百醜千拙草

何とかやっています

科学出版とカネ

2012-03-30 | Weblog

先週、〆切ありの仕事を3つ済ましてホッとしたら今週また3つ来ました。今日、別の〆切仕事をなんとか一つ済ませました。ちょっと嫌になって、現実逃避してこれ書いてます。論文やグラントレビューは必要不可欠なコミュニティーサービスで、私もできる限り貢献したいとは思いますが、やはり近年、その量が随分ふえていると思います。出版される論文数がドンドン増えているのですから、レビューが増えるのもあたり前です。エディターがレビューアの確保に苦労している様子が想像できます。また、仕事量が増えてレビューの質は総じて落ちてきている印象があります。私は多分、真面目にやっている方だと思いますけど、正直、手抜きの原稿を真面目に読むのは楽しくないです。ちょっと前、同僚がやってきて、レビューを引き受けた出来の悪い論文の文句を言うので、「出来の悪い論文には出来の悪いレビューで対抗せよ」とアドバイスしておきました。以前、Robert Fulgumのエッセイの中で、私は次のような言葉を覚え、実生活に役立てているというワケです。

"Anything not worth doing is worth not-doing well"  

この言葉はオリジナルはElias Schwartzのようですが、これは、もちろん、"Anything worth doing is worth doing well (やる価値のある事は正しくやる価値がある)"をもじったもので、私は実験をする時はこの言葉を噛み締めながらやっています。そして、程度の悪い論文のレビューをやらざるを得なくなった時は、最初の言葉を思い出すことにしています。

論文の出版には、書き手、読み手、エディター、レビューアと出版社がそれぞれ異なる思惑をもって関与しています。出版社としては究極的に雑誌が売れて持続的に収益が上がることが第一目的だし、書き手はとにかく出版すること、読み手は質のよい論文を読むこと、そういうポジティブな動機があります。しかるにエディター、レビューアは自主的なmotivationは高くないわけで、喩えるなら、必要不可欠なコミュニティーサービスに参加するボランティア、極端に言えば、ときどき回ってくる町内のドブ掃除当番のような感じでやっているのではないでしょうか。ドブが詰まると自分も含めて皆が困りますが、かと言って、進んでその掃除は引き受けたくないというのが本音ではないでしょうか。もちろん、ときどきドブ掃除で思わぬ拾いものをしたりすることもないわけではありませんが。

さて、3/16号のScienceでEMBOのdirector Maria Leptinが"Open Access - Pass the Buck"というEditorialを書いています。論文出版ビジネスについての話ですが、私が思っていることと大体一致するので、興味深く読みました。Pass the Buckは責任を転嫁するという文字通りの意味でタイトルをつけたのでしょうが、(出版費用)を負担する責任所在がオープンアクセスでは違うという話なのでしょうが、Bucks(ドル)ならば、出版費用に使われる主に税金からのカネを出版社に回しているという意味に意地悪く解釈することも可能でしょう。一部、意訳します。(括弧内は、コメント、補足)

 出版にはコストがかかります。Open Accessで著者が出版費用を負担する場合、論文一本あたりだいたい$1000 - $5000ぐらいの費用がかかります。(収益に対する)コストはおおまかには採択率に依存します。例えば、100本の投稿論文を評価して100本全部を出版して、一本あたり$1000の出版費用をとれば、(100本の論文プロセスあたり)10万ドルの収益ですが、採択率15%ぐらいのセレクティブなジャーナルであれば、1万5千ドルにしかなりません。採択率の低い(つまり、人気があって一般にレベルの高い)雑誌ほど、運営に苦労しており(PLoS Biologyのことでしょうか)、一方、何でも載せる雑誌は大量に論文を出版して、大きな利益を得ています (BMCのことでしょうか)。

オープンアクセスジャーナルは、部分的には、税金ベースの出版費用とアカデミアのレビューアーの無料奉仕を利用して、金儲けをする商業出版業界に対する反発が動機になっています。 かといって、オープンアクセスでもコストがかかるのは同じです。

一つのうまくいっているモデルでは、セレクティブでないジャーナルでカネを集めて、セレクティブなジャーナルに資金を回しています(PLoS One とPLoSの上位ジャーナルのことでしょうか)。

EMBOは4つの雑誌を発行しており、二つはオープンアクセスです。残りの二つをオープンアクセスにするのはオープンアクセス料金の支払いオプションの変更を待たねばなりません。論文出版経済システムの改革が必要だと思います。研究基金や政府はオープンアクセス雑誌の運営費用を(著者経由ではなく)直接、支援するようなことを考慮する必要があるかも知れません。

オープンアクセスのコスト問題は重要ですが、それが科学出版に関する私たちの考え方に影響を及ぼすべきではありません。科学出版の中心的原則は守られなければなりません。

 

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