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映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

この夏の星を見る

2025-07-06 11:11:00 | 新作映画
大人になって、めっきり星空を仰がなくなったなと、この映画観ながら思う
街灯のない山間の僻地に育ったから、冬の冴えた夜には怖くなるほどの星が降った事も思い出した
目が悪くなり都会の風景に埋没してからは感動するほどの夜空に出会ってないかも

コロナ騒動で一番可哀想だと思ったのは、限りある時間の中で頑張っている中学生や高校生のことだった。特に部活動で仲間たちと一緒に最高の成果を目指している子供には二度と戻らない煌めきの時間だから

今日この映画を観た理由は、あの止まってしまったような時間の中で心を燃やした子供たちに会いたかったからだ

お題にあげられた星を一番最初に見つけたチームが勝利するスターキャッチなるコンテストがあるらしい。あの当時、群れる事を禁止された彼らはネットで日本中の生徒と繋がり唯一無二のコンテストを開催する
青春のたぎりはコロナなどに負けてはいなかった

先日観たフロントラインは医療従事者らの戦いだったけど、積み重ねた練習やデータ蓄積の日々が無駄になった生徒や指導者の戦いもここにあったのだ

五年前のコロナ禍で我々が経験した、大都会が閑散とした異様な風景に悍ましさを感じると共に、田舎の排他的な慣習にもそれ以上の薄ら寒さを改めて覚える
都会の寒々しさより田舎の暑苦しさの方が厄介なこともある

辻村深月らしい優しさが全編を覆う
題名の「この夏の星」が凄く大事なわけで、きっとずいぶん先の未来まであんな夏はやってこない(そうであって欲しいと願う)だろうから。それでいて、夜空に光る星は気の遠くなる時間輝き続けている
たったひとつの貴方だけのこの夏。掛け替えのない青春のひと時を光らせるのは、自分でしかないのかもしれない

でっちあげ それって信じていいの

2025-06-30 07:56:00 | 新作映画
またこの映画も、これは真実の物語テロップが出てちょっとウンザリしたんだけど、この話はそれが皮肉にも思えるので三池監督らしいと思った

確かに物語の骨格は是枝監督の「怪物」と同じで藪の中を描くのだが、観せたかったのは全然違っていた。是枝作品は大人になってしまった我々には捉えきれない少年期に芽生える不安定な心の揺らぎだった。三池作品はそんな文学的な底はなく、殺人教師のレッテルを貼られた教師が法廷でサイコペアレントと戦うエンタメに徹していた

三池監督だからもっとぶっ飛んだドンデン返しがあるんじゃないかと身構えていたのに、スッキリとした勧善懲悪終わりだったのが若干物足りなく感じた。この結末をそのまま信じていいの?
それでも一般の人には分かりやすく満足できたんじゃないかな

綾野剛と柴咲コウはキャラに合った配役で違和感ない。一番美味しい役だったのは小林薫だろう。最近、朝ドラで弁護士役をやって馴染んでいたこともあるし、法廷での逆転劇の主役だし

矢口史靖のドールハウス

2025-06-21 13:33:00 | 新作映画
関係ない話だけど、先日あいみょんがファンクラブ向けに書かれた短文に「国宝」の感想があって、パンフレットが欲しくて2軒ハシゴしたのに売り切れてたとか。久しぶりに訪れたワールドポーターズの映画館にあるだろうかと売店を彷徨いてビックリ
今やパンフレットって1000円出さなきゃ買えないのか?!
学生の頃、気に入った映画を観た時にはわたくしもパンフレットを買っていたが、あの頃はせいぜい300円。薄っぺらいやつだと150円なんてのも結構あった
こんなに高価になっちゃたら、もう二度と映画のパンフレットを買うことはないだろうなと思う

本題
監督歴で「ウォーターボーイズ」と「スウィングガールズ」2本の傑作コメディを作っただけでも十分すぎる功績だろうが、いつかまたあの作品を超えるような映画に出会いたいと思って新作を観続けている
まあ、あれ以来凡作が多く裏切られてばかりだった
比較するものではないかも知れないけど、今作品は一応の及第点は上げられるかな

今までほとんどがコメディを撮ってきた監督がホラー映画をやるのって勇気のいる事だろうが、わたくしも遊びで学生映画作ってたから分かるのだけどあの手の映画は作っている時がメチャクチャ楽しいのも事実

前半は良くある人形怪異ものの定石通りテンポ良く進む。映画の楽しみ方を良く知っている監督ならではの手綱捌きだ
問題は終盤のくどさ
結論を二転三転させるため、何が怖かったのかが分からなくなってしまった。「リング」のようなシンプルな後味こそがJホラーの真髄だったのに、韓国映画のしつこさを日本人形で見せられてもなぁ
どうせなら「来る」のように、除霊エンタメにして矢口監督得意の乾いたお笑い映画にしちゃうのもアリだったかもしれん

やっぱり、発想を緻密な脚本にしてくれる優秀なライターが必要だと思うのだけど





誰かがやらなければ・・・フロントライン

2025-06-15 16:38:00 | 新作映画
5月に横浜赤レンガ倉庫で行われた野外フェスに参加した時、アイナ・ジ・エンドが熱唱しているステージの隣りに停泊していた大きな客船に記された名前はDiamond Princess


段々薄れてゆく記憶の中で、2020年の冬に始まったコロナ騒動の発端にあたる象徴的なダイヤモンドプリンセス号で起こった出来事を、今こうやって冷静になって映画作品として鑑賞できるのは意義深い事だ

見る角度によって正義の定義は変わるから、この映画で描かれたことが全て正しいなどと早合点してはいけないが、医療従事者の崇高で献身的な看護に対する奉仕と船舶クルーのプロフェッショナルな対応力は間違いなく賞賛されるべきだろう

それにしても、映画の題名どうにかならなかったのかな?フロントラインって意味分からないから調べてみたら、最前線ってそのままのようだ。それなら薄めて体裁整えたような横文字なんかしない方が真っ直ぐ心に響く。最前線で戦った医療従事者と船舶クルーに対する最大限のリスペクトの意味でも残念な題名に感じる
もうひとつ
日本人は真実の話とかが大好きなので謳い文句にしたくなるのは分からんでもないけど、わざわざテロップで告知するのはやめてほしい。それも初っ端に出されちゃ劇映画観にきてる気を削がれる

映画だから都合よく作り変えられた部分は多々あるだろう。それでもあの当時を経験した我々は、心の片隅にいくばくかの棘が抜けないまま刺さっている。少なくともわたくしは、あの時、豪華客船の旅を楽しんで感染した乗客に冷ややかな心情を持っていた
シーツか何かに状況を書いて助けを求める乗客に寄り添うことは出来なかった
ダイヤモンドプリンセス号に限らずコロナ禍は人と人の物理的・心情的な距離感を見直すきっかけとなった。あれから5年わたくしたちは何を学んだんだろう

翌2021年夏にわたくしもコロナに感染し3週間苦しみ本当の恐怖を身に染みて感じたわけだが、未知のウイルスではなくなったコロナは周囲からの無知で稚拙な迫害は無くなっていた

最後に役者を褒めておこう
小栗旬、松坂桃李、池松壮亮は予想の範疇での好演
特筆しておきたいのは既に終わったと思っていた窪塚洋介の復活






国宝 芸の狂気

2025-06-08 15:40:00 | 新作映画
唯一理解不能だったのは人間国宝にまで芸の道を極めた喜久雄(三代目半二郎)に纏わる女たちの心情だ。幼馴染で一緒に背中に彫物までした春江は何故失意の俊介(花井半弥)の手を取ったのか?京都の芸妓藤駒は子まで生したのにすっかり影を消したのはあまりにも不自然だ。そして突然とも思える彰子という少女との逃避行と別れ

歌舞伎役者の物語だからある程度女との絡みは必要だろうが、どの女性にも感情を揺さぶられないし、それは喜久雄も結局芸事以上に関心は無かったという事だ。悪魔との取り引きはその欠落した愛情の代償でもある事を観せたかったのかもしれない、とも思えるけどわたくし的には不要な気がする

それ以外は奥寺佐渡子の脚本と李相日の演出は今年観たどんな作品よりも素晴らしかった。3時間弱の長尺なのに優れた映画はその長さを感じさせない
最近こんな力の入った日本映画観て無かったので、とても嬉しい

役者だけに限らず芸事を極めるのって狂人になる事と同義語な気がする。人生、何事も極めた事が無いから説得力欠けるけど、芸のために他者のみならず正しく自身の骨身を削ってしまう生き方は常人には理解できないしやれない
親子揃って糖尿病で命縮めるのは、どんだけ美味い酒と食事してんだよとツッコミたくなるし、お父ちゃんと慕い寄り添う幼子に見向きもしない冷徹さに親になる無責任さを嫌悪する

それでも役者は奈落から檜舞台に上がる時に聞こえる歓声を肥やしに生きるしか無いのか。それが定められた因果だとしたら抗う術はないのだろう

歌舞伎の世界が舞台なのに、作る側はほぼ全員が映画界の人だった。スタッフは勿論だが、主要キャストで梨園関係者は寺島しのぶだけ。吉沢亮、横浜流星それに渡辺謙、田中泯の成り切りは玄人が見れば指摘される部分もあるのだろうが、我々素人にはダイナミックな演出と映像音楽故に本物の歌舞伎舞台より興奮できた
また、歌舞伎界への外野からの目線が皮肉っぽく織り込まれていたのも身内が作ったものでは実現出来なかったろう。日本独自のものではないのだろうが、血筋とか世襲とか。特に古典芸能には芸の優劣より、何処で生まれたかが将来を左右する。喜久雄が俊介にお前の血が欲しいと言うシーンがあるけど、あれは世の下積み役者全員の心からの叫びだと思う

全編に渡り何度も泣かされた
ネタバレになるが、病気で片足になった半弥を支えながら死の道行へ誘う三代目半二郎の舞台は圧巻だった。演じる事が狂気の裏表として伝わってくる名場面であり、芸で繋がった心情をひしひし感じる涙のシーンとして特筆したい

気が早いかも知れないが、なんかこの作品が今年公開される映画で既にNO1じゃないかしらと思いはじめている。吉沢亮と横浜流星の演技賞受賞も疑いないような出来だ
李相日監督の最高傑作である事は断言しておこう