岩切天平の甍

親愛なる友へ

I don't know

2007年11月30日 | Weblog

取材を終え、ニューヨークへ。“宇宙的ナンセンスの時代”を読み終えたので、カバンにもう一冊放り込んでおいた立花隆の“宇宙からの帰還”を開く。これもずっと以前に読んだ本だ。評判の本らしいから読まれた方も多いかと思う。

宇宙飛行士という人類最高水準の知性たちの体験談を通して、普遍的な“神”とは何かと迫ろうとする、ドキュメンタリーの形を借りた壮大な哲学書だ。
この本の中にとりわけ印象に残ったある宇宙飛行士との対話があった。

『宇宙飛行士に会う時に、私は、神、人間、宇宙、世界、生物と進化、生と死、存在、認識などに関する一連の哲学的質問を用意して行って、それを次々と浴びせかけていった。たいていの人は、その人なりに答えながら、自分の世界観を開陳してくれたのだが、スレイトンは、その手の質問にはすべて、当惑の表情もあらわに“I don’t know” という同じ答えをくり返すばかりだった。神はありやなしや。I don’t know.この世界の存在に意味はありやなしや。I don’t know.人間は死んだらどうなると思うか。I don’t know・・・何を聞いても同じである。』

ここで立花氏はこのデューク・スレイトンを『精神的世界に関心がまるでない、哲学的命題で頭を悩ませた経験がまるでないたぐいの人』なのであろうと結論づけている。

しかし、もし自分がこの設問に正直に答えたとしたら、やはり答えはI don’t know. になるのではないかと思う。
まったく「私は知らない。」のである。
こんな問いに確信を持って答えられる人間の方が僕には信用できない。にもにかかわらず、多くの人がそれに答える・・・時には自信たっぷりに。
科学者として彼は正確な回答をしたのではないか。
目からウロコ、一つの最も誠実なスタンスを示されたような気がした。



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