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藤井恵著『海外勤務者の税務と社会保険・給与』

2007-07-14 10:42:51 | Weblog
藤井恵著『海外勤務者の税務と社会保険・給与』

本書の著者である藤井恵(ふじい・めぐみ)氏は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)国際事業本部貿易投資相談部研究員。これまでに『租税条約』、『中国駐在員の選任・赴任から帰任までの完全ガイド』(何れも清文社刊)等企業の国際展開に不可欠な税金、社会保険、年金等に関する実務書を多数世に送り出している。本書は、次のような読者を対象としている。

海外進出企業の海外人事・総務・経理担当者
海外進出計画をもつ企業の人事・総務・経理担当者
海外駐在員
海外駐在予定者

本書では、海外勤務者の日本での税務・社会保険の取扱い、海外勤務中の給与体系・危機管理・健康管理・子女教育や勤務地国での税務上の取扱いなどについて、100項目にわたる「Q&A」方式で図表をまじえて実務的にわかりやすく解説している。少々いかめしいタイトルの本であるが、これが本書の特徴。あくまでも実務主体。分かりやすさ、読みやすさを追求している実務書である。加えて、勤務地国において駐在員たちが各人の税務上の取扱いを把握できるように、22カ国の個人所得税、日本が締結した45の租税条約の中から、海外駐在員に関わる条項の概要も一覧表形式で掲載してある。以下は本書の目次。

第1章 社会保険上の取扱い
第2章 海外勤務者の日本における税務
第3章 各国の個人所得税概要
第4章 海外勤務者に関連する各国との租税条約
第5章 海外給与体系
第6章 海外勤務者規定の作成
第7章 出向元と出向先の覚書
第8章 危機管理と健康管理
第9章 海外子女教育
第10章 その他

本書には、社会保険(年金、健康保険、労災保険)、税務、海外給与規定、給与の送金、海外旅行傷害保険、予防接種、海外子女教育サポート機関等の様々なテーマ、100項目の「Q&A」の形式で整理されている。以下は、その事例。「海外子女教育サポート機関」、「海外からのペットの持ち込み」等家族の視点からの項目も含まれているのも女性らしい視点であるといえよう。
・海外駐在に当たっての日本の社会保険(厚生年金・健康保険等)に関する留意点
・国民年金の任意加入
・社会保障協定適用のための手続事項
・協定相手国から年金を受給するには
・労災保険の特別加入制度
・日本人学校の学費及び企業寄付金
・海外子女教育サポート機関
・海外からのペットの持ち込み

A5判368頁/定価2,520円(税込) (本体2,400円)



成田龍一著『大正デモクラシー』

2007-07-14 10:40:16 | Weblog
成田龍一著『大正デモクラシー』

著者の成田龍一氏は日本女子大学教授。本書は岩波新書のシリーズ「日本現代史」の第4巻として刊行された。このシリーズは全10巻。第1巻は井上勝生『幕末・維新』。最終の第10巻は宮地正人編『日本の金現代史をどう見るか』(未刊)となっている。
大正時代は1912年(大正元年)7月30日に始まり、1926年(大正15年)12月25日に終わる。約14年半の短い期間である。本書では、大正時代のみに留まらず、その前後数年を加えて、所謂“大正デモクラシー”の時代を描いている。すなわち、日露戦争終結のポーツマス講和条約調印に反対する不満分子が起こした「日比谷焼打ち事件」があった1905年(明治38年)を起点として、1931年(昭和6年)の満州事変勃発前までで終わっている。この四半世紀の間に生じた主な“事件”等を経年的に並べてみよう(別表)。概観しただけで、本書がカバーする時代の雰囲気を感じることができる。

(別表)
1905年9月:日比谷焼打ち事件
1909年10月:伊藤博文暗殺
1910年5月:大逆事件
1912年7月:明治天皇死去(大正時代始まる)
1914年6月:第1次世界大戦勃発(8月参戦)
1917年11月:ロシア10月革命、ソビエト政権
1918年7月:米騒動始まる
1918年11月:第1次世界大戦終結
1921年11月:原敬首相暗殺
1923年9月:関東大震災
1925年4月:治安維持法公布
1926年12月:大正天皇死去(大正時代終わる)
1927年3月:金融恐慌始まる
1928年6月:張作霖爆殺事件
1930年11月:浜口雄幸首相狙撃
1931年9月:満州事変

大正時代とその前後を経年的に眺めてみると、血なまぐさい事件が相次いでいることが良く分かる。「何と暗い時代」という感想もあろう。一方、大正時代は「モボ、モガ」(モダンボーイ、モダンガール)の時代であり、都市にはカフェや映画館といった新しい文化が花咲く。女性向けの雑誌「婦人公論」、「主婦の友」の創刊も大正時代のこと。ラジオの試験放送が始まった。また、普通選挙法の公布も、この時代のことである。
直接の言及はないが、本書が対象とする時代には「火災保険の歴史」にとって極めて重要な事件が2回発生した。そのひとつは日比谷焼打ち事件。騒擾により発生した火災について“見舞金”の名目で保険金相当額を支払ったこと。もうひとつは、関東大震災に際して発生した「火災保険金問題」。何れのケースも、「約款を曲げての保険金支払」を行ったのである。
(2007年、岩波新書、780円)