一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『うさぎドロップ』 ……私の顔は涙でグショグショであった(笑)……

2011年09月04日 | 映画
もう20数年前のことだ。
その頃は福岡の中央区今川にある賃貸マンションに住んでいた。
川を隔てた向こう側は西新で、リヤカー部隊などで賑やかであったが、
こちらの今川は静かな住宅街で住みやすかった。
長女は4歳。
初めて幼稚園に行った日。
朝は配偶者が送って行ったが、
帰りは私が迎えに行くことになっていた。
幼稚園に着き、待っていると、
園の建物から園児たちがぞろぞろと出てきた。
その中に長女もいた。
知らない人たちに囲まれて一日を過ごし、
よほど緊張していたのだろう、その顔はこわばったままだった。
それは本当に可哀想なくらいであった。
靴を履き、不安な表情のまま、辺りをキョロキョロしている。
そして私を見つけると、その表情が一変。
パッと花が咲いたように笑顔になった。
そして私を目指して一目散に駆けだしてきたのだった。

映画『うさぎドロップ』を見て、私はあの日のことを思い出していた。
あまり期待せずに見に行った映画であったが、
ツボにハマッたというか、
大いに泣かされてしまった。
悲しい映画ではないし、
大泣きするようなストーリーでもない。
だが、私の顔は涙でグショグショであった。(笑)

彼女もいない27歳のごく普通のサラリーマンであるダイキチ(松山ケンイチ)。
祖父のお葬式で、孤独で悲しげな女の子を見かける。
それは、おじいちゃんの隠し子・りん(芦田愛菜)であった。


引き取り手のないその少女を、ダイキチは連れ帰る。
変な男気を見せて連れ帰ったものの、慣れない子育てにあたふたする。


幼稚園に通わせる手続きも知らず、妹(桐谷美玲)のアドバイスでようやく入園させることができた。
だが、送り迎えが大変。


りんを抱えたまま走り出さなければならないほど時間に追われるようになる。


りんのおねしょ事件、失踪事件などを経て、
次第に心を通わせるようになるダイキチとりん。
やがて、本当の家族のような愛情と絆で結ばれていくのであった――。


宇仁田ゆみの人気コミックを映画化したもので、
所々にユーモアがちりばめられており、
深刻な内容ではない。
雑誌のモデル(香里奈)と踊る空想をしたり、
そのモデルの女性が同じ幼稚園に子供を通わせるシングルマザーで、
出逢った瞬間にまた一緒に踊る空想をする。


りんとのやりとりにも面白いシーンが多々あり、大いに笑わせられる。
それでも泣かされるのは、
この作品がとびきりのハートウォーミングな物語であるからだろう。


松山ケンイチと芦田愛菜は、期待通りの演技。
言うことなし。
特に芦田愛菜は、やはり天才だ。


私のなかではあまり評価の高くない香里奈であるが、
この作品では、役柄がピッタリということもあって、とても良かった。


その他、
風吹ジュン、中村梅雀、池脇千鶴、高畑淳子などが素晴らしい演技をしていた。
特に、池脇千鶴の演技には個人的にとても好感が持てた。
この作品は、実力派のこれら共演陣にも恵まれたことが佳作に繋がっていると思った。


前半部分で、りんに冷たかった(ように感じていた)ダイキチの親きょうだい・親戚の人々が、後半になると次第にりんを中心に笑顔が広がっていく感じが秀逸であった。

考えてみるに、
世の中は、
すでにお父さん・お母さんである人、
これからお父さん・お母さんになるであろう人で、満ちあふれているのだ。
ということは、
世界は、きっと、
優しさと愛で満ちあふれているに違いない。

そんなポジティブなメッセージがダイレクトに胸に響いてくる。
家族の絆があらためて問われているこういう時代だからこそ、
多くの人に見てもらいたい作品である。

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