第18回(令和5年8月12日)
「人々自ら定盤針あり」 (『王陽明全集』第6巻「詩」「居越詩 良知を詠ず。4首。諸生に示す。」)
王陽明は良知説を掲げてからは、門人達の為に「良知」を題とする詩を詠んで示している。ここで紹介するのは、50歳の時に、南京兵部尚書に昇進し、南京への赴任の途中で郷里の余姚に戻った時の詩を集めた「居越詩」の中の「詠良知四首示諸生」の中の3首目の七言絶句である。
人人自有定盤針 人々(ひとびと)自(おのずか)ら定盤針(じょうばんしん)あり
万化根源総在心 万化(ばんか)の根源(こんげん) 総(すべ)て心(こころ)にあり
却笑従前顛倒見 却(かえ)って笑(わら)う従前(じゅうぜん) 顛倒(てんどう)の見(けん)
枝枝葉葉外頭尋 枝々葉々(ししようよう) 外頭(がいとう)に尋(たず)ぬ
【意訳】(菅原兵治『王陽明の詩』より)
「人間には誰にもその心に羅針盤があり、喜怒哀楽、一切現象(万化)の根源は、すべてこの心に在るのだ。ところが今までは、これを顛倒(さかさまに)して考えていて、一本一本の枝、一枚一枚の葉を数えるように、外面的の文字や言動によって道を尋ねて来ていたことを思うと、自分ながら笑いたくなる。」
この詩では、冒頭の起句(一句目)で人間には「良知」という「羅針盤」があるのだ、との喜びを表現し、承句(二句目)で、人間生活の全ての根源は心にある、と「良知」を備えた心の在り方こそが、最も重要なのだと強調している。その上で転句(三句目)結句(四句目)で、今まで外の事物に真理を求めて学問して来た事の誤りを悔いて、「顛倒」=「転倒」した捉え方をしていたと嘆いているのである。
冒頭、王陽明は、「定盤針」という言葉を用いて、人には心中に自ずと的確な判断を下す事の出来る羅針盤が備わっているのだ、と断言する。その羅針盤こそが「良知」である。船舶は羅針盤を頼りに怒涛吹き荒ぶ大洋を航海する。今では、GPSの活用とでも言うべきかも知れないが、ウクライナ戦争でも勝敗を決しているのはGPSやスターリンク等の宇宙からの敵と味方との位置情報である。人間には、心の中にその「位置情報」を判断できる霊妙な能力が備わっているのだ。向き合う相手に対して的確な判断を下す事の出来る能力である。
それを王陽明は「良知」と呼んだ。私達の日常は、周りの人々との人間関係によって過ぎて行く。そこに「天国」を見出すのか、「地獄」に堕してしまうのかは、総て自分の心次第である。その判断能力が「良知」なのだ。しかし、本来備わっているはずの「良知」は、自覚して磨き出さなければ、曇り眩まされてしまう。それ故、日々の「良知を致す」実践の積み重ねが重要となるのである。「致す」事によって、自覚され、明らかになって行くのだ。「定盤針」たる良知、それが正しく作用できる様に、日々磨き出して行こうではないか。
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「人々自ら定盤針あり」 (『王陽明全集』第6巻「詩」「居越詩 良知を詠ず。4首。諸生に示す。」)
王陽明は良知説を掲げてからは、門人達の為に「良知」を題とする詩を詠んで示している。ここで紹介するのは、50歳の時に、南京兵部尚書に昇進し、南京への赴任の途中で郷里の余姚に戻った時の詩を集めた「居越詩」の中の「詠良知四首示諸生」の中の3首目の七言絶句である。
人人自有定盤針 人々(ひとびと)自(おのずか)ら定盤針(じょうばんしん)あり
万化根源総在心 万化(ばんか)の根源(こんげん) 総(すべ)て心(こころ)にあり
却笑従前顛倒見 却(かえ)って笑(わら)う従前(じゅうぜん) 顛倒(てんどう)の見(けん)
枝枝葉葉外頭尋 枝々葉々(ししようよう) 外頭(がいとう)に尋(たず)ぬ
【意訳】(菅原兵治『王陽明の詩』より)
「人間には誰にもその心に羅針盤があり、喜怒哀楽、一切現象(万化)の根源は、すべてこの心に在るのだ。ところが今までは、これを顛倒(さかさまに)して考えていて、一本一本の枝、一枚一枚の葉を数えるように、外面的の文字や言動によって道を尋ねて来ていたことを思うと、自分ながら笑いたくなる。」
この詩では、冒頭の起句(一句目)で人間には「良知」という「羅針盤」があるのだ、との喜びを表現し、承句(二句目)で、人間生活の全ての根源は心にある、と「良知」を備えた心の在り方こそが、最も重要なのだと強調している。その上で転句(三句目)結句(四句目)で、今まで外の事物に真理を求めて学問して来た事の誤りを悔いて、「顛倒」=「転倒」した捉え方をしていたと嘆いているのである。
冒頭、王陽明は、「定盤針」という言葉を用いて、人には心中に自ずと的確な判断を下す事の出来る羅針盤が備わっているのだ、と断言する。その羅針盤こそが「良知」である。船舶は羅針盤を頼りに怒涛吹き荒ぶ大洋を航海する。今では、GPSの活用とでも言うべきかも知れないが、ウクライナ戦争でも勝敗を決しているのはGPSやスターリンク等の宇宙からの敵と味方との位置情報である。人間には、心の中にその「位置情報」を判断できる霊妙な能力が備わっているのだ。向き合う相手に対して的確な判断を下す事の出来る能力である。
それを王陽明は「良知」と呼んだ。私達の日常は、周りの人々との人間関係によって過ぎて行く。そこに「天国」を見出すのか、「地獄」に堕してしまうのかは、総て自分の心次第である。その判断能力が「良知」なのだ。しかし、本来備わっているはずの「良知」は、自覚して磨き出さなければ、曇り眩まされてしまう。それ故、日々の「良知を致す」実践の積み重ねが重要となるのである。「致す」事によって、自覚され、明らかになって行くのだ。「定盤針」たる良知、それが正しく作用できる様に、日々磨き出して行こうではないか。
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