不肖Tamayan.com駄弁録

「英雄は自分のできる事をした人だ。凡人はできる事をせずに、できもしない事を望む。」byロマン・ロラン

トルキア / "turkey" by 菅野よう子

2010年04月14日 20時29分23秒 | 徒然駄弁―音楽編

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX O.S.T.3
TVサントラ
ビクターエンタテインメント

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 この国であまりよく知られていないがそれでもやはりかなりよく知られている音楽家に、菅野よう子さん、という方がいる。菅野よう子さんがどういう人かというのは既に記事を書いているので、改めて詳しく説明しない。著名なピアニストであり、素晴らしい音楽プロデューサーでもある。
 その作品数は、やたらと多い。しかも、尋常でない多彩さを誇る。有名映画やドラマ・アニメのサントラやCMテーマなど他人のテーマに依拠した作品が多いが、作品リストを見ただけでは音楽的傾向を捉えにくい。しかし、そうかと言って、自分の個性を与えられたテーマに埋没させていない。むしろ両者を見事に融合させて特徴的で素晴らしい作品へと昇華させており、その評価は高い。菅野よう子という名を知らなくても菅野よう子が作った曲は必ず聞いたことがあるはず、とも言われる。

 私自身あまりに多い菅野さんの作品を全て聴いているわけではないが、私が最も気に入っているのが、アニメ『功殻機動隊』のサントラである。
 菅野さんが手がけてきたサントラ・シリーズの中で、『功殻機動隊』シリーズは独創的だ。例によって多彩で、とても同じ人が作ったとは思えないほどだ。既存のジャンルをベースにしているものも多いが、クラブ系のような菅野さんが元々好きでないジャンルも取り入れられている。他方、ジャンルを特定出来ない楽曲も多い。そのため、菅野作品の中で、異質さが際だっている。
 その結果、『功殻機動隊』独特の世界観見事に表現している。『功殻機動隊』自体の紹介は別の機会に譲るとして、物語に登場する先進的であるが退廃的な近未来の世界と街並み、閉塞感漂う社会のダーク感、主人公を含む登場人物の躍動感と寂寥感、そしてそんな世界で進行する物語のアングラ感をドンピシャに演出している。そして、アクの強い物語と菅野さんのこだわり両者が鮮やかに融合し、このサントラ自体がもはや一つのジャンルを形成していると言っても言い過ぎではないだろう。
 ちなみに、私は「サントラ」というジャンルが好きで、今まで少なくない数のサントラを聴いてきた。その中で、『功殻機動隊』のサントラほど作者とテーマが高度に融合した素晴らしいサントラを、未だかつて聴いたためしがない。もう五年ほど頻繁に聴いているが、未だに色褪せず、この先も飽きる気がしない。また、菅野さんが一方的に取り込まれていないので、アニメとは離れた独立した存在感と価値を持っていて、アニメを見ていない人が聴いても気に入るだろう。

 そんな『功殻機動隊』サントラの中でも一際異彩を放つのが、今回紹介する『トルキア』である。シーズンⅡ中盤あたりから要所要所で用いられるこの曲は、実にカッコいい曲であるが、全くもってジャンルを特定出来ない。各パートは既存のジャンルをベースにしているようだが、全体としてジャンルを特定出来ない。ドラムラインは、全体的にロック調で、ところどころに民俗楽器とリズムが織り込まれている。曲調の変わり目に入れられているギターラインは、フラメンコギターである。鍵盤ラインは、全体的にトランス調が貫かれている。さらに、コーラスと合唱は、どこかの民俗音楽のようである。また、曲の後半部前半、突然オーケストラ調にがらっと曲調が変わる。
 通常これだけ系統の異なるものを組み合わせれば、曲は混沌とし、何を伝えたいのか分からなくなる。うまく調和出来たとしても、その組合せが注目されるのみで、それ以上の新規性や独創性は存在しないものだ。しかし、この曲ではそれらは一つのテーマの下に調和しており、強烈なメッセージ性とストーリ性と有している。恐らく、シーズンⅡで登場するある主要人物が目指す世界を表しているのだろう。

”トルキアの地に
砂となりし言葉の降りむつという

 海ヲ見タカ 海ヲ見タカ
 思考水路の響きに

高き魂は高き道を
低き魂は低き道を
そしてそのあいだの
霞がかった平らな地に
届かない歌とその魂が乾いていく

トルキアの地に
砂となりて降りむつ”

 歌詞カードに書かれた『トルキア』の詞は(*)、その人物の思想を理解する上で重要な概念でもある。そして、『トルキア』は、それが意味を持つ場面において用いられていて、その場面の空気を表現している。

 また、『功殻機動隊』の他の曲同様、『トルキア』もアニメとは協調的である他方で独立的でもある。つまり、『トルキア』の世界のみならず、「菅野よう子」の世界も表現されている。そのため、単独で聴いてもオリジナルとは少々異なったメッセージ性とストーリー性が印象に残る。既存のジャンルは、もはや元のジャンルを離れて『トルキア』のストーリーと菅野さんに完全に取り込まれいる。このような高い完成度と独創性が『トルキア』の魅力であり、『功殻機動隊』サントラ収録曲の中で菅野ファンと『功殻機動隊』ファンの両者から最も高い評価を受けている理由であろう。
 そして、これは、新しいジャンルの「創造」を意味しているだろう。シーズンⅡの重要概念が下部構造下の一般大衆を上部構想へ昇華による新世界の「創造」であったように、『トルキア』も、既存の音楽ジャンルが一つのメッセージの下に昇華し、新しいジャンルを「創造」した一曲と言える。また、それは、音楽自体のみならず、菅野さん自身の昇華をも意味しているのかもしれない。
 その意味で、『トルキア』は、菅野さんの高度な技巧と独創性が生んだ「新しい音楽」である。それ故、私もまた、『トルキア』に『功殻機動隊』サントラシリーズ中「最高」の評価を与えている。『功殻機動隊』を見ていない人にも是非聴いて欲しいし、この曲からアニメも見てもらえれば幸いである。聴いていると、なにやらやる気が沸いてくる。通勤・通学のお供に最適である。
 なお、大抵の菅野作品は、一部分のみではあるが、今回紹介した『トルキア』も含め菅野さんのオフィシャルサイト"The Yoko Kanno Project"で各曲約60秒程度試聴出来る。また、"You Tube"ではフル試聴可能で、『トルキア』については本記事下部をご覧頂きたい。

(*)
 つい最近までこれが歌詞か定かでなかったのだが、詳しい人に聞いてみると、この歌はロシア語とラテン語を併用して歌われているという。それを日本語訳したものがこれだそうだ。
 『功殻機動隊』サントラではロシア語がよく使われているが、『トルキア』で歌われているのはなんとなく違うような感じもしたので最近まで判断を保留していた。表題の"turkey"を「ターキー」ではなく「トルキア」と読む言語が用いられていることぐらいしか分からなかったが、なるほどラテン語が併用されていたんやね。
 とにもかくにも納得。

(**)
 『トルキア』が収録されているO.S.T.3もよいが、下の二作も優れている。
 ”O.S.T.+”では、三曲目の「スタミナローズ」のクラブ感とアングラ感がテンションを上げる。”O.S.T.2”の方は、シーズンⅡのOPテーマにも使われた二曲目の"Rise"が好きだ。ロシア語と英語を併用した歌詞も独特だ。

Origa
発売日:2004-02-25
価格
曲目 | 1.run rabbit junk | 2.ヤキトリ | 3.スタミナ・ローズ | 4.surf | 5.where does ocean go? | 6.train serch | 7.シベリアン・ドール・ハウス | 8.velvetteen | 9.lithium flower | 10.home stay | 11.inner universe | 12.fish~silent cruise | 13.some other time | 14.beauty is within us | 15.we're the great | 16.モノクローム | 17.GET9 (TV SIZE) | 18.18 rise (TV SIZE) |
アニメ見て無くてもまだ攻殻機動隊を知らない時分に、知人にすすめられ聞いてみたところ、とても気に入りました。菅野よう子さんスゴイです
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Tim Jensen
発売日:2004-05-26
価格
曲目 | 1.サイバーバード (Vo・words: Gabriela Robin) | 2.rise (Vo: ORIGA words: Tim Jensen / ORIGA) | 3.ride on technology | 4.アイドリング | 5.i can't be cool (Vo・words: Ilaria Graziano) | 6.3tops | 7.gonna rice | 8.GET9 (Vo: jillmax words: Tim Jensen) | 9.Go DA DA | 10.サイケデリックソウル(Vo: Scott Matthew words: Tim Jensen) | 11.what's it for (Vo: Emily Curtis words: Tim Jensen) | 12.living inside the shell (Vo: Steve Conte reading:Shanti Snyder words: Shanti Snyder) | 13.ペットフード | 14.security off | 15.to tell the truth | 16.i do (Vo・words: Ilaria Graziano) | 17.we can't be cool |
繰り返し聞いても飽きません・・・クオリティ高いです攻殻シリーズは映画版からです。TV版S.A.C.1stからイノセンス、そしてTV版S.A.C.2ndを観ました。その中で音楽・内容共に一番好きだったのがTV版2ndだったので楽曲の入っているO.S....
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(***)
上から『トルキア』、『スタミナローズ』、"inneruniverse"。"inner-"は『功殻-』シーズンⅠオープニング使用部分のみ、他二曲はフル試聴可。










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