たままま生活

子育ての間にこっそりおでかけ・手作り・韓国語・・・。
多趣味な毎日を紹介します。

『アンダー・サンダー・テンダー』

2015-07-21 16:47:15 | 韓国文学

クオンが刊行している新しい韓国の文学シリーズの最新刊『アンダー・サンダー・テンダー』チョン・セラン著 吉川凪訳を読みました。



韓国の現代文学を読むと「日本と似てるなぁ」「でも日本とは違うなぁ」「でもやっぱり日本と似てるなぁ」と思うのですが、この本はキッパリと日本と韓国は違う!という現実を突きつけられました。久しぶりに衝撃を受けて、ちょっとまだドキドキしています。

物語の舞台はパジュ。出版都市としても有名で、私も一度行ったことがあります。その時は真冬に行ったからか、新しい街並みが人工的すぎたからか、バスから見るイムジン河に鉄条網が続いていたからか、やたらと「寂しい都市」だと思いました。


主人公の「祖父は北の出身に違いなかったから……東京留学の経験もあり、当時エリート中のエリートだったという祖父は、たった一人で三十八度線を越えて南にやってきた。」という人物。家族を北に残したまま、南でも新しい家庭を持ち、ククス屋を経営しています。

物語は、現在は大人になっている主人公の私の、高校時代の回想の間に、家族や友人たちの姿を収めた短いビデオの映像と台詞が挟み込まれます。ビデオは比較的最近のもので、(高校時代ではない)内容は本当に何気ない会話ですが通して読んでみると、回想とビデオの内容がリンクしはじめます。
同じバスで高校に通った同級生の仲間は、オシャレで妖怪みたいなソンイ、家庭に問題のありそうなスミ、イケメンで声もいいミヌン(パジュのアイドル)、ピンクのお肌でぽっちゃりした秀才のチャンギョムと、転校してきて仲間になったジュヨン。そしてジュヨンの一つ年上の兄、映画の大好きなジュワン。

校則とオシャレの話。恋愛の話。進学の悩み。ここまでは、日本の高校生と同じですね。でも、韓国の若者は日本の若者とは決定的に違うのです。「テンダーエイジは、あまりにも優しく柔軟でまだ固まっておらず、また自らを守れる年齢ではないために社会の暴力に無防備にさらされている十代を表した言葉」だそうです(訳者あとがきより、著者の言葉)。彼らが、どれほど繊細でどれほど深く傷ついたことか。最後まで読むと、このビデオが主人公のある傷を癒すために必要な作業だったことがわかります。
無防備で傷だらけの青春ですが、同じ時間を分かち合う、そして大人になっても集える友人たちを、主人公が持っていることに、ちょっとほろりとする作品です。

出来れば若い人に、もしくは、きゅんとするような青春群像の好きな方にお勧めします。
(きゅんというより、ぎゅぎゅーっと心臓を絞られるかもしれません。)

『酔うために飲むのではないからマッコリはゆっくり味わう』

2015-03-21 18:46:32 | 韓国文学


『酔うために飲むのではないからマッコリはゆっくり味わう』シン・ギョンニム・谷川俊太郎著
『모두 별이 되어 몸에 들어왔다』타니카와 슌타로/신경림 지음


日韓で同時発刊された詩人2人の本。
往復書簡のように2人の詩人の間で交わされ連なっていく対詩は、谷川さんの詩が右ページ、上の段に縦書きで日本語、下に横書きで韓国語翻訳。呼応するシン・ギョンニム詩人の詩は左ページで、上に日本語訳と下に韓国語、という二人の詩が合計24編続きます。




このほかに二人の詩人の代表的な詩、東京と韓国・パジュでの2人の対談、エッセイなど盛りだくさんの1冊です。

韓国で発表された同じ本が、全く違うタイトルになるのも興味深いところです。日本語と韓国語で並んでいる詩を読んでみると、翻訳の広がりや深さが感じられておもしろい、というか勉強になります!

手にしっくりなじむコンパクトな本で、かわいらしいおじいちゃんふたりの帯が目印です。書店で見かけたらぜひ手に取ってみてくださいね。

本の詳しい情報はこちらから。
日本語版 http://www.cuon.jp/products/detail.php?product_id=42
韓国語版 http://book.daum.net/detail/book.do?bookid=KOR9788959138968

カステラ

2014-08-31 20:26:33 | 韓国文学
先日、韓国文化院の韓国文学読書討論会に参加してきました。第一回の課題図書はパク・ミンギュ作家の『カステラ』です。
パク・ミンギュ作家は作風が変わるので、好きな時と苦手な時があるのですが、この作品集は文句なしに「読みやすーい、おもしろーい」というのが私の感想。

みなさんと意見交換をしてみると「読みにくかった」「つらかった」という人も多く、好みはいろいろですね。

日本と似ているようで似ていない、似ていないようでやっぱり似ている韓国の現実と、現実とファンタジー(というより強烈なアイロニーだと理解していますが)の間を自由に行き来するパク・ミンギュ節は、好きな人にはたまらなく、苦手な人は船酔いするのかもしれません。
とにかく、平凡ではない、強烈な読書体験になるのは間違いなし!



当日はクレイン出版の文社長からブック・デザインの裏話も。
この本の装丁はカステラをイメージしているんですって。そういえば、ここ、表紙裏のカラーリングなんておいしそう。そして、裏表紙の湯気の上がるカステラもおいしそう。
(私は、日本の出版物でハングルが踊っているデザインが素敵だと思います。)





美味しそうで面白いこの本、ぜひみなさん、本を手に取ってみてくださいね。
近所の本屋にないときは、電話してもらうのが一番うれしいそうです。

図書出版クレインの連絡先はこちら

「カステラ」入荷しました。

2014-07-04 00:56:04 | 韓国文学
けぃ。さんをずいぶん待たせた「カステラ」が、
けぃ。さんに「バカヤロー!」と言わせたカステラが、
amazonに再入荷しましたよ。



amazon品薄で、買えなくてー、という話は聞いていましたが、
マーケットプレイスでずいぶん値上がりしていたんですね!びっくりです。


また品薄になったら、出版社のほうでも対応してくれるそうです。

こういう本の面白さをみんなで語り合えたら楽しいだろうなーと思っていたら、こんなイベントも。

韓国文学読書討論会。

私は予約しました。

「記憶をなくした者たちの都市」ソン・ホンギュ

2014-06-04 08:17:13 | 韓国文学

ー目が覚めたら見知らぬ部屋にいて、自分が誰なのか思い出せない。ポケットの中のスマホを手にしても、パスワードが思い出せない。

ここまではよくある記憶喪失もの。ソン・ホンギュ作家の短編、「記憶をなくした者たちの都市」では、町中の人間たちが同時に記憶を失い、戒厳令の敷かれた都市を描きます。
やっとたどり着いた自分の家では、妻と娘が待っていますが、みな記憶はなく、ぎこちなく過ごします。
夫婦には実は息子がいて、今回の事件で亡くなったと聞いても、記憶にない息子の死は実感できず、悲しみもわいてきません。
交通事故で死にそうな娘を前に、彼は父親として2人の思い出を語ります。
思い出などないのですが、彼女を記憶していること、思い出を共有していることが、娘を安心させます。


私が私である、というアイデンティティは私の記憶の中にだけあるのではありません。私一人が記憶をなくしたとして、「あなたはこういう人だ」と言ってくれる多くの関係の中で形作られていくのでしょう。
と、いうことをはっとさせられる短編でした。

今回の『李箱文学賞作品集』では、これが一番面白かったです。

だれだれちゃんのママ、とか、奥さんとか呼ばれるのは正直面倒くさいのですが、そんな関係が私とこの社会をつないでくれているのかもしれません。

ちょうど、小説の発生は個人の発生がなんとか・・・という本を読んでいた時期だったので、個人と記憶について深く考えさせられました。

拙訳があります。読んであげる~、という方は個人的にメールをください。

慟哭―神よ、答えたまえ パク・ワンソ著

2014-04-29 18:29:06 | 韓国文学
韓国の旅客船沈没事故のニュースでは、
泣き叫び体を投げ出して悲しみを表す家族の様子を見て
同じように胸を痛めた人、
驚いた人、
不快に思った人もいたことでしょう。

特に高校生たちはうちの子と歳も変わらないので、暖かく溢れ出すような若さもわかるし、
救えなかった命を思うと言葉もありません。
ニュースを見ながら読んでいた本です。


『慟哭―神よ、答えたまえ』は私も大好きなパク・ワンソ作家が
息子を失った後の日記です。

日記には息子の死が受け入れられない作者の、激しく苦しい心のうちがつづられています。
完璧で罪のない息子に何の罪があって死んだのか、
こんな間違いを犯すなんて、神様、あなたなどいないのではないか、
それとも息子をなくす、というのは私自身の罪なのか。

キリスト教者であった作者の問いかけは、神へと向かいます。

息子の死のショックに打ちひしがれる作者は、母を心配する娘の家で、
身を寄せた修女院で、末娘の暮らすアメリカで、
神に問いかけ、自分に問い続けます。

日記に記された慟哭の言葉たちは、包み隠さず正直でなまなましく、
私たちの胸を打ちます。

私はキリスト教者ではありませんが、
宗教がなんであれ、また宗教の有無を超えて
ぐっと胸をつかまれる文章でした。

翻訳者の加来さんによると、この本はシン・ギョンスク作家が津島佑子さんに紹介したことがあるそうで、
探してみました。

―一読者として、血の涙が出るような悲痛な作品を読んで、朴婉緒さんはこのように何かを書いていらっしゃらなかったら、あの刑罰のような時間に帰ることはできなかったのだろう、と思いました。作家とは、もしかして死んでいくその瞬間にさえ、自分の死を言葉で表現しようとする無謀な人間かもしれません。


本自体はコンパクトで、愛らしいイラストもたくさん入っている作品です。


テーマが重い作品は時として、読み終わると打ちのめされてぐったりしてしまうこともありますが、
この作品はじっくり向き合い、背筋を伸ばし明日に向える作品でした。


ぜひ、手に取って読んでみてください。

書店にはないかもしれないので、念のためアマゾンにリンクしておきますね




この本が紹介されていた『山のある家、井戸のある家』集英社と
『산이 있는 집, 우물이 있는 집』현대문학。
この2冊も、美しい韓国語と日本語で書かれた本です。
大人の女性らしい韓国語を身に着けたい、と思う人にもお勧めします。


クラウドファンディングX韓国文学

2014-02-14 23:36:31 | 韓国文学
あけましておめでとうございます。
応援の気持ちを込めてアップします。

締め切りまでトップに置きます。
この下で更新する予定(がんばります…)



翻訳出版の新しい試みです。
クラウドファンディングX翻訳出版に参加してみませんか。

クラウドファンディングは、
使う目的のはっきりした資金を、その目的に賛同した人が出資するネット連動の
資金調達システム。(←もう少しましな言い方はできんのか、わたし)
期間内に目標金額に達すると、プロジェクトが動き出します。

出資に対する見返りもはっきり明示されますが、
今回の見返りは本だけでなくプライスレスな何か。
読者としてのニーズを出版界へ、そして韓国へも届けることができます。

詳しくはこちらから。

私も一口参加しました。

<野良猫姫>について詳しくはこちらからもどうぞ。


韓国語の小説を好んで読む、内輪の好みではなくて
韓国語の小説に興味のない人を巻き込んでこそのクラウド・ファンディングなのだと思います。

よろしかったらぜひ、リンクなどご協力ください!

28 チョン・ユジョン著

2013-11-03 23:13:21 | 韓国文学
私がこの夏休みにずっと読んでいた本。



作者のチョン・ユジョン作家はチョン・ミョングァン『鯨』と並び、2000年代で最高に面白い長編小説、と言われる『7年間の夜』の作者です。

実は『7年間の夜』も借りているんだけど、今年の韓国小説で話題のベストセラー、『28』から読んでみました。


物語はソウル近郊の架空の年、ファヤンを舞台にしています。

ある冬の日、謎の病気が発生します。感染力が強く、感染したら目が真っ赤に充血し、致死率は100パーセント。そして、どうやら犬と人と共通で感染するらしい。
ファヤン市は閉鎖され、閉ざされた中で人々は死の恐怖と戦います。

この病気の真相を巡って、動物シェルターの若い獣医師、救急隊の退院、病院の看護婦、救急隊から抜け出した過去のある退院ドンヘ、女性新聞記者、犬のリンガーなどが出会い、対立し、助け合い、疑い、殺し合い・・・という群像劇です。
それぞれの登場人物に焦点をあてて、多角的に話が進んでいくんですが、初めは接点がないように見えた登場人物たちがつながって話が動き出していくあたりが、最高にワクワクします。

大切なキャラクターの一人、というか、一匹、リンガーの章は、犬なのでより鋭く察知できる出来事、犬だから理解できないできごと、そして、犬も人と同じように悲しむ感情の起伏が、むしろ淡々としているほかの登場人物と対比的で、物語の流れを作っているようです。殺処分された仲間が助けを求める鳴き声が、幻聴となって聞こえるあたり、そんなことあるのかな?と思いながらも一気に読まされてしまいます。

また、謎の伝染病の発生にあたって大統領が戒厳令をだし、軍隊が街を閉鎖する、というくだりはやはり韓国ならでは。日本を舞台にしたら、なかなか市民に銃を向けるストーりーは書けないのではないかと。

チョン・ユジョン作家は元看護婦だそうで、救急病院の人の動きが目に見えるように鮮やかに描かれます。
また、これは作者の持ち味だそうですが(解説より)、予定調和を狙わないストーリー展開に引っ張られっぱなし。
例えば、アメリカのヒーロー映画だと
「この人は生き残るのね」と、一発で見え見えだったりしますが、そういう予定調和は一切なし。
感情移入していた登場人物がボロボロになって死んでいくのはショックですが、それも物語の力強さかもしれません。

『28』はナゾの病気が発生してから、一段落して物語が終わるまでの日数ですが、
私は28日以上かかりました・・・。

力強い物語に振り回されてみたい方はぜひ!!
今なら韓国の書店で平積み販売中です。

東京国際ブックフェア

2013-07-07 16:28:06 | 韓国文学
先週水曜日から土曜日まで行われた東京国際ブックフェア。
全日皆勤で参加してきました。

日本語学校は学期休みだったんですが、
大学の授業は「韓国文学の発展のためにさぼります」と言って休みました。

声をかけてくれた人はわかると思いますが、
最初の3日間は受付を死守。
(特に同時通訳のレシーバー回収

最終日だけお客様としてキム・エランXキム・ヨンスX川上未映子の対談を最前列で聞きました。

人気作家のキム・エランとキム・ヨンスということで、日本に滞在している韓国人のお客様も多く、
また、川上さんのファンも多く、
ブックフェアーも最終日ということで
立ち見の出る盛況ぶり。

途中で振り返ると作家の平野啓一郎さんが立ち見をしているという、
なんとも豪華な対談だったのでした。



わたしの記憶の中より恰幅がよくなってしまった平野さん・・・。
公式写真に入らないようにステージのわきで待機。


ハーちゃんが若い若いと言ってくれてうれしい限りですが、
うれしくて顔がピカピカする感じ。
+(0゜・∀・) + ワクテカ + (ワクワクテカテカ)ってこれか~!なんて思いました。


憧れの作家とおしゃべりできて、
サインも握手もしてもらったし、
大好きな先生方にも会えたし、

学びも気づきもある濃い4日間でした。

場所がお台場だったので、
매립지거든요.(埋立地なんですよ!)を連発して満足。