社会思想社刊、イアン・リビングストン著のゲームブック「盗賊都市」に2回目の挑戦。
以下、猛烈な勢いでネタばれしてますのでご注意ください。
ボカ、スカ。
あたしは苦戦しながらも、ポート・ブラックサンドの衛兵、サワベリーとファットノーズの2人を切り捨てた。
いつの間に集まってきたのか、あたしはギャラリーに囲まれていた。みんな衛兵たちのことはうっとうしく思っていたのか、拍手まで巻き起こっている。ちょっと照れくさいね。
しかし中に一人、なんだかにやっと嫌らしい笑みを浮かべて人ごみに消えた男がいました。
まずい。多分、他の衛兵に報告にいったんだと思う。このままじゃ、衛兵がもっとやってきて捕まっちゃう。
あたしは体力を回復させるために力の薬を飲み干すと、慌てて通りを西へと急ぎました。
あたしは必死に走って逃げますが、後ろからは衛兵の集団が追いかけてきます。
どこに逃げ込もうか。あたりをきょろきょろしていると、とある家から少年が飛び出してきました。
「ぼくについておいで!」
ともかく今はこの子を信用してみよう。あたしはその少年の後を追いかけます。
少年は<粉屋通り>の端まで行くと、左に折れて<ガチョウ通り>へと曲がっていきました。その先には藁を積んだ荷馬車。そしてその上には人のよさそうな老人がいます。
「おじさん! おじさん! この勇敢な人はサワベリーを殺したんだ。この人に手を貸して逃がしてやらなきゃ!」
「まったく、このお人には借りがあるわけじゃ。さあ、早くわしの荷車へ乗りなされ」
あたしはお礼もそこそこに、藁の中へと潜り込みます。
やがて衛兵たちが近づいてきて老人となにやら会話していましたが、老人がうまく言ってくれたのか、どこかへと遠ざかっていきました。とりあえず、助かったみたいです。
老人は小声であたしに、安全なところまで連れて行くとささやきました。
そのまま藁の中でガタゴトと揺られることおよそ30分。「もう出てきていいよ」という声を合図に外へと出てみると、そこはもう森のヘリ。ポート・ブラックサンドはずっと西のほうに見えます。もう安全みたいです。
老人はまたポート・ブラックサンドの方へと引き返していきました。あたしは何度も何度もお礼をして、老人に別れを告げました。
あたし、レイン・デシンセイ。19歳。か弱い女の子兼、凄腕の剣士やってます。
シルバートンにしのびよるザンバー・ボーンの魔の手を何とかするために、悪名高き『盗賊都市』、ポート・ブラックサンドに住む魔術師ニコデモスさんを呼びにいってくるという依頼を、市長のオウエンさんから受けました。
前世の記憶を頼りにして盗賊都市に立ち向かい、無事にニコデモスさんにめぐり合うことができました。しかし半分引退しているニコデモスさんから、あたしに代わりにザンバー・ボーンを倒してくれるよう頼まれちゃったのです。
なんだかんだでザンバー・ボーンを倒すために必要なアイテムを無事入手。さっきのどたばたで、どうにかこうにか盗賊都市からの脱出を果たしたところです。
これであとはザンバー・ボーンをぶちのめすのみ。首を洗って待ってろよ!
<現在の状況>
技術(11):10
体力(17):17
運(8):8
食料:10
金貨:13
宝石:2
装備:魔法のかぶと(攻撃+1)、ランタン、銀のフルート、チョーク、眼帯、黒真珠×6、銀の矢、魔女の髪、よろい(技術+2)、ハスの花、入れ墨
ニコデマスさんからもらった地図を睨みながら、あたしはザンバー・ボーンの塔を目指します。塔はここから北へ数日くらいはかかりそうな感じです。
急がないといけないけれど、それでも道のりは長いです。あたしは塔を目指してのんびりと歩き始めました。
森や野原のきれいな空気は、盗賊都市で汚れたあたしの肺をきれいにしてくれます。ホント、ポート・ブラックサンドってばひどいところだったよなぁ。人間のどろどろに比べれば、厳しい自然なんてのはかわいいもんです。
その日は大きなニレの木の下で野宿。翌朝、イチイの木をみつけたので銀の矢を射るための弓を作っていたところ、一羽の白い鳩が飛んできました。よく見ると、その足には何か紙切れが結び付けられています。
よくあたしの居所がわかったね、と、その紙切れを見てみると、それはニコデデマスさんからの手紙でした。
手紙の文面を呼んで、あたしは青くなります。ザンバー・ボーンを倒すための3つのアイテム、黒真珠、魔女の髪、ハスの花のうち、本当に必要なのは2つだけだそうです。でも、それがどの組み合わせかはどうしても思い出せないとか。
はぁ……。どないせいっちゅうねん。
あたしは3つの品をまじまじと見つめますが、一つ一つは何の魔法もかかっていない品物なので、いくら眺めてもよくわかりません。しかたがないので、えいやっと適当な二つを手にとり、ゴリゴリとすりつぶして皮袋に詰め込みます。確率三分の一かぁ。ま、なるようにしかならないでしょ。とにかくザンバー・ボーンの塔に向かっていきましょうか。
空気がよどんできたような気がする。ザンバー・ボーンの領土に近づいてきたせいかしら。
と、左手の茂みの中から何か物音が聞こえてきます。はっと身構えると、出てきたのは小人です。
なんだ、たいした相手じゃないや。あたしはさっさと切り捨てて先を急ぎます。
目の前にそびえる、不気味な塔。あたりには嫌な臭気が漂ってきます。これがザンバー・ボーンの塔みたいです。
すでに日は暮れ、空には月が昇っています。ザンバー・ボーンを倒すには、適当な頃合です。しかしその分、別な危険が多かったりするんですけどね。
あたしは剣を引き抜くと、闇に光る2対の目に向かい合います。闇の中からのっそりと現れたのは、シルバートンを襲っていたムーンドッグ。こいつら、けっこう強いんだよなぁ。
ボカ、スカ。
しかし魔法のかぶとに素敵な甲冑で武装したあたしは2頭のムーンドッグを切り捨てます。ったく、邪魔だよ。
ようやく塔の入り口に到着。木の扉に手をかけますが、どうやら鍵がかかっているみたいです。ふと扉の横を見ると、上から紐がぶら下がっています。
ああ、これ、めっちゃ引っ張りたい……。
カラン、カラン。
紐を引っ張ると、扉の奥で鐘の音がしました。しばらく待っていると、痩せて不健康そうな顔色をした男が出てきました。
「なんのご用で?」
一瞬、さっさと切り捨てちゃった方が手っ取り早いかもと思いましたけど、ここで非情になりきれないのが冒険者としてのあたしの甘いところ。とりあえず道に迷った旅人だっていうことにしておこう。
あたしがそのように言うと、その人は笑顔になりました。
「このあたりではお客はめったに見えませんが、きっとあるじはあなたに喜んで一夜の宿を提供するでしょう。さあさあどうぞ」
中は意外と豪華なつくり。入り口のホールは大理石だし、壁には肖像画とか盾とかいろいろ飾られています。もっとずっとおどろおどろしいところかと思ってたんだけどな。
男に案内されて、あたしは2階にあるとある部屋に通されました。
「ここでお休みください。主人は明日、朝食の席でお会いするでしょう」
そういうと、男は部屋を出て行きました。
あたしは男が充分離れたことを確認してから、こっそりと部屋を抜け出します。休みたいのはやまやまですが、朝になったらザンバー・ボーンは倒せないのですよ。
扉を閉めると、階段を上って3階へとあがりました。ザンバー・ボーンは、多分上でしょ。
三階の踊り場の横に扉があったので、ちょっと入ってみることにします。
そこは美術品や骨董品に囲まれた、やたらと豪華な部屋。すごいなぁ、これ。
しかしそうそう見とれてばかりもいられません。中にいたのは黒い絹のガウンを着た若い女性。綺麗っちゃ綺麗だけど、ちと怖いっす。
その人が無言で椅子を指し示して座るよう促してきますが、その手には乗りませんよ。あたしはその誘いを断ります。
すると今度はあたしに微笑みかけ、両手を広げてあたしの方に近づいてくるじゃないですか。いちいち怖いんですけど……。
その人の口元に、きらりと光るキバ。まずい、ひょっとして、吸血鬼?
その人の視線にさらされて、あたしは抵抗しようという気が失せてきます。その人があたしの首筋に噛み付くのも、あたしの血液を吸いだすのも、ただただ甘受するしかありません。
あたしは意識を失いました。そして目が醒めたとき、あたしは吸血鬼としての新しい人生をスタートさせたのです。
(おしまい)


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