技術構造分析講座ブログ

東工大の科学史・技術史・科学技術社会論・科学方法論研究室のブログです。公式情報、研究の詳細はホームページをご参照下さい。

両面コピーはおそらく、かなり省エネルギー。(続き)

2011-02-28 15:30:29 | Weblog

前回投稿した記事では、紙に関する化石資源の費のマクロな数値(日本全体に占める割合)を記していませんでした。

日本における紙の消費量は以外に多く、日本人1人当たり年間0.2トンです。

また、紙1トン(再生紙を含む)の消費に対する化石資源の消費量は炭素換算で約0.3トンです。

したがって、1人当たり年間約0.06トンの化石資源を消費していることになります。


日本の全活動部門(製造部門・輸送部門・民生部門(ビル・住居)・エネルギー転換損失)における
化石資源の消費量は年間1人当たり約2.4トンですから、
紙に起因する化石資源消費は、全体の2.5%を占めていることになります。
これは、十分有意な量であると言えます。

参考文献:小宮山宏『地球持続の技術』(岩波書店、1999年)
(注: CO2換算だと、化石資源消費量の表示は
分子量に比例して約44/12倍になりますが、もちろん相対比率は変わりません。)
(詫間)

両面コピーはおそらく、かなり省エネルギー。

2011-02-14 23:36:13 | Weblog

この前の会議において、
「紙の消費エネルギーはたいしたことがないので、両面コピー機を採用してもそれほど省エネルギーにはならないのではないか」
といういう意見がありましたが、それに対する反論です。

たとえば、リコーの技術者がコピー用紙のライフサイクル・インベントリーについて論じた次の技術資料(論文)をご覧下さい:

http://www.ricoh.co.jp/ecology/history/presen/pdf/lca.pdf/ 

この資料によると、コピー用紙の製造・運搬・使用・廃棄というライフサイクルで消費されるエネルギーを評価すると、製造時に消費されるエネルギーが、コピー用紙の使用時のエネルギー、つまりコピー機の電力使用量(動作電力+待機電力)よりも、圧倒的に多いです。

コピー用紙1トン当りの電力使用量は 95kWh(≒340[MJ]) (1次エネルギー換算ならだいたい1000[MJ]) であるのに対して、コピー用紙1トンを製造するのに必要なエネルギーは、上記論文にあるグラフから見積もると、だいたい 30000[MJ] です。

つまり、約30倍(1.5桁)違います。

従って、両面コピーによってコピー用紙の使用枚数を半分にすることは、コピー機の消費電力を減らす努力よりも、ずっと効果的です。

ただし、使用済みのコピー用紙からトナーを除去して再使用する「剥離除去」が普及すると話は別です。

上述の技術資料によると、剥離除去に要する電力量は、コピー用紙1トンあたり約940kWh で、用紙の製造エネルギーの3分の1くらいですから、剥離除去によるリサイクルを行うほど紙の製造エネルギーは減っていきます。
(ちなみに、通常の古紙再生では、新生紙の製造エネルギーと同程度のエネルギーを必要とします。)

それから、コピー用紙使用時のエネルギーにはコピー機の消費電力以外に、消費したトナーの製造またはリサイクルのエネルギーがあると思いますが、それほど多くないようです。

私が使っている Brotherのコピー機の製品情報によると、コピー機のライフサイクルで使われるエネルギーのうち、電力消費の割合は約65%で、トナーに起因するエネルギー消費は、多く見積もっても 35%で、電力消費よりも少ないわけです。

ということは、用紙の製造エネルギーよりもはるかに少ないわけです。

以上のことを考慮してもなお「紙の消費エネルギーがたいしたことがない」と言えるとするならば、それはおそらく他のもっとエネルギーを消費する素材と比較した場合でしょう。

製鉄、アルミニウムの精錬、プラスチックやガラスの製造などです。また、ジェット機のエネルギー消費と比べると明らかに少ないでしょう。

鉄やプラスチック、ガラスなどの素材と比べる場合でも、比較の仕方によって、「たいしたことがないかどうか」は違ってきます。

コピー機に使われる鉄・プラスチック・ガラスの製造エネルギーと比較するならば、だいたい同じくらいのエネルギーになります。(ただし、コピー機がそのライフサイクルでA4用紙48000枚を使うと仮定しています。紙の重さは約0.2トンになります。)

紙袋vsプラスチック袋、紙コップvsプラスチックカップ、という比較でも、どちらがエネルギーを食うかは、一概には決められないでしょう。

ここにおいて、われわれは、ライフサイクル・アセスメントの本質的困難の一端に触れているのだと思われます。

 

なお、以上の文章は急いで書いたので、大きな間違いがあるかもしれません。

皆さんの検証を歓迎します。

(詫間)