
今日は、キーファー・サザーランドについて駄弁ろうかと思う。といっても、今更彼を改めて紹介する要は全く無い。米国TVドラマ『24』のジャック・バウワー役を演じた俳優であり、その高い人気故に多くのサイトで既に詳細な紹介が為されているだろうからだ。本稿では、彼の一つの側面にのみ焦点を当てる。もしかしたら、それすら既に誰かによって為されているかもしれない。重複していたら御免なさい。先に謝っておきます。ただ、それだけです。
さて、最初に結論を書けば、彼は、「親の七光り」を超えた俳優である。のっけからショボいが、拙者個人としては、非常に重要だと思っている。彼の父は、ドナルド・サザーランド(下の写真の人)である。

米国映画に明るい方なら、知らない人はいないだろう。彼の名を知らなくても、彼の顔を知らない人は、そういないだろう。そう。往年の名俳優、である。今のキーファー同様、改めて紹介するまでもないほどの俳優である。如何なる業界であろうと、有名な親を持つ人が親と同じ業界へ進めば、否応なく親という「ブランド」が評価に影を落とす。
「親の七光り」と呼ばれるそれは、世の常人の常、である。有名な親と同じ業界へ進む者は、親の「幻影」を振り払うべく奮闘する。少なくとも、ブランドに安易にのっかれば、業界で長生きしない。世は、それほど甘くない。しかし、そうはいっても、親の七光りから自由になるのは至難の業である。どこへ行っても、親の名がついて回るからである。それ故、有名な親を持つ者は、親と並ぶか又は親を超えなければ親の幻影を振り払えない。親と並ぶか超えるかして初めて、一人の業界人として評価されるようになる。
特に、栄枯盛衰激しいショー・ビジネスの世界では、親のブランドの有効期限は非常に短い。親そのものの影響力は絶大だが、親の名で売れるのは、短期間でしかない。遅かれ早かれ自分のブランドを気付かなければ、この業界では生き残れない。聴衆・観客の目は、それほど甘くはない。親を超える才能を有しているか、親を超える努力をしなければ、すぐに忘れ去られる。チャーリー・シーンのように、かなり早い段階から父親(マーティン・シーン)より高い人気を得て独自の地位を築いた役者は、かなり稀である。松田龍平のように、自分の名で売れるまで父(松田優作)の存在を隠した役者もいるほどである。それほど親の名は大きいが、その子息/令嬢には、それだけ大きな壁として目の前に立ち塞がる。
その高さと重さに耐え切れず、潰れていく役者も、決して珍しくない。例えば、ブリジッド・フォンダ(下の写真の人。映画『アサシン』ジャケットより。)という女優がいる。

彼女は、祖父にヘンリー・フォンダ、叔母ジェーン・フォンダ、父ピーター・フォンダという一家三代役者の家系に生まれた所謂「サラブレッド」である。『ゴッドファーザーPartⅢ」に出演したり、リュック・ベッソンのヒット作『ニキータ』の米国版リメイク『アサシン』でニキータ役を演じたり、『ルームメイト』でジェニファー・ジェイソン・リーと共演するなど、華々しいキャリアを持つ女優である。89年には、ゴールデングローブ賞にノミネートされ、祖父・叔母・父を超えるかとも思われていた。
しかし、90年代が進むに連れ、出演作品のレベルが下がる傾向にある。デビューから既に二十年余を経過した長い女優人生を送り、彼女の名自体も広く知れ渡っているものの、最盛期の栄華は失われているように思われる。リュック・ベッソン脚本で、ジェット・リーと共演した『キス・オブ・ザ・ドラゴン』を観た際、そのやつれ具合に衝撃を受けた。当初、元々影のある役を演じる傾向が強く、さらに『キス・オブ・ザ・ドラゴン』でも人生を諦めた退廃的な娼婦を演じている事情もあり、本作のみの役作りと判断していた。しかし、その後の彼女の軌跡や表情を見る限り、明らかにかつての精彩を欠いている。しかも、もう十年以上、大ヒット作に恵まれていない。彼女は、未だに親の呪縛から解放されず、役柄と同様に退廃化しつつあるようだ。個人的に好きな女優さんなので、残念だ。
ここで話を本筋に戻せば、キーファーも数年前まではそうだった。何気に有名作に何本も出演している。彼が出演した作品をレビューすれば、その華々しさに目が眩む。『スタンド・バイ・ミー』(この事実を知った時は、ビビッた。)、『ヤングガン』シリーズ(拙者は、この映画で彼を知った。)、『ツインピークス』、『フラットライナーズ』(一度しか観てないが、拙者個人的に大好きな映画です。近いうちに紹介しますね。)、『ア・ヒュー・グッド・メン』(名作です。二月に本ブログでも記事にしました。)、『評決の時』(J・グリシャム原作の名作です。)、『三銃士』(アトス役を演じてました。)など、『24』より前に、ざっとレビューしただけでも錚々たる作品ばかりである。
しかし、彼単独でヒットを生み出せない時代が続いた。俳優業と併行してプロデューサー業と監督業を営んでいる事情もあろうが、主演の機会に殆んど恵まれず(良くて「準」主演)、有名俳優・女優を脇から支える存在だった。ブリジッド同様、デビューから二十年間、中途半端な地位に甘んじてきた(奇遇なことに、彼とブリジッドは、ほぼ同時期にデビューしている。)。何度かエミー賞にノミネートされるも、受賞は常に逃してきた。同期のロブ・ロウ(主にTVドラマ俳優です。日本では、NHKで放映された『ザ・ホワイトハウス(原題:"The West Wing")』で知られています。)、トム・クルーズ、マッド・デイモン、チャーリー・シーン(公私共に仲が良いそうだ)、エミリオ・エステベスにどんどん差を空けられ、苦しい日々を送ったのだろう。さらに、父ドナルドは、齢を重ねても尚その名を高めていた事実が追い討ちをかけたであろう。それでも、彼は、地道な努力を続けた。
そして、2001年、『24』シーズン1放映がスタートし、彼は主演に抜擢された。周知の通り、『24』は大ヒットし、シーズン4まで放映されている。また、既にシーズン5の撮影が始まっているなど、その人気は未だに翳りを見せない。さらに、彼は、『24』で同時に複数以上の人物を演じた。ジャック・バウワーという一人の人間が持つ複数以上の側面を同時に演じるという高度な演技を、彼は披露した。ジャックは、一人の政府関係者であり、一人の指揮官であり、一人の孤高の捜査官であり、一人の夫であり、一人の恋人であり、一人の父親である。リアルタイムでストーリーが進行する中、一つの場面で彼は幾つものアイデンティティを使い分け、それを見事に演じきった。二十年の努力が、ここに報われたと言えるだろう
『24』での成功を機に、彼は再び有名映画に重要な役で出演するようになった。コリン・ファレル主演の『フォーン・ブース』やアンジェリーナ・ジョリー(ちなみに、彼女も二世女優であり、父はジョン・ボイドである。彼女も早い段階で、父を超えていた。)とイーサン・ホークと共演した『テイキング・ライブス』など、『24』以外でも彼の名が通るようになってきている。もはや、彼は父の名を必要としない。彼の背後に、父ドナルドの影は無い。ただあるのは、キーファー・サザーランドという一人の役者である。そう。彼は、親の七光りを乗り越えた俳優である。
今後の更なる活躍を、ただただ期待するのみである。
追伸
余談である。多くのサイトにも載っているので改めて言及する要はないのだが、面白いので本稿にも載せておく。
キーファーは、ロンドン生まれのカナダ人である。米国籍を有していない、と言われている。また、キーファー・サザーランドという名は、厳密には彼の「本名」ではない。彼の本名は、"Kiefer Willam Frederick Dempsey George Rufus Sutherland"、である。かくも長い名前になった所以は、父ドナルドが自分に金を貸してくれた人に息子の名前にその人達の名を付けると約束したところにあるとか。ちなみに、父ドナルドは、息子キーファーの名を正確に覚えていないという。
実にドナルドらしい。しかし、哀れキーファー。
さて、最初に結論を書けば、彼は、「親の七光り」を超えた俳優である。のっけからショボいが、拙者個人としては、非常に重要だと思っている。彼の父は、ドナルド・サザーランド(下の写真の人)である。

米国映画に明るい方なら、知らない人はいないだろう。彼の名を知らなくても、彼の顔を知らない人は、そういないだろう。そう。往年の名俳優、である。今のキーファー同様、改めて紹介するまでもないほどの俳優である。如何なる業界であろうと、有名な親を持つ人が親と同じ業界へ進めば、否応なく親という「ブランド」が評価に影を落とす。
「親の七光り」と呼ばれるそれは、世の常人の常、である。有名な親と同じ業界へ進む者は、親の「幻影」を振り払うべく奮闘する。少なくとも、ブランドに安易にのっかれば、業界で長生きしない。世は、それほど甘くない。しかし、そうはいっても、親の七光りから自由になるのは至難の業である。どこへ行っても、親の名がついて回るからである。それ故、有名な親を持つ者は、親と並ぶか又は親を超えなければ親の幻影を振り払えない。親と並ぶか超えるかして初めて、一人の業界人として評価されるようになる。
特に、栄枯盛衰激しいショー・ビジネスの世界では、親のブランドの有効期限は非常に短い。親そのものの影響力は絶大だが、親の名で売れるのは、短期間でしかない。遅かれ早かれ自分のブランドを気付かなければ、この業界では生き残れない。聴衆・観客の目は、それほど甘くはない。親を超える才能を有しているか、親を超える努力をしなければ、すぐに忘れ去られる。チャーリー・シーンのように、かなり早い段階から父親(マーティン・シーン)より高い人気を得て独自の地位を築いた役者は、かなり稀である。松田龍平のように、自分の名で売れるまで父(松田優作)の存在を隠した役者もいるほどである。それほど親の名は大きいが、その子息/令嬢には、それだけ大きな壁として目の前に立ち塞がる。
その高さと重さに耐え切れず、潰れていく役者も、決して珍しくない。例えば、ブリジッド・フォンダ(下の写真の人。映画『アサシン』ジャケットより。)という女優がいる。

彼女は、祖父にヘンリー・フォンダ、叔母ジェーン・フォンダ、父ピーター・フォンダという一家三代役者の家系に生まれた所謂「サラブレッド」である。『ゴッドファーザーPartⅢ」に出演したり、リュック・ベッソンのヒット作『ニキータ』の米国版リメイク『アサシン』でニキータ役を演じたり、『ルームメイト』でジェニファー・ジェイソン・リーと共演するなど、華々しいキャリアを持つ女優である。89年には、ゴールデングローブ賞にノミネートされ、祖父・叔母・父を超えるかとも思われていた。
しかし、90年代が進むに連れ、出演作品のレベルが下がる傾向にある。デビューから既に二十年余を経過した長い女優人生を送り、彼女の名自体も広く知れ渡っているものの、最盛期の栄華は失われているように思われる。リュック・ベッソン脚本で、ジェット・リーと共演した『キス・オブ・ザ・ドラゴン』を観た際、そのやつれ具合に衝撃を受けた。当初、元々影のある役を演じる傾向が強く、さらに『キス・オブ・ザ・ドラゴン』でも人生を諦めた退廃的な娼婦を演じている事情もあり、本作のみの役作りと判断していた。しかし、その後の彼女の軌跡や表情を見る限り、明らかにかつての精彩を欠いている。しかも、もう十年以上、大ヒット作に恵まれていない。彼女は、未だに親の呪縛から解放されず、役柄と同様に退廃化しつつあるようだ。個人的に好きな女優さんなので、残念だ。
ここで話を本筋に戻せば、キーファーも数年前まではそうだった。何気に有名作に何本も出演している。彼が出演した作品をレビューすれば、その華々しさに目が眩む。『スタンド・バイ・ミー』(この事実を知った時は、ビビッた。)、『ヤングガン』シリーズ(拙者は、この映画で彼を知った。)、『ツインピークス』、『フラットライナーズ』(一度しか観てないが、拙者個人的に大好きな映画です。近いうちに紹介しますね。)、『ア・ヒュー・グッド・メン』(名作です。二月に本ブログでも記事にしました。)、『評決の時』(J・グリシャム原作の名作です。)、『三銃士』(アトス役を演じてました。)など、『24』より前に、ざっとレビューしただけでも錚々たる作品ばかりである。
しかし、彼単独でヒットを生み出せない時代が続いた。俳優業と併行してプロデューサー業と監督業を営んでいる事情もあろうが、主演の機会に殆んど恵まれず(良くて「準」主演)、有名俳優・女優を脇から支える存在だった。ブリジッド同様、デビューから二十年間、中途半端な地位に甘んじてきた(奇遇なことに、彼とブリジッドは、ほぼ同時期にデビューしている。)。何度かエミー賞にノミネートされるも、受賞は常に逃してきた。同期のロブ・ロウ(主にTVドラマ俳優です。日本では、NHKで放映された『ザ・ホワイトハウス(原題:"The West Wing")』で知られています。)、トム・クルーズ、マッド・デイモン、チャーリー・シーン(公私共に仲が良いそうだ)、エミリオ・エステベスにどんどん差を空けられ、苦しい日々を送ったのだろう。さらに、父ドナルドは、齢を重ねても尚その名を高めていた事実が追い討ちをかけたであろう。それでも、彼は、地道な努力を続けた。
そして、2001年、『24』シーズン1放映がスタートし、彼は主演に抜擢された。周知の通り、『24』は大ヒットし、シーズン4まで放映されている。また、既にシーズン5の撮影が始まっているなど、その人気は未だに翳りを見せない。さらに、彼は、『24』で同時に複数以上の人物を演じた。ジャック・バウワーという一人の人間が持つ複数以上の側面を同時に演じるという高度な演技を、彼は披露した。ジャックは、一人の政府関係者であり、一人の指揮官であり、一人の孤高の捜査官であり、一人の夫であり、一人の恋人であり、一人の父親である。リアルタイムでストーリーが進行する中、一つの場面で彼は幾つものアイデンティティを使い分け、それを見事に演じきった。二十年の努力が、ここに報われたと言えるだろう
『24』での成功を機に、彼は再び有名映画に重要な役で出演するようになった。コリン・ファレル主演の『フォーン・ブース』やアンジェリーナ・ジョリー(ちなみに、彼女も二世女優であり、父はジョン・ボイドである。彼女も早い段階で、父を超えていた。)とイーサン・ホークと共演した『テイキング・ライブス』など、『24』以外でも彼の名が通るようになってきている。もはや、彼は父の名を必要としない。彼の背後に、父ドナルドの影は無い。ただあるのは、キーファー・サザーランドという一人の役者である。そう。彼は、親の七光りを乗り越えた俳優である。
今後の更なる活躍を、ただただ期待するのみである。
追伸
余談である。多くのサイトにも載っているので改めて言及する要はないのだが、面白いので本稿にも載せておく。
キーファーは、ロンドン生まれのカナダ人である。米国籍を有していない、と言われている。また、キーファー・サザーランドという名は、厳密には彼の「本名」ではない。彼の本名は、"Kiefer Willam Frederick Dempsey George Rufus Sutherland"、である。かくも長い名前になった所以は、父ドナルドが自分に金を貸してくれた人に息子の名前にその人達の名を付けると約束したところにあるとか。ちなみに、父ドナルドは、息子キーファーの名を正確に覚えていないという。
実にドナルドらしい。しかし、哀れキーファー。