道しるべの向こう

ありふれた人生 
もう何も考えまい 
君が欲しかったものも 
僕が欲しかったものも 
生きていくことの愚かささえも…

本当のことを言おうか…④

2022-01-28 21:10:00 | 黒歴史



気がついたら…

というか
自分でもそれなりに分かってたはず
そんなつもりで行動していたんだろうけど…

いつのまにか
東京から地元の実家に帰って
家の玄関のポーチにもたれながら
僕は長い間しゃがみ込んでいた

しゃがみ込みながら
家の中に入る勇気が
なかなか湧いて来なくて…

夏休みでもないし
冬休みでもない…

なんで
こんな中途半端な時期に
実家に帰ってきたのか…

ポーチにもたれながら
ボンヤリと秋の空を眺め続け
ずっと動かずに佇んでいたことが
いまでも心に深く残っている

なんで
僕は家に帰ってきてしまったんだろう?
そう思いつつ…

あんなに長く感じた時の流れは
未だかつてなかったかもしれない…









そんなこんなで
どうやって彼女に逢うことになったのか?
どんな連絡のやり取りがあったのか?
今となっては僕の記憶は定かではないけど…

ただ…
街中のとある喫茶店で逢う約束
僕が彼女に電話でもしたのだろうか?
そうかもしれない
それとも彼女からかかってきたのだろうか?
そんな約束をして…


予定の時刻より数分前だったと思う
約束した喫茶店のドアを開けて入ると
彼女は奥の方の席で
俯いたまま座ってて…

いらっしゃいませという
ウェイトレスの声と同時に
顔を上げた彼女は
すでに涙ぐんでいたような表情だったけど…

僕の顔を見るなり
一気にその顔が大きく崩れた
むせび泣くような声と同時に…

(おいおい…こんなところで泣くなよ…)
(お客さんたちが変に思うじゃないか…)

そう思いながら
不思議と僕は明るく苦笑い?しながら
彼女の向かいの席にゆっくりと座った…

できるだけ冷静に振る舞おうと
泣きじゃくる彼女をなだめるように
ウェイトレスの怪訝な顔を気にしつつ
ホットコーヒーを頼んでいた

目の前で久しぶりに見る彼女の顔
泣き顔だったけど数年前と変わらない
そんな顔に懐かしさを覚えながら…


結婚式まであと1ヶ月なんだろ?
たとえ僕と結婚したいと思ったって
もうどうしようも出来ないじゃないか…
自分で決めたんだろ?
結婚するって…

だけど…
アタシが本当に結婚したいのが誰かって
よ〜く考えてみたら
○○ちゃんの顔しか浮かばなかったから…

でも…
目前に迫った結婚式の日取りとか
相手のこととかいろんなことを覆してでも
そこまでしてもオレと結婚したいのか?

うん…
結婚したい…
○○ちゃんと結婚したい…


挨拶もろくにしないまま
すぐに本題に入るように
話し始めることに…


いまさら結婚したいって言っても
オレはまだ学生なんだぜ?
本当に結婚できると思ってるの?

そんなことなんて関係ない…
アタシは○○ちゃんと結婚したいだけ
いますぐじゃなくてもいい
結婚したいという想いだけ…


結婚って言われて…
僕には全く予想もできなかった
相手が彼女だろうと誰だろうと…

結婚生活って…


オレだって
まだ○○のことが好きだけど
結婚となるとそれは別だろ?
好きだという想いと別だろ?

じゃあ!
なんで帰ってきたの!
わざわざアタシと逢いにきたの!
アタシのことをどう思ってるの!

(えっ?)
(そうなのか?)

(僕が地元に帰ってきたってことは…)
(僕の本心って…)


泣きながら訴えるように叫ぶ彼女の言葉に
自覚できなかった自分の本心
見透かされた思いがして…


そうか…

僕も彼女と同じ想いでいたんだ
彼女と結婚したいという…

だけど…
いくら彼女と同じ想いだったとしても
本当に彼女と結婚できるのか?

彼女の結婚式って
もう1ヶ月後に迫ってるんだぜ?
ましてや僕は単なる学生なんだぜ?
卒業すらも出来そうにない…






東京のアパートに
彼女の電話がかかってきてから
まだ1週間も経っていないのに
飲まず食わずだった僕の身体は
ガリガリに痩せ…

じゃあなんで帰ってきたの?
そういう彼女の言葉に
ガツンと打ちのめされたのか?

そんな
核心をついたような彼女の言葉の前で
僕の心は跪坐くように崩れ始めていた


どうすればいいのか?
本当にどうすればいいのか?

どうすればいいんだ?

揺れ動く心に
なんにも思い浮かばないまま…

(to be continued…)



本当のことを言おうか…③

2022-01-26 15:31:00 | 黒歴史




受話器の向こうの彼女の声は
幾分控えめなトーンで絞り出すように…


実は…
アタシ…
今度…
結婚…
することになったんだけど…

(えっ?マジかよ!まだ22歳だぜ!)
(それよりそんなことを言うため?)
(わざわざ電話をかけてきたのか?)
(別れてもう何年も経つ元カレに…)

そうなんだ…


あまりにも突然に聞かされた
元カノが結婚するという現実に
とてつもなく大きなショックを受け
僕の思考回路は凍ったみたいに停止した

後悔してるのに…
いまでも好きなのに…

僕の口からは
そうなんだ…という
弱々しい頷きの言葉しか出てこず…


来月の末に式を挙げる日程…

(なんだよ!もう1ヶ月前じゃないか!)
(間際に元カレへ報告してる場合かよ!)
(いや…だからこそ連絡してきたのか?)

日程…なんだけど…

このまま結婚していいのかって…
本当にいいのかって…
この前からずっと考えていて…

(考えていて?)
(あと1ヶ月後に式を控えてるのに?)
(もう結納とかも当然済んでるだろ?)
(式の案内状なんかも出してんだろ?)

結婚する前に
○○ちゃんに
逢いたいの…
どうしても逢いたいの…

逢う…?
って…
オレと逢ってどうする?
結婚式もとっくに決まって…
相手の人が好きじゃないのか?

好きなのは好きだけど…

(ん?)

いざ結婚となると…

(ん???)

正直に…
正直に言うけど…
やっと気づいたの…
アタシが本当に結婚したいのは…
○○ちゃんだって

(ええ〜ッ!)
(何を言ってるんだ?)
(どういうこと?)
(どういうことなんだ?)

だから…
結婚は○○ちゃんとしたいの…

(僕と結婚したい?)
(1ヶ月後に迫った)
(誰か他の結婚をキャンセルして?)


結婚予定の報告に続いて
予期せぬ彼女の本当の想い?
僕と結婚したいという…

彼女の声はそう言ってるようだが
受話器を当ててる僕の耳は
正常に機能してるのか?

ただでさえ停止していた僕の思考回路は
そのままグルグルと激しく渦巻きはじめ
上下左右も天地も前後もなくなるほど…

そのあとどう返事をして
どんな内容の話をして
彼女との電話を切ったのか
全く覚えていない

電話を切ったことはもとより
それ以降
自分がどう行動したのかも…

(to be continued…)


本当のことを言おうか…②

2022-01-22 18:18:00 | 黒歴史




コーポというのは名ばかりで
実際は木造モルタルのぼろアパート
その2階の端っこの201号室に
ひっそりと僕は暮らしていた

中野区のはずれというよりも
生活圏はどちらかといえば練馬区よりで…

アパート近くには
武蔵大や武蔵野音大
そして日大芸術学部が
歩いて行ける距離にあって…

ただ…
僕の住んでたアパートは
学生じゃなくて
社会人の一人暮らしがほとんどみたいで
日中は静かな良いところだった



入学して1年を過ぎた頃からは
まるで毎日遊び呆け続けているような
大都会の目まぐるしい生活がイヤになり…

入部した劇団サークルも足遠くなって
もちろん学校の講義には出ることもなく
ほぼ毎日顔を出していたバイト先もやめ…

友人たちと会うこともない
徐々に塞ぎ込んだ日々に…

夜通しロックのレコードを何度も
貪るように聴き漁るだけの
沈んだような日々…

このままじゃ
まともに卒業なんか出来ないだろうな
漠然とそう思いながら
自分の将来に不安を抱きつつ…

バイトで稼いで貯めたお金を費やして
束になったロックのレコードと
有名画家たちの画集本
そして何冊も積み上げられた小説の
単行本や文庫本に埋もれつつ

いま思えば
無為なルーティンを繰り返すばかりで
無駄に浪費していた大量の時間の流れ…

そんな流れの中で
自分でも何をしたいのか
どう生きていけばいいのか
わからないまま…

ただ
音楽を聴き
絵画を眺め
本を読むという
病んだような
弱々しい息を吸ったり吐いたり…

大切な青年期と言える20歳すぎの頃の年月を
そんな風に過ごしたことが
果たしてどうだったのか?

もう45年ほども前のこと
いまとなっては…






やがて
まともに卒業できる見込みがなくなり
この際中退して働き出そうか
それとも留年してでも卒業しようか
それすら決めかねて…

段々と膨らんでくる厭世観
そんな重い閉塞感の漂う
毎日の暮らしに沈んでいた秋のある夜…

アパートの1階に設置されていた
住人共同の公衆電話のベルが鳴り
1階に住む誰かが僕の名を大声で呼んで
僕への電話だということを告げた

僕にかかってくる電話は稀な方で
しかも大抵が決まった悪友からで
街中まで出て来いよとか
○時から麻雀しようぜとか
しょうもない電話が何件か
おそらく今回も同じだと…

そう思いながら
階段を駆け下り
無造作に受話器を耳に当てると…

受話器の向こうから聞こえてきたのは
思いがけなかった懐かしい声の響き
忘れることのなかった聞き覚えのある…

というより
忘れようもない
悔やんでも悔やみきれないほど
もう一度聞きたかった声だった


○○ちゃん?
あたし○○…
わかる?

(えっ?)

ハイ…

(気の利いた返事が返せずビミョ〜に…)

不意に電話してごめんね…
驚かせちゃった?
でもどうしても電話して
伝えたいことがあって…


何年かぶりに聞く
受話器越しの彼女の声は
照れながらも
何か思い詰めたような感じもして…

根拠のない胸騒ぎが
不用意だった僕の心の中に生まれ始めていた

(それにしてもどうして?)

僕が住むアパートの共同電話の番号
どうやって調べたのか?
たとえ誰かに訊いたとしても
知ってるのは家族と限られた友人だけ
そう簡単にはわからないはず…

(家に電話して聞いたのか?まさか!)

いずれにしても
そこまで調べ上げて
わざわざ電話をかけてくるということは…

結構な肝っ玉だと…








彼女とは同じ高校の同級生として顔を合わせ
高2から卒業後の数ヶ月までの2年余り
いわゆる付き合ってる関係だった

僕にとっては
本格的?に付き合うことになった
最初の女の子だった

おそらく彼女にとっても
同じように僕が…


高校時代…
僕たちはどちらも
誰もが認める
美男美女というわけじゃなかったが…

なぜか僕はそれなりにモテて?いて
彼女は僕よりももっと人気があったはず…

入学して同じクラスになると
笑顔がひときわ可愛く
足の速いスポーツウーマンの彼女に
僕は段々と惹かれようになり
高1が終わる頃にはハッキリとした好意に…

高2に進級すれば
クラスが別々になるかもしれない
いっそのことダメもとでもいいから
告白しようかと
真剣に思い詰めていた春休みのある日

我が家の郵便受けに届いた1通の手紙
僕への宛名の裏に記された差出人は
まさしく彼女の名前だった

思ってたより
かなり綺麗な筆跡で書かれた
思いがけない1通


手紙の中身は
僕の想いを知ってか知らずか
当の僕より一足早くしたためられた
好意の告白だった

僕は直ちに折り返しの返事を投函して
手紙のやりとりを始めるとともに
無事に付き合うことになったのは
言うまでもないが…

現代とは違ってスマホもなく
LINEなどの連絡手段が
手紙か電話しかない時代

しかもそんな中で
女子の方から
長文の手紙で告白してくるというのは…

もしフられたりしたら…

やっぱり
もともと
肝っ玉の座った子だったのかも…

(to be continued…)


本当のことを言おうか…①

2022-01-22 12:54:00 | 黒歴史



不意に目に止まった一枚の古い写真
バァさんの遺品のアルバムの中から…

何十年ぶりに…






当時
まだ20歳の頃
それから2年後の僕自身の身に
大変なことが起こるとは全く知らずにいた
若かりし横顔

ジジイになった今とはまったく違う
面影すら感じさせないほど…

髪は高校生の頃から伸ばし始め
まだ長髪が流行っていた
そんな昭和50年頃…

珍しく
似合わないネクタイにスーツ姿なのは
23歳になったばかりの若さで
オヤジの反対を押し切って成し遂げた
姉の結婚式だったから…

東京の片隅のぼろアパートで
一人暮らしの親不孝な学生だった僕を
呼び寄せたのは…

親の反対を押し切った姉の
狂おしいほど熱い情熱に
なんとも言えない共感を覚えたから…

そんなことを
ボケ始めて忘れ物が多くなった今も
ボンヤリと覚えている

でも…
あの頃から
僕の成長は止まってしまっている…

のかもしれない…

すでにもう3倍以上の年齢に
達してしまったというのに…


そう…

成長することを止めてしまうほど
いまだかつてない
大変な出来事が2年後に起こることを
まだ知る由もなく…

どことなく不安定な瞳と
いまにも壊れそうなほど
脆くて頼りない表情の僕は
その出来事に耐えきれなかったのだが…

(to be continued…)

僕がいなくても…

2022-01-19 13:19:00 | 日記

さっきまで
付かず離れずの距離で
夕刻の雑踏の中
一緒に歩いてたと
そう思ってたのに…

駅前の古本屋の店先で物色している間に
いつのまにかあなたは
降りた遮断機の向こう側に立っていて…

そんなあなたを見つけて
笑顔で手を振ると…

あなたは手を振りかえすこともなく
じっと僕を見つめたまま
小さな口を開けて
何かを呟いたような…

でも何を呟いたのか
聞き取れることもできず…

なのに
なぜか僕はウンウンわかったよと
何度も頷いて…

すぐにそっちへ行くから待ってて
そう思いながら
もう一度あなたに大きく手を振った

なのに…

そんな僕の想い
あなたに届かなかったのか
時間切れになってしまったように
あなたは僕に背を向け
ゆっくりと人混みの中へ消えて
やがて見えなくなった


それが最期の別れになるなんて
そのときは思わなかったけれど…

遮断機は
無情にもずっと上がらず…



結局僕は
あなたを見失った

それ以来
ずっと…



あのとき
あなたは僕に何を呟いたのだろう?
何を僕に伝えたかったのだろう?

遮断機の向こう側で…

ひょっとしてというか
やっぱり
前触れのない別れの言葉だったのか?

それとも…

いまとなってはわかるはずもなく…











今日は
グウタラ娘の誕生日
33回目の…

救急や消防の番号と同じ
119…

ちょうど
僕の年齢の半分…


33年前の33歳の僕は
すでに生まれて歩き始めた
ワンパクなチャラ息子に手を焼き…

そして今は
そのチャラ息子の4歳の長男
同じくワンパクな初孫くんに手を焼き…

グウタラ娘に
まだ赤ちゃんは訪れていないけど…

人生というか
時代というか…

こうやって巡り巡って行くのものだと
あらためて…




そう…

僕が
父を失い母を亡くしたように
チャラ息子やグウタラ娘も
もう少し経てば僕とカミさんを見送る
そんなことになるのだろう
そのうち…

案外
近い日なのかもしれず…


そのときは
そのとき…

いまのうちから
覚悟しとこう!

彼らにも
覚悟しておいてもらわなければ…

まぁ
覚悟していても
覚悟してなくても…

上手くやって行くさ
チャラ息子は…

大丈夫だろう
グウタラ娘も…

僕がいなくても…












朝はあんなに青空が広がってたのに
あっという間に冷たく白い雪模様…

そんなグウタラ娘の誕生日に
思い感じた生きて行くことの
無常さ…

またもや
当分は走れないけど
そんなことくらいは…