一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『サンザシの樹の下で』 ……水彩画のように淡く儚げな純愛……

2011年09月01日 | 映画
今日は福岡まで行く用事があったので、
チャン・イーモウ監督作品『サンザシの樹の下で』を、
中洲大洋で見てきた。
この作品は、7月9日(土)に新宿ピカデリー他で封切られ、
全国順次ロードショー公開されているのだが、
佐賀での公開予定がない。
九州では、次の通り。

福岡 中洲大洋 8月27日~
福岡 シネプレックス小倉 10月15日~
長崎 長崎セントラル劇場 11月19日~
熊本 Denkikan 10月22日~
大分 シネマ5 順次公開
宮崎 宮崎キネマ館 11月26日~
鹿児島 鹿児島ミッテ10 順次公開


『初恋のきた道』(2000年)、『HERO』(2002年)、『LOVERS』(2004年)などで知られる巨匠チャン・イーモウ監督作品である。
〈なぜ佐賀での公開がないのか?〉
と、佐賀の映画館の不明を嘆きつつ、
それでも福岡で見ることができて本当に良かった。

《文化大革命に散った究極の純愛》
《中国全土が涙した感動の実話》
の謳い文句通り、
純度100パーセントの純愛作品であり、
『初恋のきた道』に勝るとも劣らない佳作であった。

原作は、中国系アメリカ人作家エイミーの同名小説。
エイミー自身の友人の文革時代のエピソードをもとに、インターネットで発表。
すると瞬く間に口コミで広がり、書籍化され、300万部のベストセラーに……
映画化されると、過去10年の文芸映画作品で最高の興行収入を記録したとか。

舞台は、文化大革命の嵐吹き荒れる1970年代初頭の中国。
町の高校に通う女子高生のジンチュウ(チョウ・ドンユィ)は、
国家政策のために農村で住み込み実習をおこなうことに……
村に向かう途中、ある言い伝えを持つサンザシの樹に出合う。
樹の下で亡くなった抗日戦争の兵士の血が染み込み、白い花が赤く咲くのだという革命精神の象徴とされていた樹であった。


村長宅に住み込むことになったジンチュウは、村長一家と家族同然の付き合いをしている年上の青年スン(ショーン・ドウ)に出会う。
惹かれあう二人。


だが、反革命分子と見なされた迫害を受ける両親を持つジンチュウにとって、
それは許されない恋だった――。
それでも、気持ちを抑えることができず、人目を忍んで逢瀬を重ねが、
ある日、2人で自転車に乗っているところを、ジンチュウの母に見つかってしまう。
「娘の幸せを願うなら、会わないでほしい」
ジンチュウの母の言葉に頷き、彼女のもとを去るスン。
……しばらく後、ジンチュウはスンが入院したことを知る。
母に内緒で見舞いに訪れたジンチュウ。
彼女の心配をよそに、気丈に振舞うスン。
翌日、町の店で色鮮やかな赤い布を見つけたジンチュウはスンと約束を交わす。
「サンザシの花が咲く頃、この布で作った赤い服を着て、あなたと一緒に見に行くわ」と。
別れ際、泣きながら手を振るジンチュウ。
その姿をいつまでも見送り続けるスン。
しかし、ジンチュウが次に病院を訪れた時、スンは姿を消していたのだった――。


どのシーンもが、水彩画のように淡く儚げで、少なからず驚かされる。
なぜなら、それまでのチャン・イーモウ作品は、鮮やかな色彩感覚が特徴であったから。
そのこともあって、本作は、神秘的で寓話的な色彩さえ帯びているような気がする。


忘れがたいシーンをふたつ。

川を渡るとき、危なくないようにと手を差し出すスン。
異性と手をつなぐことさえ躊躇われ、恥じらいをみせるジンチュウ。
棒切れを間にして手をつなぐ二人。


こんな恥じらいやトキメキ、みなさんすっかり忘れてませんか?(笑)


家計を助けるため、肉体労働のバイトを始めるジンチュウ。
それを見かねて手伝うスン。


だが、素足のままでセメントを捏ね続けたせいで、ジンチュウの足の甲が火傷してしまう。
病院に行った帰り、自転車で二人乗りをする。
顔を見られないようにとスンのシャツで顔を隠すジンチュウ。


だが坂道にさしかかると、大声で叫びながらハンドルから手を離し、大きく腕を広げるスン。
恋をしている二人の喜びが爆発したようなシーン。
見ているこちらがハラハラしてしまうような無垢な二人の行動に、胸がキュンとなる。


ヒロインのジンチュウを演じたチョウ・ドンユィは、
1992年河北省・石家荘生まれ。
本作が映画初出演。
過去にコン・リーやチャン・ツィイーを発掘してきたチャン・イーモウが、
今回、中国じゅうから探し出してきた逸材。


写真を見た限りではコン・リーやチャン・ツィイーほどの美はないような気がしたが、
スクリーンで見ると、チョウ・ドンユィの純真で汚れのない表情に魅入らされてしまう。
まぎれもなくそこに美があることに気づかされ、納得させられる。


『初恋のきた道』と同じく、この映画も多くの人々の心に残る作品となるだろう。
語り継がれ、もう一度見たいと思わせられる「心の一作」になるような気がする。

今、スクリーンで見ておけば、
思い出す度に、一生あなたの心を豊かにしてくれるだろう。
幸せな気分にしてくれるに違いない。
良い映画とは、つまりそういう作品のことだ。

ぜひぜひ、映画館へ……

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