百醜千拙草

何とかやっています

スムーズにお別れ

2021-03-26 | Weblog
しばらく前にちょっと愚痴っぽい話で、最近来てくれた期待の新人ポスドクの問題に触れたのですけど、とにかくこの人は、最初の週から出てこないし、普段から研究室にいないし、質問にもこないし、プロジェクトの内容も理解さえしていないように見えるしで、非常に出だしの印象が悪かったのです。それでもしばらく様子をみていたのですが、さすがにこれではまずいと思い、一月前に研究プロジェクトについて一時間ほどじっくり話をして、様子を見ることにしました。その後も週に一度のミーティングで進捗を聞くわけですが、その都度、がっかりするようなことばかり続き、困ったなあ、またもう一度、じっくり話あわないといかんなあ、と思っていました。私は人を見る目はないですけど、問題が改善する見込みがあるかどうかぐらいの見当はつきます。残念ながら、この人は、時間をかければかけるだけロスが増大するタイプだということは(認めたくなかったですけど)明らかでした。

学問や研究において、謙虚に真摯に学び考えることの重要さは強調するまでもありません。逆に言えば、経験や知識が足りなくても、謙虚に真面目に学ぶ姿勢さえあれば、私は満足です。大抵の場合で、ゼロかマイナスからのスタートになるのは織り込み済みですから、ベクトルがそこそこの傾きでポジティブに向いていればOKです。現に今、働いてくれている技術補助員の二人は大学終了後ほとんど研究の実地経験なしに来ましたけど、この一年で随分、伸びました。

一方、大学院を優秀な成績で卒業し研究のプロであるはずの今回の人ですが、私から見ると、研究の基本もあやしいレベルでした。プラスからのスタートという前提が崩れただけでなく、その後のプログレスのベクトルはどうみてもさらにマイナス方向を指していました。ミーティングの時に話してわかったことは、彼女は、自分の優秀さを深く信じており、よって人から学ぶことはなく、論文を読む必要もなければ、一生懸命に課題に取り組む必要もない、とでも考えているらしいということでした。つまり、研究者にはもっとも向いていない人でした。これらのことは最初の面接のときにはスマートな笑顔の裏に隠れていてみえず、当初、あまりに非常識な行動をとるのは何か深い意味があるに違いない、あるいは私の方に問題があるのかも知れないなどとさえ考えていたのです。明かになったことは、どうもこの人は自分自身や状況を客観的に評価して適切に行動する能力に問題があるらしいということでした。ま、人間は誰でも自分を過大評価しますし、経験の浅い若い人ではしばしばそれは顕著ですから驚きませんが、この人のはちょっと度を超えていました。この人よりも若い二人の研究補助員の人の方がはるかに大人なので、余計目立つのかも知れません。

当然、結果はでないし、論文も読まないので、最も基本的なことを質問しても答えられず、自分でも目的が説明できないような実験をする。こちらからみれば、典型的な「できない人」でした。本当になぜ、大学や大学院の成績があれほど良かったのか理解に苦しみます。ま、すでにある正解に早くたどり着けば高得点が出る暗記力主体の学校の試験と、答えがあるかどうかわからない問題の解決法を論理的に考え、実験を計画、実行し、実験結果を正しく解釈していくという研究に必要な能力は別ものとも言えますけど。それでも、普通は努力をする能力がなければ学校でもよい成績はとれないでしょう。こちらとすれば、学業優秀なのは少なくとも努力をする能力があると判断し、引き続いて努力してプロジェクトに取り組んでくれることを期待して雇ったわけですが、期待というのは必ず悪い方向にはずれるものです。

周囲の人にもこの人の問題点を指摘され、挙句に、たまたま偶然、彼女の大学院時代の指導者の人はPubPeerに相当な数のエントリーがある人だということを発見したこともあって、できないのは大学院の研究室でまともな科学研究のトレーニングを受けなかったせいではないのかという疑念も湧いてきて、もうこれは、社会人としても科学者としても問題が大きすぎて、辞めてもらうしかないなあ、と思っていたところでした。

いずれにしても、人は自らが自覚して自らが行動しないかぎり、変わりません。自らを客観的に見て謙虚に学ぼうとする姿勢の乏しい人を、外から変えようとするのは無理です。このことは、過去、いろいろな人と働いた経験から実感しています。とくにこの人のように、自らを客観的に見ることができないのにプライドが実力と不釣り合いに高い人は、関われば関わるほど、トラブルとストレスが増えるだけなのは自明でした。そもそも基本的な教育に時間をかけている余裕がないので、研究のプロフェッショナルとしてポスドクを雇ったわけですし。色々考えた結果、少なからぬ損失はあきらめて、この人は放置しプロジェクトは自力でなんとかするしかないという結論に至ったわけですが、それを受け入れるのは辛いことでした。

それからしばらくして、思うに、彼女の方も無理だと察したのでしょう、「将来のプランの変更を考えている」と話を振ってきたので、渡りに船と、「いやー、残念だけど、私のプロジェクトは期間が限られているし、そういう計画なら早い目に別のところに移った方が将来にプラスだと思う、残念だけど、君の将来ためだから、、、」みたいなことを熱弁しました。このままズルズルというのはお互いにとって大変不幸なことになるのは目に見えていたのでホッとしました。スムーズに早くトラブルなくお別れできるよう、詰めを誤らぬように段取りします。
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