Tomotubby’s Travel Blog

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ハンマースホイ作品の廃墟感

2008-12-12 | 廃墟巡礼
ハンマースホイのことをもう少し。

画家は19世紀末に移り住んだストランゲーゼ30番地の二階にあった住居の室内を繰り返し描いており、当然の如く今回の大回顧展にもこのモチーフの絵が数多く出品されていました。これらに共通している点は、室内に本来ある筈の、ともすれば過剰になりがちな家具や陶磁器や布の類が少なく、画家によって現実の室内の情景が恣意的に取捨選択され再配置されていることです。そのために、(マグリットの「The Menaced Assassin」ほどではないにしろ)どこか違和感、わざとらしさを感じます。

そのような室内の中に妻イーダを配置した絵もたくさんありますが、室内には生活感がなく、まるで「廃墟」の中で妻にポーズをさせて描いたような「気持ち悪さ」があります。ハンマースホイの絵にフェルメールらオランダ室内画の影響を指摘する論考は多いですが、17世紀の画家が競って行った過剰な室内の演出は彼によってまったく排除されています。オランダのデルフト焼きの代わりにロイヤルコペンハーゲンが置かれていたりするのはご愛嬌でしょう。


「室内、ストランゲーゼ30番地」
ピアノが二本足で立っている、テーブルの影が複数方向に落ちている、イーダの足が椅子の足と溶け合っている、ピアノを弾こうとするとテーブルにぶつかってしまうなど、シュールな要素が指摘され、展覧会でも話題を呼んでいました。


「白い扉、あるいは開いた扉」
室内の複数の扉をモチーフにした奇妙な作品。ハンマースホイ以前にこのような題材を取り上げた画家はいなかったに違いないです。私はこの絵を鑑賞中、デュシャンの「Door, 11 rue Larrey」が頭を過ぎりました。


ストランゲーゼ30番地の室内画から漂う「気持ち悪さ」や「廃墟感」は、ハンマースホイの他の作品からも感じられました。風景画ではより顕著でした。人はおろか人の痕跡がなく、露出時間を長くして撮った風景写真のような趣きなのです。人物画にしても、描かれた対象には生気がなく、病んでいるようで、極言すれば生きながら立ち腐れているような、人間の「廃墟」のようなものを感じました。

個人的に一番気持ち悪くて気に入った(なんともアンビバレントな私!!)のが「リネゴーオンの大ホール」というロココ調の漆喰が施された無人のホールの絵でした。(この絵の絵葉書が売ってなくて残念でした。画像捜索中) この気持ち悪さは、キューブリックの名作映画「2001年宇宙の旅」に出てきたあの部屋、老衰したボーマン船長の横たわる寝室と共通したもののように感じました。


「2001年宇宙の旅」


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