図書館閉鎖が長引いて活字に飢えているけれど、あまり堅苦しい本を読む気にはなれず、本棚の奥から引っ張り出したのは学生の頃夢中になっていた漫画「めぞん一刻」の単行本全15巻。
娘も長男も一時期繰り返し読んでいたから至るところボロボロで、ページが抜け落ちそうになっている。今度修復してみようかな。
昨日帰りの東海道線で、最終巻を読みながら余りの幸福感に感涙してしまい、頬はビガビガだ。
主人公、五代くんとわたくしは奇しくも同い年。五代くんは一浪しているから、学生生活も社会人としてのスタートも一年ずれているけど、同じ時代を同じ感性で生きてきた。住んでいたボロアパートの一刻館の描写もわたくしたち世代には日常で馴染みやすい。わたくしも18で田舎から上京(神奈川県ですが)して住んだ賄い付きのアパートは、共同便所風呂無しの四畳半。管理人さんはヒロイン響子さんみたいな若く美しい未亡人ではなく、口煩いおばあちゃんだった。
傑作漫画なのでお読みになった方も多いと思うけど、バブル直前の昭和末期が大変上手く描かれている。
「うる星やつら」の作者、高橋留美子作品だから登場人物はデフォルメされた癖の強い面々が揃っているが、市井の市民生活が根底なので嘘臭さは感じない。
ヒロイン響子さんの造形も優れている。高校生の時に好きになった地学の臨時教員惣一郎さんと結婚するも、半年で死に別れ義父の経営するアパートの管理人となり、五代くん始め一ノ瀬のおばさん四谷さん六本木朱美さん二階堂くんらの住人と馴染んでいくうちに惣一郎さんを少しづつ想い出にしていく。テニススクールのコーチ三鷹さんのちにコーチと結婚することになった九条明日菜さん、五代くんのガールフレンド七尾こずえちゃんや教え子八神いぶき等との交流もヒロインのキャラクターを深掘りさせ、只のお姫様ヒロインで終わらないところが凄い。
主人公とヒロインの恋の行方を辿りながら二人の10年に渡る成長物語でもある。
何度も繰り返される紆余曲折の末結ばれた二人に、温かな涙を流してしまうことを覚悟して読んでほしい。