一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『まなみ100%』…中村守里、伊藤万理華が美しい、切なさ120%の青春映画…

2023年10月31日 | 映画


10月22日(日)に、「文学フリマ福岡9」に行った際、(コチラを参照)
開場が午前11:00からだったので、
(福岡に行く機会はあまりないので)早めに行って近くの映画館で映画を見ようと思った。
「文学フリマ福岡9」の会場であるTKPエルガーラホールの近くに「kino cinema 天神」があるので、上映作品を調べてみると、気になる作品に『まなみ100%』があった。
平凡であることを嫌う、変わり者の青年と、
彼が密かに思いを寄せる女性との、
10年間をつづった青春映画とのことで、
私の好きな女優である中村守里と伊藤万理華が出演しているので興味を持った。




新鋭・川北ゆめき監督の初長編映画。


脚本は、いまおかしんじ。


2023年9月29日公開の映画であるが、
(劇場情報によると)佐賀では、シアターシエマで、
約3か月近く遅れの12月15日(金)から12月21日(木)までの一週間限定上映と知り、
〈ならば福岡で早く見たい……〉
と思った。
で、10月22日の朝早くに家を出て、福岡にやってきたのだった。




「kino cinema 天神」には過去2度来たことがあり、それぞれ、

映画『ソワレ』 ……村上虹郎と芋生悠が疾走する外山文治監督の傑作……

映画『異端の鳥』 ……圧倒的な映像美で人間の本質をえぐり出す傑作……

とのタイトルでレビューを書いている。(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
特に、『ソワレ』のレビューでは、「kino cinema 天神」のことにも詳しく触れている。
今回も、綺麗な映画館で、ワクワクしながら映画『まなみ100%』を鑑賞したのだった。



自分勝手で少し変わり者の“ボク”(青木柚)は、
高校で同じ器械体操部に所属していた平凡そのものの女の子・まなみ(中村守里)のことが、
ずっと好きだった。


高校時代、大学時代、現在までの10年間で多くの出会いと別れを経験しても、
まなみに対するボクの思いは変わらず、その理由もわからない。


やがて、まなみが結婚することになり……




急遽鑑賞を決めたので、あまり予備知識を持たずに見た映画だったのだが、
私好みの映画であった。
とても面白く、笑わされもするが、
時に甘酸っぱく、切なく、
自分の青春時代も思い出され、グッとくることの多い作品だった。


主人公の“ボク”(青木柚)はクズ男なので、彼には全く共感はできなかったのであるが、
“ボク”が好きなまなみ(中村守里)と、
“ボク”が尊敬する器械体操部の瀬尾先輩(伊藤万理華)があまりに素敵過ぎて、
この二人を見ているだけで私は幸せだった。
この映画の感想も、
鑑賞直後よりも、日にちが経過するほどに(その良さが)ジワジワと染みてきて、
今では私自身が体験した初恋の思い出のようになってきている。(笑)


映画鑑賞後にすぐに思い出したのは、
台湾映画『あの頃、君を追いかけた』(2016年日本公開)だった。
台湾の人気作家ギデンズ・コーが、
自伝的小説を自らのメガホンで映画化したもので、
台湾で社会現象を巻き起こす大ヒットを遂げ、
香港ではチャウ・シンチーの『カンフー・ハッスル』の記録を塗り替えて、
中国語映画の歴代興収ナンバーワンを記録した青春ラブストーリーだ。


時代背景は、1994年から2005年までの約10年間。
高校生たちは、やがて大学生になり、
いつしか社会人となって、それぞれの道を歩み始める。
登場人物たちの成長と共に、
学生寮の公衆電話に並ぶ長い列は消えて、
誰もが携帯で話すようになり、
いくつかの大きな事件に世の中は揺れ、
ヒット曲も入れ替わってゆく。
そして、アッと驚く結末を、観客は“笑いと涙”で迎えることになる……
B級テイストの映画で、鑑賞直後はそれほど感心はしなかったのだが、
妙に心に残る青春映画だったで、後日、
……大抵の男はポニーテールが好きなのだ……
とのサブタイトルを付してレビューを書いた。
『まなみ100%』と『あの頃、君を追いかけた』は、
監督の体験に基づく脚本、
高校生時代からの10年間の物語、
主人公が、ヒロインの結婚式に向かうシーンから始まる、
中村守里も最初ポニーテールで登場する、
主人公とヒロインは結果的には結ばれない……など、多くの共通点があり、
〈『まなみ100%』は、『あの頃、君を追いかけた』を参考にしたのではないか……〉
と思ったほど既視感があった。


だからと言って『まなみ100%』の価値が少しも損なわれることはなく、
どちらも良き思い出として私の心に残り続けると思う。



本作『まなみ100%』は、
夜桜の下に佇むまなみ(中村守里)で始まり、
同じく夜桜の下に佇むまなみのシーンで終わりを迎えるのであるが、


その間に、度々映し出されるまなみの(すなわち中村守里の)顔がとにかく清楚で美しく、
ずっと見ていたい感じであった。(コラコラ)


中村守里を女優として初めて強く認知したのは、
映画『アルプススタンドのはしの方』(2020年)で、


……中村守里の存在感が光る傑作……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのであるが、
そこで私は中村守里について次のように記している。

(映画『アルプススタンドのはしの方』が)私を惹きつけた第一要因は、
やはり、主要キャストの4人の演技の素晴らしさである。
特に、舞台版から続投となった、
小野莉奈、西本まりん、中村守里の演技が良かった。
どこにでもいるごく普通の高校生を自然体で演じていて秀逸であった。



その中でも中村守里の存在が光っていた。


【中村守里】
2003年6月14日東京都生まれの17歳。(2020年8月現在)
テレビ朝日『ラストアイドル』から誕生したラストアイドルファミリーの最後の派生ユニット『Love Cocchi』(ラブコッチ)のメンバーとして2017年12月20日にデビュー。
主演映画『書くが、まま』でMOOSIC LAB 2018最優秀女優賞を受賞。


TV出演は、
テレビ朝日『ラストアイドル』、
NTV『正義のセ』第9話 モエ役、
AbemaTV『ラストアイドル in AbemaTV』など。
血液型O型。
特技:バレエ(8才〜15才)、新体操(7才〜12才 全国大会出場)、ダンス、水泳(6才〜12才)
趣味:カメラ、人間観察、食べること
身長:164.5cm


舞台では眼鏡をかけていなかったようだが、


映画では眼鏡をかけて、


優等生で、引っ込み思案で、
エースの園田の密かに思いを寄せる女子高生を繊細に演じていて素晴らしかった。
アイドルとしてよりも、
女優の方に限りない可能性を感じた。



「アイドルとしてよりも、女優の方に限りない可能性を感じた」
との予言通り、中村守里はこの3~4年で女優として大きく飛躍した。
多くのTVドラマに出演し、NHKの大河ドラマ「どうする家康」への出演も果たした。


主演映画『海鳴りがきこえる』(2023年10月28日、監督:岩崎孝正)も公開されたばかり。
(残念ながら九州での公開はまだ決まっていない)





中村守里の顔が何故好きなのかを考えてみるに、
私は中村守里の顔に何故か懐かしさを感じていることに気が付いた。
では、何故懐かしさを感じるのか?
……先日、ふと思い出した。
以前、朝倉かすみの『平場の月』レビューを書いたとき、
最後の方で次のように記した。(全文はコチラから)

私が、50歳の頃だったろうか、
夜に、家の電話が鳴った。
受話器を取った配偶者が、ちょっと意味ありげに、
「女の人から」
と言って、私に受話器を渡した。
私に女性から電話がかかってくることはめったにないので、(ホンマどす)
驚いて「もしもし」と話しかけると、
「Nです。中学時代の同級生の……」
との懐かしい声。
35年ぶりに聴く声であった。
「同窓会の返信用の葉書がこちらに届かなかったから、出欠を知りたいと思って……」
そこまで聴いて、
同窓会の出欠を知らせる返信用葉書を出し忘れていたことに気が付いた。
Nさんは、中学時代に、私が好きな女生徒であった。
控えめでおとなしく目立たない生徒だったので、
同窓会の幹事をしていると知ったときには大層驚いた。
「やはり、出席は無理?」
過去、一度も出席していないので、答えはあらかじめ知っているような訊き方だった。
「うん、その日は仕事なんだ」
と嘘をつく私。
「元気だった?」と彼女。
「うん」と私。
それから少し、近況報告をして、
たわいもない話を少しして、電話を切った。
配偶者が傍にいたので、それ以上は話せなかった。(笑)
なんの根拠もないが、
Nさんの声を聴いただけで、
Nさんは美しく年を重ねているように感じた。


このときのNが中村守里に似ていたのだ。
(そういえば私の好きなNの苗字も「中村」であった)
中村守里の顔を見て親しみと懐かしさを感じたのは、
Nとの思い出に繋がっていたからなのだ。


知らず知らずのうちに、私は、映画で、Nとの初恋の疑似体験をしていたのだった。
そういう意味でも本作は忘れられない作品になった……と思った。



まなみ(中村守里)と同じくらいに、いや、それ以上に存在感を示したのが、
器械体操部の瀬尾先輩を演じた伊藤万理華。


これまでこのブログでレビューを書いた、
映画『サマーフィルムにのって』(2021年)
映画『もっと超越した所へ。』(2022年)
舞台『宝飾時計』(2023年)
などでのおしゃべりな“元気娘”のイメージとは異なり、
しっかりとした先輩という感じで、だからといってカタブツという感じではなく、
おしとやかで女性らしい面もあり、それまでの伊藤万理華のイメージを覆すものであった。


(ちょっとネタバレになるが)終盤、瀬尾先輩は亡くなるのであるが、
エンドロールで、
「この作品を瀬尾先輩に捧ぐ」
というような意味合いの言葉が出てきて、
〈えっ、実話だったの?〉
と、そこで初めて実話だと気づいたのだが、(ここまでは気づいていなかった)
クラウドファンディングで資金を募る『まなみ100%』応援プロジェクトというサイトで、
川北ゆめき監督のメッセージを読み、
〈そういうことだったのか……〉
と、ひとりごちた。




2018年、同じく器械体操部の先輩は舌癌で亡くなりました。器械体操部は当時僕にとって文字通り高校生活の全てでした。その絶対的な空間で僕を可愛がってくれた先輩が、死んだのです。先輩には生前「好きな人には言えるうちに、好きって言っておきなよ」と言われました。

この文章を読み、本作はまなみよりも瀬尾先輩との思い出を残すために作られたのではないか……と思った。
死ぬ間際、瀬尾先輩が“ボク”に、
「キスしようか?」
と言うのだが、(この言葉には序盤に伏線があるのだが)
この「キスしようか?」という言葉ほど切ないものはなかった。
“ボク”はクズ男ではあるが、
このときの“ボク”がとった行動を見て、
私は(私が嫌悪感を抱いていた)この“ボク”を赦してもいいのではなかいかと考えた。



中村守里と伊藤万理華について語り過ぎて、(笑)
他の女優を語る気力が無くなってしまったが、(コラコラ)
くろけいちゃんを演じた宮﨑優、




カンナさんを演じた菊地姫奈、




唯ちゃんを演じた新谷姫加が、
個性的な演技で将来性を感じさせた。




(ついでに言うようだが、佐賀県出身で、体操で九州大会優勝という異色の経歴を持つ)器械体操部の監督・三橋先生を演じたオラキオも良かった。



川北ゆめき監督が、


いまおかしんじに自らの体験を語り、


実話に基づいて脚本を書いてもらったのだが、
脚本にする段階で、いまおかしんじから、

気持ち悪い、久しぶりにヤバい奴にあった。

と言われて、嬉しかったとか。(爆)
川北ゆめき監督の体験談を、
俯瞰的に客観的に見直し、練りに練って再構築したいまおかしんじの脚本が秀逸で、
このことにより、見る者の心にいつまでも残る作品になった。



川北ゆめき監督の純粋な思い、
いまおかしんじの優れた脚本、
中村守里、伊藤万理華のピュアな存在感が、
本作を優れた青春映画にしたと思った。
佐賀では(シアターシエマで)12月15日(金)から公開されるが、
そのときにもまた見ようと思っている。

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