを悪者にして収拾しようなんて」
「うちの会社?野崎君、あの会社への販売は君が独断でおこなったことじゃないか。私は一言も聞いておらんよ」
エ?
「これは背信行為だよ。残念ながら君にはやめてもらう」
茫然自失、社長室を退出した。レイコが追いかけてきた。今朝と変わらずボクを気にかけて。ああレイコ、君だけだ。
「野崎さん、大丈夫ですか?」



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粗忽先生

2011年05月11日 | ショートショート



学校にまにあわない!
教師のくせにまた遅刻です。校門駆け抜け、職員室にダッシュ。もう職員会議が始まっている頃です。
「スミマセン!寝坊しましたっ」
と駆け込んだ職員室はガラ~ン、校長先生も教頭先生もだ~れもいません。
え?先生全員寝坊?
仕方ありません。出席簿を手に教室へ。
「みんな~、おっはよー!」
シーーーーーン。
教室にも誰ひとり生徒がいません。
ど、どうしたんでしょう、これは。
教室の時計はまちがいなく8時30分。オイオイ、全員そろって遅刻かぁ?
廊下に出ても、やっぱり静まり返っています。校舎全体、だ~れもいないようです。
はは~ん。さすがに鈍いボクでもわかってきましたヨ。この状況で考えられるのはただひとつ。
インベーダーによる地球侵略。
人類消滅作戦の犠牲となった憐れな同僚及び愛する生徒たちのために、ボクが仇を討ってやる!出てこいっ侵略者!!
ガラガラガラ!
ややっホントに出てきちゃったぁ!
「あ、底津先生、おはようございます」
ハゲチャビンのその頭は・・・よ、用務員さん!いや、用務員さんになりすましたタコ火星人にちがいありません。
「用務員さんに、この地球は渡さないっ」
「はい?底津先生はやっぱ粗忽ですのォ」
え?粗忽?失敬な。
「今日は日曜日じゃないですか」
エー!!休日なのに出勤しちまうなんて、こいつは迂闊でした。
「悪い悪い。明日、出直してくるよ」
って頭掻き掻き帰ろうとすると、用務員さんが呼びとめます。
「あのォ、底津先生、遅刻が多いんで先々週あなた、学校クビになりましたよ」
エー!!やったぁ!じゃ、月曜日、来なくていいじゃん。クビになったのも忘れちゃうなんてホ~ント粗忽。
「それに先生、先週クビになったのを忘れて出勤中、バナナの皮にすべって転んでポックリお亡くなりになりましたよ」
エー!!ボクが?
「・・・てことは・・・てことは・・・ボクって幽霊じゃん!キャー!!」
「幽霊を見てびっくりするのはワシのほうでしょ、ホント粗忽だなぁ。
アレ?先生!底津先生!気絶してるよ。幽霊なのに気絶してノビちゃって、やっぱ先生、粗忽だわ」



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母の日三題

2011年05月10日 | ショートショート

母の日。母さんに真紅のカーネーションの花束を手渡しました。

「まあ、ありがとう。わたし、この花だ~い好き」

バリッバリッバリッ、ムシャムシャムシャ。

「アハハハ、母さん、そんなふうに食べちゃダメだって」

ボクは花野菜ドレッシングをかけてあげました。

バリッバリッバリッ、ムシャムシャムシャ。




♪母さんが夜なべをして手袋編んでくれた~♪

故郷の便りを開くと、母さんが肩を揺すって笑う声を思い出しました。

翌日、地球侵略開始。

ウルトラマンが邪魔しに来ました。えいっ冷凍光線発射!あ、手袋してたら出ないじゃ~ん。

というわけであっけなく退治されちゃいました。

トホォホォのホォ




窓辺で夜空を見上げるユミカちゃんの瞳から光るものがポロリ。園長先生がそっと肩をいだく。

「ユミカちゃん、お母さまはお星さまになられたの。お空の上からあなたのことを見守ってくださってよ」

「ユミカ、ママと会いたい」

ゴゴゴゴゴゴ!

太陽系の彼方、彗星K3が軌道を地球直撃コースに変更した。



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ミジンコ

2011年05月09日 | ショートショート



ちっちゃいことばかり考えていたら、ミジンコになっちゃいました。
いやソレ、困るなぁ。小さくってもさ、カナブンくらいはないと。
きっと夢だろうって、頬をつねろうとしたんですよ。でも、ミジンコの頬ってどこ?
ま、手もオールみたいに長くて届きそうもないのであきらめました。
水の中をピンピン進んでいくと、キンギョモの陰でミジンコに会いました。
「あ、横田くんじゃないか!」
同僚の横田くんです。なぁんだ、君も一緒なんじゃないかぁ。
人間のときの横田くんって、同い年のくせに若作りなんですよ。髪の毛もフサフサで。
ところが、横田くんの触覚、ヨレヨレに貧相になってるんです。薄毛だったはずのボクの触覚はホラ、こんなに立派です。
「あれぇ、横田くん、どうしちゃったの、ソレェ」
心配そうに言ったつもりが、つい声がはずんじゃいます。
「いやはや、小魚に追いかけられてね、やっとのことで逃げてきたんだよ。それがその魚、水島さんだったんだ」
水島さん、入社2年めの娘です。
「ボクたちがミジンコで、彼女が小魚なんて納得いかないねぇ」
「いずれ食っちゃおうと思ってたんだけどね、食われちゃうところだったよ」
「ハハハ、それにしても困ったなぁ」
「なにが?」
「ボクはね、この休みにPC買ったんだよ。最新CPU搭載のハイスペックマシン。もうじき届くはずだったのになぁ」
「ミジンコじゃ使えんなぁ。ボクだって昨日カレー作ったんだよ。宵越しのカレーを食べずじまいなんて残念無念」
「なんだよそれくらい。ボクなんか、昨夜レンタルしたAV、見てないままだよ。せめて牝ミジンコものに交換してほしいなぁ」
そんな話をウダウダしていると、横田くんが言いました。
「こんなだからボクたち、ダメなんじゃないか?もっとデッカイことを話そうよ」
確かに一理あります。えっとデッカイことねぇ。
「先週、人生最長のウンコ出たんだよ。水面から20センチ屹立してスカイツリー状態」
「そいつはデッカイなぁ~って、ちがうちがう!精神的にデッカイ話なんだよ。度胸があるっていうか」
「すき焼きにトマトケチャップを入れちゃうくらい?」
「いやぁ、それに納豆3パックぶち込むくらいじゃないと」
おや、横田くんの顔が真っ青です。ミジンコのくせに。オールみたいな腕で後ろを指さすと・・・
水島さん!
「食べないで!キャ~!!」
パニックになって、一目散にピン!ピン!ピン!

・・・とそこで目が覚めました。
ああ、夢かぁ。なんだよ、夢オチかよ~!
ホッとして額の汗をぬぐおうとして、オヤ?額はどこでしょう。腕もオールみたいに長くて。
そっか、ミジンコのボクが、ミジンコになった人間の夢を見ていたのか。
こいつぁデッカイ話だなぁ~。



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参加型増殖ショートショート『恐怖の狼男』

2011年05月08日 | ショートショート

狼男が出た?
休日の昼日中に?
金田巡査と石橋巡査は半信半疑、通報のあった結婚式場に急行した。
「通報、本当ですかね?」
「狼男なんて、実在するもんか。イタズラに決まってるさ」
とはいうものの、二人は拳銃に実弾が充填されているのを確認、安全装置を解除した。
もし本物なら、銀の弾丸でないと死なないんでは?そんな不安がよぎる。
拳銃を握り受付ホールを進んだ。そして披露宴会場の両開きドア前。中の様子をうかがう。
シ~ン。にぎやかな語らいもスピーチも、エレクトーンも聞こえない。
様子が変だ。どんな凄惨な場面が?
覚悟を決めて目で合図、ドアを蹴って突入した。
出席者たちは全員無事だった。気まずそうに着席している。
高砂席で泣き崩れる新婦の姿。困り果てる新郎、両親、仲人ら。
これは一体?
高砂席に向かう。
新婦をなだめる母親の声が耳に届いた。
「音子、お願いだから結婚しておくれ」
「いやよ、絶対!」
「すみません。事情を話していただけませんか?」
石橋巡査が説明を求めると、新婦が顔を上げた。
「彼の名前、オオガミだと信じてきたのに!まさか大神をオオカミと読むだなんて」
「そんなことで通報を?」
「そんなこと?アタシ、オオカミオトコなんて絶対イヤ!休みの日なんて、『今日オフのオオカミオトコ』じゃないの!お笑いネームの仲間入りなんて御免だわ!」
名前が気に入らないから結婚をボイコット?
「甘ったれるな!」
二人の巡査が一喝した。
「本官の名前は石橋渡。何度ポカポカ叩かれたことか!」
「本官は金田誠也だ。『カネダさ~ん、カネダせ~や~』、からかわれ続けた人生だ。その反動から本職をめざしたんだ!」
新婦が泣きやんだ。
バン!!
式場のドアから男女がなだれこんできた。
「お笑いネーム上等!あなたはひとりぼっちじゃない!」
そして次々と名乗った。

(さあ、あなたもオオカミオトコさんのお友だちの名前を考えてください。コメント欄に書いて投稿してくださったら、どんどん追加していきます。これは皆さんが名前を増やしていく、参加型増殖ショートなのだ!・・・ってことで、よろしくお願いします。)
・・・
伊井可 ゲン&仁科 犀!
伊井智代!
石田 タミ!
宇治 和貴子!
馬野 ミミ!
海野 月代!
海野 サチ!
海老戸 玉子!
大場 可奈子!
岡井 ケイ!
沖 アミ!
小田 真理!
鬼似 可奈望!
恩智 歌江!
金賀 有宋!
金賀 星衣!
兼子 丸代!
神尾 信二!
鬼頭 茂樹!
京橋 栄戸個!
栗野 カオリ!
黒井 瞳!
原子 力!
柴井 太郎!
城島 歩炉利!
総社 健!
尊志手 徳獲!
タヌキーノ・ポン・タ・チャーン!
通天 閣男!
椿 姫!
登呂 かつお!
中田 ルミ!
長井 運子!
南野 香織!
禿山 鶴雄!
花形 麗!
火和間田 登!
布蘭 健!
本間 香代!
毎戸 大木似!
牧 真紀!
真弓 阿呆!
水田 マリ!
目太母 太!
森永 千代子!
山田 伝紀!
脇野 圭!

新婦がすっくと立ち上がる。頬からまた涙がこぼれた。でももう悲しみの涙なんかじゃない。
「私、結婚します。大神音子になる。ケンちゃん、よろしくお願いします」
鳴り止まぬ拍手が新郎新婦を包んだ。

(ネームはあいうえお順です。参加いただいた皆さん・・・ヴァッキーノさん、かずさん、雫石鉄也さん、海野久実さん、りんさん、haruさん、もぐらさん ありがとうございます!)


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人気プロゴルファーの気持ちがちょっとだけわかる気がしました。

2011年05月07日 | ショートショート

あ~あ、疲れた。年度末の報告書類やらで残業残業、今日も遅くなっちまいました。
電車の客はマバラになって、座席にドッカリ腰掛け、窓外の闇をボ~ッとながめていました。
おや?
窓の外、数メートル先にぼんやりと白い顔が浮かんで見えます。
車内の客が映って見えてるんでしょう、周囲を見回しました。
それらしい乗客はいません。
まさか・・・
恐る恐る、その顔を凝視して、ボクは背筋が凍る思いがしました。
ボ、ボクをじっと見ている!
しかも、あの顔は音無さん!
音無さんはボクの会社に勤めていた、ひとつ年下の女性です。昨年末から病気で会社を休んでいたのですが、先週亡くなりました。
お葬式のとき、同僚が教えてくれました。音無さんはおとなくて、告白できずじまいだったけれど、ずっとボクが好きだったそうです。
その音無さんの顔が窓の外の闇にポッカリと浮かんで、電車と同じ速度でついてくるのです。
音無さん、成仏してください!思わず心で叫びました。
すると、ス~ッと顔がぼやけて消えていきました。

その晩、寝ようとしても、さきほどの一件が頭から離れません。
よし、気分転換するか。というわけでテレビをつけてエッチなDVDを見始めました。
まもなくボクは、すっかりエッチモードに切り換え完了。
パジャマとパンツ、まとめてゴソゴソ脱ぎ捨てて、下半身を丸出しに。
シュッ、シュッ、シュッ!
すばやくティッシュを抜き取り重ねると、準備万端です。
マイグリップ握りしめて、レッツゴー!
ん?
なんとも得体の知れない気配にふりむくと・・・
ゲッ
背後の壁に能面のように貼りついた顔がボクをじっと見てるじゃないですか!お・・・音無さん!!
「え・・・矢菱さん、見えるんですか?」
「見えるとも!ヤバすぎだろ!」
「ごめんなさい。私もあなたのプレイが見たくて・・・」
「私も?」
「ええ。あ、矢菱さんにはギャラリーが見えないんですか?」
「君以外にも、ギャラリーが?」
「ええ、私以外にも、所狭しと見守っていますわ。昨日も一昨日も。いつもどおり平常心でプレイしてください」
昨日も一昨日も、ボクのアプローチを固唾を飲んで見守り、ナイスショットに歓声や拍手が?
「こんな状況でオナニーできるかぁ!!」
・・・なんて怒って見せたのに、股間はさらに充実しています。
そ、そういうフェチだったのか、自分。



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マトリョーシカ

2011年05月06日 | ショートショート

オヤ、こんなところにマトリョーシカが。
窓辺に置かれた愛らしい人形を手に、思わず微笑んだ。
花柄模様のロシア民族衣装サラファンに赤いヴェールの女の子。すべて手塗りの丁寧な細工だ。
いったい、この中にいくつの人形が仕込まれているのだろう。
腹部の切れ込みを探し開こうとする。
エ?
木製のそれは実に頑丈で、どんなにねじっても開きそうにない。何か仕掛けでも?
切れ込みを探したい一心で、カーテンを開けて日に当てた。
久しぶりに日ざしを浴びて目が眩む。
おかしい。切れ込みがないぞ。どう見てもマトリョーシカなのに。
老眼鏡を額に上げてつぶさに観察した。
やはり、ない。どうなっている?
振ってみた。中の人形が揺れてカラカラ音がするはずだ。
だめだ。音もしない。変だな。
そのとき突然、すべてを悟って真っ青になった。
これはマトリョーシカだ。まちがいない。ただ、中に仕込まれた最後の人形なのだ。開くはずがない。

窓ガラスに蜘蛛の巣状にヒビが走った。続いて銃声、マトリョーシカが絨毯にゴロンと転がった。

翌日、ホテルの一室。依頼人の部屋で、狙撃手のマネージャーが報酬の札束を数えていた。
「お前たち、実にみごとな手際だったな。だが、ずっと部屋の奥で潜んでいた用心深いヤツをどうやって窓辺に誘い出した?」
マネージャーは札を数え終えてケースを閉じた。
「知りたいですか?」
「もちろんだ。ヤツにカーテンまで開けさせて窓辺にじっと立たせる方法は?」
マネージャーはマトリョーシカを取り出し依頼人に渡した。
「答えはコレです」
「マトリョーシカが答えだと?」
「ターゲットの男は分をわきまえず、より大きなアナタたちに消された。マトリョーシカがより大きなマトリョーシカに包み込まれるように」
「言っている意味がわからんぞ。おい、コレはどうやって開けるんだ?」
依頼人は老眼鏡を額に上げ、窓辺で日にかざした。



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今日以外全部オトナの日

2011年05月05日 | ショートショート

甍の波と雲の波
重なる波の中空を
橘薫る朝風に
高く泳ぐや鯉のぼり



「イラカノナミってなに?おじいちゃん」
「ヤネの上のカワラがナミみたいに見えることだよ」
「おうちのヤネ、平らだよ」
「今じゃスレートのヤネばかりだものな。むかしは、せまいロジをはさんでミンカがならんで、ニホンガワラがかさなって、リュウのウロコみたいに見えたものだが」
こいのぼりを見上げるボクのアタマに手をのせて、おじいちゃんも見上げました。
「サツキバレの空にクモのシラナミも見えないな。今じゃコーサでキイロにかすんだ空だ」
「コーサ?」
「タイリクでサバクがひろがってコーサがふえとるそうだ。おまえがオトナになるころはどうなっておるやら」
おじいちゃんがなんどもボクのあたまをなでてくれました。
つよい風がふいてこいのぼりがふくらんで、ハシラがぎしぎしいいます。
いつのまにかおじいちゃんがいなくなっていました。

ゲンキなコイたちは、ウロコがうねってホントにおよいでいるみたいです。
ボクがじっと見つめていると、大きなまんまるの目がギロリとにらむじゃありませんか。
やっぱり生きてる!
「そのとおり。コイは生きてるぞ」
父さんです。
「コイはいつだって、風がふいてくるほうに向かっておよいでるんだ」
「風がふいてくるほう?」
「そうだ。風がどこからふいてくるか、わかるか?」
ボクはくびをふりました。父さんがわらいました。
「きっとどこかに風が生まれるバショがある。それをさがしてコイはおよいでるんだ」
「どこで風が生まれるの?ねぇ、どこ?」
「ジブンで見つけるんだ」
父さんがボクのカタをポンとたたいて、わらいました。わらいごえが風にのってとんでいきました。
父さんはいなくなっていました。

「バッカだなぁ。生きてるわけねぇじゃん」
兄さんの声です。
「O先生といっしょだよ。クチばっかりでナカミはカラッポじゃん」
O先生は、兄さんがいつもワルクチを言っている先生です。兄さんをサベツするそうです。
「兄さん、よぅく見て。ホントに生きてるんだって」
兄さんもじっと見上げました。クビがいたくなりました。
「こっちのほうがラクチンじゃん」
兄さんがタンボにねそべったので、ボクもねそべって見上げました。レンゲのベッドみたいでした。
しばらくしてから、兄さんがいいました。
「風だよ。風がふいてコイがおよいでるみたいに見えるだけ。およぎたくても、およぎたくなくても」
兄さんのさびしくてながいためいきが、風にきえました。

そうか。風なんだ。
ボクはたちあがりました。
風がほおをなでました。
まちがいない。風が生きているんだ。
レンゲがいっせいにうなずきました。



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未来の伴侶、お教えします

2011年05月04日 | ショートショート

「キャ~!アタシ、ヒロシとゴールインするんだわ!チョ~嬉しい!」
OLが封筒から取り出した写真を胸に大はしゃぎ。
「ンハハハハハハ、わしのパワーは無限大じゃ」
占い師は呵々大笑した。胸元にロザリオ、名前はジンジャー寺井なんてインチキ臭さプンプン。だが、もしやホンモノ?
いよいよ、次はボクの番。対面してパイプ椅子に座る。
ジンジャー寺井がジロリとボクをひと睨み。ムムムッ!なんという目ヂカラ。波動がビビビと出てるみたいだ。
低くよく響く声で、ボクの名前、生年月日、生い立ちなどを問い質していく。
本当に結婚相手の写真を実体化できるんだろうか?さっきのOLみたいに。
「よろしい。あなたの将来の伴侶がハッキリと見えてまいりましたぞ」
ジンジャー寺井は、黒い布をテーブルに置いて念を送る。
ボクって甘いマスクだし、女の子の胸をキュンとさせるワザもいくつか心得ているし。まだまだ遊びまくって、十分品定めしてから理想の女をゲットだもんね。ワクワクするなぁ。
数分後、ジンジャー寺井が布切れをめくった。テーブルに茶封筒が出現。スゴ~イ!
この封筒の中にボクのまだ見ぬ妻の写真が!美人かな?カワイイ系?グラマーかな?ボクに相応しい、いい女のはず。
ひょっとして、もう知り合っているかもしれない。幼なじみ?同窓生?職場の娘?合コン相手?
いざこうして封筒を前にすると、見るのがコワイな。知らないほうがいいんじゃないかな?ああ、でも知りたい!
「さあ、開けてみるがよい」
しびれを切らしたジンジャー寺井が封筒をボクに渡した。
受け取ったボクは、しばらく手に持っていたが、やがて開かぬままジンジャー寺井に戻した。
「イヤ、やっぱやめときます」
ジンジャー寺井が片眉をピクリ。
「お代はお返しできませんぞ。よろしいのですか?」
「ええ。見ないことに決めました。封筒は処分してください」
そしてボクは部屋を出た。
だって、だって手渡された茶封筒、分厚いのなんの。


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おまえうまそうだな

2011年05月03日 | ショートショート

 

新調したスーツに身を包んだボクを含めて社員十数名。社長の話が始まった途端、入社したことを後悔した。
「諸君、わが社は今年度ゼロからスタートする。だからこんなもん要らない」
社長はボクの履歴書をビリビリ破り捨てた。エ~!
「名前がなんだ?経歴がなんだ?ここでこれから君たちが何をなすか?それがすべてだ」
そして一冊の本を掲げた。
「君たちは、この本を知っとるかね?ティラノザウルスがアンキロサウルスの赤ちゃんに『おまえうまそうだな』って言うと、赤ちゃんは『うまそう』を自分の名前だと思って大喜び、父親のように信頼するんだ。どうだ、この意味がわかるか?」
一同、ポカ~ン。
「ギャグじゃないぞ。つまりだな、ティラノザウルスは結果的に名を授けた。そして赤ちゃんは名付け親との関係において初めて自らの存在を認識したのだよ」
はい?
「鋳物の真実の姿が刻まれているのは鋳型である。他者が定義する己こそ真実の己なり」
社長がボクたちの首に次々とオリンピックメダルみたいなのを掛けていく。
「そこで、コレだ。他者定義センサー!」
なんだ?
「誰かが君たちを定義づけした瞬間、センサーがキャッチする。その定義が今後、会社での君たちの名前となるのだよ」
一同、騒然。隣の先輩が囁いた。
「社長、おかしいんじゃないの」
社長のメダルに、「おかしいん」の文字が。
「ややや!誰かが私を定義づけたね。だが、ルールはルール、甘んじて受け入れるよ。私は今日から『おかしいん社長』です、よろしく」
こりゃまいったな。余程用心しとかないと。誰ぞに呼ばれたらそれが名前になっちまうなんて。

そう思ったものの、ボクの新しい名はその晩、すぐ決まった。就職を祝って両親と乾杯、母さんが嬉しそうに言ったのだ。
「おまえも一人前だね」
メダルに『一人前』の文字。ボクは今日から『一人前』になっちまった。出前頼むとき不便だなぁ。
「一人前ですが、一人前お願いします」

翌朝、出勤したボクたちは互いのメダルを見て赤面した。
『わたしのすべて』
『浮気者』
『天狗』
『ド変態』
『見かけ倒し』
『父親失格』
『最低の屑』
『好きもの』
『女王様』
『牝ブタ』
昨晩どんなドラマがあったんだろう?どんな修羅場が?どんなプレイが?
『一人前』ならまだましかぁ。オヤ、ひとりメダルに何も文字が表示されてない。
「おまえ、まだなの?」
「ああ、まだなんだよ」
というわけで、メダルに『まだ』の文字が浮かび上がった。こうして社員全員名前決定!
かくして、わが『かなりヤバソー社』はスタートしたのである。


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ハヤブサシュンタロウの秘密

2011年05月02日 | ショートショート


『瞬幹線開発プロジェクトチーム』のチーフ北崎が、取材陣を東京駅ホームへと誘った。
従来の新幹線となんら変わらぬホームに停まっているのは、これまた従来の『500系のぞみ』となんら変わらぬデザインの車両だ。
記者たち首をかしげて、北崎に口々に質問した。
北崎さん、これって新幹線じゃないんすか?
新幹線と瞬幹線はどこがどう違うんです?
名前だけ変えただけじゃないの?ガッカリだなぁ
・・・北崎、余裕のよっちゃんである。
「ま、そう急かさずに。乗ってみればわかります。さ、どうぞ足もとに気をつけてご乗車ください」
レポーターやカメラマンたちがぞろぞろと車両に乗り込んでいく。
客車スペースも、彼らの知っている『のぞみ』そのまんまである。
「皆さん、ベルトは締めましたか?準備はよろしいですかな?」
取材陣が怪訝そうな顔で一斉にうなずく。
静かなエンジン音が車床から響いてきた。いよいよだ。
「発車!」
北崎の合図にあわせ・・・アレ?エンジン音が小さくなっていく。
え?止まったんじゃないの?故障?
取材陣がざわめいた。
北崎がベルトを外して立ち上がると、取材陣の不安そうな顔を満足そうに見渡す。
「ハイ、到着しました」
何を言っているのだ?ここはまだ東京駅の・・・
取材陣全員、一斉に声を上げた。駅名表示が『東京』から『新大阪』に変わっているではないか!
レポーターのひとりが携帯のGPS機能を使って位置を確認する。まちがいない。ここは大阪だ。
「一瞬で移動する。それが新開発の瞬幹線なのです。ご理解いただけましたかな?」
スゴイ!まさに瞬間移動だ。これさえあれば流通革命が起きるぞ。
航空機の国内線もトラックの長距離輸送も存在価値を失うだろう。
『旅』の概念自体を変えてしまうにちがいない。
しかし、一体どうやって駅をぶっ飛ばして一瞬で?
興奮したレポーターが手に手にマイクを北崎に向けて、その仕組みを問い詰める。
「瞬幹線技術はわが国の国益がかかっていますのでお教えできません。というか、システム開発者一名しかその秘密を知らないのです」
一名だけ?
「ええ、仮にハヤブサシュンタロウ君、としておきましょう」

その晩、お披露目が成功裡に終わったとの報を受け、ハヤブサシュンタロウは妻と祝杯をあげた。
夜、ほどよい酔い心地に妻と同床した。
わが分身を挿入したその瞬間、
ウッ
一瞬にしてシュンタロウが果てた。
妻は嘆息、
「アナタったら、どうしてアッという間にぶっ飛ばしてイッてしまうのかしら?」
「それは秘密だ」



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