この前の会議において、
「紙の消費エネルギーはたいしたことがないので、両面コピー機を採用してもそれほど省エネルギーにはならないのではないか」
といういう意見がありましたが、それに対する反論です。
たとえば、リコーの技術者がコピー用紙のライフサイクル・インベントリーについて論じた次の技術資料(論文)をご覧下さい:
http://www.ricoh.co.jp/ecology/history/presen/pdf/lca.pdf/
この資料によると、コピー用紙の製造・運搬・使用・廃棄というライフサイクルで消費されるエネルギーを評価すると、製造時に消費されるエネルギーが、コピー用紙の使用時のエネルギー、つまりコピー機の電力使用量(動作電力+待機電力)よりも、圧倒的に多いです。
コピー用紙1トン当りの電力使用量は 95kWh(≒340[MJ]) (1次エネルギー換算ならだいたい1000[MJ]) であるのに対して、コピー用紙1トンを製造するのに必要なエネルギーは、上記論文にあるグラフから見積もると、だいたい 30000[MJ] です。
つまり、約30倍(1.5桁)違います。
従って、両面コピーによってコピー用紙の使用枚数を半分にすることは、コピー機の消費電力を減らす努力よりも、ずっと効果的です。
ただし、使用済みのコピー用紙からトナーを除去して再使用する「剥離除去」が普及すると話は別です。
上述の技術資料によると、剥離除去に要する電力量は、コピー用紙1トンあたり約940kWh で、用紙の製造エネルギーの3分の1くらいですから、剥離除去によるリサイクルを行うほど紙の製造エネルギーは減っていきます。
(ちなみに、通常の古紙再生では、新生紙の製造エネルギーと同程度のエネルギーを必要とします。)
それから、コピー用紙使用時のエネルギーにはコピー機の消費電力以外に、消費したトナーの製造またはリサイクルのエネルギーがあると思いますが、それほど多くないようです。
私が使っている Brotherのコピー機の製品情報によると、コピー機のライフサイクルで使われるエネルギーのうち、電力消費の割合は約65%で、トナーに起因するエネルギー消費は、多く見積もっても 35%で、電力消費よりも少ないわけです。
ということは、用紙の製造エネルギーよりもはるかに少ないわけです。
以上のことを考慮してもなお「紙の消費エネルギーがたいしたことがない」と言えるとするならば、それはおそらく他のもっとエネルギーを消費する素材と比較した場合でしょう。
製鉄、アルミニウムの精錬、プラスチックやガラスの製造などです。また、ジェット機のエネルギー消費と比べると明らかに少ないでしょう。
鉄やプラスチック、ガラスなどの素材と比べる場合でも、比較の仕方によって、「たいしたことがないかどうか」は違ってきます。
コピー機に使われる鉄・プラスチック・ガラスの製造エネルギーと比較するならば、だいたい同じくらいのエネルギーになります。(ただし、コピー機がそのライフサイクルでA4用紙48000枚を使うと仮定しています。紙の重さは約0.2トンになります。)
紙袋vsプラスチック袋、紙コップvsプラスチックカップ、という比較でも、どちらがエネルギーを食うかは、一概には決められないでしょう。
ここにおいて、われわれは、ライフサイクル・アセスメントの本質的困難の一端に触れているのだと思われます。
なお、以上の文章は急いで書いたので、大きな間違いがあるかもしれません。
皆さんの検証を歓迎します。
(詫間)