一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』 ……芋生悠の新たな代表作……

2024年06月06日 | 映画


映画鑑賞の回数は、以前に比べて減ってはいるが、
気になった作品はその都度見るようにはしている。
だが、レビューを書く意欲は格段に落ちており、
それは自分でも(書く体力が減少してきているのかと)気にはなっている。
「一日の王」映画賞を終了させたことで、義務感から解放され、
〈レビューなど生真面目に書く必要もないか……〉
と、考えるようになったことも、ひとつの要因かもしれない。
それでも、せっかく映画を見たのだから、
〈短くてもいいので、メモ程度のレビューは書いておくか……〉
という気持ちは心の片隅にあり、
時間があるときに書いていこうと思っている。

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(2024年3月15日公開)を、私は、
4月27日に、シアターシエマ(佐賀市)で開催された、
「井上淳一(脚本・監督)、芋⽣悠(⾦本法⼦役)舞台挨拶付き上映会」
で鑑賞した。


このときの模様は、
カテゴリー「逢いたい人に逢いに行く」の第37回目として、
……舞台挨拶付き上映会で芋⽣悠に逢う……
とのサブタイトルを付して、すでにこのブログに書いているが、(コチラを参照)
「レビューは後日」としながら、まだ書いていなかった。(コラコラ)
で、簡単に感想を書いておこうと思った次第。



熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代。
ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、
若松孝二(井浦新)はそんな時代に逆行するように、
名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる。


支配人に抜てきされたのは、
結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治(東出昌大)で、


木全は若松に振り回されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。
そんなシネマスコーレには、
金本法子(芋生悠)、井上淳一(杉田雷麟)ら、
映画に人生をジャックされた若者たちが吸い寄せられてくる……




本作『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、
2012年に逝去した若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクションが再始動して製作した映画『止められるか、俺たちを』(2018年、白石和彌監督)の続編なのだが、
その『止められるか、俺たちを』のレビューで、私は、ちょっと否定的な意見を吐いている。


映画通の間では、とても評価が高く、
『キネマ旬報』のレビューでも高評価だったので、
かなり期待して見たのだが、
私にとっては、特別の作品にはならなかった。
〈なぜ、私にとっては特別の作品にはならなかったのだろう……〉
と思いながら、白石和彌の年齢を調べてみたら、
1974年12月17日生まれの43歳。(2018年10月現在)
映画は1969年から始まり、
1970年代を舞台とし、若き日の若松孝二を描いている。
1974年生まれの白石和彌監督は、まだ生まれてさえいなかったのだ。
若松プロ出身ということで、
なんとなく若松孝二のすべてを知っているような錯覚を私はしていた。
白石和彌監督は若松孝二監督の晩年に数作関わっていただけなのだ。
だからだろう、1970年代の雰囲気がまるで描けていなかったのだ。

(中略)
その原因は、キャスティングにもあるだろう。
若松孝二監督は、生涯、
反権威、反権力の精神を貫き、スキャンダリストとして名をはせたが、
自身の映画にキャスティングした俳優は、映画バカとも言えるような純粋な青年が多かった。
映画の内容が特異なだけに、純粋無垢な青年が狂気にかられていく様を描く方が、より刺激的であったし、よりスキャンダラスであったのだ。
その若松孝二監督作品によく出演していた俳優に、
若松孝二監督およびそのスタッフたちを演じさせていたのが、
映画ファン(若松孝二監督ファン)には堪らないのだろうが、
私には物足りなかった。
若松プロという“梁山泊”に集った当時のスタッフは、
世間の常識を逸脱したような人物ばかりなので、


若松孝二を演じた井浦新をはじめ、


その他のスタッフを演じた俳優陣も、うわべを真似しただけの演技で、
安っぽい再現VTRのようで、やや滑稽であった。


白石和彌監督は、若松プロ出身者だけのオールスター作品にしたかったそうだが、
そのことによって、この作品は傑作になりそこねている。



と、身も蓋もない。(笑)
この『止められるか、俺たちを』の脚本を担当していたのが井上淳一だったので、
その井上淳一が監督、脚本を務めた『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、
〈同じような過ちを犯しているのではないか……〉
と、鑑賞前は少し心配していた。
だが、杞憂であった。
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、井上淳一監督の自伝的要素もあり、
物語の舞台となる1980年代の様子が実にリアルにイキイキと描かれていた。
『止められるか、俺たちを』とは段違いであった。(コラコラ)
若松孝二役は(前作に続いて本作も)井浦新だったが、
木全役を東出昌大、
井上役を杉田雷麟、
金本役を芋生悠が務め、
このキャスティングが良かった。
思えば、井上淳一監督は、
傑作『福田村事件』(2023年)の脚本も手掛けており、(佐伯俊道、荒井晴彦との共同脚本)
井浦新も、東出昌大も、杉田雷麟も、その『福田村事件』に出演していた俳優なのである。(その他、田中麗奈、コムアイ、向里祐香なども)
『福田村事件』の準備中に、『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』の脚本も書いていたとのことで、そんな中で、杉田雷麟が『福田村事件』のオーディションに来て、
井上淳一監督は、
〈『青春ジャック』の主人公・井上が来た!〉
と思ったという。
キャスティング面だけに限って言うと、『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、
『福田村事件2』と言えるかもしれない。



実在の人物ばかりが登場する本作において、
芋生悠が演じている金本法子(キム・ポッチャ)は唯一のフィクションなのだが、


井上淳一監督は、芋生悠の出演作『37セカンズ』や『ソワレ』を見て惚れ込み、
金本法子の役をオファーしたという。
なので、
金本法子(キム・ポッチャ)の出演シーンは、芋生悠にラブレターを書くような気持ちで、
力を込めて書いていたという。
完全フィクションであるからこそ、事実という枷がなく、自由に描かれ、表現されている。


だからなのか、
本筋とは別に、本作は金本法子の成長譚にもなっており、
演じた芋生悠は、裏の(陰の)主役ともいうべき存在となっている。
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、
芋生悠の新たな代表作と言ってもイイだろう。



短く書くと言ったのに、なんだか長くなりそうになってきたので、この辺でやめておく。
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、映画愛に満ちた作品であった。
機会があったら、また見てみたいと思わせる作品であった。

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