Oceangreenの思索

主に、古神道、チベット仏教、心理学等に基づく日本精神文化の分析…だったはずなんだけど!

仏教と魂

2010-08-26 | こころ
仏教では、魂の存在を認めません。
そもそも、個人を中心とした精神のまとまり、という物を
仮定しないのです。

そうではなく、まず、認識する様々な働きとしての心があり、
それが個人に働いている、と考えるのです。

例えば、まずメタ認知の働きであるハロエリスがあり、
それが個々人に現れているのだ、という
わたしの神の理解と、同じように。

***

仏教でいう“心”というのは、認識する働きのことです。
“見る働き”“聞く働き”などの様々な認知の働きの総称を
“心”というのです。

生命はこの世に生まれて、環境の中で生き延びるために、
環境や自分の肉体の状態を知らなくてはなりません。
そのために、知る働きが、個体の感覚器を通して現れるのです。

人間の場合、眼・耳・鼻・舌・身・意(脳?)の“六根”を通して、
色・聴・香・味・触・法という働きとして現れますが、
それは生き物の種類によっても変わりますし、
同じ人間でも、個体によって違います。

ですから、心というものは、
個々の感覚器において異なる現れ方をしながら、同時に
すべての生命において、同じ一つのものであるとも言えるのです。

個体が生きるため、肉体のために心が働くのですが、
そのために生き物は、心が肉体の付帯物だと誤解してしまいます。

それだけでなく現代科学は、物質を観察することが基本ですから、
個体の肉体の反応などを基礎に人間を理解します。
どうしても、個体が確固としてあることになります。

ですが、自分の認知を良く観察すると、
見ているその瞬間、聞いているその瞬間には、
見ている働きそのもの、聞いている働きそのものがあるだけで、
“わたし”という認識は別にないことが分かると思います。

ただ次の瞬間に、あるいは後で体験を振り替えるときに、
“わたしが”見た、と思うだけなのです。

“わたしが”見たと思うことから、“わたし”という感覚は生まれます。
“わたし”という感覚を精神作用の中心と考えることによって、
“魂”という概念が生まれてしまうのだと、お釈迦さまは考えました。

そして、この“わたし”という感覚こそ、
様々な摩擦を引き起こすストレッサー、煩悩の源なのだと
看破したのです。

***

心は一つですが、生きるためには、
すべての生命が全く同じ心を共有することは不都合です。
わたしの認知したことを、他人も認知したら、
世の中は非常にややこしいことになります。

ですから心は、個々において分けられているのです。
この分ける働きが、チベット仏教のゾクチェンという教えで
“示現性”とよぶものだと思います。

おそらく心の分電盤、配電器のようなもので、
これによって心と肉体を結びつけ、
個々の心が混ざらないようにしているのだと。

“示現性”は多分、
チベット密教で心臓のチャクラにあるとされる“不滅の滴”と同じもので、
これが溶けると、心のリミッターが外れます。

完全に示現性がなくなれば、おそらく心は肉体に留まれないと思いますが、
滴が溶けた状態では、感覚レベルの心(欲界心)はそのままにして、
高次の心だけが、自他の区別のない状態になるのです。

***

涅槃に至らない限り、心に基づいて生じた行動は“因”となり、
“果”を引き起こすであろう力を心に蓄えます。

この、まだ結果にならない“因”の集まりを“心相続”といい、
顕教では、これが輪廻の主体とされます。

つまり、まだ結果にならないエネルギーが
違う肉体に引き継がれるのです。

チベット密教では、この心相続と共に“不滅の滴”も、
輪廻を通して引き継がれると考えます。

この中に、ごく微かな体験の記憶があり、
西洋哲学でいう“イデア”のようなもの、存在の雛形のようなものも、
含まれているというのです。

顕教では、心から輪廻の原因となる善くない感情を除き、
心相続を穏やかにすることで、
覚りに至ろうとします。

密教では、この不滅の滴を溶かすことで、
同じ境地に至れると考えるのです。

おそらく、不滅の滴を溶かし、根元的な心と一体になることで、
根元的な心の状態を体得し、根元的な智慧を得、同時におのずから
善くない感情がさり、善い感情が湧くようになるのではないでしょうか?

***

こうした思想と実践において、
“魂”という概念はむしろ邪魔になるでしょう。
それは仮の存在でしかなく、
仮定すること自体が実践の邪魔にもなり兼ねません。

そのため仏教では“魂はありません”“真我はありません”と
やかましく言うのです。

それは、心という海の水を個々の存在に分かつ、
グラスのようなもので、
それをなくさない限り、
誰も根元的な心と一体にはなれないのですから。

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