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美術の学芸ノート

明治以後の近代日本美術、印象派などの西洋美術についての小論。その他、独言など。

日本にあるシニャック作品(4)

2018-06-05 15:52:30 | 西洋美術

島根県立美術館にあるシニャック作品は、F.カシャンのカタログ・レゾネでは、「ロッテルダム、煙」と題されています。

この作品の遠景に橋が描かれていますが、実は二つの橋が重なって描かれています。そのことは、目を凝らして作品を見てもなかなか分かりません。調べてみないと分からないことです。

アーチ形に目立って見える橋は、列車が走る鉄道橋で、その手前側に人が通り、馬車や電車が走る方形の旧ウィレムスブルクがありました。

ロッテルダムの活気のある港の風景ですが、マース川の風景で、海の港ではありません。

マース川は画面の奥の方から画面前景部に向かって流れています。これも絵を見ただけでは確かめることはできません。描かれた水面をいくら観察しても、川がどちらの方向に流れているかは、とても分かりません。

画面向かって左下が、ボームプチェスの突堤です。そして、遠景の対岸はノールデルアイラントと呼ばれる中の島です。こうした地理的関係を知らないと、どこが描かれているのか把握できません。

シニャックは、この風景を彼が宿泊したヴィクトリアというホテルの窓から描いています。

これは、他の作家が第二次大戦前の1931年に、このホテルからボームプチェスの眺めを描いたパノラマ風な作品との比較からも確認できます。

その作家の作品は、現在、ロッテルダム博物館にあります。

今日、このホテルも、遠景の二つの橋もないので、たとえロッテルダムに実際に行っても、シニャックが描いた場所は十分には確かめられません。

ですから、こうした他の作家の作品との比較も大事になってきます。

そうした作品やそのタイトル、そしてロッテルダムの古い絵葉書を多数比較照合して、シニャックが描いた場所を特定することができます。

また、必要ならそのホテルの外観などを撮った絵葉書やその周辺の光景を撮った絵葉書などもネットなどから探し出すこともできます。

こうした資料を積み上げて作品を見ていくと、シニャックは、当時の風景を極めて忠実に描いていることがわかります。

他の作家による先のパノラマ風の作品は、遠写で、鉄道橋が遥か彼方に霞んで小さく見えますが、シニャックの作品は比較的肉眼に近く引き寄せて描いています。

ホテルから、かつてあった二つの橋までの直線距離も、具体的に何キロメートルか推定することが可能です。

なお、島根県立美術館のシニャックとほぼ同じ視点から描いた水彩画で、遠景に鉄道橋が認められる作品がニューヨークのメトロポリタン美術館にあります。

また、茨城県近代美術館の水彩画「ロッテルダム」は、画面下半分だけが、メトロポリタン美術館の水彩画よりも島根県のシニャックの油彩画に近いのですが、上半分には、なぜか鉄道橋が認められず、この点は、メトロポリタン美術館の水彩画の方が、島根県の作品に近い視点で描かれたことが確信されます。

厳密な意味では、茨城県の水彩画に描かれた場所は、まだ特定できていません。鉄道橋が描かれていれば問題ないのですが…

なお、茨城の水彩画の中景部に見られるやや大きな船のモティーフは、島根県の油彩画では、より遠景部の右手に見られます。

このように画家は、同じモティーフを画面の中で多少動かして、最も気に入った構図を求めたり、水彩画などのいくつかの予備的、または関連作品を制作しています。

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日本にあるシニャック作品(3)

2018-06-05 09:33:51 | 西洋美術

「日本にあるシニャック作品(1)」では、パリにある最も古い石橋<ポン=ヌフ>(<新橋>の意味です)を描いた茨城県近代美術館にある素描作品と、それによく似たひろしま美術館にある油彩画について触れました。

うれしいことに日本に偶然この関連作品があるというだけでも十分私たちの興味を惹くのですが、これはあくまで偶然です。

だが、よく見るとこれらの作品では、特に画面左下が異なっていることに気づきます。

作品の基本的な構図や画家の視点、のみならず、煙を吐く小舟など動いているモティーフまで、ほぼ同じですが、画面左下の川べりに下りてくる部分がかなり違っています。一方はカーブしており、他方は、直線的です。

これは、単なる造形上の理由でしょうか。

作品の大きさは、茨城の作品が72×92cm、ひろしま美術館の作品は73×92cmで、ほぼ同じですが、制作年は、前者が1912年、後者が1931年です。

茨城の作品は、ひろしま美術館の作品のための、かなり以前に描かれた予備的な素描作品でしょうか。

しかし、これはどうも違うようです。

というのは、茨城の素描作品に、画面左下の部分や、小舟の煙の形すらも、もっと似ている油彩画(下図、F.カシャンのシニャック作品カタログ・レゾネより)が存在するからです。


この作品は、1913年の作品です。ただし、この作品は、茨城の素描作品よりも大きく89×116cmです。

この作品のタイトルは、「ル・ポン=ヌフ」と分かっていますが、個人蔵の作品で、本物を見るためには調査が必要です。

上記個人蔵の作品についての事実は、シニャックの作品を体系的に集めた詳細な画集をひもとくことで知ることができます。

ちなみにこの種の詳細な画集はカタログ・レゾネと呼ばれる部類の本で、大学の研究者や学芸員などの専門家に重宝されています。

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6月4日(月)のつぶやき

2018-06-05 03:54:25 | 日々の呟き
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