一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『mellow メロウ』…岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナが魅力的な恋愛群像劇…

2020年01月24日 | 映画


※PCでご覧の方で、文字が小さく感じられる方は、左サイドバーの「文字サイズ変更」の「大」をクリックしてお読み下さい。


田中圭が主演の恋愛群像劇……というのだけだったら、
私はこの映画に魅力を感じなかっただろう。
(「鑑賞する映画を出演している女優で選ぶ」主義の私としては、)
『mellow メロウ』に出演している女優たちは、
私の知らない人ばかりだったし、
普通なら見ない作品である。
では、なぜ、
〈見よう〉
と思ったかというと、
今泉力哉監督作品だったからである。


昨年(2019年)見た、
『愛がなんだ』(2019年4月19日公開)


『アイネクライネナハトムジーク』(2019年9月20日公開)


が、すごく良かったからである。(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
特に、『愛がなんだ』の方は、
第6回 「一日の王」映画賞・日本映画(2019年公開作品)ベストテンにおいて、
作品賞で第3位に選出したし、
岸井ゆきを最優秀主演女優賞の候補にノミネートした。(惜しくも受賞は逸す)
これら作品によって、今泉力哉監督は“恋愛映画の旗手”として注目される存在になったが、
お互いの思いの量が異なるカップルを、リアルに描き出す手法は、
今泉力哉監督ならではであり、
これまであまり見たことのない作品を創作し続けている。
その今泉力哉監督の新作が『mellow メロウ』なのだ。
はたしてどんな作品になっているのか……
ワクワクしながら映画館へ向かったのだった。



オシャレな花屋「mellow」を営む夏目誠一(田中圭)。
独身、彼女無し。
好きな花の仕事をして、穏やかに暮らしている。


姪っ子のさほ(白鳥玉季)は、転校後、小学校に行けない日がたまにある。
そんな時、姉は夏目のところにさほを預けにやってくる。
さほを連れていくこともある近所のラーメン屋。


代替わりして若い女主・木帆(岡崎紗絵)が営んでいる。


亡くなった木帆の父の仏壇に花を届けるのも夏目の仕事だ。
花屋の常連客には、近くの美容室の娘、中学生の宏美(志田彩良)もいる。


彼女はひそかに夏目にあこがれている。
店には様々な客がいて、
丁寧に花の仕事を続ける夏目だが、
ある日、常連客の人妻、麻里子(ともさかりえ)に恋心を打ち明けられる。
しかも、その場には彼女の夫も同席しているのだった。


様々な人の恋模様に巻き込まれていく夏目だが、
彼自身の想いは……



おしゃれな花屋と、
女性店主の木帆が切り盛りしているが、父親から代替わりして今では廃業寸前のラーメン屋。
対照的な2つの店を舞台に、
さまざまな人たちの不器用な片思いを描いている。

主人公の夏目誠一(田中圭)は、
中学生の宏美(志田彩良)から憧れられ、
常連客の人妻、麻里子(ともさかりえ)から告白され、
ラーメン屋の若い女主・木帆(岡崎紗絵)からは密かに思われている。
さほどに夏目はモテモテの役なのであるが、(笑)
夏目は自身の気持ちに気づいていない節があり、
彼女らの思いは成就しない。
この作品でも、夏目と、彼を取り巻く女性たちの熱量が違うのだ。

大きな事件が起きるわけでもなく、
物語は淡々と進行する。
暗転を多用した、オーソドックスで、やや古風な作りの映画で、
普通なら、
〈面白くない!〉
となる筈であるが、
そうならないのは、今泉力哉監督の脚本と演出力の所為だと思われる。

『愛がなんだ』と『アイネクライネナハトムジーク』は原作ものであったが、
本作『mellow メロウ』は、今泉力哉監督によるオリジナル脚本である。
なので、前2作よりも今泉力哉監督の個性がより顕著に表現されているように感じた。

この作品を、より魅力的にしているのは、
キャスティングされ、素晴らしい演技をしている女優たちだ。


まずは、
ラーメン屋の若い女主・木帆を演じた岡崎紗絵。


【岡崎紗絵】
1995年11月2日生まれ、愛知県出身。
2012年8月に開催された雑誌「Seventeen」の専属モデルオーディション「ミスセブンティーン2012」に選ばれ、専属モデルになる。
2015年度より女優としても本格的に活動を開始し、
映画『脳漿炸裂ガール』にスクリーンデビュー。
主な出演作に、
『ReLIFEリライフ』(2017年)
『不能犯』(2018年)
『午前0時、キスしに来てよ』(2019年)
があり、
テレビドラマでは、
「仰げば尊し」(2016年/TBS)、
「トレース〜科捜研の男〜」(2019年/CX)、
「パーフェクトワールド」(2019年/KTV,CX)
など。
2016年からは雑誌「Ray」の専属モデルとして活躍中。

見ている作品も多いのだが、
(お恥ずかしいことに)岡崎紗絵という女優を私は認知していなかった。
モデル出身ということで、
モデルをやっているときの写真を見たが、


華やかな雰囲気が、
本作でのラーメン屋の女主の役とはあまりに違っており、
ちょっとビックリした。
本作では、ノーメークに近いような薄化粧であるし、


私としては、
木帆を演じている岡崎紗絵の方が好きだ。


『坂道のアポロン』のときの小松菜奈と同じ印象。
濃い化粧のときよりも、素顔に近いときの方が、より魅力的だと思う。


モデル出身ということで、
演技の方を心配したが、
木帆という女性を繊細に演じており、感心させられた。
本作の成功は、岡崎紗絵がキャスティングされていたからこそ……と思うし、
これからも女優として大いに活躍してもらいたい。



近くの美容室の娘、中学生の宏美を演じた志田彩良。


【志田彩良】
1999年7月28日生まれ、神奈川県出身。
主な出演作品は、
テレビドラマでは、
「チア☆ダン」(2018年/TBS)、
「his~恋するつもりなんてなかった~」(2019年/メ~テレ)、
など。
映画では、
『ひかりのたび』(2017年)
『きらきら眼鏡』(2018年)
『パンとバスと2度目のハツコイ」(2018年)
など。
2019年、今泉力哉と玉田企画の舞台「街の下で」で初舞台。

大人びた雰囲気で、
とても中学生には見えなかったが、
中学の後輩たちから憧れられる役で、
特に、後輩・水野陽子(松木エレナ)とのやりとりが素晴らしかった。


中学では、誰よりも大人びた先輩であるが、
実社会では、まだ大人には相手にされない女の子であり、
その揺れる心が巧く表現されていた。
今泉力哉監督作品に多く出演しており、
これからが楽しみな女優である。



宏美(志田彩良)を慕う後輩・陽子を演じた松木エレナ。


【松木エレナ】
2003年11月11日生まれ。千葉県出身。
イタリア人の父と、日本人の母の間に生まれ、
幼少期からモデル・CMなどで活躍。
今作の『mellow』が女優として記念すべきデビュー作品となる。

本作『mellow メロウ』では、
陽子(松木エレナ)が花屋を訪れるシーンから始まる。
そのスラリとした容姿が目を引く。
立ち姿が美しい。
〈この美少女は誰?〉
と、私の心がざわつく。
女優としてのデビュー作とのことで、
演技面ではこれからだと思われるが、
その女優としての雰囲気は、特別なものを纏っている。
今後、学園ドラマなどで、主役に抜擢されるであろうオーラが感じられた。
楽しみな女優が現れたものである。



岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナの他にも、
夏目の姪っ子のさほを演じた白鳥玉季、


木帆(岡崎紗絵)の友人・吉川弘子を演じたSUMIRE。



夏目に告白する人妻・麻里子を演じたともさかりえなど、



女優たちが活き活きと演技しているが本作の特徴。
そういう意味では、
主役は男性であるけれども、
夏目(田中圭)を取り巻く女性たちの“女性映画”と言えなくもない。



岩井俊二監督作品『ラストレター』を鑑賞し、レビューを書いたばかりだが、
『ラストレター』と同じく、
本作『mellow メロウ』もまた“手紙”が重要な役割を果たす。
ラスト近くにふたつの手紙が読み上げられるのだが、
いずれもが読む者の心の奥底まで、手紙を書いた者の思いが届く。

『ラストレター』のレビューで、

携帯電話が普及し、
誰とでもすぐに連絡がとれる時代に、
手紙のやりとりとは、いささか古風だが、
本作『ラストレター』は、
手紙のぬくもり、手紙を書く人の息づかいが感じられる秀作であった。

と書いたが、
『mellow メロウ』もまた『ラストレター』に劣らぬ秀作であった。
映画館で、ぜひぜひ。

この記事についてブログを書く
« 両子山 ……干支の山(?)登... | トップ | 映画『風の電話』 ……モトー... »