美術の学芸ノート

中村彝、小川芋銭などの美術を中心に近代の日本美術、印象派などの西洋美術。美術の真贋問題。広く呟きやメモなどを記します。

小川芋銭『草汁漫画』「トロイ合戦」(1)

2019-08-06 13:29:00 | 小川芋銭


(画像は、国立国会図書館デジタルコレクションより引用)
「トロイ合戦」は、周知の通り、「パリスの審判」で有名なトロイアの王子パリスが、スパルタ王妃ヘレネーを奪ったことに起因するとされる戦争である。

芋銭のこの図は、「ヘレナ」を「大和式」に太夫に見立てて短文と賛文「あかき名はちりてもたかし」を添えた「漫画」だが、ここで短文の内容と図の意味するところを解き明かしていこう。

まいまいつぶろ(1)の角の先触氏蛮氏の争(2)や利なり、是は抑トロイの軍物語、大和式に写したヘレナが朱羅宇の雁首(3)から雲雨を起こして希臘の神々さんを驚かす、実にや荒るる大象をも引留るは女力(4)、恐ろしと云へば云へ紅黄緑紫(5)の色あるはトロイの戦なりけり

1)「まいまいつぶろ」、これはカタツムリのことでその角の先の 2)「触氏と蛮氏との争い」だから、「蛮触の争い」で、「蝸牛角上の争い」。これは了見が小さく詰まらない、利を求めた争い。

3)「朱羅宇」は、ここでは花魁などが用いる朱色の煙管の意。煙管の吸口と椀状に曲がった火皿の「雁首」の間を羅宇という。

4)「荒るる大象をも引留るは女力」の「大象」とは、「女の髪の毛には大象も繋がる」の「大象」と同じで、ここでは男の煩悩を表す。すなわち、女は男の心を引きつけ、戦争の種になるほどの強い力を持っているの意味だろう。なお、芋銭は、女の黒髪が蛇になって象に巻きつく図も描いている。『小川芋銭全作品集 挿絵編』293番参照。

5)「紅黄緑紫」は、ここでは色にかかる形容語で、4つの美しいを色を列挙している。
が、列挙される色やその順番などは文例によって異なることがあるようだ。
芋銭は101ページの「露の戯れ」では「黄紅紫緑」と言っている。文筆家により、他の色を列挙している例が見られる。

さて、この図でヘレネーに見立てられている太夫はいったい誰だろう。これを次に推論して、他の図との意外な関連を探っていく。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小川芋銭『草汁漫画』「時鳥... | トップ | 小川芋銭『草汁漫画』「トロ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。