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莫言「白檀の刑」読了 (今回は残酷な話です)

2005-10-24 | Asia 「圓」な旅
莫言の長編小説「白檀の刑」、一気読みするのが惜しくて、二ヶ月かけて読みました。読み返して行ったり来たりしながら、やっと読了。この小説は、邦訳では今のところ莫言の最新作で、吉田富夫さんの名訳にも恵まれ、まさしく莫言の最高傑作に違いありません。(邦訳されていない新作で牛をテーマにしたものがあると聞きます)

物語は、清王朝の末期、欧州の列強に侵略されつつある時代に、地方劇「猫腔」の座長が、ドイツの鉄道敷設に抵抗して農民を組織して反乱を起こしたかどで公開刑「白檀の刑」に処せられるという悲劇的な内容です。ところが、文中しばしば民衆劇「猫腔」が唄われ、その節回しに入る「ニャオニャオ」の合いの手がどこかユーモラスで、物語全体を芝居仕立てにしています。「猫腔」は葬式で霊前で歌われた哭葬歌を由来としたもので、民衆を前に死に際して行われる点では、「白檀の刑」とも共通しています。

Tomotubby にとって興味深かったのは、「白檀の刑(原作では檀香刑)」ほか、作中に登場するいくつかの「処刑」のシーンです(ここからは、話が残酷になりますので、こういう話が苦手な方は読み進めるのをご遠慮下さい。またこの小説を読もうとされている方には、ネタバレになり興を削がれる可能性があります)。処刑シーンの描写は精緻さが際立ち、残酷というよりは美しく、これこそは作者の真骨頂ではないかと思いました。「白檀の刑」や「悪魔の閂」など、幾つかの処刑法は莫言の創作のようですが、そもそも中国には古来より残酷極まりない刑罰が多数ありました。それらは類似の犯罪を未然に防ぐため、見せしめの目的で行われました。見せしめのためには処刑が密室で行われるのではなく、民衆の前で公開されるか、処刑後の屍が民衆の前に晒される必要がありました。見せしめの効果を高めるためには、処刑にかかる時間が長ければ長いほどよく、死刑囚の死までの時間が長ければ長いほどよく、処刑の経過と結果は残酷であればあるほどよいのです。ニャオニャオ--

物語のクライマックスで行われる「白檀の刑(檀香刑)」とは、刑が行われた後、死刑囚の命を五日間に亘って存えさせるための処刑法です。白檀の木を剣のように削って一晩香油に漬けた後、罪人の谷道(肛門)から打ち込んで、杭の先を首の後ろへ突き抜けさせるのです。罪人の体は、二丈の高さの木の台に立てた、横木のある太い柱に括りつけます。これはいわば「磔刑」の残酷な一形態であり、ゴルゴダの丘でキリストが架けられた十字架の縦木が、内臓の中に埋没して正中線を貫いているということです。なお罪人を放っておくと弱っていくばかりなので、延命させるために滋養強壮効果のある朝鮮人参を煮詰めて作る人参湯を口から呑ませるのです。ニャオニャオ--


ヤン・ファン・エイクのリアルな磔刑図。
イエスがことのほか弱々しげです。
「白檀の刑」にもこういう情景を重ね合わせてしまいました。

莫言に関わる当ブログの主たる過去記事:-
莫言「白檀の刑」、面白ぃ
莫言「白檀の刑」
「白い犬とブランコ」のリアリズムと「故郷の香り」のリリシズム
「故郷の香り」の原作「白い犬とブランコ」のあらすじ
莫言 「白い犬とブランコ(白狗秋千架)」

つづく


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