ER 緊急救命室 VI ― シックス・シーズン DVD コレクターズ・セットワーナー・ホーム・ビデオこのアイテムの詳細を見る |
カテゴリーは「映画編」としているものの、今回は、とあるドラマについて少々語ろうかと思う。今回語るドラマは、"ER"である。あまりにも有名なドラマである故、今回は、いつものように仰々しく解説せず、率直な感想を緩く綴ろう。
さておき、繰り返せば、"ER"自体は今更詳細を説明するまでもないだろう。マイケル・クライトン原作による米国のTVドラマで、その高いクオリティ故に、本国米国でドラマ史上最多のエミー賞(放送界のアカデミー賞)を受賞するほど高く評価された。今でこそ"24"に席を譲っている感を否めないものの、今も尚製作が続けられ、未だに根強い人気を誇っている。現時点でシーズン14までの製作が決まっており、かくも長くシーズンを重ねる連続ドラマは、"X-Files"(8シーズン)ぐらいしか知らない。
周知の通り、日本でも放映され、高い人気を博した。次々に輸入されては1シーズンで打ち止めになったりシーズン途中で放映打ち切りになる海外ドラマが珍しくない中、今も尚NHKで放映されている。日本でかくも高い人気を誇った海外ドラマは、先の"X-Files"と"24"、後は以前紹介したドラマ版『ニキータ』ぐらいであろう。個人的には、"X-Files"後("24"が出るまで)に日本で放映された海外ドラマでは、間違いなく最高のドラマだと考えている。
昔、欠かさず観たものである。"ER"の放映が始まったのは、丁度高校生の時分だった。中学校時代は"X-Files"、高校時代は、"ER"だった(大学・大学院時代はドラマ版『ニキータ』と"24")。NHK綜合で放映される土曜日の夜を、心待ちにしていたものである。大学に入ってから、色々な事情で観難くなって飛ばしがちにはなったものの、シーズン6までは殆ど欠かさず、今も観続けている。
その良さは、やはり高いリアリティに求められるだろう。原作者であるクライトンは、元々医学生であり、当時の記憶を基に"ER"を作った。かような事情もあってか、他の類似作品にはないリアリティがある。次々と運ばれる急患とそれにてんてこ舞いになるER関係者、用いられる手技や用語に至るまで、とことんリアリティが追求されている。独特のカメラワークや演出も相まって、幸福感から切迫感に至るまで、恐ろしく実感が沸く。
特に象徴的なのが、「助からない」ケースが珍しくない、という点であろう。他のドラマではほぼ助かり、助からないケースは特別に扱われるが、"ER"では助からないケースが多い。不謹慎と思われるかもしれないが、これが、厳しい現実なのだろう。他方で、死が軽んじられているわけではない。一つ一つのケースに、何かしらの深いドラマが込められている。短いが、見応えがある。
また、個々のケースの背景に横たわる問題も、面白い。DV、凶悪犯罪、同性愛、貧困、薬物、アルコール、教育など、個々の急患の背後にある社会問題にも、小さくない焦点が当てられている。それ故、ただの医療ドラマではなく、広く社会ドラマとしての魅力を有している。だからこそ、かくも長くシリーズ化しても、簡単にマンネリ化しないのだろう。そして、映画並に充実した四十三分間、になっている。
さておき、何だかんだ言って随分だらだら駄弁ったものの、個人的に最も印象に残っているのが、シーズン6である。グリーン先生ことアンソニー・エドワーズ(ちなみに、"TOP GUN"でトム・クルーズの相棒を務めた人。)と並び、初回から"ER"の華としてドラマを引っ張ってきたジョージ・クルーニ(ロス先生役)が前シリーズでERを去り、大きな節目を迎えるシリーズである。
目まぐるしい出演俳優交代で有名な"ER"にあって、シーズン中最大の出会いと別れがある。同じく初回からの華である看護士ハサウェイが、出産し、子供達の父親であるロスのもとへ向かうべくERを去っていく。コバッチュ、フィンチ、マルッチ、アビーの赴任、シーズン1途中で去ったデヴの復帰、と目白押しである。
さらに、何よりも、色々な意味でインパクトがある。憎まれっ子ロマノの良いところが垣間見えるなど、登場人物達に対する評価が変わるような事件が、多い。特に印象的なのが、タイトルに付した第十三話と十四話である。カーターとルーシーが精神病患者に刺され、命の危機に瀕する。この事件を機にカーターが大きく変わり始め、シーズン6における最大の山場であり、全シリーズ中最も印象に残るエピソードである。個人的には、この二話が、シーズン6の雰囲気を決めたと考えている。
少し話を逸らすと、シーズン6の中で唯一見逃したのが、第十四話である。色々なドラマが展開される"ER"にあって珍しく、刺された二人に対する対応を中心に描かれている。第十五話を先に観た故に結末だけは知っていたものの、ずっと気がかりになっていた。随分後になって、DVDで観た。
率直なところ、随分重かった。上述の通り、"ER"において、死は珍しくない。しかし、第十四話は、特別に扱った数少ないエピソードである。身内の危機に臨んで異質な雰囲気を醸し出す登場人物達の様が、克明に描かれている。恐らく、シリーズ中、最も重い死になったであろう。一時、カーターとルーシーの役柄はこの重さを演出する為に作られたのではないか、と考えたほどであった。
とにもかくにも、シーズン6第十三話と第十四話は、6シーズン中(7以降は、不定期にしか観ていない)最も緊張感に溢れ、最も心に響く。個人的には、6シーズン中、最も見応えのあるエピソードと考えている。