第1章 世界経済の基本動向
昨年11月18日のポンド切下げ以降に,世界経済に生起した諸事象は,正にひとつの時代の転換を予告するものである。
経済的見地からこれをみれば,ポンド切下げ(67年11月18日),金投機(67年11月,12月,68年3月),米政府のドル防衛策発表(68年1月1日),金の二重価格制の出現(68年3月17日)等のことは,第2次大戦後,実物面では順調に推移してきた世界経済が,60年代に入ってから従来もしばしば経験してきた国際通貨制度上の問題の解決に,遂にのっぴきならぬ形で直面したことを示している。世界経済は,67年秋から,いわば貨幣面と実物面の乖離の解決過程に入ったのである。
国際政治的見地からこれをみれば,かかる経済面の動きは,現在の各国際勢カ間の均衡に影響を与えることにより,60年代の欧州の安定,米ソ冷戦の緩和,中ソ対立の激化等によって,益々明確化しつつあった国際政治の多極化を一応の完成に近づかしめることになるであろう。
現代世界においては,国際経済と国際政治とは密接に関連している。そして,国際経済関係が緊密化し,国際経済政策上の問題の処理が,より一層国際的視野から吟味検討を要求するようになっているとき,そこで調和化されるべき各国のナショナル・インタレストに基づく主張は,益々明確な対立を示すようになる傾きがある。国際流動性の問題の討議の過程等においても,インターナショナルな主張とナショナルな主張とが交錯してあらわれた。
以下まず67年を中心とする世界貿易の推移を説明し,その将来の動向を探り,最後に68~69年における世界経済の課題を検討する。