百醜千拙草

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必然の選択

2008-11-07 | Weblog
アメリカ大統領選、国民はオバマを選びました。予想された結果とは言え、蓋を開けてみれば、フロリダ、オハイオ、ペンシルバニア、バージニアと選挙の帰趨を決定する重要な州を全て押さえての圧勝となりました。マッケーンのconcession speechも中々しみじみと味わい深いものでした。今回のマッケーンの敗戦は全てブッシュのせいと言ってよいでしょう。ブッシュ政権下で経済が順調であったなら、結果は随分変わっていたはずです。ブッシュが次から次へと繰り出した誤った判断が、現在の苦境を招いてしまい、共和党全体に対する不信を招いてしまったのだと思います。これに関しては、共和党内でもブッシュとは違って中道よりのマッケーンはどうしようもありませんから、ちょっと気の毒です。20年前、圧勝して大統領になったブッシュ(父)は、それから4年後の大統領選で、民主党のクリントンに大敗を喫し、政権交代が実現しました。このときも経済問題が原因でした。常に経済が政権交代の主な原因なのです(”It’s the economy, stupid!”は、1992年のクリントンキャンペーンで広く使われた言葉です)今回も、ブッシュ父の湾岸戦争のリバイバル、イラク侵攻で戦争している間に、経済が弱体化し、同様のパターンを繰り返すことになりました。親が親なら子も子です。
マッケーンのスピーチの様子からは、力を出し切って戦い抜いた者の爽やかさが感じとれました。もう選挙戦術上、オバマを批判する必要もなくなり、昔のマッケーンに戻って、集まったサポーターに向かって、オバマを次期大統領として、アメリカが纏まり、更に発展していく時期であると呼びかけました。選挙が終わった今では、ブッシュの悪政、マッケーン選挙対策チームの戦略のまずさ、武器となるだったはずのペイリンの自爆、ありとあらゆる逆風が吹くなかで、老骨にむち打って長い選挙戦を戦い抜いたマッケーンを賞賛したいと思います。4年前にブッシュがやめるようなことがあったとしたら、マッケーンはよい大統領となっていたと思います。しかしながら、更に4年のブッシュの悪政によって、国民は、根本的な改革を要求するようになりました。即ち、時代は共和党で高齢のマッケーンではなく、民主党の若い新しいリーダーを必要としていました。振り返って過去を眺めれば、全ての出来事に必然性を読み取られるものです。ブッシュの悪政は良過ぎたクリントン時代に対する必然であったように感じられます。そして、オバマの出現はそのブッシュゆえに必然であった、つまり、人権活動家でない若い黒人系で民主党の大統領候補というオバマは、国民が待ち望んでいたアイコンそのものだったのではないでしょうか。そんな救世主の出現を国民が欲していたところへ、オバマがふいに出てきました。その時から既にオバマは歴史の必然となっていたのだと思います。そのことが、今回の記録的な投票率の高さに反映されていると思います。
 20年前、黒人人権活動家のジェシージャクソンが民主党大統領候補を目指して予備選を戦いました。今回、集まった群衆の中で、選挙後のオバマのスピーチを聞きながら、ジェシージャクソンの両目からは涙が頬を伝い落ちていました。こみ上げてくるものをぐっとこらえるかのように口元を結び、それを人差し指で押さえていました。人々から頭一つ飛び出たそのジェシージャクソンの表情には、これまでの苦難と喜びが入り交じったような複雑な感情が読み取れました。マイノリティーとして虐げられてきた多くの黒人にとって、今回のオバマな勝利は一段と感慨深いものでしょう。45年前に、Martin Luther King Jr.が、人権を訴える有名な、”I have a dream”のスピーチを行ったと同じ日に、オバマはデンバーの民主党大会でノミネーション受諾スピーチをし、そしてついに大統領に選ばれました。アメリカ黒人にとってもオバマの出現は必然であった筈です。もしもオバマが20年前に大統領選に出ていたとしたら、ジェシージャクソンほどに戦えたかどうかわかりません。たぶんダメだったでしょう。20年前は、そういう時代ではなかったのです。全ての条件が揃った今だからこそ、今回、オバマは勝てたのだと思います。しかし、人種の問題を今回の大統領選と重ねて見るのは良くないことだと思います。確かにオバマは「可能性に限りはない」といい、黒人がアメリカ大統領となったことと黒人の地位の向上を関連づけるような発言をし、黒人から喝采を浴びました。しかし、選挙の前からオバマ自身、アメリカは雑多の人種や共和党員や民主党員が入り交じっただけの国ではなく、(多様な構成因子が有機的に)連結した(United)国であり、人種や主義を超えて思考せねばならない、と強調してきました。オバマは過去の人権活動をルーツとする黒人政治家と異なり、最初から人種を超越したところに政治的イデオロギーを築き、その高い理想を語ることによって人を惹き付けてきました。つまり、オバマが選ばれたのは人種ゆえではなく、民主党代表としてのそのassertiveなリーダーシップゆえです。だからこそ、多くの若手、知識人を中心とする白人もオバマを支持したのだと思います。オバマは黒人代表はなく、アメリカの政治家代表として選ばれたことを、黒人も白人も理解しておく必要があります。

オバマの本当のチャレンジは来年から始まります。国民の期待は大変大きく、ブッシュ政権中の残された問題は余りに重いです。政権交代への熱狂が一段落したら、国民は冷静な目でオバマをその行動によって評価し始めます。これだけ不利な条件でホワイトハウスを引き継がねばならないオバマには、期待が大きい分だけ評価の基準も厳しくなると思われます。しかし、彼は歴史の必然が生んだ大統領です。また、長い選挙活動中、彼がただのプリーチャーではない器の大きさを持っていることもだんだんと明らかになってきました。楽観視はできませんが、オバマはアメリカを良い方向へと向けてくれるものと期待しています。

(近いうち、日本にも必然的に自民党崩壊が起こるはずです。日本に欠けているのは、強いカリスマ性を持った新しい時代の若いリーダーですが、さしあたり、日本の土壌には、オバマではなく小沢一郎の方が向いているかも知れません)
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