いっそのこと殺してくれないか

減７の和音は無限階段
どこまでも読みかえて
永遠に終わらない
次に来るのは光か闇か
たどりつくまで
誰にもわからない



とうとうだありんの口からでた


頼みがあるんだ
いっそのこと殺してくれないか


明晰な口調で
冷静な声で


死にたい？

うん

そっかあ


夜の公園 ふたりでならんで歩きながら



そう、MUSICAだっていっそのこと全部終わりにしたいかもしれない
ほんとに死にたいなら いっしょに死んでもいいよ
アルツハイマー病から逃げ切るなんてありえないのかもしれない



手がね
いうことをきかないんだ
ずっと闘ってる
着替えも、食事も、トイレも不便
でもね
不便なりに工夫して
やってるうちにだんだん上手になって
ちょっとずつ運動取り戻してく
長い長い道のり

発音がね
むずかしいんだ
でもね
ひと目で見える文字数がだんだん増えて
音読がちょっとずつスムーズになっていく
ため息が出るほど遠いみち


そんなことは平気
ずっとずっとリハビリ
続けていけばいいんだから


そうしてね
楽譜がしっかり読めるようになったよ
集中力が持続するようになった
もう何だって好きな曲が演奏できる
あとは努力次第・・・ってところまで回復したのに

指がね
反乱するんだ
勝手に動いちゃう（不随意運動？）
指先の感覚がなくなった（四肢喪失？）


大丈夫
リハビリで少しずつ取り戻していけばいい
大丈夫

大丈夫

か

な

ら

ず

取り戻せるから（ホントに？）


だってねほら
まっすぐに線を引くのも大変だったのに
毎日のひらがな練習
見覚えのある文字だよ
だありんの懐かしい筆跡がもどってきてるんだよ
ぜったいに指の感覚は取り戻せる



次の春が来るまで
何があってもリハビリ続けようって約束したよね

お願い
もしもその日が本当に来るのなら
すべてが絶望になってしまう前にしてほしいよ
だって二人は音楽バカ
音楽なくなったら生きていけない